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2013年5月 6日 (月)

棋譜の著作物性に関するメモ

棋譜とは、ボードゲームの対局者が行った指し手を順に記載した記録を指す。対局者ではなく、第三者によって記載・記録されることが一般的である。

ここでは既存の将棋対局の場合について検討する。

まず、棋譜は対局者たる棋士の著作物といえるか。

対局の指し手それ自体は、棋士のアイデアであり、著作権法的に棋士の創作的表現といえるか疑問がある。

著作物に該当するといえるためには、表現上の創作性が要件である。

キースジャレットのようなジャズの即興演奏は、楽曲の創作に関する表現上の創作性があり、音楽著作物そのものである。ただ演奏時に創作するため、楽譜が存しないだけである。

これに対し、プロ棋士の指し手は、真剣勝負のためのアイデアそのものであり、表現上の創作性ではないので同一視できない。つまり、棋士の場合には、指し手の創作性は、表現ではなく、勝敗に向けられている。

将棋は、過去の名勝負など対局における指し手--自他を問わない--を参考にしつつ、さらなる力の向上を目指してゆくものである。過去の対局と類似した指し手が著作権侵害になるとすると、類似した差し手を後続の者が用いられなくなり、如何に不合理な結果をもたらすことになるか、理解しうるであろう。

次に、総譜の記載者の著作物といえるか。

当該対局の忠実な総譜の記載それ自体は、記載者にとって不可避的表現なので、記載者に表現上の創作性を肯定するのは困難である。

これに対し、将棋対局の観戦記や解説書は、表現の幅があるとして創作的表現とされうる。棋譜を、ありふれたものではなく、凝った作り込みの表現にしたような場合も、著作物性が認められることがありうる。

とはいえ、観戦記等の著作権的保護は、江差追分事件最高裁判決に照らすと、その中の創作性のある表現の部分のみに限られる。したがって、指し手それ自体を、別の者がその者の作品中で取り上げたにとどまるような場合には、たとえ指し手それ自体が同一であっても、観戦記等に関する侵害は成立しない。

付け加えると、著作権侵害が不成立の場合の一般不法行為の成否は、最高裁第一小法廷平成23年12月8日判決がリーディングケースであり、一般不法行為の成立する場面を極めて狭く捉えている。

http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/20111208164938.pdf 

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