琥珀色の戯言

【読書感想】と【映画感想】のブログです。

新幹線ガール ☆☆☆☆

新幹線ガール

新幹線ガール

新幹線が好き、人に喜んでもらうのは、もっと好き―。1日に300本以上の列車が走り、40万人近くが利用する「日本の大動脈」東海道新幹線。その多くの車両で働いているのが、全社900名の新幹線パーサーたちだ。その厳しい訓練ぶりと哀歓、日々の仕事のやりがいを豊富な写真とともに紹介。

 本屋で偶然見つけた本で、表紙の写真の徳渕さんを見て、「ああ、感じのいい人だな」ということで買ってみたのですが、正直なところ「まあ、JRも写真とかでかなり協力しているみたいだし、『本音』は書きにくいところはあるのだろうな」という印象は受けました。それでも、「新幹線パーサー」という仕事を知らなかった僕としては、なかなか興味深い本ではあったんですよね。あの人たちは「車内販売だけをやっている人」じゃなかったんだな、ということもわかりましたし。
 ところで、僕がこの本を読んでいちばん考えたことって、「サービス業にとっての『才能』って何だろう?」ということでした。失礼ながら、著者の「まだ22歳で、アルバイトから正社員になったばかりなのに300人の『社員の新幹線パーサー』の売り上げトップに立った」徳渕真利子さんは、「絶世の美女」という感じの人ではありません。確かに笑顔は素敵なのですけど、見た目に関しては、「普通の若い女性」なんですよね。そして、彼女は専門学校卒業後、一度名門ホテルに就職したものの、そこでの「お客によって差をつける」サービスのやり方やギスギスした人間関係に疲れてしまって、憧れだったホテルを辞めてしまうのです。「人と接する仕事が好き」で、のちに「新幹線パーサーの売り上げトップに立った」彼女でも、ホテルマンとしては「挫折」を味わっていたんですよね。たぶん、ホテルでの勤務経験というのは、彼女の「新幹線パーサー」としてのキャリアには、ものすごくプラスになってはいるのでしょうけど。
 この本のなかで、最も印象的だったのは、次の部分でした。

 パーサーをやるには、性格的に向き不向きもあると思います。まず心が広いこと。そして、すぐ傷つかないこと。小さいことを気にして考えこんでしまう人には、絶対に向いていないと思います。私自身は「嫌なものは嫌」という頑固な部分はありますが、意外と神経が図太く、怒られてもあまり落ち込みません。理不尽なトラブルに巻き込まれたりしても、意識して「忘れよう」とすることができます。前向きな性格は、数少ない私の取柄のひとつです。ワゴン販売は結局、個人プレー。だから孤独が苦手な人も向いていません。

 「サービス業」っていうのは、すべからく「孤独が苦手」な人のほうが向いているのではないかと思っていた僕にとっては、なんだかとても考えさせられる言葉だったのです。同じ「サービス業」と呼ばれる職種のなかでも、けっこう「向き不向き」ってあるのかもしれません。徳渕さんは、ホテルマンとしては成功できなかったわけですし(彼女が辞めた経緯を読んでいると、他のホテルだったらうまくいっていたのかもしれないけれど)。「自分なりのサービスを突き詰めてしまう人」というのは、組織のなかでは、周りとの軋轢を生んでしまうことだってありそうです。でもたぶん「人間が好き」なことと「孤独が苦手」なことっていうのは、似ているようで全然違うのだろうなあ。
 この本には、「売り上げナンバーワンになるための秘訣」みたいなことは具体的にはほとんど何も書かれていなくて、僕はちょっと残念だな、と感じたのですけど、それは逆に、「ナンバーワンになるのには、そんなに『特別なこと』なんて必要ではないのだ」ということなのかもしれません。むしろ、「ちょっとした気配りと創意工夫」の積み重ねこそがすべて。
 これを読んで、僕も「新幹線パーサー」という仕事になんとなく親しみを持ちましたし、今度新幹線に乗ったら、コーヒーくらい飲んでみようかな、という気持ちになりました。もっとも、売り上げは彼女たちの給料には全く関係ないそうなのですけども。
 

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