だからプロ野球は面白い 中日・森繁和元ヘッドコーチが初めて明かす 「参謀」---落合博満は何が違うのか
落合監督は中日での8年間、Aクラスから落ちたことが一度もなかった。リーグ優勝は実に4度。名将と呼んでいいだろう。その落合監督の横には常にひとりの男が立っていた。彼こそが名将の「参謀」である。
チームの情報を漏らせばクビ
落合監督はコーチに対して、いつも相当な努力を求めてきた。コーチ同士でも一軍担当か二軍担当か競争をさせる。チームはそういう緊張感にあふれていた。
たとえば、
「内角球のインパクトのポイントを後ろにするために、内角球をバットの芯でライトに運ぶ練習をしておけ!」
といったメニューの指示が、監督から私に出たとしよう。
当然、監督の話はバッティングコーチに伝えてそのコーチが選手と練習をするのだが、ときどき監督が見に来て、その打者の練習について注文がつく。
「あれで、メニューこなしたのか?練習やっているのか?」
もちろん監督はいつも打撃練習に付きっきりではなく、打者も基本的にコーチに任せている。
だから、「監督はいつも見ているわけじゃないから、見ていないときやっています」とバッティングコーチは思うのかもしれないが、
「今日はたまたまやっていなかったのかもわからんけども、オレが見ている限りではやってねえぞ」
と、監督は譲らない。
優秀なコーチとそうでないコーチの差は、この練習が成果をあげているのか、監督の狙いどおり、打者が打てているのかを、きちんと観察して評価できるかにある。
この観察力が、監督はどの打撃コーチよりも確かだ。見ていなくても、打者の結果を見れば想像がつくのだろう。監督の観察と指摘は実に的確だ。
打撃コーチにとっては相当厳しかったろうし、クビにならなかったコーチはおかげで鍛えられたと思う。
監督はナゴヤドームではいつもベンチの同じ位置に試合中座り続ける。いわば定点観測をすると、球場内のあらゆる動きが目に入り、いつもと違うことが見えてくるんだという。
井端(弘和/編集部注・以下同)と荒木(雅博)のコンバートも、あえて右打者に左ピッチャーをぶつけるのも、そういう観察から確信したものではないだろうか。