「村木局長は容疑を否認しているという。だが、障害者を守るべき立場の厚労省幹部が違法な金もうけに加担した疑いをもたれてしまった事実は重い」
「キャリア官僚の逮捕にまで発展し、事件は組織ぐるみの様相を見せている。なぜ不正までして便宜を図ったのか。何より知りたいのはそのことだ」
以上は、昨年6月16日付の朝日新聞の社説からの引用だ。村木局長とは、厚生労働省の雇用均等・児童家庭局長を務めていた村木厚子のことだ。障害者団体向け郵便の不正事件に絡んで大阪地検特捜部が村木を逮捕したのを受け、朝日は社説で彼女と厚労省を厳しく批判したわけだ。
それにしても、「疑いを持たれてしまった事実は重い」とは何なのか。「仮に無実であっても、検察に疑いを持たれたら反省しなければならない」という意味なのだろうか。
大新聞が世論形成に一役
大新聞がまるで「検察応援団」のように事件を報じるのは珍しくない。検察が摘発する事件を他社に先駆けて報じるのを優先するあまり、検察のリークをそのままたれ流す傾向が強いからだ。
「検察の捜査はおかしい」などと記事に書いたら、その時点で出入り禁止になり、他社に抜かれてしまいかねない。検察が気に入る記事を書いてこそ、リークしてもらえる可能性も高まる。現場の司法記者にしてみれば「他社に抜かれる」が最悪の事態であり、そのためには検察のシナリオに沿って事件の構図を報じることにためらいはない。
逮捕から1年3ヵ月後の9月、大阪地裁で村木は無罪判決を言い渡された。刑事事件で無罪判決は異例だ。日本では有罪率が世界最高の99.9%に達している。無罪は1000件に1件であり、事実上「検察ににらまれただけで一巻の終わり」ということだ。アメリカでは有罪率は連邦裁判所で85%、州裁判所で87%だ。
日本で有罪率がこれほど高い理由は何か。「裁判官と検察官が同じ司法村の仲間だから」のほか「有罪確実な事件しか検察が起訴しないから」との説もあるが、大新聞が検察に有利な世論形成に一役買い、有罪率を押し上げている可能性もないだろうか。
その意味で、郵便不正事件では無罪判決そのものに加え、新聞報道も異例だった。大新聞が1面で大々的に無罪判決を報じ、しかも検察の捜査手法を批判したのである。9月11日付の読売新聞は社説で「検察はずさん捜査を検証せよ」と強調するとともに、解説記事で「シナリオに固執する検察」と断じた。