「地球最初の生命はRNAワールドから生まれた」
圧倒的人気を誇るこのシナリオには、困った問題があります。生命が存在しない原始の地球でRNAの材料が正しくつながり「完成品」となる確率は、かぎりなくゼロに近いのです。ならば、生命はなぜできたのでしょうか?
この難題を「神の仕業」とせず合理的に考えるために、著者が提唱するのが「生命起源」のセカンド・オピニオン。そのスリリングな解釈をわかりやすくまとめたのが、アストロバイオロジーの第一人者として知られる小林憲正氏の『生命と非生命のあいだ』です。
今回から数回にわたって「地球での生物進化に、非生命が生命に至るまでの化学進化についてのヒントがあるか」というテーマでご紹介していきます。原初の地球生命から、系外惑星における生命の痕跡まで、時間と空間を縦横無尽に考察を進めまていきます。
*本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
有力説ながら、不明点も多い「化学進化説」
1920年代、オパーリンとホールデンは、生命の誕生を単純な物質から複雑で組織化された物質への化学進化によって説明しようとしたことを、かつての記事で述べました。この化学進化説はいまも、多くの研究者に大筋では認められています。しかしながら、その詳細については不明な点だらけです。
*参考記事:「生命は自然に発生する!」ありえないとされた説が息を吹き返して提唱された「生命の一歩手前」の衝撃の姿
そのため数回にわたるシリーズ記事でも、化学進化の道筋をより明瞭なものにするため、他の天体での化学進化を探ったり、もし「第2の生命」が存在すればそれと比較したりする必要があることを述べました。しかし、惑星探査には時間がかかるため、それらの情報が得られるのは、少し先のことになりそうです。
そこで今回から数回にわたって、現時点でも地球上で可能な、化学進化についての考察を深める手段をみていきます。
生物進化の研究は化学進化よりも先行していて、19世紀には本格化しました。生物進化は当初は「進化論」とよばれ、単なるアイデアとされてきましたが、その後、DNAの解析により進化の道筋がかなりはっきりとわかるようになり、さらに実験室では微生物を用いて実際に進化が起きる様子すら観察できるようなり、現在では「進化学」とよばれる学問分野として確立されてきました。
つまり、生物進化は化学進化の“先輩”なのです。拙著『生命と非生命のあいだ』では、地球における生物進化を振り返りながら、化学進化の理解に有益な材料を探していきましたが、今回は、“進化論”そのものに絞って、その歴史の中から、化学進化について何が学べるのかを探っていくことにしたいと思います。
なお、地球生物の進化を辿る経緯も非常にすスリリングな展開が繰り広げられますので、あわせて『生命と非生命のあいだ』もお読みくださると、さらに理解が深まることと思います。
では、生物進化についての考え方“進化論”の受容変遷をみていきましょう。