UXを高めるには、システム開発の進め方をどう変えればいいのか。次の章でUX重視のシステム作りに挑戦し、成果を上げた具体的事例を紹介する前に、情報システム部門が知っておくべきUX重視の開発手法を紹介しよう。

 参考になるのが「ユーザー中心設計」または「人間中心設計」と呼ばれる開発プロセスだ。もともとシステムのユーザビリティを高める手法として国際規格になっていたが、2010年にUX重視の開発を前提とした新たな国際規格(ISO9241-210)に改訂された。

 実際の開発プロセスは以下のようになる(図1)。まずユーザーへの聞き取り調査などを経て、システムが目指すUXの要件を検討する。次に、スキルや知識の異なるプロジェクトメンバー同士の認識を合わせるため、仮想的なユーザー像(ペルソナ)を作成する。

図1●優れたUXを実現するための開発プロセスの例
企画と要件定義の2段階で、ユーザー中心設計の開発プロセスを導入するのが現実的だ
[画像のクリックで拡大表示]

 この仮想的なユーザーが取るとみられる行動を想像しながら、UXの要件を満たす画面やUI(ユーザーインタフェース)のプロトタイプ(試作品)を作る。そしてユーザーに、使い勝手やシステムから得られる満足感などを検証してもらう。

 このプロトタイピングと検証を繰り返すことで、UXを理想の姿に近づけていく。最終成果物として、主な画面やUI、他の画面を開発する際のUIガイドラインやUI部品などを作成し、次のプロセスに引き渡す。

 一度作成したUIガイドラインは、他のシステムにも転用することで、業務システムを通じて統一感のあるUXを実現できる。例えば日本郵便はUX重視の開発の一環として、システムのUIガイドラインを社内で統一した。「ITベンダーに任せると、自社のUI標準を押しつけられ、統一した使用感を実現できなくなる」(システム企画部長の太田好彦執行役員)と考えたからだ。

この先は日経クロステック Active会員の登録が必要です

日経クロステック Activeは、IT/製造/建設各分野にかかわる企業向け製品・サービスについて、選択や導入を支援する情報サイトです。製品・サービス情報、導入事例などのコンテンツを多数掲載しています。初めてご覧になる際には、会員登録(無料)をお願いいたします。