いよいよ安保関連法案の成立が迫ってきた。安倍晋三内閣は16日水曜日の採決を目指しているというが、野党がいくら反対しようが、与党が強行採決を敢行すれば、どうしようもない。
この法案の成立は、日本国内における「憲法違反」などの問題もあるが、21世紀の東アジアの地政学的見地から見ても、日本の安全保障上、大きな分岐点となるだろう。
そもそも安倍政権は、なぜ「憲法違反」のリスクを冒してまで、安保法案の成立にこだわったのか。その背景には、同盟国であるアメリカの事情と、日本の事情という「二つの事情」が重なっていたように思う。
「オフショア・バランシング」という概念
まずは、アメリカの事情から見ていこう。
すべては、2011年8月、アメリカ連邦議会で可決成立した予算管理法に始まる。この法律によって、それまでは「聖域」と言われてきた国防費を、以後の10年間で4,870億ドル以上、削減しなければならなくなった。これは、10年間で毎年平均8%近い削減額となる。
予算管理法の制定を受けて、オバマ大統領は翌2012年1月5日に、「全世界におけるアメリカのリーダーシップの堅持――21世紀の国防戦略の優先事項」を発表した。要は、国防費が大きく削減される中で、今後10年間、どうやって世界における「覇権」を維持するかという「国防戦略の指針」を示したのだった。
この時、アメリカは、東アジアの同盟国である日本と韓国に対して、次のような巧妙な説明をした。
「今回の国防戦略の指針の最大の柱は、リバランス(Rebalance)にある。21世紀の最初の10年間は、前任のブッシュJr政権が、アフガニスタン戦争とイラク戦争を起こして、主に中東にアメリカ軍の主力戦力を配備した。
ところがオバマ政権は、アフガニスタンとイラクからアメリカ軍を撤退させる方針だ。そして撤退させた主力戦力を、東アジアに移動させる。なぜなら東アジアでは台頭する中国の脅威が増し、北朝鮮はますます危険な存在になってきているからだ。
これが、アメリカの戦力のバランスを変える、リバランスだ。だから東アジアの同盟国は、今後10年にわたって、アメリカ軍が東アジア地域に集中的に防衛力を配置することで、これまで以上の地域の安定を得られるのだ」
実際には、この時の国防戦略の指針が示したのは、「オフショア・バランシング(Offshore Balancing)」という概念だった。