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リヒター,グールド,ベルンハルト

杉田 敦 1998. 『リヒター,グールド,ベルンハルト』みすず書房,246p.,2400円.

この著者は,どこかで翻訳文を読んだことがある気がするが,本人の文章を読むのは初めて。もちろん,リヒター関係の本であることが読んだ理由。タイトル通り,画家ゲルハルト・リヒター,音楽家グレン・グールド,小説家トマス・ベルンハルトというジャンルが異なる芸術家について書かれた批評書。そういえば,『ゲーデル,エッシャー,バッハ』という本があったな,と未読ながら思い出す。違う分野の表現に共通のものを見出すというのも批評の面白いところ。
著者によれば,本書の中心にはリヒターがいるとのこと。書名では一番最初にくるが,章としては3人のうちの最後。リヒターが好んで用いる音楽にグールドがあり,とある小説でグールドがちょこっと登場する物語の作者がベルンハルト。グールドはきちんと聴いたことがなくても私は存在を知っていたが,ベルンハルトはいくつかの作品が日本語になっているようだが,私は知らなかった。著者はリヒターから始まって芋づる式にこの3人の作品世界にのめり込み,それらに共通する主題を見出したというが,リヒターが1932年のドイツ生まれ,グールドは1932年カナダ生まれ,ベルンハルトは1931年にオランダで生まれるという同時代性もそこにはある。本書の構成は分かりやすく,以下の通りである。

表現の原子 0
音の粒子 1 グレン・グールド
言葉の粒子 2 トマス・ベルンハルト
イメージの粒子 3 ゲルハルト・リヒター
絶望のマシーン 4

なかにサンドイッチ状に挟まれた各芸術家に関する批評文はある意味で分かりやすい。いちいち参考文献を示したり,特定の作品を詳細に分析したりという学術的な側面はほとんどなく,あくまでも著者自身の捉え方,解釈をその内的論理で展開する。といっても,短いながら内省的な序文に対して,かなり素朴な記述もあるし,繰り返しも少なくない。でも,1章から3章までで著者がいわんとする3人の作品世界の共通性というのは十分理解できる。
その上で,最後の4章はどういう意味があるのだろうか。冒頭からプラトンの話が出てきて,批評や科学,モダンとポスト・モダン,その上で芸術の役割などの大きな話が展開し,いまいちついていけない。しまいには,批評というものの多くが芸術を駄目にするみたいな議論もあり,本書そのものの意義を無にしてしまうような記述もあったり。まあ,でも批評ってのはこれくらい自由であっていいと思うし,リヒターについての解釈も学ぶことがけっこうありました。

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