円山応挙とマグリッド
太田美術館でみた歌川広重のちょっとシュールな“日光山裏見ノ滝”に刺激されて、日本画で他にもないかと画集や図録をぱらぱらめくっていると、なんと円山応挙の作品にはっとするのがあった。
その絵の前に、応挙の研究者に関することを少々。今度、京都国立博物館の館長に佐々木丞平京都大学教授が就任することが新聞に載っていた。
佐々木氏は日本画の奥さんと共に応挙研究の第一人者。03年9月から04年
3月まで大阪、福島、東京で開かれた大規模な円山応挙展を監修したのがこのお
二方。レベルの高い応挙研究が今、美術関係者の注目をあびている。
そこで、佐々木夫妻が執筆している芸術新潮2月号の円山応挙特集をなんとなく
見ていると、右の作品にであった。この絵を大阪の展覧会で見て、シュールな絵
だなと感心したのをすっかり忘れ、広重の絵からは北斎の鯉の滝登りしか想い浮
かばなかった。画題は北斎と同じで“龍門鯉魚図”という名前がついている。兵庫
の大乗寺の所蔵。応挙は鯉の絵を何枚も描いたようで、福岡市美術館でも同じ
ような作風の絵をみた。
マグリッドの絵を連想させるこの絵の不思議な感覚は、応挙の優れた技巧から生
み出されている。鯉に描かない部分をつくり、そこを塗り残すことで水の流れを表現
している。垂直に落ちる滝のむこうに鯉が全力で上昇しようとする様がよく描かれ
ている。02年、Bunkamuraでみたマグリッドの作品にこの絵と同じ描き方のものが
あった。森のなかを走っている女性の乗った馬の一部が垂直にカットされ、その
部分がまわりの木の葉っぱで埋められる。また、ほかの箇所では緑の木が馬の
胴体に描かれている。
マグリッドによれば、森を馬にのって通りぬける人は幹の谷間に見え隠れし、こんな
絵のような錯覚が起きるという。シュルレアリスト、マグリッドの感じた錯覚を応挙
は鯉の滝登りに見たのかもしれない。マグリッドの絵を先取りするような作品を
1789年ごろ描いたというのが凄い。応挙の頭はちょんまげだが、美的感覚は現代
人と変わらないかもしれない。
| 固定リンク
コメント