元教員です。
若い頃、先輩から、「漢字のは『ハライ・ハネ』などの細部にこだわらないように・・。」という指導を受けました。
字体によって、細部は異なっていて、どれが正しいとは言い切れないからです。
小中学校では、教科書体で学習します。
高校では、明朝体になります。
この二つの字体が異なっている漢字もあるのです。
例。医。
教科書体では、矢の最終画はトメですが、明朝体ではハライです。
ですから、細部にこだわりすぎると、小中学校で〇なのに、高校では×という事態も起きてしまうのです。
お尋ねの県は、教科書体・明朝体、ともに、トメですが、楷書体では、ハネます。
ですから、どちらでも〇だと、私は思います。
ただ、学習指導要領に漢字の学年別配当表という資料があり、小中学校では、その字体(教科書体です)を基準にして採点している先生が多いのです。
まじめな先生ほど、その字体と違うと×にしてしまう傾向があるのです。
実は、文部科学省は、はやくから、その弊害を憂慮しており、
昭和24年 当用漢字の字体表が公表された際、「当用漢字字体表・使用上の注意事項」も付け加えています。
それには、「この表の字体(つまり、教科書体)のトメ・ハライ等については、必ずしも拘束しない。」と明記されており、この方針は、今も、生きています。
その通知には具体例も書かれています。
例 空 工の上部は ハでもルでも良いのです。 考えてみれば、空の上部は、穴ですから、むしろ、ハの方が正しいのです。ルと曲げるのは、下部の部分との間をつめて、引き締まった印象を与える工夫なのだと思います。
また、果の下部は 木のように、左右ともつけてハラッテもよく ホのように離してトメてもよいのだそうです。
また、漢字学者の中には、「教科書体の元の字を書いた書道家は筆癖があり、漢字本来の字体でない。」と批判する声もあるそうです。
以上、長々と述べましたが、参考になれば幸いです。
なお、知り合いの元教員からこんな資料をもらったという形で、担任の先生に、「当用漢字字体表・使用上の注意事項」の話を提供なさってもよろしいかと思いますが・・・。
捕捉
私は、子どもに対して、「教科書体では・・・明朝体では・・などと、くだくだしく教えろ。」などとひとことも言っていません。
トメ・ハライなど細かな点によって、書き取りの正誤を決める必要はないと申し上げているのです。
「ハネても、トメても、どちらでもよいのだよ。」と教えることが、どうして子どもを混乱させるのですかね?
25年間、学級担任をしていましたが、混乱など、まったく、ありませんでしたよ!
トメ・ハライなど細かな点にこだわる風潮を呼んだのは、それをメシのタネにしている人たちが大々的に宣伝しているからです。
一つは、受験屋さん。実際に、私立中学校が、どんな採点基準によっているか分かりませんが、彼らの中に、教科書体だけが〇、他は×として指導している輩がいます。指導内容を精密にすればするほど権威が上がるとでも思っているのでしょうね。
いま一つは、辞書屋さん。大手の出版社で、教科書体にそって、「ここはトメル」「ここはハラウ」など「正しい漢字の書き方なるもの」を掲載し、それをウリにしている例があります。
編集担当者に、直接、電話して、質問しました。
以下、そのやりとりです。
「貴社の字書の字体が唯一絶対正しいとしている根拠は?」
「文部科学省の学年別漢字配当表に準拠しています。」(得意げに)
「その配当表の字体が唯一絶対正しいという根拠は?」
「・・・(長い沈黙後、絞り出すような声で)ありません。」
「では、旧文部省自身が、昭和24年、教科書体の細かな点にまで拘泥するなと言っていることはご存知ですが?
文化庁の担当者から、その通知は今も生きていることたしかめましたが・・・
また、ご存知ならば…その通知を無視されている理由は?」
「・・・(さらに長い沈黙)後日、調べまして、ご返事します。ご連絡先を・・・」
で、その後・・返事は、いっさいありません。
愚にもつかぬ、細かな点に拘泥して×をつけ、漢字嫌いの子どもを増やしている。
それが教育か?
今も疑問を抱いています。