有鱗目 (爬虫類)
有鱗目(ゆうりんもく, Squamata)は、爬虫綱の目の一つでトカゲ類・ヘビ類を含むグループ。
有鱗目 Squamata | |||||||||||||||||||||
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分類 | |||||||||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||||||||
Squamata Oppel, 1811 | |||||||||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||||||||
有鱗目 | |||||||||||||||||||||
亜目 | |||||||||||||||||||||
現生する爬虫綱4目の中では最大のグループで総勢7000種以上であり(1目だけで哺乳類全体の種数よりかなり多い)、この1目だけで現生爬虫類の全種数の95%以上を占める。頭蓋骨の側頭弓が消失、総排出腔の出口である総排出口は体軸に直角に開き、半陰茎を持つ、などを特徴とする(詳細は後述)。
有鱗目はトカゲ目とも呼ばれることがある。ただし、トカゲ目という呼称は、有鱗目の1亜目であるトカゲ亜目が目であると認識されるときのSauriaに対する訳語としても使われる。「トカゲ目」と単に言うとき、"Squamata"と"Sauria"の指す対象は異なっているので用法には注意が必要である。本項では「トカゲ目」はSauriaに、「有鱗目」はSquamataに対する語として説明を続ける。
分類
編集有鱗目は双弓亜綱鱗竜形下綱に属し、同じく鱗竜形下綱のムカシトカゲ目(喙頭目)とは姉妹群をなす。有鱗目は歴史的にトカゲ亜目とヘビ亜目に分けられてきた。しかし最近では、ミミズトカゲを独自の亜目として独立させ、3亜目とするのが一般的である。ただし、かつてはミミズトカゲでなくメクラヘビの仲間を第3の亜目として独立させることもあった。現生の分類は以下の通り。以下の分類群名・種数は疋田努「爬虫類の進化」による。
- トカゲ亜目 Lacertilia Owen, 1842
- 20もの科とおよそ4500以上の種を含む爬虫類中最大のグループ。有鱗目の祖先的グループであり、他の2亜目はトカゲ亜目から進化した。全長3mを超す肉食性のコモドオオトカゲなどもいるが、基本的には小型の虫食性動物が多い。ミミズトカゲを亜目として分けない場合は、トカゲ亜目の下に多数存在する下目の一つとして分類される。詳細はトカゲを参照。
- ヘビ亜目 Serpentes Linnaeus, 1758
- 捕食者として特化して成功を収めたグループ。トカゲ亜目ほど多くないとはいえ、それでも17科約3000種という種数はその成功の度合いを物語っている。ヘビ亜目には2つの下目があり、メクラヘビ類を含むメクラヘビ下目と、それ以外の全てのヘビ類を含む真蛇下目に大きく分けられる。トカゲには雑食性・草食性のものもいるが、ヘビ類は完全な肉食動物である。トカゲ亜目のどの仲間から分化したかはいまだに議論が絶えないが、オオトカゲ下目はその有力候補の一つ。詳細はヘビを参照。
系統
編集Wiens et al.(2012)とZheng&Wiens(2016)による[1][2]。(研究によって細部は異なる可能性があることを留意)
分類の歴史
編集19世紀半ばまでは、現在の我々が爬虫類と呼ぶ現生の生物は3目に分けられていた。すなわち、トカゲ目(Sauria)、ヘビ目(Ophidia)、カメ目(Chelonia)の3つである。カメ目は現在の分類群と変化はなく、ヘビ目も現在のヘビ亜目と指す物は基本的に同じであったが、この当時の「トカゲ目」は蜥蜴型をした爬虫類を総括しており、ワニ・ムカシトカゲをはじめとして、発見されたばかりで四足動物として復元されていたメガロサウルスなどをも包含していた。
その後、リチャード・オーウェンによるワニ目・恐竜目の創設(1842)、アルベルト・ギュンター(Albert Günther)による喙頭目の創設(1867)などを経て、トカゲ目はただ単に蜥蜴型の動物を指すのではなく、一定の解剖学的特徴を共有する現在のトカゲ亜目とほぼ同じ物とする認識が広まっていった。 トカゲ目がそのように設定されて以降の当時の爬虫類の分類は次のようになっていた。
- 爬虫綱(Reptilia)
- 鱗蜴亜綱(Lepidosauria)
- 喙頭目(Rhyncocephalia)
- トカゲ目(Sauria)
- ヘビ目(Ophidia)
- 水蜴亜綱(Hydrosauria)
- カメ目(Chelonia)
- ワニ目(Crocodilia)
- 鱗蜴亜綱(Lepidosauria)
この他に絶滅群として恐竜目・翼竜目・魚竜目・鰭竜目・獣形目が設定されており、恐竜目を竜盤目と鳥盤目に分割するなどの議論があったが、現生爬虫類としては長らくこの5目とするのが基本だった。
ヘビ類とトカゲ類が解剖学的に共通した形質を持つことは早くから知られていたが、爬虫類が3目だった頃から別々に分類されていたこの2群はなかなかまとめて扱われなかった。有鱗類(Squamata)という語はニコラウス・ミヒャエル・オッペル(Nicolaus Michael Oppel)によって1811年という早い時期に提唱されているにもかかわらず、現生爬虫類を5目(喙頭目・トカゲ目・ヘビ目・カメ目・ワニ目)から、現行と同じ4目(喙頭目・有鱗目・カメ目・ワニ目)とする分類大系が一般化したのは、やっと20世紀に入ってからである。
トカゲ目とヘビ目が有鱗目の亜目に格下げされて以降、SauriaとOphidiaはそれぞれトカゲ亜目とヘビ亜目を指す言葉となったが、一方でトカゲ亜目に対してはLacertilia、ヘビ亜目に対してはSerpentesという語を用いることも一般的となっている。
また、分岐分類学的なクレードとして、"Sauria"を使用している例があるが、これは鱗竜形類と主竜形類をまとめた群に対して最近になってあらためて名付けられたものであり、元来のSauriaとは全く別の物である。
生態
編集小は体長数cmのトカゲから大は10m近くにもなるニシキヘビの仲間まで、その多様性において、脊椎動物の目として有鱗目に比肩しうる物は少なく、他の綱ではスズキ目とスズメ目がいる程度である。
分布
編集南極大陸を除く全ての大陸に生息し、海洋に進出したものもいる。最も生息数の多いのは熱帯だが、温帯から高緯度地方まで広く分布しており、北極圏にまで進出している。生息環境も、森林低床・森林樹幹・草原・湿地・地中・水域・砂漠・高地から人家周辺に至るまで幅が広い。
食性
編集肉食性・草食性・食虫性といった定番から、蟻食・鳥卵食・魚卵食・カタツムリ食などに特殊化したものまで数多くの食性がある。ただし全般的にいってトカゲ亜目は食虫性になることで繁栄の基礎を固めたといえる。
小型の身体には昆虫をはじめとした小型無脊椎動物はちょうど手頃なサイズの餌であり、数も豊富である。同じサイズの食虫性哺乳類に比較すると、哺乳類は恒温動物であるため体温を維持するためだけにトカゲ類に比べてはるかに大量の餌を必要とし、かつ小型でもあるため餌を捕らえられなかったときのリスク(即餓死につながる)が高い。そのため食虫性動物としてはトカゲ類は哺乳類に対して大きなアドバンテージがある。現在トカゲ類には肉食や草食となったものもいるが、これらはトカゲ類が食虫性動物として成功した後に現れた。
一方、ヘビ亜目は全て肉食・動物食であり、草食性・雑食性のヘビはいない。また、ヘビには食性の専門化したものが多いのも特徴である。マイマイヘビ類・セダカヘビ類はカタツムリ食に特化しており、下顎は軟体部を殻から引き出せるようなカギ型に変形している。また、タマゴヘビの仲間は鳥の卵を専門としており、喉の奥に脊椎骨から下方に突き出した突起で丸ごと飲み込んだ卵の殻を割り、中身だけ飲み込んで殻は吐き出す。アオダイショウなども鳥卵を呑むが、殻は吐き出さずそのまま消化する。タマゴヘビの場合は、鳥卵という季節的に偏った餌に依存しているため、長い絶食期間を耐えるために無駄な消化のためのエネルギーを節約しているのだと考えられている。他にも、ヘビには魚卵食、蟻食などの専門化がいる。
繁殖
編集他の爬虫類と同じく体内受精を行うが、精子の注入は陰茎ではなく、有鱗目の共有形質である半陰茎で行う。交尾の際には二本ある半陰茎の片方を突出させ、雌の総排出腔に挿入する。受精した卵は雌の体内で初期発生を開始するが、周囲の環境によって産卵時期を遅らせ、そのまま輸卵管内で発生を進めさせることがある。これを卵保持(egg retention)と呼び、同時期に受精し早く産卵された卵と、その後に卵保持されてから産卵された卵も、孵化は同時期になる。これは次に述べる胎生化への前段階だと考えられている。
有鱗目は、胎生を発達させた唯一の現生爬虫類である。カメ・ワニを初めとした他の爬虫類はもちろん、鳥類の中にも胎生を獲得したものはいない。ただし、ここで言う「胎生」とはかつて「卵胎生」と呼ばれていたものも含む。卵生と胎生の中間形態には様々な段階があり、孵化が母体内で行われるだけのものがある一方、輸卵管内に胎盤が形成されて栄養分補給やガス交換を行うものまでいる。そのため、「卵胎生」の定義付けは困難となり、より単純に卵殻を備えて産まれるものを卵生、卵殻を持たずに産まれるものを胎生とすることが研究者の間では一般的になっている。詳しくは卵胎生を参照されたい。胎生の利点として、寒冷地での繁殖が挙げられる。通常のように産卵されただけでは低温により発生が困難な環境でも、胎生ならば母体が意図的に日光浴などで体温を一定以上に保つことにより胚発生に必要な温度が得られる。胎生と卵生の両方が可能なコモチカナヘビ(Lacerta vivipara )が、低緯度地方では卵を産み、高緯度地方では幼生を産むように使い分けている事からもこれは支持される。比較のため、高緯度地方の低温環境に適応しているが有鱗目ではないので胎生ではなく卵を産むムカシトカゲでは、その卵は孵化までに実に15ヶ月もかかる(ムカシトカゲの繁殖参照)。代謝率の問題もあるので一概に比較はできないが、低温での卵の発生の難しさを物語っている。
有鱗目の1/5が胎生であると言われているが、そのメンバーの間の類縁関係は希薄であり、有鱗目の進化の中で何回も独自に胎生が獲得されたらしい。このことを説明するのに、有鱗目の祖先は胎生であり、その後あらためて二次的に卵生になったため、簡単に胎生を獲得できるのだという有鱗類胎生起源説が唱えられている。
解剖学的特徴
編集頭蓋骨
編集左:双弓類の基本的頭蓋骨。側頭窩が上下に2つある。 右:有鱗目の基本的頭蓋骨。下の弓が消失する。 j:頬骨 (jugal) p:頭頂骨 (parietal) po:後眼窩骨 (postorbital) q:方形骨 (quadrate) qj:方形頬骨 (quadratojugal) sq:鱗状骨 (squamosal) |
上図に見るように双弓類の頭蓋骨には眼窩の後ろに側頭窩が2つあり、上にある物を上側頭窩、下にある物を下側頭窩と呼ぶ。側頭窩の下縁架橋部を「弓」と呼び、これが上下に2つあることが双弓類の名称の由来となっている。上部の弓は後眼窩骨-鱗状骨(図のpo, sq)からなり、下部の弓は頬骨-方形頬骨-方形骨(図のj, qj, q)からなる。有鱗目も双弓類の一員であるが、この2つの弓のうち、頬骨-方形頬骨-方形骨からなる下部の側頭弓が消失して下側頭窩が下に開き、自由になった方形骨が鱗状骨と可動の関節面を形成することが有鱗目を特徴づける重要な点である。
実際の例としてオオトカゲの頭骨の図を右に示すが、鱗状骨(右図中のsq )は架橋によって後前頭骨(右図ptf )と接続され、上部側頭弓と上側頭窩はまだ存在している一方で、頬骨(右図j )と方形骨(右図q )の間には接続は無く、その部分の側頭弓が消失していることが見て取れる。
一般的にはこのことによって顎の可動性が増している利点があると考えられている。すなわち、方形骨が頬骨によって頭蓋骨前部に結合されなくなったため自由に動けるようになり、方形骨下端(上顎)と関節骨上端(下顎)間に存在する通常の顎関節に加えて方形骨の上端と鱗状骨の下端間にさらに関節が形成され(上図右のq-sq間の太線部)、一種の2重関節となるのである。
ただし、下部側頭弓の消失による下側頭窩の頬部への開放は、ムカシトカゲ目のプレウロサウルス類(Pleurosaurus)や、かつて広弓類とよばれた鰭竜類でも平行進化として同様に生じており、リンコサウルス類のクララジア科(Claraziidae)には可動性の方形骨を持つものがいるなど、これのみによって有鱗目が定義付けられるわけではない。
ヘビ亜目ではさらに後眼窩骨-鱗状骨からなる上部の側頭弓までもが消失し、方形骨だけでなく鱗状骨も頭頂骨(上図のp)との間に関節を持ち自由に動くようになる。これらの事に下顎先端が分離していることも併せて、ヘビ類の顎は非常に大きな自由度をもった可動性を獲得している。ヘビが体直径の何倍もの餌を飲み込めるだけでなく、獲物にかみついた下顎を左右交互に動かして獲物を咽へ送る(俗に「顎で歩く」と言われる)ことが可能なのもこの可動性を得たならばこそである。
生殖器
編集同じ爬虫類でも、カメ・ワニは体軸に平行な総排出腔内に哺乳類の物と相同と思われる真の陰茎をもっており、海綿体の膨張により総排出腔から押し出される。しかし有鱗目には陰茎はなく、その代わりに半陰茎(ヘミペニス, hemipenis)と呼ばれる独自の器官を持つ。
半陰茎は袋状の器官で左右に1本ずつ1対あり、通常は尾の付け根に納められている。トカゲ・ヘビの雌雄が尾の付け根の太さで見分けられることが多いのはこのためである。専門家は専用のセックスプローブと呼ばれる先端が丸くなった滑らかな棒を使い、それが総排出腔から後方の反転した半陰茎に差し込めれば雄、差し込めなければ半陰茎がないので雌、として雌雄を見分ける。半陰茎は交尾の際には体軸に直角な総排出腔から左右どちらか片方が反転することにより突出する。その反転機構のために精子の通り道は管状とはならず、精子は精溝と呼ばれる溝を伝わって雌の総排出腔に到達する。半陰茎は袋状とはいえ単純なソーセージ型の物は無く、トゲ・瘤などが複雑に発達して形状も千差万別で種によって細かく異なるので、分類や種の同定に用いられる。
卵歯
編集殻のある卵を産む有羊膜類には、孵化の際に卵殻を物理的に破壊するために、吻端に孵化時のみ持ちその後脱落する突起状の硬組織がある。かつてはそのような器官を全て卵歯と呼んでいたが、有鱗目以外の全ての現生爬虫類と鳥類では歯ではなく角質の突起であるため、現在では卵角(卵嘴, caruncle)と呼ばれるようになった。しかし有鱗目では実際に歯であり、真の卵歯である。有鱗目の卵歯は前上顎骨に由来し、左右1対または中央に1つの原基から発生する。左右に原基を持つものは、ヤモリ類では両方とも発達して1対の卵歯をもつが、通常は左側歯は消失し、右の歯のみが発達する。
他の爬虫類が全て卵角を持つのに対し、有鱗目だけが卵歯を持つことは、前述の有鱗類胎生起源説を支持する証拠として持ち出されることがある。つまり、一旦胎生になってしまったときに卵殻を破るための卵角を失ってしまい、その後卵生に戻ったときには一度失った器官は再現できず、あらためて前上顎骨歯を卵歯として発達させたというのである。ただし、卵生哺乳類である単孔類には卵歯と卵角の両方が備わっているという報告があり、だとすれば原始的有羊膜類には元々卵歯と卵角の両方が備わっており、それぞれの系統でどちらかが失われただけで胎生化とは無関係だとする見方もできる。
感覚器官
編集四足動物の嗅覚器官としては、鼻腔の嗅上皮とヤコプソン器官(鋤鼻器官, Jacobson's organ)がある。ヤコプソン器官は鳥類・ワニ類などでは退化し、哺乳類では性フェロモンの受容器としてのみ使われるが、有鱗目はヤコプソン器官の方が嗅上皮よりも主要な嗅覚器官となっているグループである。両生類・哺乳類のヤコプソン器官は鼻腔内下部にあるが、有鱗目のヤコプソン器官は鼻腔とは別に口蓋に開口しており、左右1対ある。空気中の化学物質は突き出された舌表面に付着し、舌が口腔内に戻ったとき口蓋のヤコプソン器官に受け渡される。有鱗目が頻繁に舌を出し入れしているのはこの臭いを嗅ぐという行動のためであり、特に嗅覚を発達させたオオトカゲやヘビの仲間では、左右のヤコプソン器官それぞれに対応して舌先が2つに分かれている。
視覚において特に明記すべきことは、ヘビ亜目の眼球の構造である。他の四足動物の眼は水晶体の厚みを変化させることで網膜に焦点を合わせるのに対し、ヘビの眼はなんと水晶体を前後に移動させて焦点を合わせる。このことはヘビの視細胞の特異性とも合わせ、地中性になって視力が低下し水晶体の厚さの調節機能を一旦失ってから再度地上で視覚を再発達させたという、ヘビの地中起源説の根拠ともなっている。
ヘビ亜目の視覚についてさらに特筆すべき事項として、一部のヘビ類が持つピット器官がある。ボア科、ニシキヘビ科の口縁唇部には口唇窩(labial pit)、マムシ亜科の眼窩と鼻孔の間には頬窩(loreal pit)と呼ばれる小孔があり、この器官により彼らは他の脊椎動物では類を見ない「赤外線視覚」を獲得したのである。口唇窩より頬窩のほうがより精巧な器官であり、水晶体の代わりに像を結ぶ孔と網膜の代わりに熱で像を映し出すピット膜を備え、まさに赤外線に対するピンホール眼としての構造を備えている。この器官は0.001-0.003℃程の微妙な温度差をも感知可能であり、哺乳類や鳥類など恒温動物の姿はヘビにとっていわば「輝いて」見える。興味深いことにピット膜に映し出された像の情報は、脳の視覚野に送られる。比喩ではなく、ピット器官はまさに眼として機能しているのである。
また、トカゲ類にはその頭頂部に第3の眼と呼ばれる頭頂眼(顱頂眼, parietal eye)がある。これはムカシトカゲが持つことで特に有名だが、より発達した頭頂眼はトカゲ類が持つ。ムカシトカゲの頭頂眼が観察できるのは幼体の頃のみで成体では皮膚に覆われてしまうのに対し、Sceloporus occidentalis (Western fence lizard)などでは成体でも頭頂部に明らかな頭頂眼が確認できる。視床上部の上生体複合体に由来する頭頂眼は、元々対の器官だったものの片方が頭頂眼に、もう片方が内分泌器官である松果体(上生体)に変化したとされ、体温調節に一役買っていると考えられている。
有鱗目において聴覚が退化していないのはトカゲ亜目のみであり、ヘビ亜目・ミミズトカゲ亜目とも鼓膜をはじめとした耳の諸器官が退化・消失している。ミミズトカゲの場合は明らかに地中生活に適応した結果である。ヘビ類の場合も一般にはそう取られているが、進化の項で述べるようにヘビが地中ではなく海生起源であった場合には、水圧に対しての鼓膜・中耳部の脆弱性、空気の千倍の密度を持ちはるかに音の伝達効率のよい水中という環境下での鼓膜破棄のデメリットの低さなど、別の理由が挙げられるだろう。
進化
編集有鱗目は爬虫類の中でも新しく、中生代になって現れたグループである。最古の化石はイギリスから発見された三畳紀後期のKuehneosaurus である。この動物は既にかなりの特殊化を遂げており、現生のトビトカゲ(Draco 属)と同じように体側から伸長した肋骨による滑空用の翼を持っていた。最古の化石であるにもかかわらず既にある程度の進化の跡を残していることから、実際の起源はさらにさかのぼる事が示唆される。南アフリカから産出した三畳紀前期のProlacerta は、方形骨と鱗状骨の間にまだ可動性の関節を持つには至っていなかったが、方形頬骨が既に退化縮小し下部の側頭弓が不完全であったために、有鱗目と祖先的双弓類との中間的生物であると考えられている。
白亜紀後期の半ばを過ぎた頃に有鱗目の中から完全に海生に適応したグループが現れた。オオトカゲから分岐しヘビに近縁だと考えられているモササウルス類である。彼らは魚竜および一部の首長竜の衰退・絶滅によって空きが生じはじめた海生捕食者の生態的地位におさまり、魚類や軟体動物や恐竜などを餌として生活していたと考えられている。また、歯が球状歯となって軟体動物の殻を砕くことに適応したものや、最大15m近くにもなる大型の種など約2000万年間に様々な形態に分化し繁栄したが、白亜紀末の大絶滅(K-Pg境界)の折に首長竜や恐竜や翼竜とともに絶滅した。
有鱗目のもう一方の雄、ヘビ亜目が現れたのも白亜紀である。最古の化石は北米から発見されたConiophis と、パタゴニアから発見されたDinilysia で、ともに白亜紀後期の地層から産出している。ヘビがどのようにしてトカゲ類から分化してきたかについては多くの仮説が出されている。最も有力なのが、地中性・半地中性のトカゲ類から生じたというものである。四肢の消失・胴部の伸長などは地中にもぐるための適応として他の動物にもよく見られるものであり、聴覚の低下と嗅覚の発達などもこれを支持している。一方で、白亜紀の海生動物で、中東から産出したPachyrhachis problematicusという爬虫類は消失した前肢と矮小化した後肢をもっていたが、詳細な研究の結果オオトカゲ類の特徴を保持した原始的なヘビ類である、との説が1997年に提唱されているなど、海生起源説も有力である。
有鱗目の亜目で最後に現れたのはミミズトカゲ亜目であり、最古の化石は暁新世から産出している。しかしミミズトカゲ亜目の基本的分布はゴンドワナ型分布を示すことから、起源はそれ以前に遡る可能性がある。北米には現在フロリダ半島にフロリダミミズトカゲ一種が生息するだけだが、化石記録からフロリダミミズトカゲ科の絶滅種が北米に広く分布していたことがわかっている。
他の爬虫類が中生代という大爬虫類時代の生き残りの感があるのに対し、有鱗目は新生代になってから著しく発展した、現在まさにその繁栄の頂点にあるグループであると言えよう。
関連項目
編集参考文献
編集- T.R.ハリディ, K.アドラー編 『動物大百科12 両生爬虫類』 平凡社 1987 ISBN 4-582-54512-2
- 疋田努 『爬虫類の進化』 東京大学出版会 2002 ISBN 4-13-060179-2
- E.H.コルバート 『脊椎動物の進化』 築地書館 2004 ISBN 4-8067-1113-6
- 八杉竜一(他編) 『岩波生物学辞典 第4版』 2002 ISBN 4-00-080087-6
脚注
編集- ^ Wiens, J. J.; Hutter, C. R.; Mulcahy, D. G.; Noonan, B. P.; Townsend, T. M.; Sites, J. W.; Reeder, T. W. (2012). “Resolving the phylogeny of lizards and snakes (Squamata) with extensive sampling of genes and species”. Biology Letters 8 (6): 1043–1046. doi:10.1098/rsbl.2012.0703. PMC 3497141. PMID 22993238 .
- ^ Zheng, Yuchi; Wiens, John J. (2016). “Combining phylogenomic and supermatrix approaches, and a time-calibrated phylogeny for squamate reptiles (lizards and snakes) based on 52 genes and 4162 species”. Molecular Phylogenetics and Evolution 94 (Part B): 537–547. doi:10.1016/j.ympev.2015.10.009. PMID 26475614.