被害者女性に取材を敢行
人身売買――人が人を売り買いする。人類のタブーでありながら、古代から現在に至るまで続いている最古のビジネスでもある。
今年2月、カンボジア人女性が日本人によって人身売買された事件が発生した。犯人は首都のプノンペンで飲食店を経営していたフクイ・ススム被告、52歳(当時、漢字表記不明)。フクイは現地女性7人を「日本の飲食店で働いて高収入が得られる」と勧誘して日本に送り込んだ。しかし、実際は飲食店で働くのではなく女性たちは売春を強要されたという。
被害女性のひとりがフェイスブックを通じてカンボジア大使館に助けを求めたことで警察が動き、風俗業者とフクイ、そしてカンボジア人の妻(28歳)、飲食店の従業員の男(34歳)が逮捕され、事件は一通りの収束を迎えた。
「出稼ぎ詐欺」として世界各地で昔からよく聞かれる話なのかもしれないが、この事件は、発覚から逮捕に至るまでの過程に今っぽさがあったため、日本国内でも報じられて話題となった。ネットでは「犯人は日本の恥さらし」といったコメントが並んだ。
こうした事件が起きると、日本人全体のイメージが下がるといった意見が噴出するが、実際のところ当事者たちはどう考えているのだろうか。
私は事件発覚直後の2月中旬、スラム取材のためにプノンペンを訪れていた。この事件が気になっていた私は、伝手を頼って被害女性のひとりと接触することに成功し、その心情をインタビューした。そこで、報じられてこなかった事件の裏側を知ることになった。
話をしてくれたのはジェイさん(仮名 24歳)。待ち合わせ場所のホテルのラウンジに現れた彼女は、小柄な体格に笑顔が似合うクメール美人だ。
「辛いこともあるだろうから、無理はしないで欲しいです」
インタビューに先立ってそう伝える。
「大丈夫。なんでも聞いて」
予想外にも明るく答えてくれた。無理をしている、という感じでもない。すべてを鵜呑みにするわけにはいかないが、まずはフクイと出会った経緯を教えてもらった。