P-1とは、防衛省・川崎重工が開発し、現在海上自衛隊への配備が進められている最新鋭哨戒機である。
概要
海上自衛隊が運用しているP-3Cの後継機として2002年から開発が開始された。試作機の初飛行は2007年。2013年に防衛省が開発の完了を発表、P-1の制式名称が与えられた。2015年度までに33機が予算化され、[1]2020年の時点で19機保有しているとされる。[2]
装備品等[3]
- 新開発の国産エンジンF7-10ターボファンを4基搭載(内側の2基はスラストリバーサー装備)
- FBL(フライ・バイ・ライト)システムを採用
- HYQ-3戦闘指揮システム
- HQA-7音響処理装置
- AQA-7デジタル式ソノブイ信号分析機
- UYS-1音響信号処理装置
- HRQ-1ソノブイ受信装置
- MAD(HSQ-102磁気探知装置)
- HPS-106アクティブフェイズドアレイレーダー(Xバンドを使用、SAR、ISAR、対空の各モードあり)
- HAQ-2光波装置
- HLQ-109B逆探知装置
- 兵装はP-3Cの装備(対潜魚雷、対潜爆弾、AGM-84Cハープーン、ASM-1C)を共用。AGM-65マーベリックの搭載計画あり。
開発
現在の日本における哨戒機の役目とは潜水艦ハンターだけではなくなっている。日本領海内をパトロールし、行き交う船舶の監視、あるいは排他的経済水域(EEZ)であやしげな活動を行う艦艇の監視もあげられる。(ちなみに日本のEEZの広さは世界第6位の広大なものである)そのため必要とされる哨戒機の数は他国に比べると数多い。アメリカに次ぐP-3Cの運用数を誇るマンモスカスタマーと呼ばれるにはそれだけの理由もあった。(と同時にUS-1/US-2などの飛行艇など長距離救難機などを準備している理由でもある)
同時にP-3Cでの問題点も浮きぼりになっていた。不審船事件でRPG-7が発射された事例を受けて、万が一低空で飛行する哨戒機に向けて携行型対空ミサイルが発射された場合などの対応などがP-3Cでは難しいこともあった。また、EEZで何かと某国所属の戦闘機に妨害されるという事例もあるという。
P-3Cの後継機について揉めているアメリカの様子を見て、日本ではP-3C導入の件で流れた国産哨戒機導入計画が新たに立ち上がった。哨戒機としての任務+経空脅威に対する残存性向上が求められたのは想像に難くない。
防衛省は開発にあたり国内各メーカーにプランの提示を求めたが、どうも話に漏れるところによるとF社とかM社は亜音速巡航で高高度からGPSによるピンポイントでソノブイを投下するとか、対空ミサイルやロケット弾、はてはM61バルカンを搭載するとか、哨戒機というより空中巡洋艦じみた化け物プランが提示されてきたので、もっとも穏当な川崎重工のプランを選んだようではある。もっとも、川崎重工の主任設計技師が後に語ったことによれば「本当は可変翼にしたかった」らしい…。まぁそれも見たかったもしれないが、手堅い設計が一番かもしれないだろう。(無論、ロマンや趣味だけで可変翼を考えたわけではない。哨戒空域までいち早く進出する高速性と、空中機動や滞空時間などを考えると可変翼というのも考えの一つとしてありと言えるだろう。が、可変翼機のもつ構造上のデメリットである機構の複雑性からくる重量増加なども勘案すると採用を見送られたとみるべきだろう)
P-X/C-X計画は川崎重工をはじめ国内の航空機関連メーカーが分担して作業にあたることになった。
哨戒機と輸送機というおよそ運用形態が違う二つの機種の同時開発という世界にも例を見ない計画は最初から疑問視されていたが、開発チームはあっさりとF-111のような徹を踏まないよう、部品の共通化だけに留めることを発表。2001年からの開発にあたっては川崎、三菱、富士、日本飛行機という主だった航空機メーカーのスタッフを集約したため、2000年代というか戦後最大の航空機ビックプロジェクトになったのだが、あまり大げさに取り扱われることは無く淡々と開発は継続することになった。
こうして開発されたP-Xは、それまで旅客機などのフレーム転用が多い哨戒機の中で専用の機体フレームが設計されると共にエンジンは国産ターボファンエンジンIHI XF7-10を選択。推力6.1トン。スラストリバーサー(逆噴射機能)を備えた低燃費・低騒音エンジンを四発搭載となる世界でも例を見ない機体となった。このIHI XF7-10。ターボファンということもあり当初はターボプロップのP-3Cよりも騒音が大きくなると思われたが、厚木基地に飛来した際にそのことを理由に反対しようと思ったのか、騒音調査に待ち受けたある種の団体は肩透かしにあってしまったとか。一時期、4発のエンジンのうち2発を止めるケースもあるという意見もあったが、これは開発チームから否定のコメント(の記事)が出ている。
機体形状は主翼、尾翼ともに後退翼となり、機首にアクティブフェイズドアレイレーダーであるHPS-106を持つ。このレーダーは東芝が開発を行ったもので最新のXバンドGaN素子を使っており、3面の空中線部(レーダーアンテナ)が機首と両側面に設置されている。P-1の特徴的な機首ノーズコーンの大きさはこのためともいえる。また、HPS-106は強力な対空モードを備えるのも特徴である。もちろん敵の経空脅威そのものと交戦することを念頭に置いているわけではないが、空自のAEWないしAWACSの支援なしで対空警戒を行えることは最前線で任務を行う哨戒機にとっては大きな利点であり、生存性向上に寄与するものと考えられる。もちろんレーダー以外にもその他にも哨戒任務に必要なセンサーシステムを各種備えている。
またこのほかにも先進的な戦闘指揮システム(ACDS)であるHYQ-3を搭載している。これはセンサーからのデータを元に蓄えられたデータベースから最適の対応手段を搭乗員に知らせるというある種の人工知能システム(いわゆるエキスパート・システム)となっている。これにより搭乗員のワークロードを軽減することを目的としている(すでに海上自衛隊には導入済みの実績あるシステムの改良版でもある)。
そのほか潜水艦狩りに必要な各種ソノブイ投下装置も供える一方、翼下にハードポイントも設置。最大8発の対艦ミサイル(AGM-84)を搭載できる…他、各種自衛隊が装備、あるいは装備しようとしている攻撃手段の数々(ASM-2D/L、空対空ミサイル、あるいはJDAM)などを搭載可能だとすれば…高速・遠距離への進出能力+先進の対空・対水上・対海中センサー群及び戦術システムなどを搭載した機体となる。…それってなんて現代によみがえる中攻?
2007年に開発中の1号機に使用されたリベットの不具合などのトラブルがあったものの無事ロールアウト。同年に初飛行を行い、P-XからXP-1と呼称が変更。その後は若干のトラブルはあったものの解決、あるいはその目処がたったようで開発は順調に進んだ。2012年9月にはP-1量産初号機が川崎重工岐阜工場から初飛行に成功した。
2008年より調達はスタートしており、生産予定機数は80機前後とみられている(一線配備が70機程度、現在P-3Cの改良・派生型機体を置き換えたとしての計算)。2013年には量産5号機が川崎重工での飛行試験の際にエンジン停止を起こすトラブルが発生し、配備と納入に遅延が生じたが、量産化に伴う燃料系統の設計変更が原因と特定されエンジン制御ソフトの改修による対策が講じられ、引き続き配備が進められている。
現勢のP-3Cが80~100機体制に比べると30機程度の減産だが、P-1の高速移動性と長時間滞空能力で機数の減少分を克服できると海自は判断しているようだ。
P-8(737MMA)と石破茂防衛庁長官との問題
開発も軌道にのった平成16年(2004年)、突如新聞に737MMAを導入するという記事が掲載された。当時のゲル長官こと石破茂防衛庁長官がMD(BMD)予算で防衛費が逼迫される中、国産機を多額の予算をかけて開発する必要はないのではないか。という意見をもっていたようだ。
もっとも737MMA…現在のP-8だが、高高度巡航する旅客機(B-737)をベースに改造したもので、低空・低速・長時間哨戒する(対潜)哨戒機とは運用スタイルが異なっており、UAVであるMQ-4C(RQ-4グローバルホークの海軍向け機体)との連携を前提とするなど、海上自衛隊が求める哨戒機とは運用スタイルに大きく差がある一方、当の開発についても問題が多々あり、色々と迷走した結果1機あたり2億8660万ドル(300億円近い!)という高値に成り果ててしまっている(それでもなんとか開発完了にこぎつけ、2013年には初度作戦能力を獲得している)。
ちなみにP-1は初期導入で170億。70機まで導入された場合は124億円という大変リーズナブルな価格になっているので、国産開発を選んだ点については現状正解だったといえるだろう。
また石破長官はP-1(XP-1)がエンジン四発であることにも疑念を持ちゴネたようだが『4発はパイロットの安心感です。これに命を懸けるパイロットの気持ち、わかりませんか』と海上自衛隊の幹部に説かれたらしいが、納得せず二年間(!)も揉めたらしい。[4]…まぁ、そのなんだ、(スペック厨な)マニアであることは理解できるが、運用面で実際に命をかける人達の意見はちゃんと真摯に聞いたほうがいいと思うがどうだろか。
エンジンが四発である理由は確かにあって、一つには各種電子装備に安定した電源を供給するパワーソースであるためもある。二発では片方のエンジンが止まる(ストールした)ような場合など、機体に供給できる電源が半減してしまう。
また、MAD捜索をするなど低空飛行に移った際にエンジンがストールした際にも片肺ではリカバリーする時間も猶予もパワーもない。あるいは不審船に接近した際に対空ミサイルで撃たれて被害を受けた場合、四発であれば何とか安全なエリアまで離脱できる可能性など強まるだろう。これが残存性の強化ともいえる。
四発であるということはそれなりの理由があるといえる。
関連動画
関連リンク
- 独、P1を候補から除外 「日本と協力欠如で高リスク」―次期哨戒機で 2020.10.1
関連項目
脚注
- *「新世代自衛隊機ビッグスリー」竹内修 軍事研究2016年6月
- *海自P-1は現代の一式陸攻か ミサイルや魚雷など武装面から見る哨戒機の役割とは | 乗りものニュース 2020.5.19
- *「最新軍事研究 海自新ジェット対潜哨戒機『P-1』能力調査」加賀仁士 月刊「丸」 2013年1月号
- *http://toyokeizai.net/articles/-/2005?page=3
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