「アベ政治に反対」と野党が叫ぶほど、安倍首相が指導力を発揮しているイメージは強化されるという“逆説”
知っておきたい政治の「シンボル作用」
文/佐藤卓己(京都大学教授)
イギリス「EU離脱」から学ぶべき教訓
イギリスの「EU離脱」を決めた国民投票が6月23日に行われた。事前の世論調査などで接戦が報じられていたものの、最後はイギリスの保守的伝統が大衆感情を抑えるものと予想していた。しかし、EU離脱が決まって世界中に激震が走った。
その投票結果は世論(ポピュラー・センチメント)が輿論(パブリック・オピニオン)を圧する現代政治を象徴しているようにも見える。投票分析によれば、未来のある若年層では「残留」派が少なくなかったが、過去に囚われた高齢者を中心に「離脱」派が多数を占めた。
年齢を重ねることが必ずしも成熟を意味しないこと、シルバーデモクラシーも暴走すること、この国民投票から学ぶべき教訓は少なくない。
それにしても、「離脱」決定後のイギリスで「EUって何?(What is the EU?)」とのGoogle検索が急増したことは興味深い。
とはいえ、投票が争点に関する十分な知識を前提とせず行われるのは珍しいことではない。敢えて言えば、自分がよく知らないことを合理的に選択していると確信できる領域は、選挙か信仰ぐらいではなかろうか。少なくとも投機や恋愛なら、人はもっと熱心に情報を集め、慎重に選択するはずだ。
メディアがどれほど集中的に争点を報道しても、有権者がそのニュースを十分に理解していると考えるべきではない。これもメディア研究の常識である。多くの場合、政治的観客はニュースを明か暗か、正か邪かの二元的パターンで認識し、それ以上に掘り下げて考えようとはしない。
もちろん、それは権力によるメディア操作という陰謀論(これも典型的な二元論のパターン思考)で解釈されるべきことでもない。人々は複雑な社会情報が判りやすく提示されることを望んでおり、その単純化の極致がいなかる問題も「YES/NO」に集約する世論調査なのである。
だからこそ、内閣支持率の結果はいつも新聞の第一面を飾る「ニュース」となる。こうした世論はメディアによって製造されるニュースなのだ。