琥珀色の戯言

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【読書感想】「ない仕事」の作り方 ☆☆☆☆


「ない仕事」の作り方

「ない仕事」の作り方


Kindle版もあります。

内容紹介
デビューして今年で35年、「仏像ブーム」を牽引してきた第一人者であり、「マイブーム」や「ゆるキャラ」の名付け親としても知られるみうらじゅん。とはいえ、「テレビや雑誌で、そのサングラス&長髪姿を見かけるけれど、何が本業なのかわからない」「どうやって食っているんだろう?」と不思議に思っている人も多いのでは?


本書では、それまで世の中に「なかった仕事」を、企画、営業、接待も全部自分でやる「一人電通」という手法で作ってきた「みうらじゅんの仕事術」を、アイデアの閃き方から印象に残るネーミングのコツ、世の中に広める方法まで、過去の作品を例にあげながら丁寧に解説していきます。


「好きなことを仕事にしたい」、「会社という組織の中にいながらも、新しい何かを作り出したい」と願っている人たちに贈る、これまでに「ない」ビジネス書(?)です。


 みうらじゅんさんのデビュー35年記念出版(らしいです)。
 僕にとっては、「サブカルっぽい雑誌をめくると、そこに、みうらじゅん」という感じのおつきあいを長年続けてきたんですよね、みうらさん。
 「仏像」「ゆるキャラ」「いやげもの」「親孝行」など、「マイブーム」を次から次へと「世間の(本来の意味での)ブーム」に押し上げ、自らも「何が本業だかわからない」状態で、しっかり稼いでいるのは、考えてみれば、ものすごいことです。
 

 秋元康さんが、『DIME』という雑誌の2010年7月6日号の特集記事「ヒットの法則大研究」のなかで、こんな話をされていました。

「何かがヒットすると、みんな後を追いかけようとします。二番煎じを狙っているわけではないのでしょうが、同じような所に正解があるような気がするのです。
 しかし、流行はまるで、”もぐら叩き”のゲームのように、全く違う場所から頭を出すのです。それを追いかけるのは困難です。
 逆に、ブームとは関係なく同じことを続けていると、それがブームになったりします。壊れて止まっている時計でも1日のうち2回は正確な時を示すことができます。
 何かアイデアが浮かんだとき、まわりを見回す必要などないのです。いまの時代のニーズは? なんて考え始めたら、ヒットは作れません。これはヒット間違いなし!という思い込みが一番重要なのです。もう古いかな? なんて不安に思う必要もありません。


 この本を読んでいて感じたのは、みうらさんは、世の中を無理矢理動かして、この「壊れた時計」が指している時間に合わせてしまうことに喜びを感じている人なんだな、ということでした。
 もちろん、常にそれがうまくいくとは限らないのだけれど、思いつきではなく、好きなものを広めるために長年下準備をして、自分が持っている手段を最大限に駆使して、世の中に広めていく。
 「マイブーム」がブームになったのは、偶然ではないのです。
 みうらさんは「一人電通」なんて仰っていますが、仕事を円滑にこなしていくためには、編集者への(自分からの)接待も大事、という話もされています。
 ある意味、ものすごく正直に書いてある本だな、と。

 私の仕事をざっくり説明すると、ジャンルとして成立していないものや大きな分類はあるけれどまだ区分けされていないものに目をつけて、ひとひねりして新しい名前をつけて、いろいろ仕掛けて、世の中に届けることです。
 ここ数年ブームが続いている「ゆるキャラ」も、私が名づけてカテゴリー分けをするまでは、そもそも「ない」ものでした。

「ゆるキャラ」の存在が気になりだしたのは、20年ほど前、全国各地の物産展に赴いたときです。その土地の名産品が並び、多くの客がひしめく中、それはとても所在なさげに立っていました。
 妙な「着ぐるみ」です。当時は「マスコット」という呼び方が一般的でした。


 僕もこの「マスコット」って、子どもの頃から気になっていたんですよね。
 一生懸命手を振っても、誰にも相手にしてもらえず、中に入っている人は、どんな気持ちなんだろう……とか、あれこれ想像して、見ているだけでいたたまれなくなっていたのです。
 みうらさんは、その「地方への愛が溢れすぎて、ときにはイビツな形状にすらなってしまっているマスコット」が気になってしょうがなかったそうです。
 それが、僕の場合は「忌避」になったのですが、みうらさんは「愛着」に変わっていったのです。

 そんなマスコットを普通の人は、まず気にすることはないでしょう。もし気になったとしても、「物産展に何か変なものがいたな」くらいで、帰宅後にはもう忘れてしまうと思います。
 なぜかといえば、それは名称もジャンルもないものだったからです。「地方の物産展で見かける、おそらく地方自治体が自前で作ったであろう、その土地の名産品を模した、着ぐるみのマスコットキャラクター」という、長い長い説明が必要なものだからです。説明しているうちに、面倒臭くなってしまいます。
 私の「ない仕事」の出発点はここにあります。
 まず、名称もジャンルもないものを見つける。そしてそれが気になったら、そこに名称とジャンルを与えるのです。
 前述の長い説明を、たった一言で表現するために私が考えたのが、「ゆるキャラ」でした。
「ゆるい」「キャラクター」の略です。これは本来矛盾した言葉で、キャラクターはゆるくては困ります。わざとゆるいキャラクターを作ろうと思う人や団体などはいません。しかし「ちゃんとした」キャラクターを作ろうとした結果、なんとも微妙な、なんとも中途半端な、なんともいびつなものができあがってしまったわけです。


 「ゆるキャラ」という言葉がなければ、「ゆるキャラ」がこんなに話題はなかったはずです。
 「名前をつける」「分類する」ということには、すごく大きな影響力がある。
 そして、みうらさんはこれらの「仕掛け」の前に、「ブーム」に耐えられるくらいのさまざまなデータをあらかじめ集め、準備を整えているのです。


 この「ゆるキャラ」が面白い!
 で、他にどんなのがいるの?
 うーん、あと、これとこれ、くらいかなあ……
 という感じでは、ブームも広がりはしない。
 この「綿密な下準備」が、みうらさんの真骨頂なんですね。
 「ゆるキャラ」でも、メディアで採りあげはじめる前に、さまざまな地方発のイベントに行って、周囲に気味悪がられながらも情報を集め、写真を撮って「準備」をしていたのです。

 あらかじめひとつお断りしておくと、すべての「ない仕事」に共通しているのは、最初は怪訝に思われたり、当事者に嫌がられたり、怒られたりすることもあるということです。私だって大人になって怒られたくはないですし、むしろいっぱい褒められたいと思っているにもかかわらずです。しかし「それでも自分は好きなんだ」という熱意を失わなければ、最終的には相手にも、お客さんにも喜んでもらえるものになります。


 みんながやりたがることや注目しているものは、すでに誰かがやっている。
 あるいは、激しい競争にさらされてしまう。
 「ない仕事」ならば、とりあえず、自分がいちばん先頭にいることになります。
 この本のなかでも、みうらさんが採りあげたもののなかで、最初は「こんなふうに茶化して採りあげられては困る」という反応だったものが、多くの人に知られるきっかけになり、結果的には感謝された、という話がたくさん出てくるのです。
 みんな「歴史的に価値がある」とかよりも「面白い」ほうが好きだし、興味を持ってくれるのは、間違いありません。
 仏像ブームも、みうらさんと、いとうせいこうさんの『見仏記』が、大きなきっかけですし。

 私は一応、「みうらじゅん事務所」の代表取締役社長でもあります。とは言っても所属作家は私だけの個人事務所なので、スタッフは募集していないのですが、それでもたまに「雇ってほしい」と履歴書が送られてくることがあります。
 その志望動機に書いてあることで、いちばん困ってしまうのが、「私もみうらさんみたいな仕事がしたい」です。私は一人で充分。二人いるとうるさいくらいです。私にしてみれば、もし雇うとしたら自分が不得意なことをしてもらいたいだけです。
 これも、私が若い頃に間違っていたから気づいたことです。私の「したい仕事」は世の中にあると思い込んでいました。しかし、どうやら、ない。だったら自分で作るしかない。しかしそこで自己主張をしてしまうと、世の中からすぐに「必要がない」「欲しくない」と気づかれてしまう。そこで自分を消し、あたかも「なかったもの」が流行っているかのように、主語を変えてプレゼンしてみる。すると、人々は「流行っているのかな?」と、ようやく目を向けてくれるようになる。
「自分探し」をしても、何にもならないのです。そんなことをしているひまがあるのなら、徐々に自分のボンノウを消していき、「自分なくし」をするほうが大切です。自分をなくして初めて、何かが見つかるのです。


 「みうらさんみたいな仕事」って言っている時点で、すでに「世の中にある仕事」なんですよね。
 そういうのって、なかなか自分ではわからない。
 

 けっこう厳しいことも書かれているのですが、ものすごく真摯な「仕事術」だと思います。
 なにかを「つくる」仕事をしている人には、きっと役に立つはずです。


見仏記 (角川文庫)

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