ヒトリシズカ
ヒトリシズカ(一人静、学名: Chloranthus quadrifolius)は、センリョウ科チャラン属に属する多年草の1種である。茎の先端付近に4枚の葉が輪生状につき、中央から白いブラシ状の花序が1本伸びる(図1)。花は花被を欠き、3本の雄しべが白く目立つ。日本を含む東アジア北部に分布する。
ヒトリシズカ | ||||||||||||||||||
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1. ヒトリシズカ (福島県会津地方、2008年5月)
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分類 | ||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||
Chloranthus quadrifolius (A.Gray) H.Ohba & S.Akiyama (2014)[1][2] | ||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||
ヒトリシズカ (一人静)[4]、ヨシノシズカ (吉野静)[5]、マユハキグサ、マユハキソウ (眉掃草)[6]、ホタルソウ (蛍草)[7]、つぎね (次嶺)[8]、ぎゅうい (及己)[8][9][注 2] |
古くは「吉野静」とよばれ、『和漢三才図会』(1712年) に「静とは源義経の寵妾にして吉野山に於て歌舞のことあり。好事者、其美を比して以って之に名づく」とその由来が記されている[8][12]。「一人静」の名は、近縁種のフタリシズカがふつう花序を2本もつことと対比させている[4]。長らく Chloranthus japonicus の学名が充てられていたが、2014年に Chloranthus quadrifolius とされた[注 1]。
特徴
編集横に這う短い地下茎から、数本から多数の茎が直立する多年草であり、高さ10–50センチメートル (cm)[3][14][4]。若い茎はふつう赤紫色であり (下図2a)、後に緑色になる[3][14]。茎の下部3–4節には三角形または広卵形の膜質の鱗片葉 (長さ4–5ミリメートル (mm)) がつき、上部の2節に大型の葉が十字対生する[3][14]。この2節間は非常に狭いため、4枚の葉が輪生しているように見える[3][4] (下図2b)。葉の葉柄は 0.5–1.5 cm、葉身は楕円形、卵状楕円形または広楕円形、4–14 × 2–8 cm、表裏とも無毛で薄いが光沢があり、先端は急に狭まり細く尖り、基部は鋭形、葉縁には鋭い鋸歯がある[3][14] (下図2b, c)。葉脈は羽状、側脈は6–8対[14]。
花期は4–5月、密に花をつけた1本 (まれに2本) の穂状花序が頂生する[3][14] (上図2b, 下図3a)。花序は花期には 1–2 cm、果期には伸長して 2–3 cm になる[3][14]。花は両性、花被を欠き、苞は半円形から三角形で長さ 0.5 mm、先端が平らまたは浅く2–3裂している[3][14]。雌しべの子房の側面 (背軸側) に雄しべがついている。雄しべは白色、3個が基部で合着し (1個の雄しべが3裂したともされる[15])、3本の葯隔が糸状に伸びる (長さ 3–5 mm)[3][14] (下図3a, b)。ふつう中央の葯隔には葯がなく、左右の葯隔の基部外側にそれぞれ1個の黄色の葯がある[3][14] (下図3a, b)。雌しべの子房は長さ約 1 mm、柱頭は切形[3] (下図3a, b)。果期は5–6月、果実は淡緑色、球形で長さ 2.5–3 mm[3][14]。染色体数は 2n = 30[16]。
分布と生育環境
編集南千島、北海道、本州、四国、九州、朝鮮半島、中国北部、アムール、沿海州、ウスリーに分布する[1][3]。山野の林内に生える[4]。
保全状況評価
編集ヒトリシズカは日本全体としては絶滅危惧等に指定されていないが、下記のように地域によっては絶滅危惧種に指定されている[17]。
人間との関わり
編集観賞用に栽培されることがあり、青軸 (茎や葉が赤紫色を帯びないもの)、桃色花 (雄しべがピンク色を帯びるもの)、斑入り (覆輪、中斑、散り斑、黄金葉など) などの園芸品種も流通している[18]。
有毒であるが、根の煎汁は「
ギャラリー
編集脚注
編集注釈
編集- ^ a b 真の Chloranthus japonicus はフタリシズカ (Chloranthus serratus) のシノニムとされる[13]。
- ^ もともとは同属のフタリシズカの漢名である[10][11]。
出典
編集- ^ a b c d e “Chloranthus quadrifolius”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年8月14日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “ヒトリシズカ”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年4月4日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 米倉浩司 (2015). “センリョウ科”. In 大橋広好, 門田裕一, 邑田仁, 米倉浩司, 木原浩 (編). 改訂新版 日本の野生植物 1. 平凡社. pp. 52–53. ISBN 978-4582535310
- ^ a b c d e 林弥栄 & 門田裕一 (監修) (2013). “ヒトリシズカ”. 野に咲く花 増補改訂新版. 山と渓谷社. p. 22. ISBN 978-4635070195
- ^ 「吉野静」『精選版 日本国語大辞典』 。コトバンクより2021年8月14日閲覧。
- ^ 「眉掃草」『動植物名よみかた辞典 普及版』 。コトバンクより2021年8月14日閲覧。
- ^ 「蛍草」『精選版 日本国語大辞典』 。コトバンクより2021年8月14日閲覧。
- ^ a b c d e “はかなくも可憐な花「ヒトリシズカ」”. 養命酒製造株式会社 (2019年4月). 2021年8月14日閲覧。
- ^ a b 「ヒトリシズカ」『日本大百科全書(ニッポニカ)』 。コトバンクより2022年7月14日閲覧。
- ^ a b “Chloranthus serratus”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年8月15日閲覧。
- ^ 「及己」『動植物名よみかた辞典 普及版』 。コトバンクより2021年8月13日閲覧。
- ^ 牧野富太郎 (1961). 牧野 新日本植物図鑑. 北隆館. pp. 74
- ^ “Chloranthus serratus”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2021年8月14日閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l 大森雄治 (1999). “日本のドクダミ科・コショウ科・センリョウ科植物”. 横須賀市博物館研究報告 自然科学 46: 9-21. NAID 40003710131.
- ^ Kong, H. Z., Chen, Z. D. & Lu, A. M. (2002). “Phylogeny of Chloranthus (Chloranthaceae) based on nuclear ribosomal ITS and plastid trnL‐F sequence data”. American Journal of Botany 89 (6): 940-946. doi:10.3732/ajb.89.6.940.
- ^ a b “Chloranthus japonicus”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年8月15日閲覧。
- ^ “ヒトリシズカ”. 日本のレッドデータ 検索システム. 2022年7月18日閲覧。
- ^ “ヒトリシズカ”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2021年8月14日閲覧。
- ^ 堀田清・野口由香里. “ヒトリシズカ”. 薬用植物園. 北海道医療大学. 2021年4月23日閲覧。
外部リンク
編集- “ヒトリシズカ”. 日光植物園. 東京大学. 2021年8月14日閲覧。
- “ヒトリシズカ(一人静)”. 松江の花図鑑. 2022年4月4日閲覧。
- “ヒトリシズカ”. 三河の植物観察. 2021年8月14日閲覧。
- “ヒトリシズカ”. みんなの趣味の園芸. NHK出版. 2021年8月14日閲覧。
- “はかなくも可憐な花「ヒトリシズカ」”. 養命酒製造株式会社 (2019年4月). 2021年8月14日閲覧。
- Flora of China Editorial Committee (2008年). “Chloranthus japonicus”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2021年8月15日閲覧。 (英語)
- “Chloranthus quadrifolius”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年8月14日閲覧。 (英語)