ワールドトリガーが面白い

ちょっと前にヒーローアカデミアをこのブログでオススメしたんだけど、最近ジャンプが結構面白い。最初はグルメ漫画にエロ要素を掛け合わせた異色グルメ漫画かと思ってた「食戟のソーマ」が普通に熱い王道の少年漫画になってたり、相撲という競技の特性もあってか次から次へと展開が移り変わって小気味よい「火ノ丸相撲」も面白いんだけど、今自分が一番面白いと思っているのはなんといっても「ワールドトリガー」だ。



日本にある架空の都市、三門市に突如異界からの門(ゲート)が開き、怪物、近界民(ネイバー)が現れ、通常の兵器が通用しない近界民(ネイバー)になす術なく蹂躙される人々だったが、そこに突如謎の組織「ボーダー」が現れ近界民(ネイバー)を撃退し、防衛体制を築く。その後も度々襲撃には会うものの「ボーダー」によって三門市の平和は守られていた。三門市で生活する平凡な少年、三雲修と、近界からやって来た謎の多い少年、空閑遊真が出会うところから物語が始まる。


こんな前置きから始まるんだけど、ここまでは特に変わったところは無いというか、エヴァっぽいっていうか、それほど特筆すべきところはない。


ぶっちゃけ「ワールドトリガー」の1巻から2巻の途中あたりまでは、正直あんまり面白くないんだ。なんでかって言えば、それは「ワールドトリガー」における「ルール設定」の説明にかなり大きな割合を割いているからだ。ゲームにおけるチュートリアルモードっていうかね。まあよくこの時期に打ち切られなかったなと思いますよ本当に。

トリオン体とベイルアウト

この漫画の登場人物達は、「トリガー」という道具を使い、「トリオン体」という生身の身体とは別の身体に換装し、戦う。この「トリオン体」が大きなダメージを受ければ「トリオン体」は崩壊して元の生身の姿に戻るのだけど、この「トリオン体」のダメージが生身の身体にフィードバックされることはほぼ無い。戦闘中に腕を切られような首を飛ばされようが基本的に生身の状態に戻ってしまえばピンピン平気な状態だし、痛覚も基本的に遮断されるので、戦闘中に苦しみにのたうち回るようなことも無い。まあなんという言うか、ゲーム的とでも言うべきか、戦う側にリスクの少ない優しいシステムがまずある。


更に、主人公達が所属する組織「ボーダー」で作っている「トリガー」には「ベイルアウト」という緊急脱出機能がある。どれだけ「トリオン体」でダメージ受けても最悪死なないとはいえ、生身に戻った状態で追い討ちの一撃を食らったら、ひとたまりも無く死んでしまうが、この「ベイルアウト」があると、「トリオン体」が破壊された時点で特定の拠点にダメージを受けたものを瞬間移動させることが出来る。もともと生身には影響しない「トリオン体」で戦った上に緊急脱出装置まで搭載されているので、「ワールドトリガー」という漫画で戦う人物達は滅多に死なないし、怪我する描写すら非常に少ない。


これだけだったら、なんかぬるい「GANTZ」みたいな印象を受ける人がいるかもしれない。少年漫画向けに凄惨な描写を避けた子供向け作品っていうか。しかし、「ワールドトリガー」という漫画が非常に面白いのは、この人命第一のシステム設計が戦略的、戦術的に大きな意味を持っているところにある。


そうそう簡単に死なない仕組みがあるからこそ、この漫画では戦いに負けたキャラクターが即、バックアップに回って自分が敵に負けた要因を分析しそれをまだ戦闘中の仲間達にその情報を共有化しようとする。報告、連絡、相談、「ほう・れん・そう」で強大な敵に立ち向かう漫画、それが「ワールドトリガー」なのである。

斬撃の機能性

痛覚を遮断し、生身にフィードバックの無い「トリオン体」という設定によって受けるもう1つの恩恵に、斬撃の機能性を抽出することに成功したってことがある。


どういうことか?


「切る」という行為はバトル漫画において非常に魅力的なアクションなのだが、問題は殺傷力が高過ぎることだと思っている。「切る」っていう行為を突き詰めて行くとどうしても「バガボンド」における吉岡70人切りとか、「シグルイ」の一連の戦闘みたいな、凄惨な描写に行き着いてしまう。


その凄惨さを避けて「切る」ってアクションを描写しようとすると、どうしても四肢の切断であるとか、首チョンパみたいな描写は描けないし、結果それって「切る」って行為の魅力が大幅に削ぎ落とされてしまうのだけれど、「ワールドトリガー」は「トリオン体」という仮の身体で戦うので、四肢切断だろうが、首チョンパだろうがいくらでも出来てしまう。この恩恵は実はかなり大きい。どんな強いキャラクターだろうが、よっぽどの理由が無い限り首を飛ばせば一発でやられるし、「トリオン体」に換装した状態で且つ斬撃用のトリガーを持っていれば首を切断する能力は大抵の人間に備わっている。どんだけ弱いキャラクターだろうが一瞬の虚をつくことに成功すれば勝ち目はあるし、どんだけ強いキャラクターでも一瞬の油断が命取り(そうそう死なないけど)になる。一見ヌルそうにも感じられる「トリオン体」という仕組みがむしろ戦闘の緊張感を増す仕組みになっているのである。

システムに対する眼差し

「ワールドトリガー」の面白さはまだまだある。組織戦の面白さとか組織内部の政治的掛け引きの面白さだったり、ブラックトリガーの存在だったり、サイドエフェクトの存在だったりまだまだ書き足りないんだが、今回はこれくらいにしておこう。とりあえず、現段階でこの漫画の面白さをまとめると、「組織やシステムに対するバランスのとれた視点の存在」ってあたりに行き着くかなと思っている。


所謂、大きな組織とかどうしようもないような状況とかシステムに翻弄される話ってさっき挙げた「GANTZ」とか色々あると思うんだけど、「ワールドトリガー」ってそういった諸々に翻弄もされつつ、逆にシステムを利用したり、なんだったら上手に活用するし、更にそのこと自体を楽しもうとしてる漫画なんじゃないかと思う。ゲーム的なシステムを組み入れながら逆に凄惨な現実を見せることで「現実はゲームじゃない!」みたいな手あかにまみれたようなことを言うのではなく、むしろゲーム的仕組みを上手に取り入れればより現実への対処が上手く行くようになったりするっていう、ゲームに馴れ親しんだ世代にしてみれば非常に全うな、バランスの取れた視点を持った作者がついに現れた。僕はそのことをとても嬉しく思うのである。


休載多いし、人気も必ずしも高くなさそうだし、ヒヤヒヤしながら毎週ジャンプ読んでるけどね!
今丁度大きな区切りを迎える10巻が発売されたし、読み始めるなら今ですよ。詰まらないって言った1巻も10巻まで読んでもう一回読めば張り巡らされた伏線に気付けて面白いよ!