まず、「がん」という言葉について。
ちょっと分かりにくいでしょうが(医者でもよく理解していない人もいるくらいなので・・・)勘弁して読んでください。
悪性腫瘍のうち、「上皮組織」由来のものを「がん(carcinoma)」といいます。
「上皮組織」というのは、人体の「表面」を形作る組織のことで、皮膚・消化管(消化管も人体にとっては「表面」です)・肺や生殖器(もともと人体の表面がくぼんで形作られたものです)の内腔などがこれにあたります。
これに対し、心臓は発生学的には「中胚葉」由来の臓器で、組織学的にはすべて非上皮組織からなります。
よって「がん」が心臓から発生することはありません。
非上皮組織から発生する悪性腫瘍は「肉腫(sarcoma)」と呼ぶ約束になっていますので、たとえば心臓の筋肉から発生する悪性腫瘍は「心臓肉腫」といいます。
きわめてまれな病気ですが、実際に存在します。
このように、悪性腫瘍が発生した場合「がん」ではなく「肉腫」と命名される臓器には、他に骨(骨にできるのは正確には「ガン」ではなく、例えば「骨肉腫」などの悪性腫瘍です)、筋肉、などがあります。
その他、血液系の悪性腫瘍である「悪性リンパ腫」は全身どこにでも発生する可能性があり、心臓に発生することもまれにあります。
また、体のほかの場所に「がん」ができて、それが心臓に転移することは時々あります。
「心外膜」への転移が最も多いのですが、心臓の中(心室や心房)に転移性腫瘍ができることも稀にあります。
お書きの通り、心臓に悪性腫瘍ができるのはかなり稀なことではあります。
なぜ、心臓には悪性腫瘍ができることが少ないのか、これに関してはいまだによく分かっていないようです。
PS giilbartさん、心臓が常に40℃以上の熱を持っているなどということはありませんよ。
検索でどのようなページをごらんになられたのかは分かりませんが、「心臓 温度」で検索してみたら、「心臓の温度は40度だ」と主張しているのは、この「知恵袋」の、一般の方々の回答のみのようですね。
「人間の体は皮膚呼吸している」という主張と同じような、一種の「都市伝説」や「俗説」みたいなものなのでしょう。
インターネット・リテラシーをもっと発揮しましょう。
インターネットには根拠が怪しい情報がたくさん流通しています。それを吟味し取捨選択することが重要です。
あんまりな情報が流通していますので、ちゃんと医学を修めた者として簡単に。
通常わきの下などで測る体温は「体表温」であり、これに対し体の中心部の温度を「深部体温」といいます。
深部体温は体表温よりやや高いのですが、それでも通常の状態では37度ちょっとです。心臓もこの温度であり、心臓だけが特に高温になっているということはありません。
よく考えてください。心臓は常に血液を送り出しており(しかも一分間に約5リットルも)、血液の温度は当然深部体温に等しい。仮に心臓だけが高温になろうとしても、心筋の壁の厚さはせいぜい10mmちょっとくらい、すぐに血液で冷やされてしまって同じ温度になるに決まってます。
尚、もし人体の深部体温が42℃の状態が続けば、細胞を構成する蛋白質自体に強い障害が加わり、各種臓器(もちろん心臓も例外ではありません)の機能が障害を受け、生命にかかわる状態になります。
「熱中症」の重症のものは、まさにこのような状態になるのですよ。
追記に対して:
参照されているこれらのページはすべて、言葉はちょっとよくないかもしれませんが、いわゆる「素人」の方々の意見の域を出ないものです。
そもそも、私が書いておりますように「心臓ガン」という言葉を用いていること自体、医学知識に欠けた人物が書いた、非常に信頼性の乏しい情報であることを如実に示しています。心筋にできる原発性悪性腫瘍は前にも書いたように「肉腫」です。
「横紋筋は分裂しないからガンにならない」(横紋筋から発生する悪性腫瘍は「横紋筋肉腫」といって、まれな病気ですがちゃんと存在します)など、明らかに間違ったことを書いてありますねえ。
プロの内科医から見ると、失礼ながら読むに耐えないたわごとの羅列です。
真実は前にも書いたとおり、「心臓の温度は深部体温に等しく、通常は37度強である」です。
深部体温が40℃になるのは非常な高熱をともなう病気のときか、熱中症のときだけです。
これでもお疑いなら、医学書をひもといて生理学の勉強をされるしかないでしょうね。