2008.11.01 (Sat)
"It's not over"--選挙戦終盤
お昼過ぎ。
部屋の整理をしていると、アパートの扉が叩かれる。
彼「邪魔してすまん。オバマ陣営のボランティアなんですけどね。」
俺「や、オレ、アメリカ市民じゃないし。」
彼「でもアメリカ人の友達もいるだろ。よろしく伝えてくれよ。まだ終わってないんだ(It's not over)。」
この言葉には心裡にてクスリとしてしまった。大勢はは決まりつつあるように見受けられるが、確かに投票日はまだだ。
今回の選挙戦は、オバマ陣営/民主党が優勢というよりは、マケイン陣営/共和党(*1)の自滅という感もないではない。ペイリンも振り返って見ればイロモノというか一発ネタというか出オチというか。
しかしオバマ陣営もさっぱり選挙戦の手を緩めない。もちろんブラッドレー効果も念頭に置かれているだろうし、より一般的に選挙で圧勝ムードが漂うと有権者が弛緩して案外得票が伸びないというのは日本でも見られる話ではある。
選挙結果が出てからだと後出しジャンケン的になってしまうであろう見立てを、今の内に書いておこう。
・選挙結果の確定においては混乱はない、少なくとも大きくはならない。
2000年大統領選挙があれだけ混乱したのは、大統領選挙人の数で伯仲し、かつそのバランスを傾かせるフロリダで得票数が伯仲したから。
今回はトータルにおいてオバマ陣営が優勢。伯仲する州が幾つか出てきたとしても、選挙人数の過半数を制するかどうかについては決定的な影響を与えないだろう。そうだとすればマケイン陣営は伯仲する州の得票数が確定する前でも敗北を認めざるを得ない。(*2)
無論、個別の投票者から見て、「投票できなかった」「投票がきちんとカウントされなかった」という紛争の可能性は残る。
民主党陣営だけでボランティア弁護士5000人って、日本の弁護士全体の5分の1である。
・「共和党の陰謀」はない。
という説があるようだが…これはない。
理由1
この説は人種をsingle outし過ぎている。
人種は重要なファクターだが、唯一のファクターではないし、最大のファクターでもない。(*3)
理由2
この説はブッシュ=共和党=悪者という見方を強調し過ぎている。陰謀論に過ぎる。
共和党(員/政権)にとっても、「共和党」という枠組よりも「アメリカ」という枠組のほうがよっぽど重要。
民主的に選出された重要政治家の暗殺を手をこまねいて見ているとすれば、あるいはそれを口実に非常事態を宣言するとすれば、それこそ「アメリカ」という枠組を動揺させる(「それどこの途上国?」)。これは全力で回避せねばならない事態。
先日の、暗殺計画を練っていた白人至上主義者の逮捕を混乱の先駆けとする見方もあるが、私見からはむしろこれは「そんなことしようとしても十分に抑止可能だ」というメッセージと位置付ける。
特に、11月15日には経済混乱対策のサミットが予定されている以上、これを戒厳令下で行うわけにはいかない。そんな世界中の笑い物になるような自体はいくら何でも避けるはず。
・こうなると注目点は、大統領選よりは議会、特に上院の行方。民主党が(filibuster-proofの)60議席を確保できるか。
・新政権の政権運営は、初期は安定しない。
経済混乱に特効薬はないし、精々「恐慌」を回避して「普通の不況(但し深刻)」になる程度だろう。
民主党が議席を伸ばすということは(先日も指摘した通り)内部の多様性が増して足並みが揃い難くなるということでもある。民主党をuniteさせていくようなメッセージ、価値は("Change"という以上には)明確化されてはいない。
他方、あらゆるセクションで少数派となった共和党は安心して批判だけをしていればよい。
有権者の期待も大きければ大きいほど、思ったほど成果が上がらないと失望も大きい。
もっとも、(「恐慌」を回避さえすれば)いずれ経済も自律回復基調に乗るだろうから、そうなると政権運営も安定するだろう。問題は、それが中間選挙に間に合うかどうかである。
・共和党のダメージは深刻。立て直しは困難で、今の大物は総取っ替え位が必要だろう。
2004年の大統領選挙について「今回は共和党。但し、イラク・アフガンの出口戦略が見えず、経済もいずれ失速するのは確実な以上、長期的にはむしろ共和党にとって困難」と見ていて、2006年議会選挙の結果は思ったより早くその見立てが現実化したなぁと思っていたのだが、いよいよ病膏肓に入る。
ランディング - アメリカ法観察ノート
社会のID:[OL] - アメリカ法観察ノート
決戦は火曜日 - アメリカ法観察ノート
民主党ペンシルバニア州予備選挙 - アメリカ法観察ノート
ギブ・ミー・選挙権 - アメリカ法観察ノート
スーパー・チューズデー - アメリカ法観察ノート
大統領選挙:若者の政治参加 - アメリカ法観察ノート
*2 勝者総取り制は、伯仲すれば一票の差がcriticalになるが、差が十分に大きい場合は丼勘定でもworkすることになる。
*3 この説の論者は、人種を決定的に重要視することで、「日本にはそういうのない。よかったねぇ」というマインドセットを開陳してしまっているように思える。
部屋の整理をしていると、アパートの扉が叩かれる。
彼「邪魔してすまん。オバマ陣営のボランティアなんですけどね。」
俺「や、オレ、アメリカ市民じゃないし。」
彼「でもアメリカ人の友達もいるだろ。よろしく伝えてくれよ。まだ終わってないんだ(It's not over)。」
この言葉には心裡にてクスリとしてしまった。大勢はは決まりつつあるように見受けられるが、確かに投票日はまだだ。
今回の選挙戦は、オバマ陣営/民主党が優勢というよりは、マケイン陣営/共和党(*1)の自滅という感もないではない。ペイリンも振り返って見ればイロモノというか一発ネタというか出オチというか。
しかしオバマ陣営もさっぱり選挙戦の手を緩めない。もちろんブラッドレー効果も念頭に置かれているだろうし、より一般的に選挙で圧勝ムードが漂うと有権者が弛緩して案外得票が伸びないというのは日本でも見られる話ではある。
アパートでオバマ陣営が配っていたビラ | 裏はこう |
事前の登録がなくても、当日直接投票所で登録して投票できますよ、だから投票に行きましょう、と呼びかけるビラ | 裏はこうだが |
よく見ると民主党のお金で配布されている。 つまりこれも選挙活動の一環な訳ですな。 |
で中身はこう。 形式的に「投票しましょう」と呼びかけているのは州知事な訳だが、これも民主党知事だからこそできる芸当。 |
選挙結果が出てからだと後出しジャンケン的になってしまうであろう見立てを、今の内に書いておこう。
・選挙結果の確定においては混乱はない、少なくとも大きくはならない。
2000年大統領選挙があれだけ混乱したのは、大統領選挙人の数で伯仲し、かつそのバランスを傾かせるフロリダで得票数が伯仲したから。
今回はトータルにおいてオバマ陣営が優勢。伯仲する州が幾つか出てきたとしても、選挙人数の過半数を制するかどうかについては決定的な影響を与えないだろう。そうだとすればマケイン陣営は伯仲する州の得票数が確定する前でも敗北を認めざるを得ない。(*2)
無論、個別の投票者から見て、「投票できなかった」「投票がきちんとカウントされなかった」という紛争の可能性は残る。
Both Campaigns Enlist Lawyers to Watch Polls - NYTimes.comフロリダにて、弁護士は準備完了。
By LESLIE WAYNE
Published: October 27, 2008
http://www.nytimes.com/2008/10/28/us/politics/28lawyers.html?ei=5070&emc=eta1
民主党陣営だけでボランティア弁護士5000人って、日本の弁護士全体の5分の1である。
In a Close Race, Lawyers Will Look at Ohio’s Provisional Ballots - NYTimes.comオハイオも。
By IAN URBINA
Published: October 30, 2008
http://www.nytimes.com/2008/10/31/us/politics/31ohio.html?ei=5070&emc=eta1
・「共和党の陰謀」はない。
- これだけ優勢なのにオバマが負ければ→暴動
- 勝てば→白人至上主義者が暴動・暗殺
という説があるようだが…これはない。
理由1
この説は人種をsingle outし過ぎている。
人種は重要なファクターだが、唯一のファクターではないし、最大のファクターでもない。(*3)
理由2
この説はブッシュ=共和党=悪者という見方を強調し過ぎている。陰謀論に過ぎる。
共和党(員/政権)にとっても、「共和党」という枠組よりも「アメリカ」という枠組のほうがよっぽど重要。
民主的に選出された重要政治家の暗殺を手をこまねいて見ているとすれば、あるいはそれを口実に非常事態を宣言するとすれば、それこそ「アメリカ」という枠組を動揺させる(「それどこの途上国?」)。これは全力で回避せねばならない事態。
先日の、暗殺計画を練っていた白人至上主義者の逮捕を混乱の先駆けとする見方もあるが、私見からはむしろこれは「そんなことしようとしても十分に抑止可能だ」というメッセージと位置付ける。
特に、11月15日には経済混乱対策のサミットが予定されている以上、これを戒厳令下で行うわけにはいかない。そんな世界中の笑い物になるような自体はいくら何でも避けるはず。
・こうなると注目点は、大統領選よりは議会、特に上院の行方。民主党が(filibuster-proofの)60議席を確保できるか。
・新政権の政権運営は、初期は安定しない。
経済混乱に特効薬はないし、精々「恐慌」を回避して「普通の不況(但し深刻)」になる程度だろう。
民主党が議席を伸ばすということは(先日も指摘した通り)内部の多様性が増して足並みが揃い難くなるということでもある。民主党をuniteさせていくようなメッセージ、価値は("Change"という以上には)明確化されてはいない。
他方、あらゆるセクションで少数派となった共和党は安心して批判だけをしていればよい。
有権者の期待も大きければ大きいほど、思ったほど成果が上がらないと失望も大きい。
もっとも、(「恐慌」を回避さえすれば)いずれ経済も自律回復基調に乗るだろうから、そうなると政権運営も安定するだろう。問題は、それが中間選挙に間に合うかどうかである。
・共和党のダメージは深刻。立て直しは困難で、今の大物は総取っ替え位が必要だろう。
2004年の大統領選挙について「今回は共和党。但し、イラク・アフガンの出口戦略が見えず、経済もいずれ失速するのは確実な以上、長期的にはむしろ共和党にとって困難」と見ていて、2006年議会選挙の結果は思ったより早くその見立てが現実化したなぁと思っていたのだが、いよいよ病膏肓に入る。
【関連】
Re: サンスティーンを最高裁に! - アメリカ法観察ノートランディング - アメリカ法観察ノート
社会のID:[OL] - アメリカ法観察ノート
決戦は火曜日 - アメリカ法観察ノート
民主党ペンシルバニア州予備選挙 - アメリカ法観察ノート
ギブ・ミー・選挙権 - アメリカ法観察ノート
スーパー・チューズデー - アメリカ法観察ノート
大統領選挙:若者の政治参加 - アメリカ法観察ノート
【More・・・】
*1 というか、マケイン陣営と共和党本体とのコーディネーションがうまくいっていない気がする。むしろ民主党の側がintenseな予備選挙のせいで分裂の虞があるのではとされていたわけだが、少なくとも一見したところではそのような状況は見られない。*2 勝者総取り制は、伯仲すれば一票の差がcriticalになるが、差が十分に大きい場合は丼勘定でもworkすることになる。
*3 この説の論者は、人種を決定的に重要視することで、「日本にはそういうのない。よかったねぇ」というマインドセットを開陳してしまっているように思える。
この記事のトラックバックURL
この記事へのトラックバック
アメリカにおいては、政治資金規制の問題は第1修正・言論の自由の問題として語られる。
このことを初めて知った時、「そんなバカな」と思っ...
2008/11/09(日) 13:35:10 | アメリカ法観察ノート
アパートの部屋を出ようとしたら、ドアが引っ掛かる。
よく見ると、ドアノブにドアタグが掛かっていた。
それが、これ:
...
2008/11/08(土) 16:48:36 | アメリカ法観察ノート
| BLOGTOP |