白夫人の妖恋
『白夫人の妖恋』(びゃくふじんのようれん)は、1956年に公開された、日本の東宝と香港のショウ・ブラザーズの共同制作の特撮伝奇映画である[出典 5]。カラー、スタンダード[出典 6]。同時上映は『鬼火』[1][12]。
白夫人の妖恋 | |
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監督 | 豊田四郎 |
脚本 | 八住利雄 |
製作 | 田中友幸 |
出演者 | |
音楽 | 團伊玖磨 |
撮影 | 三浦光雄 |
編集 | 岩下廣一 |
製作会社 | 東宝[3] |
配給 | 東宝[3][4] |
公開 | |
上映時間 | 103分[出典 3] |
製作国 | |
言語 | 日本語 |
製作費 | 2億1千万円[出典 4] |
キャッチコピーは「恋慕う妖姫の一念!その悲しみが呼ぶ呪の大洪水!世界三大伝説絢爛の映画化!」[12]。
概要
編集中国の伝承『白蛇伝』を題材とした林房雄 の小説『白夫人の妖術』が原作である[出典 7]。
東宝初の総天然色(イーストマン・カラー)による特撮映画である[出典 8][注釈 2]。日本で最初にブルーバック撮影による合成を用いた作品でもある[出典 9]。
監督の豊田四郎は、多様な男女愛の描写に長けており、本作品でもその手腕を発揮している[12]。音楽を担当した團伊玖磨は、『雁』や『夫婦善哉』などで豊田と組んでいる[18]。音楽面では、胡弓やミュージックソーなどを用いて中国の雰囲気を表現している[18]。
ヒロイン白娘の侍女である小青は、原作では魚の化身であるが本作品では青蛇の化身となっている[10][7]。
特撮を売りにした作品ではなかったが[19]、本作品で培われたカラー撮影の技術が後の特撮作品の基礎になったとされる[20]。映画評論家の淀川長治は、本作品の特撮描写を高く評価していた[21]。
ストーリー
編集西湖の辺に許仙という貧しい若者が住んでいた[14][7]。ある雨の日、傘もなく濡れていた美しい白娘に自分の傘を差し出したところ、その娘から結婚を申し込まれる[出典 10]。しかも銀2包の婚礼の支度金まで手渡された[出典 11]。許仙は喜び、姉夫婦と共にその支度金の包みを開いてみると、中から出て来たのは盗品の銀であった[出典 12]。罪を問われた許仙は鞭打ちに処せられた上、蘇州へと流された[出典 13]。
許仙を慕う白娘は蘇州へ追ってきた[7]。無実の罪であった許仙は白娘を憎んでいたが、彼女の心と向い合う中にその恨みは影を潜め、愛着だけが強くなっていった。2人は婚礼を挙げ薬屋を開き[14][12]、幸福な愛の生活を送ることとなった。ある時、許仙は茅山道人という道士に、妖魔に魅入られていると警告され、護符を託される[14][12]。妻である白娘の正体は、白蛇の精だというのだ[7]。許仙は護符で白娘の正体を暴こうとするが、護符を燃やされ、彼女の言葉で誤解が解かれる。茅山は白娘と対決するが、白娘の妖力は彼を遥かに上回っていた。
しかし白娘は端午の節句に宿屋の主・王明の宴に招かれた際、魔を払う酒・雄黄酒を口にしたため白蛇の姿を晒してしまう[14]。そのショックで許仙は命を落とす[14]。白娘は彼を蘇らせようと天界にいる仙翁の元へ行き蘇生の術を授かるが、その間に許仙は茅山の手によって息を吹き返しており、法海禅師のいる金山寺に匿われていた[14]。彼を返してほしいと訴える白娘だが禅師は聞き入れない。怒りと許仙を愛する情念から、白娘はその妖力で長江の水を操り、金山寺めがけて大洪水を起こす[14][12]。
キャスト
編集スタッフ
編集製作
編集本作品の撮影は、ロケを行わずすべてセットで撮影された[13]。美術監督には、武蔵野美術大学教授の三林亮太郎が起用され[出典 15]、単なる宋代の再現ではなく、現代的な中国美術の人工美を取り入れることを本作品の狙いとした[13]。
カラー撮影の技術を習得するため、特撮班は撮影前に1ヶ月東洋現像所へ通い、研修を行った[23]。当時のカラーフィルムは感度が低く、忠実な色の再現にはライトの調整を必要としており、セット内はライトの熱で蒸し風呂のような熱さであった[出典 16][注釈 3]。また、緑のものは青く映ってしまうため、緑の色調を落とさねばならず[出典 17]、美術助手の井上泰幸は、植物の造形も撮影前に多くテストを行ったと証言している[出典 18]。
ブルーバック背景の色の配合から試行錯誤が繰り返され、合成作業もすべて手作業であった[20][15]。合成を手掛けた向山宏は、カラーになったためオプチカル・プリンターの光量も大きくなり、電球が熱くなるためファンで風を当てながら作業を行っていたが、それでも電球が膨らんでいたと証言している[20]。また、クライマックスでの昇天シーンでは、ワンカットを完成させるのに12時間ほどかかったという[20]。
その他の特撮描写では、暴風雨・竜巻・津波などの水の表現が特徴であり、本作品のテーマである「女の情念」を具現化しているとされる[4]。金山寺の屋根は実物大セットが制作され、洪水を受ける寺は泥で作られた[4]。寺のセットの設計は、本編・特撮ともに特撮班に参加していた宮大工が手掛けた[13][25]。竜巻の描写には、7台のタービンポンプとドラム缶20本分の水が用いられた[20]。洪水シーンの撮影の間、機材は1ヶ月水浸しであったという[20][4]。
昇天シーンの撮影では、池部と山口を吊り上げているが、特撮班カメラマンの富岡素敬によれば吊りが初めてであった山口が恐怖で騒いでいたことが忘れられないという[17]。造形助手の開米栄三は、同シーンでは木下サーカスから借用した空中ブランコ用の網を張っていたと証言している[27]。
蛇の造形物は、美術助手の開米栄三が眠らせた本物の蛇から型取りし制作した[28]。開米によれば、型取りの石膏は硬化時に熱を持つため蛇の油が染み込んでしまい、臭いがすごかったという[28]。
映像ソフト
編集サウンドトラック
編集影響
編集日本発の初のカラー長編アニメ『白蛇伝』が作られるきっかけとなった映画は、本作品とされる[12]。中国の説話『白蛇伝』を題材にしていた本作品は香港で興行的に大成功を収めた。これを受け、『白夫人の妖恋』をアニメ化する企画が、香港の映画界から東映に持ち込まれた[29][12]。
これがきっかけとなり、東映社長(当時)・大川博は、香港の下請けとしてでなく、独自の本格的なアニメ映画をつくることを考え始めた[12]。当時大きな興行収益を上げるアニメはディズニー映画のみだったが、日本においてアニメ映画製作の体勢を整えていけば、将来大きな産業になるのではないかという、鉄道省の役人から東急の専務、そして東映の社長へと叩き上げてきた大川の、経営者としての予測もあった。
脚注
編集注釈
編集出典
編集- ^ a b c d e f g h i ゴジラ来襲 1998, pp. 28–29, 「第2章 東宝・怪獣SF特撮映画の歩み 第1期(1954-1962)」
- ^ a b c d ゴジラ画報 1999, p. 73, 「白夫人の妖恋」
- ^ a b c d e f “映画資料室”. viewer.kintoneapp.com. 2022年2月17日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j 円谷英二特撮世界 2001, pp. 46–47, 「白夫人の妖恋」
- ^ a b c 東宝特撮映画全史 1983, p. 545, 「東宝特撮映画作品リスト」
- ^ ゴジラ大全集 1994, p. 52, 「東宝特撮映画リスト」
- ^ a b c d e f g h i j k l m ゴジラ大鑑 2024, p. 288, 「東宝スペクタクル映画の世界 白夫人の妖恋 / 日本誕生 / 世界大戦争」
- ^ a b c d e 東宝特撮怪獣映画大鑑 1989, p. 467, 「東宝特撮怪獣映画作品目録」
- ^ a b 東宝ゴジラ会 2010, p. 292, 「円谷組作品紹介」
- ^ a b c d e f g 東宝特撮全怪獣図鑑 2014, p. 18, 「白夫人の妖恋」
- ^ a b c d e f 小林淳 2022, p. 426, 「付章 東宝空想特撮映画作品リスト [1984 - 1984]」
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r 小林淳 2022, pp. 43–48, 「第一章 東宝空想特撮映画の開幕期を飾る楽音 [1954 - 1956] 三『白夫人の妖恋』」
- ^ a b c d e f g h i 東宝特撮映画全史 1983, pp. 116–117, 「東宝特撮映画作品史 白夫人の妖恋」
- ^ a b c d e f g h i j k l m 東宝特撮怪獣映画大鑑 1989, p. 177, 「Chapter II:THE SF & FANTASY 白夫人の妖恋」
- ^ a b c d e 『日本特撮・幻想映画全集』勁文社、1997年、65頁。ISBN 4766927060。
- ^ a b 日本特撮映画図鑑 1999, p. 140, 「東宝特撮作品 ビデオLDラインナップ 特撮シリーズ」
- ^ a b 東宝ゴジラ会 2010, p. 38, 「第二章 円谷組スタッフインタビュー INTERVIEW1 富岡素敬」
- ^ a b 小林淳 2022, pp. 48–53, 「第一章 東宝空想特撮映画の開幕期を飾る楽音 [1954 - 1956] 三『白夫人の妖恋』」
- ^ 東宝特撮映画全史 1983, p. 54, 「田中友幸 特撮映画の思い出」
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- ^ 日本特撮映画図鑑 1999, p. 129, 「特撮映画 裏のウラ[4]」
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- ^ a b 東宝特撮映画全史 1983, pp. 69–70, 「有川貞昌 素晴らしき特撮映画」
- ^ a b 東宝特撮超兵器画報 1993, p. 118, 「美術監督 井上泰幸INTERVIEW」
- ^ a b c 東宝ゴジラ会 2010, pp. 79–80, 「第二章 円谷組スタッフインタビュー INTERVIEW5 井上泰幸 美術」
- ^ ゴジラ大全集 1994, p. 137, 「INTERVIEW 井上泰幸」
- ^ 別冊映画秘宝編集部 編「開米栄三(構成・文 友井健人/『映画秘宝』2010年7月号、8月号の合併再編集)」『ゴジラとともに 東宝特撮VIPインタビュー集』洋泉社〈映画秘宝COLLECTION〉、2016年9月21日、207頁。ISBN 978-4-8003-1050-7。
- ^ a b 東宝ゴジラ会 2010, pp. 62–63, 「第二章 円谷組スタッフインタビュー INTERVIEW3 開米栄三 入江義夫」
- ^ 大塚康生氏インタビュー『白蛇伝』制作の裏側
出典(リンク)
編集- ^ [3][5][6][1][2][7]
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参考文献
編集- 『東宝特撮映画全史』監修 田中友幸、東宝出版事業室、1983年12月10日。ISBN 4-924609-00-5。
- 竹内博 編『東宝特撮怪獣映画大鑑』朝日ソノラマ、1989年6月10日。ISBN 4-257-03264-2。
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- 『テレビマガジン特別編集 誕生40周年記念 ゴジラ大全集』構成・執筆:岩畠寿明(エープロダクション)、赤井政尚、講談社、1994年9月1日。ISBN 4-06-178417-X。
- 坂井由人、秋田英夫『ゴジラ来襲!! 東宝特撮映画再入門』KKロングセラーズ〈ムックセレクト635〉、1998年7月25日。ISBN 4-8454-0592-X。
- 『東宝編 日本特撮映画図鑑 BEST54』特別監修 川北紘一、成美堂出版〈SEIBIDO MOOK〉、1999年2月20日。ISBN 4-415-09405-8。
- 『ゴジラ画報 東宝幻想映画半世紀の歩み』(第3版)竹書房、1999年12月24日(原著1993年12月21日)。ISBN 4-8124-0581-5。
- 『円谷英二特撮世界』勁文社、2001年8月10日。ISBN 4-7669-3848-8。
- 東宝ゴジラ会『特撮 円谷組 ゴジラと東宝特撮にかけた青春』洋泉社、2010年10月9日。ISBN 978-4-86248-622-6。
- 『東宝特撮全怪獣図鑑』東宝 協力、小学館、2014年7月28日。ISBN 978-4-09-682090-2。
- 小林淳『東宝空想特撮映画 轟く 1954-1984』アルファベータブックス〈叢書・20世紀の芸術と文学〉、2022年5月14日。ISBN 978-4-86598-094-3。
- 『ゴジラ70年記念 テレビマガジン特別編集 ゴジラ大鑑 東宝特撮作品全史』講談社〈テレビマガジン特別編集〉、2024年10月15日。ISBN 978-4-06-536364-5。