ポール・クルーグマン「太陽電池パネルなどの再生可能エネルギーが激安になった」
『現代ビジネスブレイブ グローバルマガジン』---「ニューヨークタイムズ・セレクション」より温室効果ガス排出を制限しても経済の低下率は0.06%
世界中の科学者の取り組みを結集した「気候変動を検討する政府間パネル」(※)が、最新評価に基づく報告書の草稿の章ごとの発表をはじめた。予想通り、内容の多くは厳しいものだ。大きな政策変更がないまま、われわれはいまだ破滅への道を歩み続けているようだ。
しかし、条件つきとは言え、この査定のなかには非常に楽観的な見通しがひとつある。それは経済面での軽減に関する見解だ。この報告書よると、温室効果ガスの排出制限には思い切った対応措置を求めるものの、そうした措置をとるうえでの経済的なインパクトは意外なほど小さいとしている。実際、この査定で検討されているもっとも野心的な目標を導入したとしても、経済成長の低下率は約0.06%と、四捨五入による誤差の範囲に留まると推定される。
この経済的楽観主義の背後にあるものは何か?その大部分は、多くの人は知らない技術上の革命を反映したものだ。つまり近年、再生可能エネルギー、特に太陽熱発電のコストが信じられないくらい大幅に下がったことにある。
(※)気候変動を検討する政府間パネル=Intergovernmental Panel on Climate Change(略称・IPCC):数年おきに発行される評価報告書は、地球温暖化に関する数千人の世界中の専門家の科学的知見を集約し、国際政治および各国の政策に強い影響を与えている。
経済成長と汚染度は必ずしも対の関係ではない
この技術革命に触れる前に、経済成長と環境の関係性について少し話しておきたい。
ほかの条件が同じであれば、GDPが高くなるほど汚染度は高まる。中国が世界でもっとも多くの温室効果ガスを排出する国になった理由は、爆発的な経済成長によるものだ。しかし、その他の条件については同じである必要はない。なぜなら、経済成長と汚染度は、必ずしも一対一の関係だというわけではないからだ。
左派、右派ともに、多くの場合でこの点を理解していない(私は評論家たちが何もかもひっくるめて「右も左もともに間違っている」とするのが嫌いだが、この場合はそれが当てはまる)。
左派側からは、地球を救うには経済が永遠に成長し続けるという考えを環境保護主義者は捨てるべきだ、という主張を耳にする。一方右派側は、往々にして、どんな形であっても、汚染を制限しようとすれば経済成長に決定的なダメージを及ぼすと断言している。しかし、環境へのインパクトを削減しつつも経済が豊かになるのは不可能という理由はない。
自由市場の提唱者は、環境問題が議論の俎上にあがるたびに妙に自信を失っていくように見えるという点も付け加えておきたい。
一般的に彼らは、市場のマジックがあらゆる障害を克服すると豪語する。つまり、民間セクターの柔軟性とイノベーションの能力があれば、土地や鉱物の不足などの市場を制限する諸要素への対応は簡単だと言う。ところが、炭素税や二酸化炭素排出量に関するキャップ・アンド・トレード制度(※)などの市場にフレンドリーな環境対策を提案すると、突然、コストは膨大となり、民間セクターはとても対応できないと言いはじめる。一体どうなっているのだろう。
(※)キャップ・アンド・トレード制度:総量削減義務。及びそれに付随する排出量取引制度