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『マブ論』とPerfume

雑誌『BUBKA』に連載中の『宇多丸のマブ論』。Perfumeについて言及した著名人の中でも、最重要人物(のひとり)である宇多丸によるアイドルポップス評論です。
この連載(とBUBKA誌上の発言)でPerfumeについて触れられたものを時系列で追っていきましょう。

■2004 5月号 『モノクロームエフェクト』 4マブ 上段一部

活性化する周辺領域② プリエールそしてBEE-HIVE一派!
  (前略)
最近にわかに活性化しつつある「周辺領域」(先月号参照)において、なぜか「アクターズ・スクール的アプローチの復権」めいた動きが目立つように思います。そこには多分に「ハロプロ的なるもの」への反動があるのでしょうが……例えば、アミューズの『BEE-HIVE』プロジェクト。BOYSTYLE(03年6月号参照)などを含む総勢17名が寮で共同生活(!)しながらしのぎを削り合う、という……そんでもって寮内には固定カメラが設置され、24時間インターネットで生中継している(!!)、という……なんと言うか、アクターズとパフォーマンス・ドールと初期モーニングをミックスしたような、なかなかに意欲的な試みであります。昨年5月リリースのコンピレーション『BEE-HIVE』も、後追いチェックで申し訳ないのですが、意外なほどに充実した内容でしたし。 
 そのなかでも目下、最もプッシュされているようなのが元COLORを母体とする6人組、Buzyです。満を持してのメジャー・デビューとなる今回の『鯨』は、作・編曲にポルノグラフィティのプロデューサーとして知られる本間昭光、作詞に同じくポルノのギタリスト新藤晴一という布陣……なるほど、意味ありげなメタファーを駆使した歌詞(カップリングは同トラック上に"俯瞰視点"の別リリックを乗せたものだったりして)とか、「広義の"ディスコ"なのにどこかアニソン的な大仰さが前に出てくる感じとか、確かに「ポルノ的」な楽曲かも。しかし何と言ってもここで印象に残るのは、ソロとしてシングルを2枚残している當山奈央(特にNAO名義の『あんなにあのコの事を想ってる奴はいなかった』はちょっとした佳曲でした)のパワフルなヴォーカルでしょう。まさしく「アクターズ・スクール的アプローチの復権」を象徴するがごとき一曲。勢いを感じます。
 一方それとは実に対照的、BEE-HIVEのなかでもかなり異彩を放っているのがパフュームです。広島限定アイドル時代のシングル2枚(パッパラー河合氏Prod.だそうです)は未聴で申し訳!ですが……続く『スウィートドーナッツ』と今回の『モノクロームエフェクト』では、そのあまりにも屈託のないピチカート・フォロワーぶりで知られる中田ヤスタカ氏(カプセル)をプロデューサーに起用、サウンドおよびリリックに80'sテクノ・ポップ路線を徹底したことで、希少価値と呼ぶのがふさわしい独自の存在感を確立しています。このまま突き進め!

連載で一番最初に触れたのは時期的には『モノクロームエフェクト』の頃から。略したところではアーティマージュ社長・浅川真次率いるGTS(Folder 5『SUPERGIRL (Groove That Soul Mix)』は珠玉!)が曲提供していたPriere(プリエール)について触れています。Buzyもプリエールもアルバム一枚で活動停止。

■2004 11月号 『ビタミンドロップ』 4マブ 下段半分

周辺領域より -それぞれのサバイバル パフューム&オスカー組
 作品に、クオリティのみならずある程度の一貫性を保ちつつ、出来るだけコンスタントにリリースを続けること。王者ハロプロでさえ目に見えて低迷期に入った昨今、それ以外の「周辺領域」であればなおさら、そのような理想を実現してゆくのには相当な体力を要するだろうし、実際かなりキツいだろうとは思います。しかし同時に、その堅実なやり方以外、再び訪れた「冬の時代」を弱者が生き残る方法は無かろう、とも。皆さん、ここが踏ん張りどころですよ!
 身の丈に合わせた小規模展開であれ、作品的に焦点が定まったものを出し続けている、という意味では、実際このパフュームの右に出るグループは目下いないのではないでしょうか。5月号で取り上げた『モノクロームエフェクト』も良かったけど、今回の『ビタミンドロップ』とカップリング『引力』はさらにブラッシュ・アップされた80'sテクノポップ・オマージュ! メロディのひねり方から歌詞のケレン味、ミニマムな曲展開、そして特に音色のチョイスに、プロデューサー中田ヤスタカ氏の確信が漲っているようで実に頼もしい限り……不躾な表現をさせてもらえば、彼の本業であるカプセルと違ってピチカート・フォロワー臭が希薄なぶん、ここでのキレ味鋭い仕事ぶりには、素直に賛辞が送りやすいです。ぜひこの体制でフル・アルバム! インディ流通ということもあって多少店頭でみつけづらい状況もあるようですが、だからこそ読者の皆さんには、今のうちに入手されておくことをお薦めします。
 (後略)

一緒にとりあげられていたのは、森田クラブ『モンスーン・アジアの葦の舟』 カップリングの『トキメキ無常』は名曲なので是非。 

■2005 12月号 『リニアモーターガール』 4.6マブ 『AKIHABALOVE』 3マブ 下段

アイドルポップ最後の希望 Perfumeメジャーデビュー!
 今やもう、パフュームだけがこのジャンル最後の希望だよッ! --大袈裟でなく、そう思っているのは私だけではないはずです。
 ハロプロ帝国の本格的な凋落に伴い、アイドル(的な)音楽シーンはズブズブと急激な地盤沈下を始め、その傾向はしばらく止まりそうもありません。具体的に言えは、当連載が積極的に評価してきたような“周辺領域”メンツ--例えばBON-BON BLANCOであり、プリエールであり、ちょっと立ち位置は違うけど片瀬那奈であり--までもが、その高い音楽的な志を保ったままでは活動を続けてはゆけないほどに、業界的な体力は消耗しきっていると(余談だけど、ボンブラから仮に今後はアンナ嬢がソロ化してゆくとして、このタイミングならきっと倖田來未をモデルにするんじゃないかと密かに予想)。
 そんな世知辛いご時世のなかで唯一、アイドルとしてのジャンル的佇まい、その矜恃はしっかりと保ちつつ(特にライブ!あれ観たらそりゃファンになっちゃうよ)、同時に恐ろしく高いレベルで作品的焦点もキープしているという、ほとんど奇跡的な存在がパフュームなわけです。その背景にはもちろん、『スウィートドーナッツ』以降全ての楽曲を手掛ける中田ヤスタカ氏の、テクノ歌謡感に特化したプロデュースワークの妙があります(彼の本業カプセルの方も、近作では機能的クラブ・ミュージックに傾倒を深めたぶん、以前のあんまりと言えばあんまりなピチカート・エピゴーネン色がかなり払拭されてますね。良いことです)。あと、これまで言及し忘れてたけど、「木の子」氏による実は相当メンヘル(notメルヘン)ちっくな歌詞世界もオリジナル過ぎ!
 だからこそ、期間どころか販売場所も(秋葉原ヤマギワソフト)限定された企画ユニットだとは言っても(そしてそう割り切って臨めばそれなりの内容ではあると言っても)、桃井はることのコラボでイージーに「アキバ」的なそれにターゲットを絞り込みまくった「ぱふゅーむ×DJ momo-i」には、メジャーデビューを目前に控えてスタッフが何らかの血迷った勘違いをしているのではないかと、心あるファンが深刻な危惧を抱いたのも無理からぬ話だったと思います。
 しかし、メジャー第一弾シングル『リニアモーターガール』はその杞憂を吹き飛ばす……どころか逆に心配になってしまうほど過去最強にミニマム方向へ振り切ったハードコア・テクノポップでした! 実際、表題曲はアイドルソングとしてはいくら何でも「表情」が見えなさ過ぎではないかと……ライブではすでに定番のカップリング『コンピューター ドライビング』を素直にリードにした方が良かったんじゃないかという気もしますが。
 しかし何よりハッキリしてるのは、現在これほど「アイドルに興味のない、むしろ偏見すら抱いている“外部”の人々」に自信を持って薦められる作品は、やはり他にないだろうということです。頼むからこの調子で頑張ってくれ!

 Perfumeに対して『最後の希望』という言葉が使われ始めた。

■2006 2月号 『リニアモーターガール』 マブ表記無し 下段

2005年総括 -アイドル史上の重大な転換点!
 この2005年は、後から振り返ったときに、日本のアイドル史上の重要なターニングポイントとして語られる、実に象徴的な年となるような気がしてなりません……おニャン子クラブのデビュー、小泉今日子『なんてったってアイドル』(要は秋元康という時代の代弁者の仕事)によって、疑似恋愛の対象としてのアイドルという幻想がおおっぴらに相対化・解体されてしまった1985年、あるいは、その幻想を体現しなくてはならない「生身」の限界を示すかのように岡田有希子が自らの命を絶ち、プレジデントBPMこと近田春夫が「アイドルだって人間だ!」とラップして「ぶっちゃける」時代の到来を告げた86年のように。
 その80年代後半以降、歌の中で疑似恋愛を成立させてきた旧来的なアイドルの在り方は次第に好事家限定のマイナーなシーンとなり(残りは『疑似アーティスト化』することで命脈を保ち)、広義の「アイドル」は完全に二次元化、もしくはより明白に性的なフィールド(水着であったりAVであったり)で活性化してゆきました。そして実は今も、その時代はずーっと続いたままなのです。
 90年代末のモーニングの成功も、少なくとも当初は、すでに「疑似恋愛の対象としてのアイドルという幻想」が世間的には崩壊しきっているのを前提に、テレビ番組を通じてそれを「人間ドラマを見せる」エンターテインメントにシフトさせてしまった、つまり一種の「疑似アイドル」だったからこそ可能になった離れ業だったはずなので(そして、後にその「ASAYAN」の欠落を埋めるために発展したのがいわゆる『モーヲタ』シーンだったと)……しかし、今年4月の「矢口真里熱愛報道~即日グループ脱退」事件とその後の成り行きは、一般的な認識として当然のように共有されているべきその大前提が、いつの間にか現行の送り手と受け手の「閉じた」関係の中で最早まるで意識されないものになってしまっていたという事実をはからずも露呈する結果となりました(私にとってこれは大変残念な展開でした)。すなわち、ここに来て「旧来的なアイドルの在り方」をこの時代に広く成立させることの無理、はっきり言えば「終わってる」ことが改めて証明されてしまったのです。
 それと入れ替わるかのように女性アイドルによるフットサルが盛り上がり始めたのは、だから偶然ではありません。そこでは疑似恋愛が必須条件ではない上に、「人間ドラマを見せる」舞台も常に用意されている! まだまだ予断を許さない不安定なシーンではありますが、「アイドルの在り方」に新しい可能性が開けたという意味では、「冬の時代」20年間を経て最大の朗報と言えるのでは?
 一方、我が愛するアイドル「ソング」の世界は、「幸福な箱庭」としての完成度を追求してゆくか、作品の「強度」を突出したレベルまで高めてゆくか、いずれにせよ淡々と生き残るための努力を(商業的な逆境に耐えながら)続けてゆくほかないでしょう……その両面を併せ持つという点でやはり、当連載が希望を託す本年度の一枚は、パフューム『リニアモーターガール』(05年12月号)ということにさせていただきたいと思います!



■2006 3月号 『コンピューターシティ』 4.8マブ(満点はアルバムの時まで取っておきます!) 下段

最新型「テクノポップ」の面目躍如! perfumeニューシングル
 再度先月号の「2005年総括」を踏まえさせていただくと……「アイドルがうたう歌」というジャンル全体が、再び好事家限定のマイナーなシーン -いわゆる「冬の時代」- に退却せざるを得なくなるであろう今後、送り手たちは、「箱庭」内の幸福感をひたすら完成させてゆくか、あるいは作品の「強度」を外部に届くレベルまで高めてゆくかして、細々と生き残りを図るほかないだろう、というのがそこでの結論でした。そして、その両面に高い可能性を併せ持つという意味で、パフュームこそ、この時節を代表する言わば「アイドルポップ最後の希望」に相応しい、と。
 ただ、メジャー第一弾シングルとなった前作『リニアモータガール(引用者註:原文のまま表記)』(05年12月号)には、私自身最高点に近い評価を下しながら、若干の危惧が生じてもいました。本文でも軽く触れていますが、音楽的に「強度」方向への偏りが若干目立ち始めたような……特に、激しくエフェクトがかけられたヴォーカルから、生身の「表情」が(テクノポップという形態上ある程度は当然なんだろうけど、それにしても)極度に読み取りづらくなってきている、つまり、端的に言ってプロデューサー中田ヤスタカ氏が本来所属(所有?)するカプセルの音楽像にどんどん近くなってきている点は、「アイドルがうたう」というジャンルとしての存在意義を危うくするという意味で、実は小さくない危険性を孕んでいるようにも見えました。
 そう考えるならばこの『コンピューターシティ』、一聴して明らかに全体の「カプセル化」はさらに進行しています。今回特にサウンド・プロダクションが、「テクノ歌謡」というレトロかつオフビートなニュアンスはもはや明らかに適切でないほど、普通にダフト・パンク的な本格クラブ・ミュージックに近づいており……加えて大きいのは、パフュームの楽曲らしさの少なからぬ部分を担ってきた「木の子」氏による「メンヘルちっくな歌詞」に代わって、中田氏本人が作詞を手掛けていること。要は完全にカプセル体制! しかし、この中田氏による歌詞が、プロデューサーならではの論理性か、なかなか見事に全てを反転させ、説明してくれるのです……「完璧な計算(=強度)で造られた楽園(=箱庭)で/ひとつだけ/うそじゃない/愛してる」、すなわち、舞台や演技は機械的なら機械的なほど、その奥の「うそじゃない」ものが伝わるという構造! テクノポップという形式で「アイドルがうたう」ことの意義を、いや、ことによるとアイドルポップというもの自体の本質的魅力すらも、これ以上ないほど分かりやすいかたちで一気に納得させてしまう、これは本当に良く出来たラインだと思います。
 ちなみに、これまでのパフュームのイメージからするとパッと聞き違和感ありまくりの「てゆうかありえない」なんて「今風な」言い回し(実際本人たちもしなさそうだ)も、良く歌詞を把握すると、実はコンピューターが自分を「絶対故障だ」って疑ってるセリフなんだよね。
 これぞ21世紀からの『21世紀まで愛して』(上レビュー参照※)への回答!

※引用者註:上段のレビューにて時東ぁみ『①さなぎのバスローブ』を取り上げ水谷麻里などのカヴァー選曲について箱庭的だと指摘しての文だと思われる。水谷麻里の曲に「21世紀まで愛して」があり。

■2006 9月号 『エレクトロ・ワールド』 4.9マブ 欄外

パフュームの、メジャー以降のシングルとしてはひょっとしたら最高傑作『エレクトロ・ワールド』には喜んで4.9マブ差し上げますが、8月頭にはそれを含むベスト的なアルバムが出るそうなので(微妙な気持ちになる話だが)詳しくはそちらに持ち越し。



■2006 10月号 『Perfume ~Complete Best~』 5マブ(もちろん全曲最高!間違いなく歴史に残る一枚。) 上段

「アイドル最後の希望」の灯を消すな!--Perfumeベストアルバム
 過去6年間続けてきたこのこの連載で、最高平均点を保持しているのが現時点ではパフュームであろうというのは、改めて厳密に計算してみなくても何となく想像がつく(恐らくすでに片瀬那奈を超える4.4マブ以上、今回でさらに上昇するだろう)。と同時に、この記録を破るような存在は、少なくとも今後しばらくは出て来ないだろうな、という悲しい予測も。
 そもそも、同一プロデューサーによる、ここまで一貫した(それもかなり特異な)コンセプトとクオリティの楽曲が、(ほぼ)デビュー以来3年間にわたってコンスタントに制作&リリースされ続けてきた(しかも決して商業的に成功を収めたとは言い難いなかで)……なんていうこと自体が、実はこの国のアイドル音楽の歴史上、類を見ない奇跡的な出来事なんじゃないか? だとしたら我々はまず、それに立ち合えた幸運にこそ心底感謝しなければならないのかも知れません。
 クレジットによれば中田ヤスタカ氏、単に作・編曲だけでなく、レコーディングからミックス、マスタリング(!)までを私設スタジオで自ら司っている模様……かつてこのジャンルにおいて誰も成し得なかったほどの完璧な品質管理を独力で成立させてきた彼の功績は、公平に見て最大級の賛辞に値するものでしょう(自身のユニットであるカプセルでの成長、進化が、如実にこちらのプロデュースワークにフィードバックされてゆく過程もまた興味深いものでした)。
 今回、待ちに待ったアルバムはしかし、メジャー移籍後のカップリング含む全曲、さらにインディー時代のリード曲三つと『引力』(『ピタミンドロップ』のカップリング)、そして新録一曲が収められたベスト盤であり、確かにこれは、不満、以前にむしろ、不安 --同じくBEE-HIVE出身であるBuzyの集大成アルバム(4月号)同様の「これでお終い的な予感」-- をひどく誘う形態ではあります。どうせなら『スウィートドーナッツ』以降の全曲(あ、『ぱふゅーむ×DJ momo-i』は焦点がボケるので当然除外で!)収録、ということて良かったろうにとも思いますが……ただ、こうして既発シングルを並べただけで十分コンセプト・アルバムの体を成してしまっているのも事実で、それってやっぱり只事じゃあないよな。
 特に、その新緑曲『パーフェクトスターパーフェクトスタイル』~『リニアモーターガール』(05年12月号)~『コンピューターシティ』(2月号)~『エレクトロ・ワールド』(イントロが付いたアルバムバージョン)と、ここ最近のシングルがつるべ打ちされる前半部は、中田氏描くところのテクノ=SF的な、それでいてパフューム=「アイドルポップ最後の希望」をメタ的に語っているとも取れる(からこそ、それがどこか非常にペシミスティックなムードで通底しているのがまた恐ろしい)詞世界の構築性と、最終的に『エレクトロ~』で一気にエモーショナルにタカまる音楽的な流れの良さがあいまって、圧巻……恐らく旧来的なアイドルファンには、木の子氏(の"メンヘル"な)作詞時代の楽曲の方が相変わらず愛されやすいのだろうとは思うのですが、メジャーテビュー以降の途轍もなく硬質な中田ワールドも、これはこれでとんでもないネクストレベルに到達してしまっているよなぁと再認識。
 ともあれ、この素晴らしい奇跡が、少しでも長く続くことに当連載がわずかであれ貢献出来るのなら、これに勝る喜びはありません。だから結論はひとつ!
 どうかぜひ、買ってみてください。

<欄外>

読者に緊急提言
ハッキリ言ってここ一年のハロプロ全商品足したより価値ある一枚だよ! これ買わないでナニ買うの!

ベストと名付けられたアルバム一枚で終わるアイドルが多いことを踏まえての危機感が感じられます。

■2007 2月号『Perfume ~Complete Best~』 一位

初企画!『マブ論』的2006年度ベストテン!
  (前略)  
 ●中田ヤスタカ旋風&例の超反則技!
 1位(06年10月号)。もはや説明不要、2006年を代表する、いや、日本アイドルポップ史上に燦然と輝く、名盤中の名盤! アルバム・トータルで鉄壁のプロデュース力を見せつけた中田ヤスタカこそ、昨年度のMVPと呼ばれるに相応しい。初期カプセルのピチカート・フォロワーな悪印象を引きずっている人は今すぐ認識を改めるべき!実は他のプロデュース・ワークにも『マブ論』的傑作多数。また、もし仮に「作詞部門」を設けるとしたら、私はやはり、彼のペンによる『コンピューターシティ』(06年3月号)を1位に挙げるでしょう。
 2位(07年1月号)。中田ヤスタカが、単に「強度」方向だけでなく、「アイドル」楽曲プロデューサーとしても完全にホンモノであることを証明してみせた真新しいクラシック! 曲単位では間違いなくダントツのベスト。個人的にはほとんどオールタイム・フェイバリット入りする勢い。
  (後略)

2位は嘉陽愛子『cosmic cosmetics』 メール!ファンデ!コンシーラー!

■2007 4月号 『Fan Service[sweet]』 4.9マブ(別に満点でもいいんだけど……もう、麻痺してきた!) 下段

もはや当たり前のような超高水準! Perfume『Fan Service』
 昨年10月号での『Perfume ~Complete Best~』評が(これ以上ないほどの賛辞を連ねているにもかかわらず)、どこか先行きに関して悲観的な予測に捕われ過ぎているようにも今となっては見えるほど、このところのパフュームには、明らかに「いい風」が吹き始めています。
 何より、あれほどの「全部出し」アルバムは、大抵のアイドルにとって「これでお終い」の合図であるにもかかわらず、こうしてちゃんとリリースが継続しているということ自体、パフュームが、昨今のこの業界では異例の生き残りにひとまず成功した、という事実の証明にほかならないでしょう。なんでも『Complete Best』の初回生産分は見事にすべてハケたようで、微妙に内容を足し引きした再発売版が追加生産された模様……間違いなくこれは、当初の関係者予想を大幅に上回る展開のはず。無駄に金のかかった宣伝でもなく、また、ファン限定な目先の小銭稼ぎでもなく、ただ、ひたすら圧倒的な作品の力だけが、そして、そこから静かに、しかし着実に拡がっていったリスナーの支持こそがここの類い稀なる「いい風」を生み出した源なのだということを、すべてのアイドル産業従事者は肝に命じるべきだと思います。
 今回は、ネットで先行配信されていた『Twinkle Snow Powdery Snow』と、バレンタインデー発売に焦点を絞った新曲『チョコレイト・ディスコ』を収録したマキシ・シングルに、ビデオ・クリップDVDと撮り下ろしプチ写真集が付いた可愛らしいボックス仕様で、またまた初回限定生産……なるほど、ちょっとアイロニカルなニュアンスも感じられるタイトル(ひょっとすると中田ヤスタカ氏のテクノポップ史的な目配せ--言うまでもなくYMO『サーヴィス』と『アフター・サーヴィス』--でもあるのかも知れません)通りの、ちょっとイレギュラーな商品形態ではあります。この『ファン・サーヴィス』モードはさらに、ライブDVDである[bitter]へと続いていくとのこと……非アイドル・ファン的な、一般リスナー層にも評判が広まりつつあるこのタイミングであれば、もう少し「外部」を意識した手を打ってもいいのではないか、という気もしないではないのですが。
 いやしかし、この、いつもながらの超絶的にすんばらしい楽曲が、こうして引き続き届けられているというだけでもう、文句など言ってたら罰が当たるというものでしょう!
 『チョコレイト・ディスコ』は、メジャー進出以降のいわゆる「SF三部作」から『パーフェクトスター・パーフェクトスタイル』『Twinkle Snow Powdery Snow』へと連なる硬質テクノ路線からやや趣を変え、どちらかと言うとインディーズ時代の「アイドルらしい」キュートさに回帰したような雰囲気も。この曲に限らず、中田氏のプロデュース・ワークも、このところ良い意味で段々と肩の力が抜けてきたというか、例えばボーカルの表情など随分とナチュラルになってきていて、少なくともパフュームに関して言えば、それは確実にいい傾向かと。あと、作詞家としてもこの人、やっぱすげぇ才能ある!

<上段欄外>

『笑顔YESヌード』は、歌詞も良く出来てる。特に冴えてるのは「ヒカリ」「ブラックベリー」「出たり」「ミステリー」「ばかり」「フェブラリー」「みたり」「ベーカリー」と畳みかけるあたり。サビでの言葉の乗せ方も面白い。一方、中田作詞もなにげにライミングは巧み。特に『Twinkle Snow Powdery Snow』に感心!



■2007 11月号 『ポリリズム』 5マブ(もはや何の文句があろうか? 正直泣きました。) 下段

正義は勝つ! Perfume『ポリリズム』祝大ヒット!
 アイドルソングの歴史上、滅多に見れない、どころか、恐らくは空前絶後の「奇跡」が、起こってしまいました --パフュームのニューシングル『ポリリズム』が、9月11日付のオリコン・デイリーランキングで、初登場4位!これは、上枠で取り上げている音楽ガッタスはもちろん、平井堅の(それはそれで素晴らしい)『fake star』よりも上位なのです。さらに9月24日付のウィークリーでも、7位を記録。自己最高位の大幅な更新であることは言うまでもありません。
 思い出していただきたい。ほんの一年前、あの「総決算」的アルバム(06年10月号)をリリースした時点では、優れた作品を残しながらもセールスに恵まれなかった他の多くのアイドルがそうであったように、彼女たちもまた、これを機に活動休止や解散に追い込まれてしまうのではないかと、真剣に危惧されてしたのです。いやそれ以前に、ほとんどの同業者が、アルバムはおろかそもそもロクな楽曲を与えてもらえない現実からすれば、その時点でもう彼女たちは十分「奇跡」的なレベルの音楽的恩恵は受けてしたわけですが……。
 4月号の『ファン・サーヴィス』評での主張をもう一度繰り返しましょう。「無駄に金のかかった宣伝でもなく、また、ファン限定な目先の小銭稼きでもなく、ただ、ひたすら圧倒的な作品の力だけが、そして、そこから静かに、しかし着実に拡がっていったリスナーの支持こそが、この類い稀なる『いい風』を生み出した源なのだということを、すべてのアイドル産業従事者は肝に命じるべきだ」。木村カエラのファン宣言や公共広告機構CMへの大抜擢といった超強力な追い風は、すべて、この真実から発した「結果」なのだ、と私は思います。つまり、ひとことで言えば、正義が勝った!
 そして、そんなことは実際には滅多にないからこそ(当連載の読者であれば、この業界では特にそうだということを、身に染みて理解していることでしょう)、この「奇跡」は、途轍もなく尊いのです。
 ということで、まずはこの、商業的に明白な成果自体が、先月書したような、早くも現れたフォロワー(引用者註:Aira Mitsuki)に対する「本家」ならではの圧倒的な回答として、すでに「最もキレイな決着」たり得ている、とは言えると思います。マジな話、仮にアイラミツキの方が先に世に認知されちゃったりなんかしてたら、さすがの私も暴れてましたよ! どこかで!
 今回、改めて思ったのは、中田ヤスタカ楽曲の魅力として、意外に「歌詞」が占める部分は大きいのかも知れない、ということでした。言葉数を余り費やさすに、印象に残るキーワードを上品に使って、スケールを大きく(言わばSF~テクノ的に)感じさせるのが上手いというか。 また『ポリリズム』は実はラフミックス段階から聴かせてもらっていて、その時点でもう全然普通に合格レベルだったと思うのてすが、完成品はそこからさらに「厳しく攻めた」作り込みがなされていて(ブレイクの“ポリリズム”展開が追加されたほか、全体の曲構成なども大幅に改変)、作り手としての誠実な姿勢を強く感じました。カップリング『SEVENTH HEAVEN』も輪をかけて最高。完壁!

<欄外>

Perfume&中田ヤスタカ氏に緊急祝辞!一番偉いのは貴方たちだ。おめでとうございます!



■2007 11月号 BUBKA『アイドルを救え!』ゲスト:吉田豪

Perfume 成功の理由
宇多丸 いまは昔ながらのアイドルの形が成り立ちづらくなってきてるけど、たとえば沢尻なり、しょこたんなりみたいに、そのまんまの資質を活かして、本人的には無理なくブレイクして、なおかつみんなもそこを支持してるみたいなアイドルの形が普通に成立しつつあるんだよね。面白い資質を活かしてくような発想をもっと意識的に業界がやっていけばいいんだけど。
吉田豪 地道ながらそこを伝えていかなきゃって思いでボクは仕事してるんですけどね。
堀越日出夫 今回、吉田さんがゲストっていう二つ目の意味は、たとえば『元アイドル!』とかでいろんな人に会ってきたり、『BLT』での連載もそうですけど、とっくにアイドルを救ってきてるって部分なんですよ。
 元アイドルの人たちは過去にアイドルだった人たちがどんな酷い目に遭ったかって本だから、現役のアイドルの人たちに読んで欲しいってよく言ってるんですよ。しょこたんも「いつか私を出して下さい!」って言ってくれてるし(笑)。『BLT』は現在進行形の人たちに、アイドルとして活動していく上でのアドバイスをしたり、本人の趣味とか人間性を引き出してそのまま記事にしたりするのがテーマなんですよ。
 吉田さんがしょこたんにアドバイスを送ったのも、かなり早い時期でしたよね。
 あと規模は全然違うけど、Perfumeだって、もちろん曲が抜群なのは大前提だけど、事務所の抑圧とかが一切ないからこその天然暴走発言とかが活きてて、そのキャラがちゃんとアイドルとして支持されてるわけだから。そう考えると、アップフロントとががいまだに古臭い慣習に捕われてるのは本当にバカバカしいとしか言いようがないっていう。
 結局、事務所がコントロールしなかった人だけがいま売れてるわけですからね。
 これでPerfumeがモーニング娘。を逆転しちゃったら……。
 実は去年出したベスト盤が1年で5万枚に到達したらしいんで。ということは、モーニング娘。のヘタなシングルよりも全然売れてますよ。
 ああ、長いスパンで見れば作品によっては逆転しちゃってる。
 最近のPerfumeの届き方って凄いですよね。漫画家の羽生生純先生とか、いろんな人に「最近Perfumeに興味あって」とか言われて。そのたびにボクらが地道に推してきたっていう話をして。それが木村カエラの一言で、って……(笑)。
 最近僕らはやや自嘲気味になってるっていう(笑)。もちろん土壌を作ってきたっていうのは絶対あると思いますよ。木村カエラまでバトンをつなぐ役は絶対してたと思うから。そうじゃなきゃ、当然あのベスト盤は活動休止の合図だったわけですから。
 いや、立派な救済活動ですよ。
 で、結構意外だったのが、世の中にまだまだそのまんま「アイドル」を受け入れる土壌があったんだな、ということ。作品の精度を上げ、本人の資質もちゃんと活かして、っていうごく真っ当なことを続けていけば、やっぱりアイドル的なものだってまだ全然届くんじゃん!ということが証明されて、ものすごく力づけられましたね。だから、しょこたんとかPerfumeとか、あとエリカ様のキャラのままの大ブレイク(引用者註:あの映画前の対談)とかは、全部いままで「こうなればいいな」と思ってたことが実現しつつあるみたいな感じで。最近は凄くいい風吹いてますね。逆にそれ以外の旧態依然としたアイドル業界は、もう勝手にやって勝手に滅びろっていう。
 俺、滅びろとまでは思いませんけど(笑)。
 でもさ、全然古い考え方を改めないんだから。あれだけ『マブ論』とかでも警告し続けてきたのに。
 スフィアリーグに対して何回言っても大人たちが変わらなかったことがこの連載のモチベーションになってるから、その気持ちもわからんではないんですけど……。
編集部 --大人が会謹室で決めてプロデュースすることって、だいたいダメだと思うんですよね。
 女性アイドル歌手をマネージメントするメソッドを、なまじ持ってる事務所が逆にダメになってるんだと思いますよ。アミューズとかはそういうメソッドがないから、Perfumeが面白くなったという側面は確実にあると思う。
 偶然の産物だったんですよね、Perfumeって。
 下手に上からいじられなかったのが良かったというね。
 自由な時代にはなってきてるんですよ。『BLT』とかでアイドルを取材してると、ヤバそうな話を引き出してもほとんど記事に出来るんだなってことがわかったし。面倒くさいのは一部の大手だけで。
 その意味ではスターダストもよく沢尻をこんな野放しにしてますね。
 沢尻もPerfumeと同じで強くプッシュされてたわけじゃないんですよね。
 そうだよね。もともと売れてた人じゃないからこそという、ある意味SMAP型というか。
 ってことは、大人はなんもしなきゃいいんだ(笑)。
 なんもしない中から、どれか当たるだろうっていう方式にするしかない。



■2008 1月号 tomboy『superstar』レビュー内言及

 アイドル・ソングの送り手(に限った話ではないんだけれども、本当は)が、パフュームの成功からぜひとも学ぶべきは、表面的な意匠、例えばコンセプトとしての「テクノポップ」がどうこう、といった部分では全くなく(現行のフォロワーは逆に、そこの打ち出しから始めようとしているがために、余計に反感を買ってしまいがちなのではないかと)、何よりまず、「このジャンルの受け手は求めている音楽像は、この程度」といった決めつけや思いこみからの解放という、大きな意味での「姿勢」、この点に尽きると思います。
 これまで、例えばハードな四つ打ちビートの「本格的なクラブ・ミュージック」は、仮にその筋の優秀なクリエイターをきちんと招いているような場合でも、J-POP、ましてアイドル・ソングという括りのなかでは、せいぜい「カップリングのリミックス・バージョン」扱いどまり、すなわち、あくまで「ハク付け」のための試みでしかないパターンが、大半だったと言っていいでしょう。
 また、実際のところそれらの「先鋭的」バージョンには、「ポップ」ミュージックとしてメロディや歌声を活かす方向にはあまり配慮の働いていない、つまり、同じくジャンル的なステレオタイプに補われていることには変わりない「姿勢」のものも、事実少なくなかったり。
 しかし、今時のリスナーの耳には、そうした業界慣習的な感覚より、実は遙かに肥えていたし、貪欲だったと。もっともっと「普通にカッコ良くて、踊れたりする」ポップ・ミュージックを、気の利いた若い連中ならみんな、いいかげん聴きたがっている時期なんじゃないか。少なくともパフュームに吹いた「風」の一端は、そういう層が担っていることは間違いないあたりでしょう。
 だからこそ送り手の皆さんにも、今度はカップリングではなく、堂々とリード曲で、どんどんサウンド的な勝負をかけていっていただきたいと。人材はいくらでもいるっしょ!
 例えばこの、ソニン(03年7月号ぶり!)+大沢あかね=「tomboy」のデビュー・シングル『superstar』。一時期日本でもリリースが続いていた韓国の女性グループ、ジュエリーのカバー、だそうですが、布を振り回すアクションからして、今このタイミングで意識されているのはむしろ、「女版DJ OZMA的」なものでしょう。激しい振り付け含め、狙いとしては確かに、そう悪くない。
 しかし、カップリングに入っているラム・ライダーによるリミックスを聴いてしまうと、元バージョンのいなたさは(半ば意図的にせよ)やはりどうしても、古臭く感じられて仕方なくなってしまうのです。何が素晴らしいってこのラムちゃんミックス、いかにもフロア映えするド派手なピアノ・ハウスへとすっかり変貌させられていながら、元の歌メロとの整合性もバッチリゆえ、これがオリジナル・アレンジと言っても問題なく通用してしまう完成度! だったらいっそ最初からこっちをリードにすればいいじゃん……と思ってしまうのが、私だけではない時代がもう本当にそこまで来てる、はずです!



■2008 3月号『Baby cruising Love/マカロニ』 4.9マブ(毎度のことだけど、別に満点でもいいんです、ホントは) 下段


このまま、ずっと続いてほしい -- Perfume快進撃
 昨年後半から続くパフューム大ブレイクの波は、まだまだ収まりそうもない、どころか、いよいよその勢いを増すばかりの様子。前作「ポリリズム」(07年11月号)のオリコン・デイリーランキング初登場4位でも十分すぎる「奇跡」だったのに……今回のシングルは、1月15日付のデイリーで、初登場3位! ウィークリーでも自己最高位記録の更新は、どうやら間違いなさそうです(引用者註:ウィークリー三位)。もーう、これ以上どれだけオジさんを泣かそうと言うのか?
 売り上げの数字以上に、実感として「ああ、彼女たちは本当に世間に受け入れたれたんだ……!」と改めて感じるのは、私の場合なんと言っても、思わぬ同業者--当然のように、通常はアイドル・ソングなど絶対に聴かないであろう「良き音楽愛好家」たち--の口から、「最近、パフューム(もしくは中田ヤスタカ)好きなんだよねぇ」みたいな言葉を聞く機会が、それも最近一度や二度じゃない、というあたりでしょう。こんなのは、あのモーニング娘。全盛期でさえ、ついぞ無かった事態。誇らしいやら、なんだかちょっと腹立たしいやらで、複雑な気分ではある。
 とは言え、こういう状況にあっても、肝心のパフューム側に、姿勢のブレのようなものはいっさい見られないのだから、我々ファンも、少なくともしばらくはまだ、当然安心していて良いのじゃないかとも思います。だって例えば、普通のJ-POP的サイクル、それに基づく売り手の論理だったら、「ポリリズム」からもっと間髪入れずに、それこそ昨年中には、無理矢理にでも次のシングル出させられてるはずだよ! それが実際は、約四ヶ月間もシレッと(じゃ本当はないかも知れないけど)空いたというのは……ほかでもない、作品自体のクオリティこそが、珍しくもここでは相変わらず最優先されているということの、何よりの証明ではないかと。結果としてこの期間は、評判がさらに拡がってゆくうえで必要なものだった、という気もするし。
 ということで、満を持してリリースされたダブルA面。両者ともに共通しているのは、もはやパッと聴いてそれとわかる中田メロディ&サウンドを当然のように踏襲しながらも、これまでになく人肌の暖かみを感じさせるというか、あえてこの表現を使うなら、意外なほどストレートに「アイドル的な可愛さ」が前面に出た、いわゆる「イイ曲」として仕上げられているという点。この、「ポップ」としての真っ向勝負姿勢は、特にこのタイミングで、非常に正しいものだと思う。
 前作の名カップリング「SEAVENTH HEAVEN」のエモさをやや抑えめにしたような「Baby cruising Love」も文句なしに愛らしいのですが、今回注目はやはり「マカロニ」でしょう。先にリリースされたコルテモニカやカプセルのニューアルバムでも印象的だった傾向として、いつものアッパーな四つ打ちやテクノポップではない、落ち着いたミディアム・ナンバーという新しい引き出しがまた増えたような……確かに、中田Pの美メロ・メイカーぶり、そして、以前から私が評価している鋭い作詞センス(毎回なんだが予言的なのもコワい!)も、こうした曲調だとより際立つかも。

<欄外>

緊急提言!
今月は両者ともに、私の提言など必要ないって感じがします!

一緒に取り上げられていたのは月島きらり『きらりん☆ランド』 コラム中では”目下パフュームが、「高い音楽性」と「苦節ウン年を経て奇跡的ブレイクへと至る物語性」、さらには「天然な魅力に満ちた本人たちのキャラクター性という、「虚と実」で言えば間違いなく「実」に当たる部分寄りでこそ「現代的アイドル」として広く評価されているのと、まことに好対照を成す構図と言えるでしょう。今となっては、どこまで行っても「虚」しかない(かのように見える)月島きらりの方がラディカルな役割を担っているという、この逆転現象がまた、面白いではないですか。”とのこと。「こんにちぱ」は名曲!)

■2008 6月号 『GAME』 5マブ(少なくとも当連載内では、「実質満点以上」以外ありえない。) 上段


きっと、ここが新たな始まりだ -- Perfume『GAME』
 特にパフュームを手掛けるときにこそ際立つ中田ヤスタカ氏のプロデュース手腕に舌を巻き、「ぜひこの体制でフル・アルバムを!」と初めて書いたのが、04年11月号の『ビタミンドロップ』レビュー。
 いや、その例に限らず、これぞという対象に出会うたび、私はいつも、「この流れでアルバム出して」というようなことを、繰り返し訴えてきた気がします。しかし、こと(この期間の)アイドルソングというジャンルでは、その程度の希望が実現すること自体、稀な方だったと言わざるを得ない。まして、「コンセプトの一貫性」とかは、ほぼ望むべくもない話だったわけです。
 『Perfume~Complete Best~』(06年10月号)でさえ、制作形態そのものは決して"ベスト"とは言い難い作品であったことを考えれば、8年間の連載を通じて私が真に全面的な満点評価を下したアルバムは、唯一、松浦亜弥『FirstKiss』(02年3月号)のみ、ということになってしまうかも……(05年5月号の片瀬那奈は5マブだがベスト盤だし、辛うじて04年5月号のプリエールが4.5マブ、99年まで遡れば初期ハロプロの名盤がいくつか加わることになるでしょうが)。
 そうした前提で、この、本当に待ちに待ったパフューム初のオリジナル・フル・アルバム『GAME』に触れるとき。私にはもう、ただひたすら、「こんなことが、現実に起こるなんて……」的な驚嘆の念しか湧いてこない、というのが正直なところなのです。
 ここには、もはや何の遠慮もなくブーブーと重低音を鳴り響かせる(ほとんど無邪気とも言えるくらい)「世界水準の」ダンス・ミュージック、同時代的ポップとしての、音楽的強度がある。と同時に、日本型アイドルという形式を通じてこそ表現され得る、儚くも愛おしい多幸感が、それでいて、その構造をメタ的な視線で相対化してみせる冷徹な批評性、ユーモアと知性がある(例えば『シークレットシークレット』の、背筋も凍る名曲ぶり!)。
 加えて、そもそもは一介の「地方限定女性アイドルグループ」であった以上、当然のようにハンディだらけだったはずの道のりを、それでも何とか歩み続けてきた彼女たち、自身の口から発せられるからこそ巨大な感動を呼ぶ、成功の「物語」がある。そして、それらすべてを、的確なタイミングと技術で現代的日本語詞に乗せる、センスがある。
 レイドバックしたミディアムからキャッチーなロックまで、十八番の四つ打ち以外の新たな引き出しを示してみせる一方、歌詞の極端に少ない非アイドル的(≒純クラブ的)ナンバーを半ばスキット風に挟み込みつつ、抵抗不能な美メロ・チューンを要所に配する、トータルで考えられたバランスがある。アートワーク、振り付けと、相変わらず高いレベルでの、ビジュアル面との連動がある。無論『Complete Best』の比ではないほど絞れた、全体の焦点がある。
  さらに付け足すなら、今や多くの人々が認知するところとなった彼女たち本人のキャラクター的魅力、それを含めた、圧倒的な「時代」の支持がある--あまつさえ、ついにオリコンの頂点を極める(4月15日付デイリーランキング初登場1位)という、これ以上ない商業的成果までもが、すでにここにはある! これを「夢のようだ」と言わずして、何と言うのか。
 まずはこのアルバムが、アイドルのみならず、日本のポップ・ミュージックの新しい基準になればいい、と思います。ここからまた何かが始まる、と信じたい。

Perfumeスタッフに緊急提言!
次の一手は早めに打つが吉、な気がします!



■2008 9月号『love the world』 4.4マブ(聴けば聴くほど味が出る、超いい曲なのは確か。) 上段

「新王者」Perfume初防衛戦&どこに行くの80_pan!
 Perfume大ブレイクという事実をついに決定的なものとしたNo.1ヒット・アルバム『GAME』(6月号)後、初のシングルとなるこの『love the world』は、その『GAME』で印象的に示された方向性をわかりやすく継承してみせているという意味で、実に周到かつ堅実な、「次の一手」であると言えるでしょう。
 例えば、サウンド自体はお馴染みの中田ヤスタカ印であっても、モロにクラブ・ミュージック的な四つ打ち感は前面に出さず、より”普通に”キャッチーなポップスとして響かせることを志向したかのようなリード曲のテイストは、『GAME』のラストを締め括る意外なロック調『Puppy Love』の延長線上に、容易に位置づけることが出来るはず。
 同時に、初めて聴いた時は「なんだかいかにも(同じく中田プロデュース常連である)MEGが歌いそうな曲だなぁ」とも思ったのですが、その印象は主に、歌詞のくだけた「口調」から来たものかも知れません(『キミよダーリン』とか)……いずれにせよ、『Baby cruising Love/マカロニ』(3月号)から引き続き、Perfumeの(言ってみればアイドル的な)「キュートな表情」を引き出すことに、このところ中田氏がどんどん積極的になりつつあるようなのは、間違いなく歓迎すべき傾向かと。
 かたや、対照的にカップリングの『edge』は、題名からも容易に予想される通り、『GAME』アルバム・タイトル曲でのゴリゴリなエレクトロ路線をさらに推し進めた格好……これもまた、非常にわかりやすい流れではあります。
 ともあれ本作が、7月21日付オリコン週間ランキングで初登場一位を獲得(ちなみに、その座を争っていた相手がマキシマム ザ ホルモン、というなんとも不思議な時代)、ひとまず対外的な役割を果たしきったことで、そのディレクションの正しさは、すでにあらかた証明済みとも言えるわけですが……単なる無いものねだりとは重々承知しつつ、あえてここで、個人的に抱いていた願望を吐露させていただきたい。なぜこのタイミングで、「Perfumeなりのサマーソング」を出さないのかーっ?! もしそれが成功していれば、本当に本当に本当に、素晴らしい夏がこの国に訪れていただろうに……ま、来年以降にもまたその機会は巡ってくるはずだから、ということで!
 一方、「Perfume大ブレイク以降」の動き(7月号参照の事)も各所でさらに活性化している模様……なかでも、打ち出しが極端過ぎてちょっと面白いことになってきているのが、元元ハレンチ☆パンチ~元80★PAN!が一気に「ニューレイヴ」路線へ方向転換したという、現80_pan(ハレパン)。プロデュースに当該ジャンルの有名バンドであるSHITDISCOを迎えるなど、本場UKシーンとの連携も強調して、勢い的には超マジ、な感じなんですが(あちらのフェスに参加するはずが空港でトラブルを起こし強制送還されるという珍ニュースまで)……当連載でも何度か触れてきたアイラミツキといい、よりアキバ的なスタンスで活動するSaori@destinyといい、どこかに共通するいわば「微苦笑感」において、目下デートピアという事務所自体が、目の離せない存在となりつつあるのは確かなようです。

Perfumeスタッフに緊急提言!
あの来年でいいんで……来年こそは……サマーソング! お願いしておきます……



■2009 1月号『Dream Fighter』 4マブ(つまり今回はあえて「ホームランを打たなかった」のでは?)

「Perfumeブレイク後の世界」新段階へ!
 ●「脱・物語」化に向かい始めた?Perfume
 前のシングル『love the world』(08年9月号)から、いや、さらに言えばアルバム『GAME』(08年6月号)のラストが意外なほどシレッとポップに「開かれた」『Puppy Love』であった時点から、すでにその予感はあったのかも知れませんが……去る2008年11月6日、7日に行われたPerfume初の日本武道館コンサートは、彼女たちのキャリアが、いまや完全に次の段階へと踏み出しつつあることを、改めてはっきりと確信させる内容でした。予想に反してそれは、到達感に満ちた「泣ける」集大成的ライブではなく、どちらかと言うと、まだまだ試行錯誤中といった趣がむしろ余裕さえ感じさせる、豪華で軽快なエレクトリカル・ダンス・ショーだったのです(とは言え、彼女たちのパーソナルな魅力は以前とまるで変わることなくそこにあるのがまた、驚異的なのですが)。
 すなわち……あえて単純化して言いきってしまうならば、現在のPerfumeは、それこそ当連載が図らずも同時進行的に記録することとなった奇跡のような成功譚に象徴される「"歴史=物語"的な感動」段階を、(少なくとも一旦は)そろそろ脱する時期に来ているのではないかと、私は見ています。そこに一抹のさびしさを覚えつつ、同時にこれは間違いなく、彼女たち(とファン)が安易に自己完結してしまわないために必要なプロセスなのだ、とも。
 ともあれ、そうした言わば「前向きの過渡期」のなかに位置づけることで、今回の『Dream Fighter』も、より理解しやすくなるような。『Baby cruising Love』(08年3月号)や『love the world』に比べるとややハードな四つ打ちに回帰しつつも、トータルで「普通にポップ」な表情はこれまでの路線を踏襲。ただし、数年前の曲からは想像もつかないほどストレートに「前向き」な歌詞を含め、ボーカルには、メジャー以降恐らく最大級に「生身」的なエモーションが強調されてもいる……これは、後述する他の中田氏プロデュース近作とも明白に真逆の方向性であって、ことPerfumeに関しては、彼のなかでも、まったく独自の模索が始まっていることをうかがわせるのです。
 それゆえかこの曲、若干のつかみどころのなさを感じさせなくもないのですが……それもこれも、「脱・物語」の試みが未だ途上にあるからこそであろうと、いまは考えておきたいと思います。
 カップリング、『マカロニ』以上にレイドバックしたヒップホップ・ビートに乗せて、これまた過去最大級にまったりと歌いあげるバラード『願い』は、たぶんですが、「アイドル感」×「冬感」という、中田氏なりのサービス精神の現れなんじゃないかと。


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1件のトラックバック

[T26] -

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  • 2013-10-26

6件のコメント

[C105]

こうやってまとめて時系列に沿って読むと
とても面白いです。
こういった形でアップしてくれて
ありがとうございます。

[C107]

どもども。
いやいや感謝するなら宇多丸師匠に!「いい風」を作った人々に!
  • 2008-01-25
  • キド
  • URL
  • 編集

[C113]

はじめて読ませていただきました。
QuickJapanや読売のWEB記事だけでは掴めなかった宇多丸師匠の当時の”思い”がやっと掴めたような気がします。
読み応えある内容を紹介していただき感謝します。

[C121]

宇多丸師匠の大ファンで
Perfumeの存在を知りました。
この「マブ論」すごくいいですね。
ほんと参考になりました。ありがとうございます。
  • 2008-02-21
  • 空白
  • URL
  • 編集

[C182]

時系列のまとめありがとうございます。
オニャン子とか後期の娘。には共感できず、アイドルは遠巻きに観ていた自分がPerfume ファンに。
最近はロマンポルシェ - RHYMESTER と聞きまくっています。
「道夏大陸」を観たりPop Style ブログの対談を読むといまだにムネキュンです。
『マブ論』予約済みでしたが、もう一冊ポチってしまいました。
  • 2008-05-16
  • Akira28
  • URL
  • 編集

[C223] ありがとうございます


Perfumeを知るにも
アイドル論を知るにも
大変おもしろく読ませていただきました!

ありがとうございます
  • 2009-05-16
  • 甘めの黒うさぎ
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