清水理史の「イニシャルB」
FTPの50倍速! 感動モノの高速さでWAN間ファイル転送できる「Presto File Server」
Synology製NASで使えるWAN環境向け拠点間ファイル転送ツール
2017年7月31日 06:00
「Presto File Server」は、Synology製のNASで利用可能なWAN環境向けのファイル転送ツールだ。「SITA」と呼ばれる独自プロトコルの採用により、FTP比で50~60倍も高い速度でファイルを転送することが可能となる。国内外、規模の大小を問わず、本部と拠点との大容量、大量ファイルのやり取りが劇的に高速化される画期的な機能だ。回線速度が限られた環境でも最大限の速度を実現できるため、海を挟んだ外国とのデータ転送に適したサービスだ。
思わずLANでつながっていないか確かめてしまった・・・・・・ 「あれ? 配線間違えてLANでつないでしまったか?」
後述するベンチマークテストの最中、WAN経由なのに50MBのファイルが1.57秒と、あまりにも一瞬でファイルが転送される様子を目の当たりにして、思わずテスト環境の配線を何度も確認し直してしまった――。
それほどまでに、「Presto File Server」の威力は絶大だ。
企業のグローバル化によって、最近では中小企業でも日常的に海外の拠点とファイルをやり取りする場面が増えてきたが、その一方で、取り扱うファイルの容量や数も増えつつある。遠く離れ、しかも低速なWANでつながれた拠点とのファイル転送を、どう効率化するのかは頭の痛い問題となりつつある。
豊富な予算でWAN回線から根本的に見直せる大企業ならまだしも、環境や予算が限られる中小企業では、投入できる予算も使える技術も限られてしまう。
そう言った意味では、社内に設置するNASの延長線上の機能で、WAN経由での超高速なファイル転送環境を手軽に、しかも安全に構築できるPresto File Serverは、まさに待ち望んでいた機能と言える。独自プロトコルを採用することで、これまでFTPなどで運用していた海外とのファイルのやり取りを50~60倍も高速に、しかも安全に運用することができる。その実体に迫ってみよう。
「DiskStation +シリーズ」のNASから利用可能
Presto File Serverは、Synology製のNASで利用可能なアドオンパッケージだ。
リーズナブルな価格設定ながら、高速で、しかも多機能なNASとして知られるSynologyのDiskStationシリーズでは、パッケージセンターを利用して、スマートフォンなどと同じように後から簡単にアプリパッケージを追加できるようになっている。Presto File Serverも、アプリとしてDiskStationシリーズに導入できるものだ。
法人向けの機能であることから、利用できる機種は「DiskStation +シリーズ」以上に属する以下のモデルに限られているが、比較的リーズナブルな2ベイの「DS216+Ⅱ」(Amazon.co.jpでの実売価格3万8571円、7月21日時点)などでも利用できる。
例えば、小規模ながら各都道府県に多店舗展開する企業や、ワークライフバランスの観点から地方にサテライトオフィスを設けるベンチャー企業なども増えているが、こうした企業でも、あまり初期費用をかけずに店舗や拠点とのデータ転送環境が構築できるだろう。
17シリーズ | FS3017、FS2017、RS4017xs+、RS18017xs+、RS3617xs+、RS3617xs、RS3617RPxs、DS3617xs、DS1817+、DS1517+ |
16シリーズ | RS18016xs+、RS2416+、RS2416RP+、DS916+、DS416play、DS716+II、DS716+、DS216+II、DS216+ |
15 シリーズ | RC18015xs+、DS3615xs、DS2415+、DS1815+、DS1515+、RS815+、RS815RP+、DS415+ |
14シリーズ | RS3614xs+、RS3614xs、RS3614RPxs、RS2414+、RS2414RP+、RS814+、RS814RP+ |
13シリーズ | DS2413+、RS10613xs+、RS3413xs+、DS1813+、DS1513+、DS713+ |
12シリーズ | DS3612xs、RS3412xs、RS3412RPxs、RS2212+、RS2212RP+、DS1812+、DS1512+、RS812+、RS812RP+、DS412+、DS712+ |
11シリーズ | DS3611xs、DS2411+、RS3411xs、RS3411RPxs、RS2211+、RS2211RP+、DS1511+、DS411+II、DS411+ |
NASの機能の延長線上で使えて「二重管理」が不要
使い方も非常に簡単だ。インストールはパッケージを導入するだけと手軽で、特別な設定はほとんど必要ない。
というのも、Presto File Serverは、既存のNASの設定をほとんどそのまま活用できるからだ。
アクセスの許可を与えるユーザーには、NASに登録済みのものをそのまま使えるため、余計なアカウント管理に悩まされることがない。アクセス権も同様だ。Presto File Serverでアクセス可能なフォルダーは、NASに作成済みの共有フォルダーそのものとなるため、新たにデータ共有用のフォルダーを作成して、データを個別に管理する必要もない。同様にアクセス権も既存の共有フォルダーに対して設定された既存ユーザーのアクセス権をそのまま流用できる。
要するに「二重管理」を避けられるのだ。
高速性や安全性を特徴とするファイル転送ソリューションの中には、独自にユーザーやフォルダー、アクセス権を管理しなければならないケースがあり、それが情報漏えいなどのセキュリティホールになりかねないが、Presto File Serverであれば、そうした心配がない。NASとして普段からきちんと運用しておけば、自然と外部拠点のユーザーやアクセス権も適切に管理できることになる。このメリットは地味に大きい。
使えるようにするまでの手間も少ない。拠点から本社のNASに対してのアクセス時に利用するポート(TCP 3360/3361)をルーターのポートフォワードで転送したり、ファイアウォールで解放しておくのが手間と言えば手間だが、それさえ済ませてしまえば、管理者が必要な設定は特にない。
拠点から接続するアクセス先の指定には、ワンタッチで設定できるSynologyのNASならではの「Dynamic DNS」を利用できるため、まったく手間が掛からない。本社側としては、あとは拠点側から接続されるのを待っているだけでいいことになる。
拠点からNASへの接続には専用クライアントを利用する。Synologyのダウンロードサイトなどからクライアントをインストール後、「DDNS名.synology.me」などの接続先、NASに登録済みのユーザー名、パスワードを指定すれば、NASに接続され、ユーザーが許可されている共有フォルダーへのアクセスが可能になる。
アプリに表示されたファイルの一覧から、転送したいファイルをPCのデスクトップやフォルダーにドラッグしたり、左側のナビゲーションバーに表示された「マイコンピューター」のドライブからファイルをドラッグすれば、実際にファイルをダウンロードしたり、アップロードすることができる。
普段、PC上のファイル操作に利用しているエクスプローラーがPrestoアプリのウィンドウに変わっただけで、イメージとしてはローカルでファイルをコピーするのと、ほとんど同じ感覚で操作できる印象だ。
また、転送の詳細設定もクライアント側で制御できる。もちろんサーバー側の設定に依存する項目もあるが(クライアント全体のトータル帯域幅制限)、最大同時転送数や最大アップロード速度、暗号化や圧縮の有無などをクライアント側のアプリで設定できるため、ユーザーの判断によって自由に設定を変えたり、あらゆる負担から管理者を解放することもできる。
FTPとの比較で50~60倍も高速に
同じように、遠隔地のサーバーとファイルをやり取りできる仕組みとしては、FTP Serverが一般的だが、決定的な違いとなるのはスピードだ。
冒頭でも少し触れたように、Presto File Serverは、FTPとは比べものにならないほど高速で、大げさではなく「爆速」と言っていいほどのパフォーマンスが実現されている。
実際、国内外の3つの地点との間でファイル(50MB、130MB、1GB、50MB×10)を転送した際の結果が以下のグラフになる。値は転送時間(秒)となっているため、グラフが短いほど高速になる。
Presto | FTP | ||||
Download | Upload | Download | Upload | ||
Germany | 50MB | 4.43 | 8.25 | 86 | 56 |
130MB | 8.47 | 10.89 | 146 | 138 | |
1GB | 26.62 | 24.18 | 1805 | 1134 | |
50MB×10 | 12.97 | 19.61 | 1237 | 553 | |
Taiwan | 50MB | 7.25 | 6.52 | 9 | 9 |
130MB | 15.52 | 15.46 | 21 | 22 | |
1GB | 110.51 | 101.41 | 168 | 166 | |
50MB×10 | 54.81 | 50.81 | 110 | 92 | |
日本 | 50MB | 1.57 | 2.45 | 4 | 3 |
130MB | 3.55 | 3.08 | 15 | 4 | |
1GB | 17.41 | 15.67 | 65 | 32 | |
50MB×10 | 14.08 | 11.42 | 53 | 25 |
※検証環境 クライアント:Core i7-7700(クアッドコア、3.6GHz)、16GBメモリ、512GB SSD 回線:auひかり1Gbps サーバー(日本):DiskStation DS716+ 回線:NURO 2Gbps サーバー(台湾、ドイツ):Synology提供
値に差がありすぎて、グラフにするとかえって見にくいほどだが、Presto File Serverの結果は、FTPがかわいそうになるほどに、圧倒的だ。
まず、日本国内での結果だが、これがまさに冒頭でWANではなくLANかと勘違いしたテストだ。NURO光(2Gbps)の回線に2ベイのDS716+を接続し、auひかり(1Gbps)の回線に接続したPCからPrestoクライアントを利用してファイルを転送した。
50MBのファイルに関しては、ほぼローカルでの操作と変わらない印象で、クライアントソフトのウィンドウからデスクトップにドラッグすると、まさに一瞬にしてファイルの転送が完了する。ストップウォッチによる手動計測なので値に誤差はあるが、WAN経由なのに、1秒ちょっとで転送が完了するのは圧巻と言える。
1GBのファイルでも、転送にかかる時間は15~17秒ほどで、場合によってはUSBメモリーなどにファイルをコピーする場合よりも高速だ。
続いて、Synology社に協力してもらって、同社の台湾/ドイツの各オフィスに設置されたNASに対してもテストを実施した。台湾に関しては、通信経路の関係でFTPもそれなりに高速な通信ができたが、それでもPresto File Serverの方が1.5~2倍ほど高速な結果が得られた。
ドイツはもっと顕著で、1GBのファイルで約67倍、50MB×10のファイルでは約95倍と、もはや比べものにならないほど、Presto File Serverの方が高速だ。
転送中のステータスを見ていると、FTPが平均して800KB/s前後でデータを転送しているのに対し、Presto File Serverでは速度が変動しながらファイルを転送している様子で、例えば18MB/s→2MB/s→60MB/sといったように変化していた。常にではないにしろ、インターネット経由での転送で60MB/sというスピードで、ドイツとの間でファイルを転送できるのは驚異的だ。
50MB×10のテストに関しては、同時転送の有無が大きく影響している。Prestoでは、クライアント側の設定で、標準で最大10ファイルの同時転送が可能になっている。このため、10ファイルが保存されたフォルダーをそのままドラッグしても、10ファイルが平行して転送されるため、1ファイルを転送したときとさほど変わらない時間で転送が完了する。
FTPでもサーバー側の設定次第では、同時接続を利用して複数ファイルを同時転送することが可能だが、同一IPからの複数接続を禁止している例も少なくない。この場合、1ファイルずつ順番に転送しなければならないため、膨大な時間が掛かってしまう。これが大きな差となって現れたことになる。
仮にFTPで同時接続をサポートしたとしても、ファイル単体で10数~60倍近い差があるので、短縮できる差も限られるだろう。
いずれにせよ、宛先がどこで、どんなサイズで、ファイル数がいくつだろうが、「驚くほど速い」というのが、Presto File Serverを使ってみた率直な感想だ。
独自の転送プロトコル「SITA」の採用で高速化を実現
もちろん、WAN経由の転送の場合、ISPの混雑状況などによって実際の速度は大きく変わる可能がある。海外との通信では時差も考慮する必要がありそうだが、Presto File Serverの仕組みを考えると、むしろそうした従来の転送ツールに不利な状況ほど、Presto File Serverのアドバンテージが発揮されるように思える。
Presto File Serverが従来のFTPと決定的に違うのは、UDPをベースにした独自プロトコル「SITA(Synology Internet Transfer Accelerator)」を採用している点だ。
一般的なTCPの通信は、送り手と受け手の間で、パケットのやり取りが1つずつ確認されながら実施される。具体的には、送り手がパケットを送信し、それを受け手が受信すると、「Ack(Acknowledgement)」と呼ばれる受け取ったとの信号を返送する。送り手は、このAckを受け取ることで、受け手がパケットを受け取ったことを確認してから、次のパケットを送るという繰り返しを行う。
この方式により、パケットを確実に相手に届けることができるが、いちいちAckのやり取りが発生する点がボトルネックになる。回線速度が速ければ問題にならないだろうが、多くの利用者がいるインターネットで、しかも複雑な経路を通って遠隔地と通信を行う場合、Ackのやり取りだけで、かなりの時間が無駄になることになる。
SITAでは、このAckのやり取りを減らすことで高速化を実現している。いちいちAckを待つ必要がなければ、送り手はUDPのように、次々にデータを相手に送り出すことができる。遠い場所や、混雑した場所ほど、このアドバンテージが生きてくるわけだ。
UDPと違うのは、データの整合性をきちんとチェックし、必要に応じてパケットの再送を実施する点だ。UDPの代表であるストリーミングなどでは、データの整合性が正しくなくても、それが画像の乱れや一時的な途切れになるだけだが、重要なデータをやり取りするファイル転送ではそうはいかないため、きちんとチェックと再送の仕組みも整えられていることになる。
速度優先でUDPの仕組みを採用しながら、きちんとファイル転送用に設計されたプロトコルと言ったところだろう。
もちろん、利用者としては、このような難しい仕組みを意識する必要はまったくない。すべては裏方でNASが処理してくれるので、利用者は、ただただその速さだけを味わうことができる。
管理や監査もおまかせ
誰がいつどんなファイルにアクセスしたのか、どれくらいの転送量があるのか、といった情報も、「Presto File Server」アプリで簡単に把握可能だ。
NAS側でアプリを起動すれば、現在の通信速度や接続中のユーザーをリアルタイムで確認できるほか、過去のアクセス履歴も表示できる。情報漏えい対策として、ファイルアクセスを詳細に監査しなければならない場合でも、このログがあれば、いつ誰がどのファイルにアクセスしたのかを、すぐに確認できるだろう。受け取り確認の一種として使うこともできる。
また、レポート機能を利用することで、転送済みファイルの数や総容量、平均速度、ユーザーランキングなどの統計情報を確認したり、これをHTML形式のファイルとしてレポートを自動生成することもできる。定期的にレポートを報告しなければなかったり、監査用に保管しなければならない場合でも、手間が掛からないのは大きなメリットだ。
拠点でのファイル共有が変わる
以上、SynologyのNAS向けに提供されているPresto File Serverを実際に試してみたが、その圧倒的な速度は感動モノだ。
海外拠点とのファイル共有で、大量のファイルの転送に数時間、ときには数日かけているようなケースでは、導入を検討する価値は大きいだろう。暗号化通信もできるうえ、ファイルそのものを社内で完全に管理できるため、クラウドサービスの利用などが難しい機密情報の転送にも向いている。管理も楽なうえ、レポート機能もしっかりとしているので、実戦向きな機能と言えるだろう。
なお、本機能はライセンスが必要となっており、初回は30日間の無償体験版として利用することができる。ライセンスは、利用可能な最大転送速度で料金が区別されているため、この無償期間内に実際の業務でどれくらいの帯域が必要なのかをテストするといいだろう。
実際の価格は以下の表のようになっているが、たとえば、20Mbps+50Mbpsで70Mbpsのライセンスを選択できるなど、柔軟な構成になっている。やり取りするデータの容量や数などを十分テストしてから、実際のライセンスを購入することをおすすめする。
最大帯域幅1 | 20Mbps | 50Mbps | 100Mbps | 300Mbps | 500Mbps |
料金(USドル) | $399 | $949 | $1799 | $4799 | $6999 |
※無制限デスクトップ ライセンス(同時接続無制限)、永続ライセンス(3年間アップグレード技術サポート含む)
(協力:Synology)