東芝ベックマン
東芝ベックマン株式会社(とうしばベックマン)は、1970年代に、東芝のグループ企業として、米国のBeckman Instruments(現在はBeckman Coulter)との合弁企業として設立し、東京都に本社を置いて計測機器、超遠心機・精密型/可変抵抗器(ボリューム)、比重計の製造を手掛けていた日本の企業である。1977年に、ベックマン・インスツルメンツが資本撤退し、休眠会社となった。
種類 | 株式会社 |
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略称 | トウシバベックマン |
本社所在地 |
日本 〒108-0014 東京都港区芝5-33-7 徳栄ビル7F |
設立 | 1970年頃 |
廃止 | 1977年 |
業種 | 電気機器 |
事業内容 | 計測機器・超遠心機・電子部品の製造販売 |
代表者 | 山口 襄(のぼる)[1][2] |
資本金 | 3億 |
従業員数 | 約450人 |
主要株主 | 株式市場 東芝50.% ベックマン・インスツルメンツ50.% |
主要子会社 | ベック科学(横浜市)、北関東ベック科学(高崎) |
特記事項:出資企業:スタンダードテクノロジー[3] |
社名・社是・理念
編集日本の公害対策に寄与していくという経営理念として、「米国のベックマン・インスツルメンツ社の高品質・高信頼性な計測機器」をモットーにし、国内で計測機器を基調に、超遠心機・精密型/可変抵抗器(ボリューム) の生産・販売を1970年頃に開始した。100%を日本国内で販売して計測機器のブランド“ベックマン”として知られた。営業売上げの主力製品は自動車排ガス測定装置「カーレックス」であった。
概要
編集東芝ベックマン設立当時の1965年(昭和40年)代は、新潟水俣病、イタイイタイ病の富山県神通川のカドミュウム水質汚染、水俣湾の水銀汚染。四日市ぜんそくや急増する自動車の排気ガスによる市谷柳町に代表される大気汚染。カネミ食用油汚染、粉ミルクへのヒ素汚染など、人体に有害な公害の真っ只中にあった。また、都市部への人口集中に伴い河川への生活排水や、下水処理場の汚濁や、タンカーなどの造船所や、インフラ整備に伴い下水道工事現場などで多発する酸欠事故が、続発していた。そうしたの時代背景で設立された企業である。
品質保証(QA)を基本とし、製造部検査課とか試験課はなく、本社にサービス部品質保証課が置かれていた。製品の信頼性を重視し、試作品には環境温度サークル試験。完成した製品が規定の品質を満たしているか性能試験や外観検査に加えて、JIS規格に基づき、電圧変動・衝撃や絶縁耐圧などの試験のほか、納品後のアフターフォローを含み行っていた。また、米国のPL法に基づき、お客様の安全のために、いち早く日本語PLラベルを商品に張り付けを行ってた。QC(品質管理)運動に深く関わり1963年度デミング賞受賞の社長[4]による斬新な経営方針によるものである。
歴史
編集東芝府中工場 計測事業部
編集- 高度経済成長期には、全国各地に石油化学コンビナートや原子力発電所の建設に伴い海外プラントメーカーから、防爆型のベックマンの磁気式酸素濃度計F3[5]、電解水分計Hygromite[6][7][8][9][10]などのプロセスガス計測機器や、自動車製造企業には自動車排ガス分析装置[11]が、海外から導入された。石油化学コンビナートでは、強い日差しを避けるための天蓋付きの鉄骨フレームに計測機器はボルトで直付けする。測定ガスの流れが、上側に向かないように配管する。ガス温度の低下によって生じた結露がダストを付着させ、流路が閉塞するのを防ぐため、計装エアー共々、スチームヒータで加熱(スチームトレース)したうえで,セラミックスウールなどで覆って保温する[12]など、そのために重要な蒸気システム系内からのドレン排除のためのスチームトラップ[13]など周知徹底をし、計測事業部ではこれらの機器の有償保守を行っていた。また、ベックマン・インスツルメンツ社によってスタンドアロンアイテムとして開発された計測機器を組み込んだ自動車排ガス測定装置を製造していた。
コロンビア貿易株式会社
編集国内では標準的に使用されていたベックマン・インスツルメンツの製品の輸入業務を担っていた。
- 酸欠が予想される場所に入る事業者では、マンホールなど進入口からセンサーを垂らして、測定できる携帯式酸素計Beckman Model715 Process Oxygen Monitor[14][15]。
- アトム株式会社(現在はアトムメディカル株式会社)を経て、全国の日赤病院など未熟児医療用保育器の酸素濃度管理をするための[16][17]標準備品として使用されたベックマンの携帯型酸素計D2[5][18]。
- 病理組織検査に公立病院や国立病院など必要なベックマンの真空式超遠心機や、血液検査にエンザイムを使用して血液検査を高速でできる臨床検査完全自動化分析装置DSA。また、1965年(昭和40年)代の肝機能検査で主流のセルローズアセテート膜を支持体とする電気泳動装置。
- 試薬検査に代わり研究機関で使われ始めた(分光光度計[19]、ガスクロマトグラフィー、PHメーター)、フーリエ分光光度計、窒素酸化物計、水銀分析計とガスクロマトグラフィー、及び化粧品メーカー研究所で粉体等の体積を精密に測定する比重計、比色計。
- 都市ガス製造会社で、燃焼装置の評価のための精密測定標準機のベックマンの磁気式酸素計E2やG2[5]。
- 水質汚濁防止法に絡み、河川管理部署や上下水道施設で標準機のベックマンの全有機炭素測機器TOC915、及びBOD(溶存酸素量)の測定についてWinkler法[20]に代わる隔膜電極法による携帯式溶存酸素計Fieldlab[21]。
東芝ベックマン設立後の経過
編集ベックマン・インスツルメンツの製品の輸入と、東芝の計測事業部の事業を継承し、計測機器を基調に、超遠心機・精密型/可変抵抗器(ボリューム) 、比重計の国内での生産をした。
- PHメーターSS-1[22]、液クロマトグラフィー、分光光度計に加えて、透析液製造メーカーや病院の透析治療施設において、透析液自体の含量測定および均一性評価に、または血清Na, Kを測定する炎光光度計[23]、透析液調製用水の水質基準確認等にも利用される原子吸光計の製造[24][25][26][11]。デザインと画期的な操作性を備えており、故障もなく信頼性が高く世界的なブームを呼んだデジタル式のBeckman Model 4500 Digital pH Meter[27]は、国内でも脅威的に市場を席巻した。
- 米国で量産化が始まったベックマン・インスツルメンツの液晶ディスプレイや抵抗ネットワークなどの電子部品をいち早く輸入し、腕時計などの表示をアナログから液晶化した。
- 大気汚染防止に関する法律の制定により、工場より排気される窒素酸化物の規制が始まった。NOx 計測には、NO とO3 の反応による発光を検出する化学発光(ケミルミネッセンス)という化学反応[28]によって高エネルギー状態(励起状態)の分子が生成されて、これが光としてエネルギーを放出する現象を利用した計測機器を、ベックマン・インスツルメンツが世界市場に送りだしたBeckman Model 951 NO/NOX Analyzer[29]。
- これを百メートル煙突に象徴される電力会社との取引実績を踏まえて、生産計画の実行面でリスクマネジメントを十分備える日本碍子(現在は日本ガイシ)が、開発チームとして特電課を立ち上げて、火力発電所の煙道排ガスでの前処理装置の能力や安全性を実証実験を含めた適切な総合的な試験を行い、セラミック素子などでガス中のドレン、ミスト、ダストなど不純物質を除去する前処理装置(サンプリング装置)を完成させた。本体の前面からダストの付着状態が監視できるなどメンテナンス性を向上が、図られていた。これにより、電力供給が急増する火力発電所での1年24時間体制で、951を使用した燃焼制御を安定的にできるようになった。これをきっかけにして、一気に大気中への窒素酸化物の放出が抑えられた。
- 炭化水素(HC) は、水素炎イオン化検出法(FID 法)で全炭化水素(THC)として測定するが、ディーゼルエンジンの場合には、191 ℃の加熱ラインと加熱型分析部が必要である。前処理装置とHC成分の分析部を適切に組み合わせた計測システム[28]として、ベックマンから実績評価のあったFIAを輸入して、大型のトラック・バス(重量車)等、ディーゼルエンジン大型車製造会社に、納入された。
- 1973年(昭和48年)に法律が改訂されて、光化学スモッグの深刻化に伴い、600万台に及ぶ軽自動車を含めて使用過程車の排気ガス検査の1973年(昭和48年)末までにすることが義務化された。先行していたベックマン・インスツルメンツからHC/CO 自動車排気ガステスター[30]を自動車整備検査用機器として輸入し、社団法人自動車機械工具協会の性能試験を経て、法律の施行を補った。
- 1970年に米国で「マスキー法」が成立し、 自動車排出ガス規制が、始まった。アメリカに自動車を輸出しているトヨタ、ホンダなどの企業が、挙ってEPA適合エンジン開発にしのぎを削っていた。適合エンジンの生産ラインの増設に合わせて、堀場製作所や島津製作所、柳本製作所と並んで、自動車排ガス測定装置を製造していた。その後、記録計からデーター処理のコンピューター化に伴い、自動校正装置、直読化のリニアライザーなどの標準装備、0.1パーセントの可読化、High/Low測定範囲の遠隔操作の必要性が急激に生じた。
- 高精度を満たす検出器の選別、さらに経時化、意図しない配管などへのコンタミネーション清掃など、自動車工場での現場対応が自動車排ガス測定装置の課題であった。当時の「保証期間内は、無償修理」の因習、経験、勘等に拠る不合理的な手法商習慣[1]に阻まれて利益が見込まれる状態には至らず、従業員の希望退職を募って人員削減を行った。
事業所
編集ブランド
編集東芝ベックマンの製造した商品は、次のブランドで販売された。
その他
編集カルフォルニアのレモン産業では、輸送中に痛むことから、水素イオン指数の管理が、問題になった。それを解決するために、pH指示薬(pHインジケーター)やリトマス試験紙に代わり、1936年頃にベックマンの創始者のアーノルド・ベックマンは、 pHメーターを開発したのが、始まりである[35]。後に造られた米国製の工業用磁気式酸素濃度計測機器には、アーノルド・ベックマン社の刻印がされていた。
- 1977年にベックマンジャパン株式会社(東京都港区西新橋2丁目21-2第1南桜ビル[36])が、設立された[3]。
- 1982年、ベックマン・インスツルメンツ社はスミスクラインと合併してスミスクライン・ベックマンとなる[37]のに伴い、ベックマンジャパン株式会社プロセスガス計測機器部門(PID)は分離され、日本エマソン株式会社ベックマン・インダストリアル事業部となった。その後、大倉ローズマウント株式会社の海外事業部設立に伴い譲渡されており、商標は、BeckmanからRosemount Analytical[38][39][40][41][42]になった。
- 1998年、コールター・コーポレーションを買収したベックマンは社名をBeckman Coulterに変更した。日本ではベックマン・コールター株式会社(東京都江東区有明3-5-7TOC有明ウエストタワー13F)、ベックマン・コールター・三島株式会社(静岡県駿東郡長泉町東野454番地の32)が、設立された[43]。
- 2000年にBI Technologiesは、英国TT ELECTRONICS Grp傘下になる[44]。
- ポテンションメータのビーアイテクノロジージャパン株式会社が、設立され[45]、2013年に TTエレクトロニクスジャパン株式会社に社名変更した[46]。
- Beckman Coulterは、2011年にDanaherに買収された[47][48]。
脚注
編集- ^ a b “山口 襄氏を悼む”. © 日本オペレーションズ・リサーチ学会 (2002年9月29日). 2024年11月2日閲覧。
- ^ “漢字一字” (pdf). 漢字ペディア. 2024年11月2日閲覧。
- ^ a b “沿革”. 株式会社堀場エステック. 2024年11月2日閲覧。
- ^ “デミング賞受賞者一覧” (pdf). 日本科学技術連盟 (2023年2月1日). 2024年11月2日閲覧。
- ^ a b c “気中酸素濃度の測定法(2)-安全工学Vol.6 No.2”. 「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE) (1967年). 2024年11月7日閲覧。
- ^ “Beckman Hygromite”. Science History Institute. 2024年11月22日閲覧。
- ^ “資料 TECHNICAL NOTE 板谷産 ゼオライトによる湿潤空気-材料 第30巻 第336号” (pdf). 「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE) (1981年2月2日). 2024年11月22日閲覧。
- ^ “特集> 粉粒体プロセス技術の現状- ホソカワミクロン株式会” (pdf). 粉砕26号発刊25周年記念号社 (1982年). 2024年11月22日閲覧。
- ^ “報文The Effct of Emollients on Transepidermal Water Loss of the Human Ski- (J. Soc. Cosmet. Chem. Japan) Vol. 13. No.” (pdf). 「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE) (1979年). 2024年11月22日閲覧。
- ^ “Juno Inspection - Oak Ridge Associated Universities” (pdf). TECHNICAL ASSOCIATES. 2024年11月22日閲覧。
- ^ a b c “Science History Institute Digital Collections”. Science History Institute. 2024年11月21日閲覧。
- ^ “石油精製および石油化学における加熱炉のO2濃度測定”. 横河電機株式会社. 2024年11月23日閲覧。
- ^ “石油精製のトラッピング・エンジニアリング<利益を生むスチームトラップの選定と配管取り付け>”. (株)テイエルブイ (2007年2月). 2024年11月23日閲覧。
- ^ “研究ノート 各種果皮面処理が夏ミカンの果実内酸素濃度、エタノール含量、フレーバーに及ぼす影響” (pdf). 「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE) (1971年7月28日). 2024年11月7日閲覧。
- ^ “Man kneeling beside an open manhole cover, using a Beckman Model 715 Process Oxygen Monitor”. Science History Institute. 2024年11月21日閲覧。
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- ^ “透析液専用の自動校正および測定モードを有する電極法電解質計測機器”. IFI CLAIMS Patent Services (1960年). 2024年11月8日閲覧。
- ^ “血中ガス分析装置による透析成分濃度測定性能評価” (pdf). No.32-医療法人おおうみクリニック (2018年). 2024年11月8日閲覧。
- ^ “炎光光度計について” (pdf). 「科学技術情報発信・流通総合システム」(J-STAGE) (1963年9月9日). 2024年11月8日閲覧。
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- ^ “ベックマン遠心機・70年を超える革新の歴史”. ベックマン・コールター株式会社. 2024年11月2日閲覧。
- ^ “Helical Potentiometer (Helipot)”. Arnold and Mabel Beckman Foundation. 2024年11月2日閲覧。
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- ^ Beckman Coulter
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- ^ “Rosemount Analytical - Emerson Manual: 340 Trace Moisture Analyzer-Rev R Rosemount”. Emerson Electric Co. (2001年1月2日). 2024年11月2日閲覧。
- ^ “Manual: 755 O2 Analyzer-Rev K Rosemount”. Emerson Electric Co. (2001年1月2日). 2024年11月2日閲覧。
- ^ “Model 951A NO/NOx Analyzer instruction materials Rosemount”. Emerson Electric Co. (2001年1月2日). 2024年11月2日閲覧。
- ^ “The Model 400A Hydrocarbon Analyzer instruction materials Rosemount”. Emerson Electric Co. (2001年1月2日). 2024年11月2日閲覧。
- ^ “求人情報ベックマン・コールター株式会社”. doda. 2024年11月2日閲覧。
- ^ “BI TechnologiesとTT Electronics Grp.のご紹介”. 国栄通商株式会社. 2024年11月2日閲覧。
- ^ “BECKMANの企業”. 国栄通商株式会社. 2024年11月2日閲覧。
- ^ “社名変更のお知らせ”. ビ―アイ・テクノロジ―ジャパン株式会社. 2024年11月2日閲覧。
- ^ “Press Release | Investors | Danaher”. phx.corporate-ir.net. 2016年2月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年7月21日閲覧。
- ^ Beckman Coulter
注釈
編集出典
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