どうらんの下に涙の喜劇人「NKJK」
小説家、眉村卓氏は、余命1年と宣告された妻に読ませるために、毎日一話の短編小説を書き続けました。5年間。1778話。
それは奥様の生前の頃から話題になり、「美談」と言う人もいれば「偽善」「はた迷惑」と評する人もいて、でも当の眉村卓にとってはそんな他人の思惑を気にしている余裕など無かったと、後に記しています。
「NKJK」(作・吉沢緑時)という漫画はそういう話です。不治の病に冒された幼馴染「富士矢舞」を笑わせることで、少しでも「NK細胞(ナチュラルキラー細胞)」を活性化させようと、それまで「お笑い」なんてほとんど見たことのないお嬢様育ちの女子高生「西宝夏紀」が悪戦苦闘する物語です。
舞の母親からの頼みとはいえ、病室で、病人の前で笑わせるために奇声を上げたり奇天烈な行動をすることが、どれだけ迷惑なことかを夏紀はよく判っています。「でもやる」んです。その結果は大半が空振りで、読む方はその滑った姿に苦笑したり、稀に成功した時に一緒に笑ったりという感じなのですが、確実に舞の病気は進行していて、無力感が夏紀を絶望に叩き落します。
特に、アイスのエピソードは、「可愛くて可笑しい話」で落とすことも出来たのに、最後のたった1ページで夏紀と共に目の前が真っ暗になる思いでした。
何もしないほうがいい。それも一つの考え方かもしれません。でも、人は思い出しかあの世に持って行けない。そして思い出は生きてる時にしか作れない。だからこそ夏紀の戦いは尊いのだと思います。
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