「ホリエモン」こと元ライブドア社長、堀江貴文が書いた小説『拝金』が売れている。なぜこんなタイトルなのかというと、「拝金主義者」と呼ばれていた彼の体験を基にしているからだ。
「拝金主義者」として堀江に負けず劣らず有名だったのが、通称「村上ファンド」の代表を務めていた村上世彰だ。「物言う株主」として投資先企業の経営に注文を付けるなどで、堀江と同じ六本木ヒルズを拠点にしながら時代の寵児に躍り出た。
奈落の底に落ちるのも早かった。インサイダー取引の疑いが浮上した2006年、東京地検特捜部に逮捕・起訴され、ファンドは実質的に崩壊した。堀江が逮捕・起訴されてから数ヵ月後のことだった。堀江と同様に、1審に続いて2審でも有罪判決を受け、現在は最高裁の判決待ちだ。
当時の新聞紙面を点検すると、「検察寄りの一方的な報道」という点で、村上ファンド事件はライブドア事件と並んで際立っている。なぜなのか。
村上はメディア関連株に手を出すなどで、マスコミ業界を敵に回していた。新聞界のドン的な存在である読売新聞会長の渡邉恒雄からは「ハゲタカ」と一蹴されていた。この点で堀江と変わらなかった。マスコミから激しいバッシングを受ける素地があったわけだ。
会見当日朝にかかってきた村上世彰からの電話
2006年6月5日の早朝、わたしの携帯電話が鳴った。当時、日本経済新聞の編集委員であったため、いつものように「本社デスクかな」と反射的に思った。
この日、主要各紙が朝刊1面トップ記事で「村上ファンド代表、きょうにも逮捕」と一斉に伝えていた。旧通産省出身の村上が立ち上げた同ファンドについては、定期的に記事を書いていたので、原稿執筆の要請があってもおかしくなかった。
「牧野さん? 村上です」
電話の主が村上本人だと分かり、驚いた。それ以上に驚いたのは、次の一言だった。
「きょう、生まれて初めて公の場でうそをつきます」
とっさのことで、彼が何を言おうとしているのかよく分からなかった。
「えっ? どういうことですか?」
「罪を認めるということです。これから東京証券取引所で記者会見しますから、ぜひ来てください」
「どうしてですか? (ニッポン放送株で)インサイダー取引をやったのですか?」
「やるわけがないでしょう。新聞を見たでしょう? 罪を認めなければ、ぼくのほかにも幹部が逮捕されてしまう。だからですよ。会見ではうそをつきますが、ちゃんと本当のところを分かってくださいね」