日本における ARG っぽいムーブメント: あんたがた
日本に ARG の文化はこれまで無かったと勝手に思いこんでいたところ、2005年7月に AI/HA という ARG が行われていた ということを先日知りました。これが(主催者側の言葉を信じるならば)日本初のARGとなります。
AI/HA 自体は、AI/HAは冷たい土の下で - 失踪外人ルー&シー で語られているように、残念ながら成功とは言えない結末を迎えてしまったようです。しかし、実は AI/HA の源流となる企画「あんたがた」が2005年2月に2ちゃんねるを舞台に行われており、しかも、こちらの流れは連綿と受け継がれているということを初めて知りました。おまえはどれだけアンテナが低いんだっちゅー話ですが、2chの文化には疎いもので……(汗)
「VIPPER のあんたがたに挑戦します。」
2005年2月26日に2ちゃんねるの VIPPER 板に「VIPPER のあんたがたに挑戦します。」というスレッドが立ったのがこのイベントの始まりでした。仕掛け人は、後に AI/HA を仕掛けることとなる「あめちゃん」氏(当時は1氏)と、オンラインゲームのIRC仲間という十数名の同士。
当時の雰囲気は「VIPPER のあんたがたに挑戦します。」まとめサイトを読んでいただくと十二分に分かると思いますが、14問も隠されていた謎をたったの4日で踏破するという実にパワフルな盛り上がりを見せていたようです。
「あんたがた」のゲームの進行は単純明快。
- 最初に主催者側から8桁の英数字が示されるか、いきなり問題を与えられます。オープニング Flash が作られることも。
- 8ケタの英数字をメモし、セブンイレブンへと向かいます。
- セブンイレブン内のコピー機に30円投入し、ネットプリントを選択。
- 3のメニュー画面でパスワードを入力し内容をプリントアウトします。
- 4で出力された問題は場所を示す謎かけになっているので、それを解く。
- 5で解いた場所へ突撃する。と、新たなパスワードが記載されたガムテープが貼ってあります。
- 2〜6を繰り返し、最終問題まで続けます。
- 最終問題を解き終わると、エンディング Flash で締めくくり。オフ会が併催されることも。
以上、あんたがた まとめサイト から一部改変しました。
このまとめサイトを見ると、今月の頭にも15番煎じが行われており、ナンバリング以外も含めると3年間で実に30回近くもの「あんたがた」が行われてきた事が分かります。ゲームマスターも同一人物ではなく、参加して楽しかった人たちが運営側に回る、というような流れがあるようですね。時間が無くて初回以外のまとめサイトは追っていないので実際の運営がどんな感じなのかはよく分かっていないのですが。
初代ゲームマスターである「あめちゃん」氏は、初代あんたがたの9スレ目で「本当は I love bee みたいにしたかった。」と語っていることから、最初から ARG を意識しつつ、プレイヤー層に合わせたゲームデザインを行ったのでしょう。
と、書くために調べていたら、たまたま 「あんたがた」と The Lost Ring を絡めたエントリ を見つけたのでリンクしておきます。「あんたがた」の紹介記事としてはこのエントリよりよっぽどよくまとまっております。
ゲームデザインについて
やはり、なんといってもネットプリントを使えば、共有情報がパスワード(プリント予約番号)だけで済む、という着眼点が秀逸ですね。別にどこかのアップローダーに zip を置いておいて、その URL というのでも構わないわけですが、それでは盛り上がらない。現実の生活に属するコンビニという空間で、ネット上の遊びのヒントが紙に印刷されて出てくる、というギャップがいいのでしょう。
また、コンビニで印刷してくるという現実のタスクも生むことになり、参加者の貢献したという感覚を生み出すことにも繋がっています。問題を解く(psps)、解かれた場所へ突撃する(勇者)、勇者がもたらしたパスワードを一刻も早く印刷してスレッドに報告する(セブン班)という参加しやすいところでの貢献機会を提供しているのが、デザインとしてうまく行っていますよね。他にも、まとめサイトの中の人や、GMサイドなどのメタな参加者も居て、それぞれが楽しんでいるわけですけれど。
飽きの早い2chで、3年間も回り続けているというのが、このデザインの完成度を表しているような気がします。
参加者数は?
1回目は、最後の東京での最終イベントへの参加者はGM含めて20名程度だったとレポートされています。また、GMが書いているネットプリントの印刷回数もせいぜい20回程度。とすると、アクティブなユーザ数は多くて100人程度だったと予想されます。
ただ、アクティブユーザだけで図れないのが、ネットの怖さ。特に2chだと、ROMっている人が大量に居るはずですので、実際にこのイベントをリアルタイムで楽しんでいた人たちは、実は数千人規模だったのかもしれません。ガムテープが誰もが取りに行けない場所に置かれている!という事態によって、それまでずっとROMっていた人が急に表に出てきて「勇者」になる、という構図を想像すると面白いですね。
3年間も続けた後の今の参加者数がどうなのかは分からないのですが、ざっと15煎のまとめ記事を見る限りでは、日本全国のどんな場所に貼られていても相変わらずのクォリティで対応しているのはさすがですね。
ARG との違い
特定の世界観を元に、物語が現実を浸食していく、という ARG とは異なり、「あんたがた」は純粋なゲームです。クイズに答えて、現場に行く、というシンプルさ。ただ、これが間口を広げた主要因の一つでもあるでしょう。
何せ、今来た人に、ルールが3行で説明できます(たぶん)。これは大事です。もしも、この世界は実は高次元生命体に狙われていて……なんて語り出したら、ほとんどの人は逃げ出してしまうでしょう。
また、これは当初のゲームマスターの思惑の斜め上を行っていたことですが、問題を手に入れる→問題を解く→現地に行ける人を探す→パスワードを手に入れる、というサイクルが数時間で回り、それぞれステージの性質が全く異なるため、興奮が冷めないままメリハリが付くというお祭り感の演出力があります。
ARG も同様の楽しみを演出しようと努力はしているはずなのですが、ゲーム期間の数ヶ月を持たせないといけませんし、そもそもそこまでリアルタイム性の高いコンテンツとしてデザインされていませんので、本質的に異なる、もっと時間をたっぷり使った楽しみ方をプレイヤーに要求することになります。悩む楽しみとでも言えばいいんでしょうか。
この違いは埋めづらく、(事情を全く知らない自分には想像することしかできませんが)「あんたがた」では大成功を収めたチームが、「AI/HA」ではうまく行かなかった理由として、「あんたがた」から連れてきたメインのプレイヤー層と、ARG のゲームデザインがうまくマッチしなかったということがあるんじゃないかと思えてなりません。