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2006年9月26日 (火)

続・不適合営業おばちゃん=2=

☆ 前回の終わりに書いたように,おばちゃんの営業姿勢はGNN(義理と人情と浪花節)だから,要はかつて自分を可愛がってくれたな意味じゃなくて。。。たぶん^^;)偉い人のツテを辿って営業が続いていく。これはこれで何か問題がある訳ではないが,個人相手の営業ならともかく法人相手にこれをやられるから,財務部門はたまったものではない。何しろ営業マンが十分に説明できない商品の購入稟議書を書いて説明して回るのだから,おばちゃんの顔を見るのも嫌だと言われればそりゃそうだろうなと納得できるのである。

☆ さて,前回の成功に気をよくしたおばちゃんと上司の部長は,似たような商品を持ち込んでは成約させていた。商品設計は前回話した通りだが,売り込む時期が違うから,為替レートは若干円安になっていた。これも成功。その次は豪ドルである。。。?

☆ おばちゃん達が豪ドル仕組み債を持ち込んだのは,去年も押し詰まった時期だった。これも結果論だけ言えば,現段階ではセーフである。ただ資源国の通貨を利率設定の条件通貨に使ったあたりから注意すべきだったのかもしれない。基本的にこういう商品設計の場合,為替は流通量も多い米ドル以外は好ましくない。米ドルだって本質的な問題を抱えているのだが,強い米ドルは米国の国益といつまで言ってくれるか(もちろん半分以上はタテマエだが)によって,その成果は変わってくるだろう。

☆ 前置きが長くなったが,おばちゃんチームが持ち込んだ㌧でもない商品を紹介する。

(2)リバース・フローター債(スノーボール&ターゲット・リデンプションタイプ,レバレッジ型,後決めクーポン)20年債

☆ 見るからに金融工学っぽいでしょ(爆)。例によってこの商品の特徴を先に書くと。。。

リバース・フローターインバース・フローターとも言う。普通,債券金利は,全体の金利水準(FFレートとか短期金融誘導目標などの短期物から10年国債利率のような長期物まで)が上昇すれば,それにつれて上昇する。最初から利率が決まってしまっている既発の債券価格は下落し,利回り水準が同一になるようになる。ところがどっこい。リバース・フローターはこの常識の逆を行く。あとで算定式を見れば「なんだそうか」と思うだろうが,この商品は,とにかく金利水準上昇すると,商品の利率下がってしまうのだ!

スノーボール雪だるま。別に債券の形がまん丸な訳じゃない(^▽^;)。これも算定式を見たら分かるが,雪だるまが転がと周囲の巻き込んで大きくなる。だからスノーボールという名前が付いている?!

ターゲット・リデンプション : ここに来て,ようやく前回見た単語が出てくる。ターゲット・リデンプションとは,この商品から得られた利金合計額が一定の限度ターゲット)に達したら,そこで元本強制的償還リデンプション)されるということ。

レバレッジ型 : レバレッジはご存じのように「梃子(てこ)のこと。レバレッジを利かせるという言葉があるように,小額の投資で大きな効果利益なら良いが損失もあり得る^^;)を得るやり方である。恐ろしいことに,あたしが読んでみた商品のパンフレットからは,どこにどういうふうにレバレッジがかかっているのか,全く理解できなかった

後決めクーポン : クーポンは「利札」。この場合は利率のこと。この商品の利率の決定日は,各利払い日の10営業日前であるから,商品購入時点では利率が決まっていないことを「後決めクーポン」と言っている。

☆ という訳で,商品の特徴のすべてがアヤシイ。いちばん最初に引っ掛かるのは,リバース(インバース)フローターである。この商品が持ち込まれた今年の春先日銀は既に量的緩和政策止めた。実際にそのあと利上げ(=ゼロ金利解除)を行ったのだから,こんな時期にリバース・フローターオプションがついた「債券もどき」なんぞ買えば,自分から「我が輩はカモである」と名乗り出るようなものだろう。当時の雰囲気は「量的緩和の解除は既定コース。ゼロ金利解除の利上げは早晩避けられない」だった。ただし「ゼロ金利解除後の金融政策」については「時間をかけて慎重にやってくれ」という大合唱(別名「政治的圧力」)があったのも事実。イチかバチかでこれを買うというのなら,ゼロ金利解除後の短期市場緩慢に上昇し,利金の総額がターゲットに届くという読が必要になる。そういったことも含め,この商品がどう設計されているかを書いてみる。

1.通貨:ユーロ円
2.発行日:平成18年某月某日
3.利率:当初1年間   6.00%
     その後19年間 前回クーポン+1.05%-2×6ヶ月円LIBOR
     (利率は0.00%以上=マイナス金利なし=)
  ※LIBOR=London Inter Bank Offered Rate(ロンドン銀行間取引金利
   ちなみに昨日の夕方に見た6ヶ月円LIBOR0.4835%だった。

  ※スノーボール=前回クーポンにプラスされる1.05%の部分
  ※リバース・フローター=上の式を見れば分かるように,6ヶ月円LIBOR上昇すればするほど,この債券「らしきモノ」利率下がってしまう。これがリバース・フローター(インバース・フローター)の正体なのだ!(と強調するほど高度でもないか^^;)
4.利払日:発行日の翌日(受渡日)起算で6ヶ月後から
      利息期間計算方法=30/360(1年360日,ひと月30日で計算)
      分かりにくいから例えば受渡日が5月N日だったとすると,初回の利払日は11月N日で,2回目は翌年5月N日となる。
5.ターゲット・リデンプション条項利金合計額額面の12.00%に達した時点で(その利払日をもって)強制的に償還となる。実はこれが最大の曲者だった。

額面(元本)1億円のこの商品を持っていたらどうなるか?具体的にシミュレーションをしてみる。

(1)購入時点  平成18年 5月N日 : 元本100,000,000円(以下略)
(2)初回利払い 平成18年11月N日 : 
         金利(初年度=6.00%,また経過日数は,30×6/360)
         ∴100,000,000×0.06×180/360=3,000,000円
(3)2回目   平成19年 5月N日 :
         金利(初年度=6.00%,経過日数 180/360)
         ∴100,000,000×0.06×180/360=3,000,000円

と,ここまではすこぶる順調である。ターゲットの半分を1年で稼ぎ出した。。。もちろんそれは「ぬか喜び」に過ぎないのだが。

(4)3回目   平成19年11月N日 : 金利計算式前提条件を以下の通りとする。
   ※利率決定日利払い日の10営業日前ロンドン時間午前11時6ヶ月円LIBORが,仮に今より約1%高い1.50%だったとしたら。。。
(計算式)前回クーポン+1.05%-2×6ヶ月円LIBOR なので,この商品の金利(クーポン)は
          6.00+1.05-2×1.50=4.05%となり,
         ∴100,000,000×0.0405×180/360=2,025,000円
ということになる。

(5)4回目   平成20年 5月N日 : 金利計算式の前提条件を大負けに負けて(爆)前回同様としても,
(計算式)前回クーポン+1.05%-2×6ヶ月円LIBOR なので,この商品の金利は
          4.05+1.05-2×1.50=2.10%となり,

         ∴100,000,000×0.0210×180/360=1,050,000円ということになる。

☆さて,以上よりここまで2年間の金利総額は9,075,000円となるが,1年目から2年目にかけての劇的な金利の落ち方を見た時,ターゲットである金利合計12,000,000円は,いかにも「遠すぎた橋」であることがおぼろげながら理解できるのではないか。もちろん望ましいのは,今から13ヶ月ほど先の短期金利水準6ヶ月円LIBOR)が現在約0.5%水準から出来る限り上昇していないことであるが「そんな先のことは誰にも分からない」。これがリバース(インバース)・フローター債恐ろしさである。

インバース・フローターなんてオプションは,本来「これから先の金利が下がりそうだが,いつ下がるか分からない」状況の時に威力発揮するはずだ。どう考えても「これから金利も上がりそうなんですが,目先はしっかり利が稼げますから,お買いになりませんか」なんて商品ではない!これが適合性の原則反していないというのなら,この国のデリバティブ営業は,文字通り「何でもあり」ということになる。

☆ 自分が売り込む商品の内容判らずに売る方も売る方だが,手数料稼ぎなのか自分の管轄営業チームの点数獲得なのか知らないが,こんな内容の商品をGNNで持ってくる証券会社の上司が一番の問題だ。まさに両名とも「適合性の原則」についてどう考えているのか小一時間問い詰めたい。また,少し新聞やテレビを見れば分かりそうな金融政策の環境下に,どういう儲けを狙ったのか知らないが,こんなクズ商品組成して持ってきた外資(おばちゃんの証券会社の卸元)には,良識を疑うというに「入り」で良いんじゃないかと思う。

☆ ちなみに,この商品。仮にフロートの結果,金利がいったんゼロに落ちてしまった場合,再び金利がつくための条件を計算することも可能だ。

(算式)前回クーポン0.00%だから,0.00+1.05%-2×6ヶ月円LIBOR = 0.00
         ∴6ヶ月円LIBOR = 1.05 ÷ 2 =0.525% これよりLIBORが低くないと金利がつかない!

☆ 結果的には,いったん計算式のクーポンゼロになってしまったら,現在利水準にほど近いところまでLIBORが下がらないと,満期までもう二度と利息は手に出来ないことになる。このことが,いかに発行者に有利な商品であるかここまで説明したら分からない人はいないだろう。なんともまあ,詐欺的な商品だ。ただし諸勢力がロシア人の柔道家かグレイシー一族の如く日銀4年ほど体固めにし続けるならば,逆転勝利がない訳でもない。それにしても。。。。。こんなものいらない!

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