NTTドコモが小・中・高校生、保護者向けなどに実施している「ケータイ安全教室」。 前回は、東京都大田区立矢口中学校で中学生向けに行った内容を紹介したが、今回は保護者向けを取り上げる。また、NTTドコモがこのような取り組みを始めた理由や、2009年から既存の携帯電話利用者も未成年者は原則加入化が決まった“新しいフィルタリング”の中身まで聞いていく。
● 学校も感じる「危機感」
ケータイ安全教室の当日は、健全育成協議会のメンバーと保護者代表が15名ほど集まった。NTTドコモ社員の齋藤則子氏のほか、警視庁池上警察署生活安全課少年係の松浦一夫氏も参加した。
初めに校長先生から、「8割くらいの子どもが携帯電話を持っている。今年になって、携帯電話のトラブルの報告が3件あった。学校が把握しただけでそれだけあるので、家庭で把握しているものや、子どもが悩んでいるケースはもっとあるかもしれない」と、学校として感じている危機感が語られた。
● 携帯フィルタリングに加入してほしい
次にNTTドコモの齋藤氏が「子どもたちは、夜中に自分の部屋にこもってメールやネットをしている。利用しているのを知っている親は11%しかいないが、実際は29%の子どもたちが使っている。知らない人とやりとりをしてトラブルに遭うこともある」と、保護者と子どもの認識の違いを警告した。
そして、フィルタリングサービスに加入する必要性を訴えた。「加入すると、アダルト系、ギャンブル系、出会い系などのサイトにアクセスしなくなる。そのようなサイトではお互い顔を合わせないで知り合うので、年齢や性別をなりすますことができる」。
齋藤氏は、フィルタリングサービスに加入すれば遭わずに済んだ事件の1つを紹介した。15歳の女の子が出会い系で知り合った人に「お母さんとけんかしたんだ」と相談したところ、「俺のところに来いよ、相談に乗るよ」と言われ、出かけていったが軟禁されてしまった。裸にされたので逃げられなかったが、男がいない隙に逃げ出して助かったという事件だ。
● 携帯電話を契約する場合は保護者名義で
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NTTドコモの齋藤則子氏
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次に齋藤氏は「携帯電話事業者はフィルタリングサービスに入ってほしいとは言うが、最終的に入る・入らないは保護者が判断しなければならない」と、保護者の意識の大切さについて言及した。ただし、1人だけフィルタリングをかけると、他の子は見ることができるサービスが見られなくなったり、塾の連絡が見られなくなっていじめられてしまうこともある。「そういうことがないように、保護者みんなで相談してみんなで入るようにしてほしい」という。
具体的なアドバイスとして「約束事を決めて、破ったら解約してしまうことにするとよい。子ども名義で契約してしまうと親でも勝手に解約できなくなるので、保護者名義で契約するのがよい。“子どもの携帯電話”ではなく、保護者が購入した携帯電話を子どもに使わせるという意識でいてほしい」とした。
最後に齋藤氏は、「来年からフィルタリングサービスがもっと便利になるので、ぜひ使ってほしい。中学生が持つ必要があるかどうかはわからないが、持つ場合は、ルールを決めると良い。その際に、NTTドコモが作った教本などを参考にしてほしい」とまとめた。
● 困ったら警察に相談を
池上警察署の松浦氏は、「学区によっては警察官がPowerPointで説明したりしている。何かあったら直接電話してください。夕方に受けて次の朝に行ったこともある」と、警察に相談してほしいと訴えた。「NTTドコモの教本はよくできている。こういうものは大いに利用してもらいたい」という。
さらに、夜中に出歩いている子、いわゆる「深夜徘徊」が多いことも問題視。「親に来てもらい、来るまではたとえ朝になっても帰さない。子どもを補導しているが、実は大人に注意している。ある中学は万引きしたら先生が謝りに来るが、先生は謝りに来る必要はない。家庭の問題」と、携帯電話利用に限らず、保護者の理解と協力が大切だとした。
「悪いことをすれば、携帯電話と車を持っていたら警察なら一発で持ち主を調べ犯人がわかる」という。携帯電話は便利だが、うまく使う必要があり、気を付けないと犯罪に使われてしまうことがあるのだ。
● 保護者からは、学校への持ち込み禁止徹底を求める声も
その後、保護者たちから次々と厳しい意見や質問が飛び出した。「授業中に携帯電話を持つのは禁止だが、止めさせられていないのでは。徹底すればいいのではないか」。
それに対して学校は「学校には持ち込まないよう徹底している。ただ、荷物検査をしていないのでわからないのが現状」とした。先週も、携帯電話を持っていたので取り上げたケースが1件あったという。「正直、持つなとは言えない世の中になっている。取り上げた場合は保護者に来校いただき、説明して返している」。
別の保護者は「持つなとは言えないという話だが、最低限、公共施設や公共の場では利用してはいけないことをきちんと指導しなければならないのでは」と訴えた。具体的な施策として「PTAや自治体が協力するので、学校の入り口で手荷物検査をして没収すればいい。学校が終わるまで職員室で保管するなどして、持ち込み禁止を徹底してほしい」とした。
これに対して池上警察署の松浦氏は「警察学校でも携帯電話を取り上げて保管している状態。『持ってきてもいいが、学校内では必要ないから先生に預けなさい』というのがいいかもしれない」とした。
学校側は「学校にそんなに持ってきてはいないだろう。学校の中で混乱する状況はない。もしそうなったら荷物検査などもする」とした。
● 携帯電話会社のサービスをうまく利用して
保護者からの「子どもが怪しいことをしていないかを見分ける方法は?」との質問に対しては、「フィルタリングサービスが効果的。一方、入らない場合でも、いつ、どこへ、どれだけアクセスしているかの履歴をお知らせするサービス(料金明細サービス)を請求書と送ってもらえるので、それで判断するとよい」(齋藤氏)。
PTA会長が「親は僕みたいに携帯電話についていけていないのではないか。どうしたら入っていけるかわからない」と言うと、NTTドコモの齋藤氏からは「ドコモショップなどでは電話の機能を教えてくれる教室があり、どういう機能があるか教えてもらえる。教わって危険だと思ったら禁止するとよいのではないか」とアドバイスがあった。
学校側からは「今後、勉強会を開いていくが、PTAに来なかったり地域活動に関わっていない方にもわかってもらうことが課題」という指摘があった。
● すでに100万人が受講したケータイ安全教室
NTTドコモは、なぜこのようなケータイ安全教室を始めたのだろうか。
ケータイ安全教室は2004年7月に始まった。迷惑メールが増えていたため、子どもの安全を守りたいと、CSR(Corporate Social Responsibility)の一環として開始したものだ。2008年7月に累計受講者数が100万人を突破し、累計回数は6000回を超えているという。2007年度は約40万人が受講したが、2008年度は上半期で約39万人の受講があり、前年同時期の倍の申し込みが来ている。近年、特に申し込みが増えているという。
「今日など、1日4校からの申し込みがありました。中学校からの申し込みが一番多く、次に小学校、少ないのが高校です。小学校高学年から携帯電話を使い始めている子どももいるし、ルールやマナーを身に付けてほしいので、小学校に対しても積極的にやっていきたいですね」(NTTドコモの高橋麻実氏)。
申し込みは、学校から直接申し込まれるケースもあるが、スクールサポーターや警察を通じて来たり、学校同士の口コミで呼ばれることもある。多くは今回と同様の形で行い、まれに警察が時間の半分を使って実際にあった事件などを語ることもあるという。
もともと学校では「安全教室」を年に1回以上行わなければならないことになっている。ネットに関するものとは限らないが、最近はネットの安全教室が開かれることが増えているという。
NTTドコモでは支店ごとに担当区が決まっており、齋藤氏と高橋氏が所属する渋谷支店は、大田区をはじめとした6区が担当。渋谷支店では、他に本業を持つ一般の社員がケータイ安全教室の講師を担当することになっている。なお、支店によっては専門の担当がいるところもあるという。
● フィルタリングをかけてほしい
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NTTドコモの齋藤則子氏(左)と高橋麻実氏(右)
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講師のおふたりに、ケータイ安全教室を行っての感想を聞いてみた。
「保護者と子どもの間に意識のズレがありますね。保護者は知らないけれど、子どもはよく使っており知識もあります。ただ、子どもは使ってはいるものの、危ないという認識はありません。『ケータイ安全教室を受けて初めていけないとわかった』という感想も多い」(齋藤氏)。
「昨年は参考にするために学校から感想をもらっていました。中には、文集をいただいたこともあります。全体的に先生方は関心が高いですね。ただ、生活指導主任ならわかっていますが、苦手な先生も多いため、勉強会は先生の間でよく開かれているそうです」(高橋氏)。
まとめとして、携帯電話利用に関するアドバイスをもらった。
「保護者には、フィルタリングサービスをかけていただきたいです。また、パケット定額制などでお金が安くて済んでいるからと言って安心するのではなく、子どもがどのくらいの時間どんなことに使っているのかを認識してほしい。お子さんにも、やはりフィルタリングサービスに入ってほしいと言いたいです。親御さんは安全・安心のために携帯電話を持たせているのです。また、携帯電話はコミュニケーション補助ツールなので、重要なことは会って伝えてほしい」(高橋氏)。
「携帯電話はいじめの温床になっています。文字だけの言葉は、思う以上に人を傷つけるものです。他人の人生を狂わせることもあるし、自分の人生もそれによって狂ったり、逮捕されたりすることもある。使う言葉には責任を持ち、携帯電話を利用することに責任を持ちましょう」(齋藤氏)。
● 今後のフィルタリングサービス
最後に、「青少年が安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律」(青少年ネット規制法)についての意見を聞いてみた。
「インターネット上の違法・有害情報への対策の重要性は十分認識しており、これまでも青少年保護を最重要と考え、フィルタリングサービスの普及・促進活動の強化やケータイ安全教室などの取り組みを積極的に実施してきました。これらの活動は、フィルタリングの認知率の向上や利用者数の増加などといった形で成果が上がってきています。法制化については、これまでのこのような取り組みを後押しするものだと考えます」(NTTドコモ広報部の伊藤太郎氏)。
2008年2月より、未成年の携帯電話新規利用者は原則フィルタリング加入化となった。さらに2009年1月からは、未成年の既存利用者にも適用されることになった。ダイレクトメールなどで該当者にお知らせし、不要な場合は別途書類を提出してもらうという。その意思表示がなければ、一定期間をおいてフィルタリングがかかることになる。基本はブラックリスト方式であり、アクセス制限は個別にできるようになり、懸案だったカスタマイズが可能になるという。
現在、NTTドコモの利用者である五千数百万人中約175万人(2008年9月末現在)がフィルタリングサービスを利用している状態だが、未成年の加入者は大幅に増えることになりそうだ。携帯電話という文化を保ちつつ、子どもが安全・安心に携帯電話を使えるようになる日が1日も早く来ることを期待する。
関連情報
■URL
NTTドコモ ケータイ安全教室
http://www.nttdocomo.co.jp/k-tai-anzen/
10代のネット利用を追う 連載バックナンバー一覧
http://internet.watch.impress.co.jp/cda/teens_backnumber/
2008/12/26 13:48
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高橋暁子(たかはし あきこ) 小学校教員、Web編集者を経てフリーライターに。mixi、SNSに詳しく、「660万人のためのミクシィ活用本」(三笠書房)などの著作が多数ある。PCとケータイを含めたWebサービス、ネットコミュニケーション、ネットと教育、ネットと経営・ビジネスなどの、“人”が関わるネット全般に興味を持っている。 |
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