イベントレポート
Internet Week 2014
オンラインストレージは私的複製の範囲内? 著作権分科会小委での議論はまとまらず
(2014/11/28 16:32)
インターネット関係者が一堂に会する「Internet Week 2014」で20日、「クラウド時代の著作権について考える」と題したセッションが開催された。セッションでは、一般社団法人インターネットユーザー協会(MIAU)の代表理事として、文化審議会著作権分科会の「著作物等の適切な保護と利用・流通に関する小委員会」に参加した津田大介氏が、小委員会で行われた議論を紹介した。
著作権分科会の小委員会は「残念な結果」に
今年度の小委員会では、「クラウドサービスと著作権およびクリエイターへの適切な対価還元などに関すること」がテーマとして設定された。内閣官房の知的財産戦略推進本部が決定した「知的財産推進計画2014」や、閣議決定の「規制改革実施計画」などにおいて、クラウドサービスなどの新たな産業の創出や拡大を促進する観点から、著作権制度についての検討を行うことが、文化審議会著作権分科会に求められていた。
小委員会では主に、クラウド上に保存したコンテンツを利用する「クラウドロッカーサービス」のうち、ユーザーがアップロードしたコンテンツをプライベートに利用するタイプのサービスについて議論が集中したという。このタイプには、Dropboxのような汎用的なオンラインストレージサービスや、iTunes Matchのような音楽サービスが含まれ、2007年に東京地裁が著作権侵害と判断した「MYUTA」のようなサービスも含まれることになる。議論の場では、こうしたサービスにおける音楽や動画などの著作物の利用を、著作権法上の「私的複製」の範囲に含めるべきかといった点が話し合われたという。
しかし、こうしたサービスは私的複製の範囲外だとする権利者側と、私的複製の範囲内だとする消費者・メーカーなどの側の主張が対立。議論はまとまらず、セッションの前日(11月19日)に開催された小委員会の会合をもって、今年度の議論は終了となったという。「かなり残念な結果だったのですが、このままだと前向きな議論ができないし、もうちょっと前向きに違う所で議論をしましょうということで。座長判断でこの委員会自体は終わりました」(津田氏)。
議論の中で特に多く話し合われたのは、多くのオンラインストレージでは他のユーザーとファイルを共有できる機能を提供していることから、私的複製の範囲を超えているといった意見や、著作権法(第30条第1項第1号)で私的複製の範囲外とされている「公衆用設置自動複製機器」にクラウドサービスが該当するのではないかといった意見だったという。
津田氏は、「技術的な視点でクラウドサービスと著作権の関係を考えるとややこしい話になる。例えばDropboxもGmailもSaaS型に分類され、『クラウド上のサーバーにデータを保存し、ネットワーク上で操作する』という点では同じものになってしまう」として、サービスの利用態様としてどうなのかという点で考えるべきだというのがMIAUの主張だとした。
MIAUの主張としては、クラウドロッカーはいわば「ワイヤレスHDD/SDD」であり、クラウドロッカーの利用はパーソナルなもので、HDD/SDDへの私的複製と同様の様態であるというものだと説明。また、共有機能が問題だとする主張には、実際にはこうしたクラウドロッカーでは違法なファイル共有は検挙しやすい仕組みになっており、日本には送信可能化権もあるので、それで対応すればいい問題だとした。
また、クラウド事業者に対して権利者への対価還元義務を与えた場合には、事業者は利用規約で音楽ファイルや映像ファイルの取り扱いを禁止するようになるか、別契約を求めるようになるだろうと指摘。そうなると、日本のユーザーはそうした制約のない海外のサービスを使うようになり、期待通りの対価還元も得られなばかりか、今後出てくる日本のクラウドサービスの芽を摘むことにもなり、本来の趣旨であったはずの成長戦略として不適合だとした。
MIAUの意見としては、クラウドサービスの今後のロードマップを十分把握した上で、未来を見据えた制度設計・検討をすべきだと説明。今回の小委員会でも、「それを議論すべき時期に来ているという点ではまとまってきたので、それだけが唯一の救いと言えば救いです」と語った。
また、今後については、クラウドサービス上でフォーマット変換を行うようなサービスを合法化する方針で議論することや、ユーザーや事業者にリスクを取ることを求めるなら、日本においても米国型フェアユースを導入してほしいと訴えた。
議論の終着としては、共有機能のないオンラインストレージサービスについては私的複製の範囲内として処理し、その他のクラウドロッカーサービスは「発展的なクラウドサービス」として別途議論することになるだろうとした。また、音楽権利者は権利処理の集中管理機構を設立し、原盤権なども含めて集中管理することで、事業者や利用者が契約しやすい環境を作り上げるといった提案も出てきたという。ただし、オンラインストレージの共有機能についてはどう考えるのかといった点や、音楽以外の著作物の権利処理はどうするのかといった課題も残っているとした。
今後の見通しとしては、今年度中に報告がまとめられ、小委員会で承認するフェーズとなり、クリエイターへの対価還元に関する議論については今後の議題となるだろうとした。
津田氏は、今回の小委員会について、「1年間議論して、Dropboxのようなサービスは私的複製の範囲内であるという、当たり前のようなことを確認するだけだった」としながらも、このまま膠着状態が続くのは良くないので、前向きに変えていく方向で検討していこうという点では最後にまとまったため、その点は良かったと説明。今後行われる議論の場で、前向きな議論が行われることに期待したいとした。