基本読書

基本的に読書のこととか書く日記ブログです。

SFをもっと楽しむための科学ノンフィクションはこれだ!

記事名そのまま。SFが好きなのに科学ノンフィクションを読んでない人をみると「現代の最先端科学なんて、どれもほとんどSFでめちゃくちゃ面白いのにもったいない!」と思う。こんなことを考えたのも昨日、オービタルクラウドを最近出したばかりのSFジャンルをメインに執筆している藤井太洋さんのASCII.jp:ITとともに生まれた産業革命に匹敵する本質的な方法論 (1/4)|遠藤諭の『デジタルの、これからを聞く』 こんなインタビュー記事を読んだからだ。

藤井さんはデビュー作であるGene Mapperを含め、現代で可能な科学技術の延長線上に起こりえる地続きの未来描写が特徴的で、「今・ここにある技術の凄さ」が感じられるところが毎回凄いんだよなあとこれを読んでいて思い返していた。またそこで使われているアイディアは現代でもそのまま使えるものが多いし。技術的には現実が既にSFなのだ。

透明マントだって現実化している、人工知能の能力は日々増大しているし、クローンだって今の技術なら可能だ。ナノテクの進歩も目覚ましい。パソコンだってこれまでとは全く違った様々なアプローチがとられている。わざわざフィクションに目を受けなかったとしても、ものすごいテクノロジーが日常に溢れている。

最先端の科学技術について知ることは、そのまま自分の中での「現実とはなにか」という認識が変わっていくことでもある。そうした認識の転換は、僕にとってはSFを読むときの醍醐味とほとんど同じだ。というわけで、昨今僕が読んだ中で「現実の認識が変わった」系の科学ノンフィクションをいくつかオススメしてみたい。専門知識不要ですぐに読んで理解できるものをピックアップしたつもり。

コンピュータ

生物化するコンピュータ by デニス・シャシャ,キャシー・ラゼール - 基本読書
最近読んだ中ではオススメのこの一冊。たとえば何百億もかけて宇宙船を打ち上げても、ほとんどの場合直接的には修理することができない。無人探査機ならなおのことだ。もし仮に自力で修理する機械が設計できれば、無人探査機のタフネスは急上昇する。『未来のコンピューティングは「自然」と結合するというものだ。』と本書の冒頭で著者は書いている。それは先ほど述べたような、自分で自分を修復する機械のような「進化あるいは学習」を取り込んだ機械という発想であって、それは今までのコンピュータの経歴とはまったく別の方向へと向いている。

生物化するコンピュータ

生物化するコンピュータ

意識とか脳とか

意識は傍観者である: 脳の知られざる営み - 基本読書
このへんは鉄板。誰しも自分自身に「意識」があると思っているものだが、「意識」とは実際なんなのか? 本当に自分自身を意識なるものが完全にコントロールしているのか? ということを問いかけたいのならまず読んでおく一冊。特に『ハーモニー』などの伊藤計劃作品の発想の核はこのあたりにある(この本が出たのはハーモニー以後だが)。

意識は傍観者である: 脳の知られざる営み (ハヤカワ・ポピュラーサイエンス)

意識は傍観者である: 脳の知られざる営み (ハヤカワ・ポピュラーサイエンス)

脳関連は多くて絞り切れないのだがいくつかピックアップすると……
脳と機械をつないでみたら――BMIから見えてきた (岩波現代全書) by 櫻井芳雄 - 基本読書
ブレイン・マシン・インタフェース、ようは脳に電極つないで遠くのものを動かすよという装置だが、この本は現代におけるBMIがどの程度のものなのかを端的にまとめて教えてくれる良書だ。「鼠の行動を意のままにできる」とか、身体を動かせない人が脳の働きだけでだれでもすらすらとロボットアームを動かせる、といった状況ではまだない。しかしBMI研究によって脳の働きも多くのことが明らかになってきていることがわかると面白くなってくる(特定部位が特定能力に依存していないこととか)。

脳と機械をつないでみたら――BMIから見えてきた (岩波現代全書)

脳と機械をつないでみたら――BMIから見えてきた (岩波現代全書)

単純な脳、複雑な「私」 - 基本読書
著者の池谷裕二さんは脳関連ならどれも面白く、わかりやすい本を書いていくのだが最初に読むのならこれがオススメ。具体的なエピソードで語り上げていく。
最新脳科学でわかった 五感の驚異 - 基本読書
あとはこれとか。ペンをくわえたときに笑った顔に強制的にされた被験者と、ただ加えた被験者とで、同じ漫画を読ませて得点をつけさせたところ、笑った顔にされた被験者の方が得点が高かった、などなど感情や五感から得られる情報が自身の認識に思いもしないような大きな影響を与える事例がいろいろ紹介されていて面白く、かつ驚くことになる。

脳の中の幽霊とか。
脳のなかの幽霊 (角川文庫)

脳のなかの幽霊 (角川文庫)

偉大な記憶力の物語――ある記憶術者の精神生活 - 基本読書
現実に存在していた超記憶能力者のお話。1920年代、著者の実験室に1人の人が「自分の記憶力を調べてほしい」と尋ねてくるところからこのお話は始まる。その記憶能力はおどろくべきものだった。何しろ、30、50、70、の語を口で言おうが文字に書こうが一瞬にして覚えてしまい、前から読むことも後ろから読むことも順列をばらばらにして読むことも、自由自在。しかも本当に凄いのは、これが「何十年もあとに同じことを尋ねても正確に同じ答えを出した」ということ。いやはや、現実の存在とは思えない。

偉大な記憶力の物語――ある記憶術者の精神生活 (岩波現代文庫)

偉大な記憶力の物語――ある記憶術者の精神生活 (岩波現代文庫)

生物系

利己的な遺伝子/リチャード・ドーキンス - 基本読書
生物学系では基本となっている一冊。「ミーム」という概念がよくフィクションの中では使われるが、その元ネタになる。分厚い本でミームに辿り着くまでにだいぶ読まなければいけないのだけど、生命進化の神秘についてそこまでの章も充分に読み応えのある名著だ。

利己的な遺伝子 <増補新装版>

利己的な遺伝子 <増補新装版>

宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書) by 吉田たかよし - 基本読書
宇宙生物学というジャンルがこの世にはある。何をやっているジャンルかというと、宇宙全体をみたときに「どういう場合に生命が発生可能なのか?」という生命の発生条件を考えてみたり、「地球で生命が発生したのはなぜか?」を探っていったりする。地球に生命が発生した原因として、仮説のひとつにあげられているのが、「宇宙で誕生したアミノ酸が隕石に付随して地球に落ちてきて、生命を産み出す材料になったのではないか」というものでこれなどわくわくしてしまう。洋書だがこっちもどうぞ⇒Five Billion Years of Solitude by LeeBillings - 基本読書

宇宙開発、宇宙探査

宇宙探査機 ルナ1号からはやぶさ2まで50年間の探査史 by フィリップ・セゲラ - 基本読書
宇宙探査機の歴史は面白い。孤独に動作することが求められる以上、あらゆる事態を想定してエンジニアが知恵をこらした結晶体なのだから、その解説本が面白く無いはずがない。ちなみにはやぶさ本も10冊ぐらいは読みましたがこれが一番おもしろかった。⇒カラー版 小惑星探査機はやぶさ ―「玉手箱」は開かれた - 基本読書

宇宙開発系だとこれとか⇒BECOMING SPACEFARERS by JamesA.Vedda - 基本読書 日本語だとあんまり読んだこと無いなあそういえば……。レビューは書いていないけど『ロシア宇宙開発史: 気球からヴォストークまで』は傑作。

宇宙のはじまり

宇宙の始まりがきになる。どうやって始まったんだろう。そもそも始まったのだとしたらその前には何があったんだろう。サイモン・シンが書いた人はみんな宇宙の始まりが気になる──『宇宙創成』 - 基本読書 はめちゃくちゃわかりやすく盛り上げてくれるビッグバン理論の解説本だ。なるほどビッグバンによって宇宙が加速度的に膨張したのは有力な仮説のようだ。しかしそもそもそれって無から発生するってこと?

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)

宇宙創成〈上〉 (新潮文庫)

当然の出てくるようなその疑問に答えたのが宇宙が始まる前には何があったのか? by ローレンスクラウス - 基本読書 だ。原題は『A UNIERSE FROM NOTHING』。無から宇宙が産まれることが「どのような理屈でありえるのか」を説明していくのが本作の主な目的だ。

宇宙が始まる前には何があったのか?

宇宙が始まる前には何があったのか?

ロボット

ロボット開発を通して人間を知る──ロボットとは何か――人の心を映す鏡 - 基本読書
著者の石黒さんは、人が人にとって便利なものを作っていく技術開発の過程を「技術開発を通して人の能力を機械に置き換えている」といい、「人間はすべての能力を機械に置き換えた後に、何が残るかを見ようとしている」のだと表現した。初めて読んだ時はなるほどそうだたのか! とひどく驚いたものだ。関連で最近The Economistでもロボット特集がやっていたのでそれを読んで書いた雑記も載せておきます⇒ロボットと未来について - 基本読書

そして誰もいなくなった──『ロボット兵士の戦争』 - 基本読書
SF好きならこれを読まずにいられるか! ロボット兵が現状どのように運用されているのかを赤裸々に暴いたルポ。第一部ではどのようなロボットが今戦争で使われ、生まれていているのか、それによる戦争と日常生活の変化を解説。二部からはその変化が、人類に対して何をもたらすのかを解説しており、その幅の広さ、説明の深さはちょっと他では見られない程。

ロボット兵士の戦争

ロボット兵士の戦争

その他

サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か/ミチオ・カク - 基本読書
これはめちゃくちゃ面白いノンフィクションで、物理学者が真面目にサイエンス・フィクションの中で使われているアイディアのあれやこれやを本当に実現可能かどうか、可能だとしたらいかにして可能なのかを検証していく。もちろんテレポートやタイムトラベルなどは現時点では無理だが「物理法則的に抜け道はあるのか?」と考えていくとけっこう説明できる理論だけはあったりして夢が広がる一冊だ。ちなみにミチオ・カク氏の本はどれも面白いのでオススメ。これとか⇒パラレルワールド 11次元の宇宙から超空間へ/ミチオ・カク - 基本読書 

サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か

サイエンス・インポッシブル―SF世界は実現可能か

ポスト・ヒューマン誕生―コンピュータが人類の知性を超えるとき / レイ・カーツワイル - 誰が得するんだよこの書評
これは自分のブログに書いてなかったので人のブログで。あらゆる分野で今後テクノロジーの進化が加速し人間は1000年生きるようになるし2020年にはAIが人間並みになるしという感じで次々と壮大な未来予測をぶちあげていく。SFの元ネタに広く使われるどころかシンギュラリティ大学までつくっちまってグーグルやアップルのような一流IT起業のお偉いさんが通い詰めるなんだか偉大な大学に。テクノロジー関連の洋書を読んでいると引き合いに出される数が多いことに気がつく。

まとめおわった

とまあ駆け足でざっとあげてきたが、どれも比較的読みやすいものをチョイスしたつもりだ(厚さ的な意味ではなく、専門知識がいらないという意味で)。もちろん僕だってすべてを読んでいるわけではないのでさらなるオススメがあればオススメしてもらいたい。この中にも入れていない本が結構あるけれどね。

この記事を書く発端となった藤井太洋氏の『オービタル・クラウド』は宇宙開発系の傑作フィクションだから最後におすすめしておきます。

ちなみにその他のフィクションのオススメはKindle本としてまとめているのでこっちもよかったら買ってね。
冬木糸一のサイエンス・フィクションレビュー傑作選

冬木糸一のサイエンス・フィクションレビュー傑作選