月読みの森

ちょうちょ・3

 三

 皆が司令室に入った時、ギシン星へと繋いだ通信に、ちょうどルイが画面に出たところだったようだ。
「どういうことですか?」
 いきなりの呼び出しに、疑問が彼女の口から漏れる。
「それは、こちらが聞きたいことだ」
「え?」
 ケンジの言葉に、何か手違いがあっただろうかと思う。
「ロゼが来た」
「ええ。それは、こちらからも連絡しました」
「だが、それだけだ」
「え?」
 もう一度、ルイの口から同じ言葉が漏れる。
「彼女からは、何の説明もない」
「どういう…」
「タケルを連れて、籠もったままなんだよ、一体全体、なんだってんだ?」
 いい加減、進まない会話にキレかけていたナオトが、叫ぶ。
「ナオト!」
「でも!」
 そのいかにも相手を責める口調に、流石にケンジがたしなめる。
 だが。
「タケル…マーズが、どうかしたのですか?」
 それに答えたルイは、震えていた。
「ルイ?」
「教えてください、マーズは、どうしたのですか?」
「倒れ、たんだよ」
「倒れた? 何時? なぜ?」
 震えながらも、ルイは問いかける。
「先刻だ。理由なんか分かるか。いきなりロゼが現れて、連れてくって…」
 それに、ナオトには答える義務はない。
 ないけれど、なにかが、答えろと急かす。
 きっとそこに…
「ロゼが、そう言ったの?」
「ああ」 
「連れていった?」
「ああ」
「何も言わず?」
「そうだ」
「ああ、おそ、かったのね」 
 それが、答え?
 けれど、その意味は、分からなかった。
 だから。
「どういう、意味だ?」
 問う。
「時間が…」
「時間?」
「マーズは、もう二度と地球には来ない。それだけよ」
 それは、そんなにも言いにくいことなのか。
 そう、聞こうとした時、口ごもるルイの声に被さるように、声が聞こえた。
「なん、だと?」
 彼らの、後ろから。
「聞こえなかった?」
 冷たい、冷たい。
「マーズは、二度と地球には来ないと言ったのよ」
 感情を、一切含まない。
 それでいて、なぜか哀しさを含んだ声が。
 その声の主は、ロゼ。
 何時の間に入ってきたのか。
 彼らのすぐ後ろにいた。
 いや、そんなことは、彼女が超能力者であることを考えれば、無意味であろう。
 だが。
 その言葉は。
 その言葉の意味、考えなくてはならない。
 無視しては、ならない。
 だから、問う。
「どういう、意味だ?」
と。
 けれど。
「地球には、モンシロチョウという白い蝶がいるのですってね」
 返ってきたのは、すさまじく見当違いなモノ。
「マーズに聞いたの。小さい頃…青虫のときはキャベツを囓って、大きくなったら花の蜜を吸うんですってね」
 一瞬、誤魔化す気かと怒鳴りかけた。
 だが。
「合理的ね」
 目が、違う。
「でも、哀しいわ」
 ロゼの目は、どこまでも哀しくて。
 嘘を言おうとする者の目ではなかった。
 だから。
「どこが、だ?」
 聞こう。
「だって、それしか、食べられないんでしょう?」
 答えを。
「それがなくなったら、どうするの?」
「そんなの、なんか代わりを探すさ」
 そう言いながら、恐ろしい予感が、胸を締め付けた。
 ロゼは、何を言っている? 
 蝶が、どうしたって言うんだ?
 今は、タケルの事だろう?
「そうね。でも代わりは、代わりよ。本当にはなれない。…違う?」
 答えられなかった。
 答えのないことを答えに、ロゼは続ける。
「それで生き延びて、青虫は蝶になれるの?」
 頼む、から。
 頼むから、そんな難しいことを聞かないでくれ。
「なれたとして、それは本当にモンシロチョウなの? いつまで生きて、いられるの?」
「ロゼ!」
「同じよ。
 マーズが地球で生きてこられたのは、奇跡よ。普通ならカプセルから出された途端に、死んでいてもおかしくないわ」
「で、でも、それくらい、調べて…」
 何とか、救いを求める。
 潜入だろう…と。
 けれど。
「殺す相手に、そんな情けをかける皇帝だったと?」
 そんなことを本気で思っているのか。
 元々、地球を滅ぼすのが目的。
 自分の命令に従えば良し。少々時期が早かろうが、目的が達せられればそれで良かったのだ。
 それを考えれば、たしかにそれはひとつの奇跡。
「でも」
 感情を含まない声が、何かを予感させる。
「その奇跡は、もう終わり。生命維持装置が、最終警告を出したわ」
「最終、警告?」
「やはり、何も言っていないのね」
 どこか諦めたような、溜息。
「ギシン星と地球、大気組成は似ている。だから、ヘルメットなしでも生きられる。これは、いいわね?」
 それは確かに。
 でなくては、ギシン星での活動は、大幅に制限されていただろう。
「それでも、人体組成は違うわ。当然、必要とされる栄養素もね。
 …貴女になら、わかるのではありませんか?」
 視線の先には、静子。
 タケルを育てた、者。
 彼女の知っているのは、些細なこと。
 彼が、小さい頃はすさまじい偏食だったこと。
 それだけ。
 それだけ、のこと。
 でも。
 彼女は何も言わなかった。
 言わずに、ただ顔を伏せる。
 どこかで、分かっていた、から。
 この子は、違うのだと。
 そこまで明確では、なかったけれど。
「彼は地球で何を食べても、それは取り込まれることはなかった。
 いえ。
 少しは、あったのかもしれない。でなくては、ここまで生きてはこれなかったでしょうから」
 言葉は、矢だ。
「それでもマーズが表面上は何事もなく…超能力まで発揮できて生きらてこられたのは、ここまで育つことができたのは、生まれてしばらくは、ギシン星にいたこと。母乳を与えられていたこと。
 それとある程度の期間、カプセルに入っていたから、でしょうね」 
 恐ろしいまでの正確さで、皆の胸を穿つ。
「でなくば、子どもの頃に死んでいるでしょうね」
 人間として最低の組成は、乳児期に形成される。
 その時に正しい栄養を正しく取れていた。
 それが、基盤となった。
 だからこそ、地球(別の星)でも生きていられた。
 違うモノから、何とか似たものを探し。
 同じモノを探し。
 在るモノと組み合わせ。
 マーズを形作ってきた(生かしてきた)。
「でも、もうダメよ」
 はっと、する。
「体が、もう限界に来ているわ。このまま地球にいたら、マーズは死んでしまう。今ですら、治療カプセルに入ることで、かろうじて命を保っているのよ」
「……喰いもんを、ギシン星のだけにするとか…」
 そうすれば、地球でも。
 そう言いかけて、止める
「…マーズが、なぜ地球に帰ってきたのか、分かる?」
 それができるなら、ロゼはそうしていただろう。
 マーズが、タケルがどれほど地球を愛しているかを知っているから。
「気づいたから」
 その彼女が、連れて帰るという。
「マーズの体は、あの時でもうぼろぼろだったの。旅立って半年ほどした時、マーズは血を吐いたわ。それで、分かった。後の半年は、ギシン星で治療してたの」
「もし、そのままギシン星で治療してたら…」
 答えは、横に振られた頭。
 確かにそうしていれば、時は遅らせられたかも…しれない。
 けれど、籠の鳥となるのは同じ。
「だから、マーズは…」
「地球に来たって…?」
 同じ籠の鳥となるのなら、最後にと。
「死ぬかもしれなかったわ」
「え?」
「本当なら、生きていくためにも治療が必要だった。それでもマーズはここへ来ることを望んだわ」
 その時間が、惜しいと。
「だから」
 たとえ、その後がどこにも行けなくなろうとも。
「約束したわ」
「約束?」
「地球へ送られたときのカプセルと、今でもマーズは繋がっている。
 だから、それが最終警告を。これ以上の治療延滞を由としない時までならと」
「それが」
「それが、生きられるぎりぎりだから」
 それでも。
「それまでなら、治療をすれば、生きられるわ。普通に暮らせるようになるまで、この後、マーズは少なくとも一年は治療に専念しなくてはならないけれど。
 それでも」
 生きては、いてくれる。
 そのために、私は来たのだから。
 その言葉に。
 絶望に、とらわれる。
 自分たちに、とるべき手段はもうないのだと。
 友を留めれば、死しかないのだと。
 友の生を望むのならば、ただ黙って見送るしかないのだと。
 その事実に。
 皆の表情が、曇る。
 絶望が、心を締め付ける。
 沈黙が、落ちる。
 けれど。
 その沈黙に、今一度声が発せられる。
 一筋の、光として。 
「あなた達は、来られるわ」
 パンドラの箱の底には、希望があるんだよ。
「え?」
 それは、誰が言ったのだろう?
「マーズはもう、どこにも行けないの。
 ギシン星の空気を吸い、ギシン星の水を飲んで、ギシン星で取れたモノしか食べられない」
 他のモノを取るということは、彼の体を弱らせるだけにしかならない。
 後に待つのは、早すぎる死、のみ。
「でも」
「…俺たちが行くのは、いいのか?」
「ええ」
 それがどんなに小さな物でも。
「来て、あげて」
 望みがあるのならば、人間は生きていける。
 生きているだけではなく、“生きて”欲しいから。
 だから。
 いつでもいい。
 来て欲しい。
 待っている、から。
 そう言って。
 ロゼは、帰って行った。
 容態が取り敢えず落ち着くのを待ち。
 タケルを。
 …マーズを、連れて。
 二度と来られないが故に、マーグをも伴って。
 家族の許へと返すために。
 家族と共に、在れるために。
 彼らに残されたのは、切り取られた一房の髪と。
 彼が日常に使っていた、細々としたモノたち。
 彼のニオイのある、モノたち。
 もう二度と、友は地球へは来ないから。
 形見として。
 来ることは、できないから。
 彼を偲ぶために。
 いや。
 来させることを、良しとはしないから。
 ギシン星に住む、友を愛する者達が。
 彼の死を望まないが故に。
 来させない。
 もう、二度と。


 それでも。

「何時か」
「ええ」
「うん」
「もちろん!」

 何時か、訪ねていこう。
 友の、許を。 





とりあえず、おしまいv
ちょうちょみてて思いついたのよねぇ

うん

感想とか在れば嬉しいなv

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ちょうちょ・2

    二

 ギシン星、中央指令部にある、小さな庭。
 そこに、今二人の女性がいた。
 小さなテーブルセットには、お茶の支度がしてあり、今が休憩中なのだとうかがい知れる。
 だが。

ガタン

「姉さん?」
 寛いでいた姉ーたとえ表面上だけとはいえーが、いきなり立ち上がったのに、妹は怪訝気な表情をする。
 けれど。
「行くわ」
 真剣な表情でつづられた言葉に、すべてを悟る。
 聞いて、いたから。
 いや、許可をしたのは、自分なのだから。
 だから。
「用意は、してあるわ。何時でも発進OKよ」
 どこへとも、何をしにとも聞かずにそれだけを言う。
「ありがと。ルイ」
 そんな妹に小さく、でも心からの感謝を込めて言い、走り出す。
 今は、一分一秒でもが、惜しい。 
 外宇宙への発進港へと急ぎ、妹の言うとおり、スタンバイされていた艇ーとあるものを積み込んだーに乗り込み、発進の為のチェックをする。
 その間に管制室へと発進の許可を求める。
 地球への連絡は、妹がしてくれているはず。
 許可が出るまでの数秒、彼女ーロゼーはただ一つのことを祈り続けていた。
(マーズ、お願い。
 それ以上、なにも食べないで…と)
 けれど、待つための時間は長い。
 待ちに待った発進許可と共に、ロゼは可能な限りのフルスピードで発進していった。
 地球へ、マーズの許へと。
   

「おめでとう!」
 その頃。
「ありがとう」
 タケルは、誕生日ー勿論、本当の、ではないがーを祝う席に、主賓として出席していた。
 場所はバトルキャンプの食堂。
 出席者は、クラッシャー隊の面々と母ー長官およびケンジも出たがったのだが、どうしても外せない会議があってパスーという、小さなもの。
 それでも、籠もる想いは、優しさに溢れていて。
 だから。
「ねーねー、タケルさん、これ、僕が作ったんだよー」
 差し出される料理を、笑いながら、食べる。
「なーに言ってやがる、ほとんどおばさんに手伝ってもらってたろーが」
「何にもしない人より、ましよ♪」
 たとえそれが、己を蝕むと、知ってはいても。
「で? ミカは出さんのか? 粉まみれになっていただろう?」
「きゃー//// そ、それはー」
「ん、美味しいよ」
 本当に、美味しいから。
 美味しかった、から。
「ほ、ほんと?」
「嘘は言わないよ」
 本当に、美味しかったから。
「良かったー」
 胸をなで下ろすミカ。
 からかうナオト。
 じゃれつくナミダ。
 みんな、みんな、忘れないよ。
 だから、
「ごめん、ロゼ」
「え?」
「ロゼが、どうかしたか?」
 思わずといった風に、漏れた言葉。
 でも、俺にはもうそれに答えるだけの力は、残ってはいない。
 ああ、ロゼ。
 君には、ほんと、最後まで迷惑をかけるよね。
 窓の向こうに感じる存在に、小さく謝る。
 でもね。
 俺は、本当に、幸せだったんだよ?
 万分の一の…いや、億分の一の奇跡かもしれないこの時間が。
 そして感謝しているよ。
 哀しみはあったけれど。
 それでも、皆と出逢えたことに。
 本当に……。

カシャーン

 その瞬間。
 時間が、止まったかのような錯覚に陥ったのは、なにもナオトだけではなかった。
 それまで笑っていたタケルが。
 倒れて、いく?
 なぜ?
 何かしなくてはと思うのに、体は、動かない。
 床にタケルが倒れている。
 ああ、分かっているさ。
 でも。
 でも!
 頭が真っ白になって、何もできなかった。
 その呪縛を破ったのは、声。
「マーズ!」
 あいつを呼ぶ、おんなの、こえ。
 それに。
「ロゼ!」
 一体どうしたんだと、言いかけて、
「何をしたの!」
 逆に詰め寄るかのような声音に、動きを再び奪われる。
「なに、て」
「何か、パーティみたいだけど…?」
 それでも何かを抑えるように、問いかける。
 それでも何かを知ろうとするかのように、問いかける。
 それに。
「ああ、タケルの、誕生日パーティを…」
 事実を、述べる。
 けれど。
「誕生パーティ?」
「ああ。過ぎちまったけど、まだ六月だし……」
「したの?」 
「あ、ああ」
「なんてこと!」
 周囲を見渡し、山ほどの料理を見て、それがまるで罪悪であるかのように、ロゼは言う。
 それでも、タケルのことが気がかりで。
「一体、タケルはどうしたんだよ?」
 仲間の容態を、多分何かを知るだろう彼女に、問いかける。
「時間がない、連れて行くわ」
 なのに、ロゼは何も言わない。
「待てよ」
 知りたくて。
 だから、タケルを立たせて、どこかへ連れて行こうとするロゼの腕を取って、今一度聞こうとした。
「離して!」
 けれど返ってきたのは、痺れるほどの衝撃と、否定の言葉。
 そして。
 タケルと共にロゼは消えた。
 一瞬の、うちに。
 まるで最初から、そこには誰もいなかったかのように。
 どれくらい、そうしていたのか?
 彼らが我に返ったのは、ケンジからの、通信によってだった。
「おい、ナオト! おい!」
「あ…隊長?」
「来い!」
「ってどこへ?」
 けれど、受けたショックに頭がなかなか回転しない。
「滑走路だ」
「滑走路?」
 何でそんなとこへ?
 未だ回転しない頭。
 だが。
「先ほど、ロゼが来た」
 ケンジの発した“ロゼ”の一言に、頭が猛烈な勢いで回転し出す。
 そうだ、ロゼ!
「ロゼは、どこです!」
 何が何でも、理由を聞かなくてはならない。
 だが。
「滑走路だ」
「滑走路?」
 その答えに、疑問符がわき起こる。
 なんで、そんなとこに?
「今朝方、ギシン星から、ロゼがこちらへ来るとの連絡が入った」
「はあ」
 確かに、来た。
「それ自体は、特に問題はない。
 だが、やってきた機体は自動操縦で、本人がどこにもいない」
「はあ」
 そりゃそうだろう。
 なにせ、ここに来たんだから。
 多分、自動操縦にしておいて、直接ここへ来たんだろう…な。瞬間移動ってやつで。
「かと思うと、いきなり通信してきた」
「なんて?」
 それが、多分タケルを連れて行った後だろう。
 ようやく、聞けるかと思えば。
「しばらく、ここに停泊させて欲しいと」
「なんで?」
「理由は言わなかった」
 なんで、聞かないんだ?
「ききゃいーじゃないですか」
「ああ。聞こうとした」
「言わないんですか?」
「ああ。それだけ言うと、切った」
「引きずりだしゃいーじゃないですか」
「できればな」
 なるほど。
 あちらも、話が分からない。だからこそ、
「引きずり出してこいと?」
「話が聞きたいんだ」
 それは、こちらも望むこと。
「りょーかい」
 だがしかし。
 あの時の様子から察するに、艇にはタケルもいるのだろう。
 ならば、力任せ…というのはよろしくない。
 むむむむむ
 ん?
 そう言えば。
 ふと思いついたことを、言葉にしてみる。
「隊長、ギシン星からの連絡って、誰からのですか?」
「あ? ルイからだ」
 何を今更、という思いが見える。
 けれど、それが大事だ。
「ルイ? なんて?」
「もうすぐロゼがそちらに着くと」
「それだけですか?」
「ああ。だから、着艦許可が欲しいと」
「その理由、言ってました?」
「いや。
 ロゼが話すからとだけ」
「で、そのロゼが話せねーと。
 んじゃ、妹に聞きましょう」
 多分、知っているだろうから。
 それは、ケンジにも思い至ったらしい。
「…道理だな」
「そっち行きます」
 明確な理由は、ない。
 それでも、彼女ならば知っていると。
 そう、思えたから。
 それは、なにもナオトとケンジだけのモノではなかったようで。
「じゃ、行きましょうか」
 数分後には、食堂にいた全員ー本当は、まずいのだがーが、司令室にいた。



えへv
またまた続き
あとひとつかな

二日遅れたけど、双子さんvハピバースディv






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ちょうちょ・1

 その日。
 研究部に所属するトーマスは、何時ものようにカプセルの研究に明け暮れていた。
 地球を、ひいては宇宙を救った英雄の…マーズという名を持つ、ここでは明神タケルという名の若者が、赤ん坊の頃に入っていたカプセルだ。
 機能そのものは、簡単なもの。
 中に入った者ーこの場合は、赤ん坊だったタケルであるがーの生命を保護するためのものであり、そのための生命維持装置等がある。
 また、その後の任務に関してだろう。ギシン星や皇帝に関する様々な情報も詰まっている。
 が。
 それらは、特に重要ではない。
 否。
 重要ではあるが、その中でも最も重要なのはそれをこれほどにコンパクトな形で可能にしている最新のシステムであり、突き詰めて言えばその技術力をこそ、彼らは欲している。
それを解明するのが、トーマスの仕事だ。
 目的は、すぐに分かった。
 だがその仕組みは、ある程度の理解は得られたものの、未だ完全に解明されてはいなかった。
 だがそれも、ギシン星との和平が成った現在、基本位置にに“超能力”というものを考えるに、解明されつつあった。
 完全に解明されないのは、理論はともかくとして、実践が伴わない所為である。
 流石にこればかりはその辺の子どもを…というわけにはいかない。
 というよりも、このカプセルは、見事なまでのオーダーメイド。
 ただ一人のためにだけ、造られたものなのだ。
 だいたい、研究が始められたのが十九年前。
 その時は事情が事情なので、軍のトップシークレットとして、極秘裏に進められていた。
 本格的にタケルの協力を取り付けての研究が始まったのが、ほんの二年前。しかも、当の相手は戦闘だ何だと、しょっちゅう約束をすっぽかしてくれるし、ここ一年は、どこかへ行ってしまうしと、研究者泣かせのモノだったりする。
 それが。
 一年ぶりに帰ってきた。
 しかも、相手は以前にも増して何かと協力的で。
 研究もさくさく…とまではいかないものの、これまでを考えれば、飛躍的なまでの進歩を見せていた。
 そして今日も今日とて。
「で、これは?」
と、とにもかくにもの相手がいないとできない研究に明け暮れている。
 そして。
「ああ、これは、伝達装置ですね」
「伝達装置?」
「そうです。」
「具体的には?」
「どうぞ」
 最初はやや戸惑ったものの、答えのために、手を出されるのももう慣れたモノ。
「ま、こんな感じですね」
 弱いテレパシーを受け取って、映像とも何ともつかないものを体験する。
「なるほどー。で、仕組みは?」
「それはですね…」
 と、トーマスとタケルの掛け合いで研究は進んでいく。
 とはいうものの。
 本来ならば、この次の段階として、本当にタケルの言うとおりなのかどうか、分解して調べるのが研究者たるモノの本分なのだ。
 が。
 それは、タケルによって厳禁とされていた。
 最初の頃は、怖いもの知らずにも、分解しようとしたこともあった。外から見るだけでは、はっきり言って全然埒があかないからだ。
 だが、分解をしようとするとしっかりと電流ー死ぬほどではないがーが流れるということで、実は、最初の十七年は、実質ほったらかしにされていたのだ。
 で。
 タケルに協力を持ちかけて見てもらった開口一番が、
「絶対に、分解しようなんて、しないでくださいね」
だった。
 理由は勿論知っていたので、
「ああ。感電するのは、イヤだからね」
「感電?」
「だろ?」
と、返したトーマスに、
「よくもまぁ、それだけで済んでましたね」
と、苦笑を返されてしまう。
「…てことは?」
「ええ。無理にこじ開けようとしたら、ま、機密保持のためでしょうね。
 爆発しますよ」
 恐る恐る聞いた答えが、これ。
 しかも、
「………規模は?」
「んー。そうですねぇ。バトルキャンプの半分は、確実に吹っ飛びますね」
 そんなにさらりと言わないで欲しかったりする答えが、返ってくる。
 しかも、タケルは決して嘘や誇張は言わない。
 それは、何となく分かる。
 彼が言うのなら、そうなのだろう。
 ので。
 基本構造については、すでにギシン星からの情報で知っているので、爆発の危険を冒すことをするのを由とせず。実践の方の確認を、タケルにしてもらうということとなった。
 だが。
「でも、トーマスさん、よく平気ですよね」
「なにが?」
「だって、普通、いやがりません?」
 そう。
 実践と言うことは、タケルの超能力を、その身に受けると言うこと。
 これがなかなかやっかいな代物だった。
 勿論、実体験しなければ分からない事というのは多々ある。
 というか、この場合は、実体験しかないのだ。
 それしか、理解は得られない。
 だがしかし。
 誰が好きこのんで、自分の心をさらけ出そうと思うものか。
 サイコキネシスとかならーそれでも、衝撃波はごめんなのにーまだしも、テレパシーはちょっと…。
 それが一般地球人の、超能力を持たない者の嘘偽りのない本音だ。
 だから、最初はタケルも無理強いする気はなかった。
 だが。
「で? 
 テレパシーってのは、どんなもんなんだ? 
 できるなら、やってみせてくれんか?」 
と、言ったのが、トーマスだった。
 それでも、タケルは一度で懲りるだろうと思っていたのだ。
 何しろ極端に言えば、自分の内側に他人が存在するようなモノなのだ。慣れていないーというか、超能力を持たないー地球人には、おぞましいだけのモノだろう。
 が、トーマスは頑丈だった。
 体も、心も。
 それ故にこそ、タケルは戦いの中でも時間の許す限り協力してきた。
 そして、今も。
 けれど。
 その中には、誰にも言えない理由もあった。
 カプセルの解明に、ギシン星の協力だけではなしえなかった理由。
 これが、タケルの…マーズの為にだけ造られたモノであるということ。
 その、為に。
 タケルは、今、ここにいた。
 そして何時も通りトーマスの尽きる事がないのでは…? という質問に答えていたとき。
 それは、起こった。
「あれ?」
「どうしました?」
「これ、なんか、ちかちか光ってんだけど…」
「え?」
 小さな。
 とても小さな、予兆として。
 それを見たとき、感じたのは、安堵。
 地球では赤で示されるそれが、ギシン星では白の明滅であったこと。
 それを、どれほど感謝したことか。
 これは、限界を示すモノ。
 約束の時間が、来たことを示すモノ。
 けれど。
 これは、まだ誰にも知られる訳にはいかなかった。
 だから。
「ああ。これは…と。
 あはは、ちょっと、風邪でも引いたかな」
「え? どういうことだい?」
 ほんの少しの真実を織り交ぜて、嘘をつく。
「これはね、俺の健康状態を示すモノなんですよ。」
 嘘ですべてを固めるよりも、ほんの少しの真実が、すべてを覆い隠してくれるから。
「健康状態?」
「そ。前にも、こんな風になったことなかったですか?」
「そう言えば、あった、かな?」
「あはは、しっかりしてくださいよ」
「悪い。で?」
「ええ。これは、生命維持が、メインでしょ?」
「ああ」
「で、今でも俺と繋がってるってのは言いましたよね?」
「ああ」
「で、その職務を毎日忠実に果たしてる。いわば、健康チェックしてるんです。で、俺に何か問題があると、こうなる」
「問題?」
 タケルの言葉に、今にも医務室に引っ張っていこうとするトーマスを軽く制して、続ける。
「ええ。といっても、白でしょ?」
「あっと、そうだな」
「これが赤だと問題ですけど、白ならね、ま、軽いんですよ」
 分かっている。
 分かっているから、もう、光るな。
 そう願っても、光は止まない。
 いや、止んでもらっては、困る。
 だから、地球の、常識に感謝する。
「あ、成る程。で、風邪?」
 それに、ほっとするのが分かるから。
「多分。ちょっと喉、痛いかなって程度ですよ」
「おいおい。今日じゃないのかい?」
 でも。
「大丈夫ですよ」
 心優しい彼をだますのは、心が痛くて。
 だから。
「でも、トーマスのためにも、今日はこの辺にしときますか?」
 逃げてしまおう。
「あっはははは。そういうことにしとこうか」
「では」
「ああ。またな」
「…じゃ、また」
 すみません。
 また…と、返しながらも、心は違う言葉を紡いでいた。
 また…という日は、もうないのだと。
 恐らくは、今日を地球で迎えることはないだろう。
 そのことを、しりながら。
 それでも、タケルは言葉を紡ぐ。
 本当になって欲しいとの、願いを込めて。

 それでも。
 研究室から、与えられた部屋へと戻り。
 午後に予定されているパーティのためにシャワーを浴びながら。
『ロゼ』
 遠く、遠く。
 一瞬のテレパシーを送る。
 ただ、名を呼ぶだけの、ものを。
 約束、通りに。





へへへへv
アレの続きv
…だれか読んでる?






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ちょうちょ

    序

    なぜ?


    その言葉だけが、頭の中を回る。


    なぜ、こんな事に?


    なぜ。


    何故。


    な、ぜ?


 その日。
 その日は、記念すべき日だったはず。
 帝王と名乗っていた独裁者が倒されて。
 旅立っていった友が一年ぶりに帰ってきて、楽しい日々の中。
 そういえば…と思いだした、彼の生誕の日。
 では、と誰が言い出したのか、パーティをしようとなった。
 楽しい、時間だった。
 空白の一年を、どちらもが聞きたがり、話したがった。
 その瞬間まで、何事もなかった。
 予兆すら、あり得なかった。
 彼は、終始笑顔だったし。
 彼のために…と用意された種々の料理を、舌鼓をうちながらー…中には、ちょーっと焦げていたのもあったが、それもー胃袋に納めていった。
 今考えれば、それは、あまりにもらしくて。
 彼らしくなかったのか?
 あまりにも違和感がなさ過ぎて。
 違和感があった。
 あったればこそ、その行動を止めれば、良かったのか。
 それなら、いつ?
 それとも、最初から何もしなければ良かったのか。
 疑えば、良かったのか?
 何かあるかもと。
 それは、分からない。
 彼は戻って来て。
 生きていたのだから。
 誰も何も知らないままに、知らせないままに時は過ぎゆき。
 彼は、笑いながら。
 優しい笑みをたたえたまま。
 倒れたのだ。
 







 皆の、目の、前、で





わはははははv
超久しぶりにssをアップしてみましたv
しっかも何だとお思いでしょうが、なんとゴッドマーズですv
ヤマトつながりで見つけたブログサイトさんみて
むかーーーし(えと七年くらい前?
書いたやつをひっぱりだしてきたのさv
うん
全部終わった後のだよv
なんかふっとその時思ったからねv

ほんとにだいじょぶなのかなって

それで、これv
あはははっははv
つたないが、ねんv




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初めてのv

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