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劇場版『ウマ娘 プリティーダービー 新時代の扉』の感想~アグネスタキオンと私の救いの物語

 主人公はジャングルポケットだし彼女の物語だけど、現役当時を知る私としては、これは不世出の天才アグネスタキオンへの救いの物語であった。あの頃の悔しさを共に見た私にとって、あのラストシーンにかけての流れは、ただただ圧倒的感謝しかない。
 2001年牡馬クラシック世代は、コレという推しの馬がいた。詳しくは後述するが、それだけに思い入れはある。……あるが、正直、私の中で、あの年の牡馬クラシックは、皐月賞で時間が止まっている。何故なら、当時私の激推しだったアグネスタキオンが、皐月賞勝利後に故障(左前浅屈腱炎)で、日本ダービーを前に即引退したからだ。競馬を始めてまだ数年しか経っていない私が、デビューから強さに惚れ込んだ初めての馬。それが、アグネスタキオンであり、彼のいない牡馬クラシック戦線は、自分にとって、ハッキリ言って消化試合に等しかった。それとは別に競馬ファンであるので、ほぼ毎週馬券は買っていたけど、あまり乗り気ではなかった。ああ、でもクロフネには、かなり期待をしていたかな(実際ダート路線で覚醒して強かった)。
 アニメの劇中、皐月賞を制したアグネスタキオンが、突然、記者会見を開いて無期限休養を言い出した。その中継を見ていたジャングルポケットの表情は、まさに屈腱炎で引退の一報を知った当時の自分を見ているようだった。ジャングルポケットは、日本ダービーを勝って、日本一のウマ娘になった。でも皐月賞の完敗が、目の前をちらつかせてしまう。勝ち逃げされた(と本人は思っている)アグネスタキオンとの勝負付けは済んでいない。故に、あの強さの印象が心に深く焼き付いてしまい、どこまで追っても越えられない。自分自身の幻が、心の壁のように立ちはだかる。ジャングルポケットが、如何にして自分の幻を突き破り、ジャパンカップを制したのか。
 タナベトレーナーの元でジャングルポケットのトレーニングパートナーになっているのがフジキセキというのも興味深い。フジキセキは、朝日杯3歳ステークスを制し、皐月賞トライアルの弥生賞も勝って、当時のクラシック最有力だった。そのフジキセキもアグネスタキオンと同じ左前浅屈腱炎で引退を余儀なくされた。クラシックの出走は叶わなかったが、その強さ故、幻の三冠馬とも呼ばれた。ジャングルポケットは、トレーナーとしてセミリタイアしてるタナベのもとでトレーニングを重ねる。タナベトレーナーとフジキセキが思いを託したジャングルポケット。彼女の挫折を救ったがフジキセキだ。彼女も前に進めなかった。それはケガのせいであるが、フジキセキが、もがくジャングルポケットを一歩前へ踏み出させる秘策。ジャングルポケットのひたむきさに、彼女の止まった時間が再び動き出す。フジキセキとアグネスタキオンは、環境こと違えど、境遇は似ている。全力を出し切る前にリタイアした。前に進もうとしなかった。別な道もありな気がした。でも、火を付けたのはジャングルポケットだ。
 ここからが、私にとっての「劇場版 ウマ娘 プリティーダービー」の重要ポイント。アグネスタキオンは、理由不明の無期限休養でクラシック戦線をリタイアする。その後のアグネスタキオンの言動に困惑、苛立ちを隠せないジャングルポケットたちだが、部屋の荒れ具合を見てると、彼女もまた目標を見失った燻りを感じているように思える。より速く。誰より速く。ウマ娘の可能性を超える速さへ。アグネスタキオンの研究は、全てそこに集約されていた。だからこそ見えてしまう。己の脚の限界に。ジャングルポケットがアグネスタキオンの強さを追いかけていたなら、アグネスタキオンはジャングルポケットたちの可能性を追いかけていた。アグネスタキオンは、PCのモニターでレースを見ながら貧乏揺すりする。そのリズムは、まるで馬の走るリズムを彷彿させる。同期がG1レースで結果を出し始め、彼女の中に眠るウマ娘の本質を感じ始める時、目の前に見えるのは、ジャパンカップのジャングルポケット。あの激走を見て、アグネスタキオンは何を思う。
 ジャングルポケットのジャパンカップを見て、私も止まっていた時間が再び動き出した気がする。あれから23数年。心の中でずっとアグネスタキオン最強説を思いながらも、何もしなかった。サイレンススズカが亡くなった時は、PS版「ダービースタリオン」で再現(あるいは類似)配合でサイレンススズカを育てて、天皇賞(秋)を勝たせた。サートゥルナーリアが日本ダービーを勝てなかった時は、「ウイニングポスト」でサートゥルナーリアを買って牡馬クラシック三冠を制覇した。私もアグネスタキオンと共に、可能性の果てへ、その先へ、さあ、新時代の扉を開きに行こう。
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