勝訴ストリップ
『勝訴ストリップ』(しょうそストリップ 英題:Shouso Strip[注 1]、Winning Strip[2])は、2000年3月31日に東芝EMI(当時)より発売された日本のシンガーソングライター・椎名林檎の2作目のスタジオ・アルバム。売上が250万枚を超え、ダブルミリオンを記録した。
『勝訴ストリップ』 | ||||
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椎名林檎 の スタジオ・アルバム | ||||
リリース | ||||
録音 |
カメスタ スタジオテラ | |||
ジャンル |
ロック オルタナティブ | |||
時間 | ||||
レーベル | 東芝EMI/Virgin Music | |||
プロデュース | 井上うに | |||
チャート最高順位 | ||||
ゴールドディスク | ||||
ベストアルバム賞 ロック・アルバム・オブ・ザ・イヤー | ||||
椎名林檎 アルバム 年表 | ||||
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EANコード | ||||
EAN 4988006166141 | ||||
『勝訴ストリップ』収録のシングル | ||||
概要
編集前作『無罪モラトリアム』から約1年ぶりに発売されたスタジオ・アルバム。先行発売されたシングル『本能』、『ギブス』、『罪と罰』など、全13曲を収録。またライブ・ツアー「先攻エクスタシー」などですでに披露されていた「アイデンティティ」は本作で初めて音源化された。初回限定版は特殊スリーブケース入り[注 2]の豪華ブックレット仕様。
2000年4月3日付のオリコン週間アルバムチャートで初の首位を獲得。最終的には250万枚以上という自身最大の売り上げを記録し、トップアーティストとしての地位を確立した[3]。また、本作で日本ゴールドディスク大賞ロック・アルバム・オブ・ザ・イヤー[4]、第42回日本レコード大賞 ベストアルバム賞[5]を受賞している。
2000年度(2000年4月1日〜2001年3月31日)のEMIグループの全世界でのアルバム売上では200万枚を記録し第9位にランクインされている[6]。
自らを「新宿系」と名乗るなど、椎名にとって長年のパートナーとなる東芝EMIの担当ディレクター山口一樹やアートディレクターの木村豊(CENTRAL67)を中心とするブランディング・チームとともに作り上げた虚実入り混じる「椎名林檎」というブランド・イメージも手伝い、前作『無罪モラトリアム』と今作によって椎名はカリスマ的存在となった[7][8][9]。しかしそれは送り手側の予想をはるかに超えるものであり、作品は彼女の自意識の表現そのものとして受け取られた[8][9]。本来は自意識を吐露するタイプのシンガーソングライターではなく、ファンやレコード会社の要求に応えるプロの音楽作家志向の椎名はその状況に違和感を抱き、その後の作品や音楽活動で軌道修正を図る[8][9]。
制作
編集アルバムの制作は1999年の夏に開始され、その夏が終わるころにはすべてのレコーディングが終了していた[10]。当初は昔の曲を中心に収録する予定で、まるで『無罪モラトリアム』の延長、あるいはそのもののようなアルバムとなるはずだった。しかし、椎名が多忙のせいでそれまでレコーディングできなかった新曲を入れようと決めたことで、最初の収録リストは一旦リセットとなった[10]。スタッフが椎名のイメージを最優先する雰囲気を作ってくれたおかげで「これはこの人じゃなきゃダメだし、これは私が弾く」という具合にレコーディングも彼女の一存で進み、前作よりも自分に正直にエゴイスティックに制作出来たと本人は語っている[10]。一曲一曲のイメージがはっきりしていてそれぞれ単独でも聞ける、まるでシングル・コレクションのようだった前作に対し、今作はアルバム全体を通して聞くことを前提に作られている[10]。
シンメトリー
編集勝訴ストリップ | |
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01. 虚言症 | 13. 依存症 |
02. 浴室 | 12. 本能 |
03. 弁解ドビュッシー | 11. 病床パブリック |
04. ギブス | 10. サカナ |
05. 闇に降る雨 | 09. 月に負け犬 |
06. アイデンティティ | 08. ストイシズム |
07. 罪と罰 |
本作では、収録曲の配置(字数)が7曲目の「罪と罰」を中心にシンメトリーに並べられているほか、総合収録時間も55分55秒と、徹底的なこだわりを見せている。BLANKEY JET CITYの浅井健一がエレキギターを弾くと決まった段階で、中心に「罪と罰」を配置し、13曲入りのアルバムにするということは決定していたという。またオープニングとエンディングの曲も決まっていた。合計時間を55分55秒にすることについても最初に決めており、「『無罪モラトリアム』が「短い」と言われたため、少し延ばした」と語っている。このようなシンメトリーに対するこだわりは、以降の作品にも受け継がれていき、東京事変の作品においても反映されている[10]。
収録曲
編集楽曲解説
編集※以下、15周年公式サイトを参照[11]。
- 虚言症
- 浴室
- アルバム発売前には、プロモーションの一環としてこの曲のフルが無料配信された。「生死とかを超越した融合を実現したい」という欲望と提案について歌った曲。椎名自身、このアルバムの中で一番好きな曲かもしれないとも語っている。この曲は、ジャン=フィリップ・トゥーサンの同名小説でジョン・ルヴォフ監督による1987年公開のフランス映画をイメージしたそうで、椎名がいつもビデオを借りに行っていた東中野のレンタルビデオ屋で、そのビデオの背表紙を見た時に思いついたという。ただし、当時本人はその映画を観ていなかったとのこと。
- 本作では数少ないプログラミング主体の楽曲となっている。2003年に発表された9枚目のシングル『りんごのうた』のカップリング曲には、英語の歌詞でアレンジの異なる「la salle de bain」が収録されている(2008年発売のアルバム『私と放電』にも収録)。その他、2007年に発表された斎藤ネコとの共同名義でのアルバム『平成風俗』には、本作と「la salle de bain」を合わせたようなアレンジバージョンが収録されている。
- 弁解ドビュッシー
- デビュー当時、フェイバリット・アーティストにドビュッシーを挙げた椎名に対して、周囲が「何で?」という反応を示したこと、また、辛い恋をしていたことからできた曲。それに対する「ドビュッシーを好きなことに説明とか弁解なんてあるかよ!」「辛い恋することに弁解なんてあるかよ!」という2つの思いが合わさって勢いでつけたタイトルだという。
- ギブス
- 闇に降る雨
- ミュージック・ビデオも制作されており、ミュージック・ビデオ集『性的ヒーリング〜其ノ弐〜』に収録されている。椎名曰く「私の中での演歌的な部分を全部集めたような曲」とのことで、完成曲を「これって森昌子じゃん」と思ったという。またインタビューでは、サビの「雨だろうが運命(さだめ)だろうが」というフレーズに「当時よくこんな事言えたなぁ」と話している。
- アイデンティティ
- 罪と罰
- ストイシズム
- 椎名曰く、この曲は前作『無罪モラトリアム』に収録されている「積木遊び」のような箸休め的な曲であるという。演奏時間は2分を切り、椎名の楽曲では最短[注 3]。
- 歌詞カードに書かれている歌詞を歌っている他に、「あー」という声やドレミで歌っている声、しゃべり声など様々な音をミックスして作られた曲。「罪と罰」のサビの歌詞「あたしの名前をちゃんと呼んで」および「不穏な悲鳴を愛さないで」を逆から言っている箇所がある。また「アクセル、ブレーキ、パーキング」と言っている箇所は、The Turtlesのメンバーに「それがサビになる曲を書く」と約束したことから歌われており、それをちゃんと守っている自分がストイックだということでタイトルが「ストイシズム」とつけられたとのこと。
- ライブで披露したのは後にも先にも2000年に行われた一夜限りのライブ「(稀)実演キューシュー 座禅エクスタシー」だけでのことである。
- 月に負け犬
- サカナ
- この楽曲もライブで披露したのは「(稀)実演キューシュー 座禅エクスタシー」だけでのことである。
- 病床パブリック
- 本能
- 100万枚近くを売り上げた、4枚目のシングルにして最大のヒット曲。ナース姿でガラスを叩き割るミュージック・ビデオが話題となった。
- 「ギブス」や「罪と罰」とは異なりシングルバージョンのまま収録されたが、アウトロで次曲「依存症」に繋がる構成となっている。
- 依存症
- 椎名曰く「自殺と言うか、何もかも全部疲れた」という曲。詞曲ともに、次作アルバムに対する投げかけが行われている。椎名が男性と対等に接したいにもかかわらず依存してしまうことを歌い、彼女の恋愛観を表現している。椎名の楽曲ではもっとも演奏時間が長い[注 4]。
- 歌詞カードの「 」で空白になっている部分には、当時の椎名の愛車であったメルセデス・ベンツの愛称「ヒトラー」と入るが、これが問題となって自主規制でプロモーション用のサンプル盤が回収された[注 5]。特に意味があって名付けたわけではなく、当時、身の回りの物にドイツ語の名前を付けることにはまっており、他にも飼い猫にはゲーテとシューマン、テディベアはツルゲーネフ[注 6]、ギターにはディートリッヒと名付けていた[13][14]。
楽曲クレジット
編集全作詞・作曲: 椎名林檎、全編曲: 亀田誠治、椎名林檎。 | |||
# | タイトル | 編曲 | 時間 |
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1. | 「虚言症」 | ||
2. | 「浴室」 | ||
3. | 「弁解ドビュッシー」 | ||
4. | 「ギブス」 | ||
5. | 「闇に降る雨」 | ||
6. | 「アイデンティティ」 | ||
7. | 「罪と罰」 | ||
8. | 「ストイシズム」 | ||
9. | 「月に負け犬」 | ||
10. | 「サカナ」 | ||
11. | 「病床パブリック」 | ||
12. | 「本能」 | 亀田誠治 | |
13. | 「依存症」 | ||
合計時間: |
クレジット
編集
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脚注
編集注釈
編集- ^ ブックレット等には略称として「SS」と表記されている。
- ^ ピンク色の紙の外箱が付属。
- ^ 『唄ひ手冥利〜其ノ壱〜』収録のカバー曲「i wanna be loved by you」は「ストイシズム」より僅かに短い1分44秒。
- ^ 「唄ひ手冥利〜其ノ壱〜」収録のカバー曲「枯葉」は6分30秒と「依存症」より若干長い。
- ^ 実際に販売された物ではその箇所は歌われていないが、コンサートでは歌われており、「実演ツアー 下剋上エクスタシー」でも実際には歌っていたが、映像化に際してピー音で被せられている。またその車は「罪と罰」のミュージック・ビデオや、ミュージック・ビデオ集「性的ヒーリング〜其ノ弐〜」のエンドロール(本楽曲がBGMとして使用されている)に登場している。
- ^ 本人はドイツ語と勘違いしていた。
出典
編集- ^ “林檎の第2弾、初登場1位”. Mainichi INTERACTIVE スポニチ. 株式会社毎日新聞社. 2000年4月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年4月5日閲覧。
- ^ SR猫柳本線 DISCOGRAPHY
- ^ “椎名林檎の記事まとめ”. 音楽ナタリー (2014年10月16日). 2018年4月16日閲覧。
- ^ 日本ゴールドディスク大賞. “ゴールドディスク大賞受賞者一覧”. 2012年2月22日閲覧。
- ^ 日本レコード大賞 (2000年). “第42回日本レコード大賞”. 2011年7月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年2月22日閲覧。
- ^ EMI Has Something to Prove on Its Own、ロサンゼルス・タイムズ、2001年6月11日。
- ^ “椎名林檎、9月17日にDVD『座禅エクスタシー』を発売。TOKIOへの楽曲提供や「トップランナー」への出演など新展開が目白押し”. 『bounce』. TOWER RECORDS ONLINE (2008年7月11日). 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b c “電脳RAT 10周年記念復活号June,2008『椎名林檎10周年記念作品Album「私と放電」&DVD「私の発電」ライナーノーツ』”. UNIVERSAL MUSIC. 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b c “椎名林檎が見せつけた“プロ作家”としての本質と底力 『逆輸入』シリーズが示すもの”. Real Sound (2017年12月14日). 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b c d e 電脳RAT(インタビュアー:ツダケン(unga! 編集部))「椎名林檎「勝訴ストリップ」」『椎名林檎 15周年特設サイト』、UNIVERSAL MUSIC、2003年2月20日 。2018年4月16日閲覧。
- ^ “電脳RAT/014『林檎ちゃん「勝訴ストリップ」全曲解説』”. UNIVERSAL MUSIC. 2018年4月16日閲覧。
- ^ a b “【発掘!流行り歌 徒然草】椎名林檎「ここでキスして。」(1999年) 年配には受け入れにくい「違和感」は大化けの予兆 デビュー秘話 (1/2ページ)”. ZAKZAK, 夕刊フジ (2016年6月7日). 2018年4月16日閲覧。
- ^ "椎名林檎の悦楽巡回". 椎名林檎の悦楽巡回. 1999年5月16日. CROSS FM。
- ^ 椎名林檎『RINGO FILE 1998‐2008』ロッキング・オン、2009年3月。ISBN 4860520793。