「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」
圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか?
この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。
前回の記事で、とりあげた生命と非生命のあいだにあるスペクトラムな状態。今回は、地球の生命とは決して同じタイプとは考えられない、スペクトラムな状態であろう宇宙生命をどう探すか…その探査方法から、生命の生成について考えてみます。
*本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
地球外生命検出の「ミシュラン方式」
現在の地球においても、「1」(生命)と「0」(非生命)の区別は、実はそう簡単につかないことがわかりました。そのような状況で、地球外に生命がいるかどうかなど、どうやって調べたらいいのでしょうか。
これまでに行われた例としては、ヴァイキング計画での、土壌を熱して出てくる有機物を調べる方法や、3つの「ヴァイキング生物学実験」があることは、以前の記事で紹介しました。これらは地球の表層環境での生物の検出から発想されたものでした。しかし最近では、火星には表層ではなく地下に生物がいる可能性が考えられていますので、光合成を調べる方法(図のA)などは使えないでしょう。
生命の存在を調べる「ヴァイキング生物学実験」
- A:「熱分解放出実験」。火星の土壌に水と二酸化炭素を加え、光を当てたあとに土壌中で有機物がつくられるかどうかを調べる実験。もし地球の光合成生物(シアノバクテリアなど)のようなものがいれば、土壌を加熱したときに二酸化炭素が発生するはず。
- B:「ラベル放出実験」。こちらは有機物を「食べる」生物がいるかどうかをみる実験。アミノ酸などの有機物を与えたときに、これを分解してガスを出すかどうかをみる。
- C:「ガス交換実験」。酸素を用いて、二酸化炭素を吐き出す、ヒトをはじめとした、地球の生物のようなガス交換が行われているかどうかをみるもの。
また、その後に提案されたものには、核酸をPCR法で増幅して検出する方法や、抗原抗体反応を利用して生体分子を高感度に検出する方法などもありますが、これらはその星の生物が地球生物と少しでも異なる分子を用いている場合はまったく検出できないでしょう。
そもそも、NASAの生命定義「ダーウィン進化しうる自立した分子システム」にしても、対象となるものが進化するかどうかを調べるには時間がかかるので、地球外生命探査には使えないですよね。
ここで注目したい、新たな生命兆候の探査の取り組みがあります。