神戸市は、里山における生物多様性の保全に取り組んできました。
国とも連携をとり、神戸市北区の里地里山が、生物多様性の保全が図られている区域として、環境省より「自然共生サイト」に認定されました。
同時に、生物多様性の保全に資する地域であるOECMとして、国連が管理する国際データベースに、日本で初めて登録されました。
生物多様性を守るためには、人間と野生生物との関係を探っていく必要があります。
本書は、そのような関係性を考える上で格好の材料を提供してくれます。
「人と生きものの関係に正解はない」という立場から、各地の取組み、そして葛藤が紹介されます。
小坪遊さんをはじめ朝日新聞社「取材チーム」の取材力が光ります。
数多くの事例の中で考えさせられたのは、大阪府茨木市を流れる大正川での取組みでした。
この川には、フナやナマズ、エビなどいろいろな生き物が棲んでおり、レッドリストで準絶滅危惧種とされているニホンイシガメもいます。
大正川で活動するみなさんは、ニホンイシガメをもとにいた場所に放し、条件付特定外来生物のアカミミガメは駆除し、クサガメを少し離れた下流で放しています。
それは、なぜか。
かつて在来種と考えられていたクサガメは、現在では外来種と考えられています。
クサガメはニホンイシガメとの交雑の危険があり、駆除も考えられます。
しかし、古くから暮らして来たクサガメの駆除には理解が得られにくいと感じられる一方、同じ場所に放流することは交雑を促す恐れがあり、大正川におけるニホンイシガメの絶滅につながると考えられるからです。
ほかの事例からも、人間と野生生物との共存に関し、多くの示唆ををいただきました。