「『スティーブジョブズ』最後の秘話 トータルで製品を構築できる『究極の工業デザイナー』が世界を変えた」 佐々木俊尚×井口耕二Vol.2
vol.1はこちらをご覧ください。
技術がわかったゲイツと技術がわからなかったジョブズ
佐々木: ジョブズは本当に強烈な人物だったんですね。この本ではビル・ゲイツとの対比が途中何度も出てくる。ゲイツって学生時代からプログラマーで技術面に明るい。それに較べてジョブズは技術がわかっていなかったというか、プログラマーじゃなかったですよね。
Apple I、IIの頃からプログラムはウォズニアックが担当していた。ジョブズはウォズニアックが作ったものの上にケースをかぶせてそれを売る、お金を集める、という経営者としての仕事しかしていなかった。それでゲイツはずっとジョブズを馬鹿にしていて、「あいつは技術者じゃない、技術のことがわかっていない」と言い続けていた。
以降 vol.3 へ。
それにもかかわらず、なぜ今こういう状況になってきたのか。技術的かどうかということは別にして、結局イノベーションはジョブズが生み出し続けている。ゲイツはもちろん途中まではイノベーティブではあったんですけど、結果的には現状のIT業界の状況を見るとマイクロソフトは負けつつあるという状況です。
技術というものをどうとらえるかというのはすごく難しいというか、おもしろいなと感じました。「TechWave」の湯川鶴章さんがチームラボの社長の猪子寿之さんにインタビューする記事がけっこうおもしろい。
猪子さんは日本ではかなり強力な技術企業を率いている経営者なんですが、彼が言うには「技術で勝負する時代は終わった。技術がいかにわれわれの文化を変えていくか。文化をドライブしていく技術が重要なのだ」という話をしています。
その話とジョブズが今まで作ってきたものとは、かなりオーバーラップする感じがするんですよ。この本を読んでいて思ったのは、ジョブズはデザイナーのようなものなのかなということです。実際「僕はデザイナーなんだ」というような話も出てきますよね。
井口: 「技術がわかるデザイナー」というふうに考えるのがいいのかな、と思います。技術が不要なわけではなくて、新しい技術がないと新しいことはできないのですが、じゃあ技術があればそれでいいのか、と。技術があってそれを提示すればOKなのかというと、それじゃ済まない、ということでしょう。こちらで技術が作られている、あちらでそれが使われている、という場合、その間にはどうしてもギャップがあります。
これを、技術を提示するところで終わってしまうと、使う人には技術に近付いてきてもらわなければならない。そうじゃなくて、使う人のところまで技術を持っていくというのが、デザイナー的なジョブズの役割なのかな、と思います。ゲイツは元々技術屋ですから、技術があるからこれをどう使おうか、というほうに発想が行きがちなんですね。そうすると、使う人のことは二の次、三の次になりがちなんだろうと思います。ジョブズのほうは徹底的に使う人の目線ですから。