特別企画
マイクロフォーサーズの大口径中望遠レンズを一気撮り
(前編)レンズ紹介&比較テスト
Reported by 北村智史(2015/8/26 08:00)
現在マイクロフォーサーズには、35mm判換算で85mm、90mm相当になる中望遠レンズが、マクロレンズを除いて4本ある。最初に登場したのはM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8(2011年9月発売、税別3万5,000円)で、小さい、軽い、安いの3拍子がそろっていて、なのに写りがいいと、発売当初から評判になった。
その後、コシナの「フォクトレンダーNOKTON 42.5mm F0.95」(2013年8月発売、税別11万8,000円)、パナソニック「LEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.」(2014年2月発売、税別20万円)が登場してにぎやかになったところで、最初のM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8に近いスペックのパナソニック「LUMIX G 42.5mm/F1.7 ASPH./POWER O.I.S.」が登場した。これは小型軽量なところがM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8似で、オリンパスにはない手ブレ補正機構を内蔵している。GXシリーズ以外のパナソニック機ユーザーには魅力たっぷりな1本だ。
そのLUMIX G 42.5mm F1.7を以前レンズレビューで取り上げたところ、知人から「M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8を買おうと思っていたのに、迷ってしまったではないか」とお叱りを受けたので、せっかくだからもっと盛大に迷っていただくことにしよう。というのが、この企画の趣旨である。
当初は、M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8とLUMIX G 42.5mm F1.7の2本だけでいいかと思ったが、どうせならと、より大口径のLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.と、マニュアルレンズのNOKTON 42.5mm F0.95も仲間に加えた。作例はすべてOLYMPUS OM-D E-M5 Mark IIで撮影している。
これらの4本について前編と後編の2回に分けてお届けするので、単焦点中望遠レンズの購入を検討しているマイクロフォーサーズユーザーの皆さんには、おおいに悩んでいただきたい。
各レンズの仕様比較
外装の素材は、M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8のみプラスティック製で、金属製のほかの3本に比べると少々チープさは否めない。NOKTON 42.5mm F0.95とLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.の2本はブラックのみ、LUMIX G 42.5mm F1.7とM.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8の2本はブラックとシルバーの2色が用意されている。
フォーカスリングの幅はNOKTON 42.5mm F0.95がもっとも広い約23mm。が、これは目盛り部分までを含めた数字で、ローレット部分の幅は約16mmだ。大柄なLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.は約17mm。よりコンパクトなLUMIX G 42.5mm F1.7のほうが約19mmとやや広い。M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8は約15mmと狭め。もっとも、どのレンズもMF時の操作性は悪いとは感じなかった。
距離目盛りがあるのはMF仕様のNOKTON 42.5mm F0.95だけで、このレンズのみ、フォーカシングによってレンズの長さが変化する設計となっている。ほかの3本はインナーフォーカス方式を採用しており、フォーカシングによる長さの変化はない。なお、この3本のフォーカスリングは電子式で、無制限に回転する。
NOKTON 42.5mm F0.95とLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.の2本は絞りリングを備えている。前者は絞り羽根をダイレクトに駆動する方式で、実写に使用したオリンパスOM-D E-M5 Mark IIでは、絞り込んだときにライブビュー映像が暗くなる傾向があるため、露出決定時に注意が必要となる。後者の絞りリングは電子式で、オリンパスのカメラとの組み合わせでは無効となる(絞り値はボディ側で設定する)。
コンパクトタイプのLUMIX G 42.5mm F1.7は130g、M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8は116gと軽いのに対して、NOKTON 42.5mm F0.95は571g、LEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.は425gと、マイクロフォーサーズ用レンズとしてはかなりの重量級。グリップの薄いE-M5 Mark IIの場合、ホールド時のバランスなどを考えるとパワーバッテリーホルダーHLD-8(またはカメラグリップHLD-8G)や金属製外付けグリップECG-2を併用したほうがいいだろう。
ただし、LEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.は鏡胴が太いので(最大径が74mmある)、ECG-2付きの状態では、やや指が窮屈に感じられた。指が太めの方は購入前に店頭などで問題がないかどうか、きちんと確認することをおすすめする。
比較テスト
LEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.
絞り開放ではわずかにアマさがあるが、F1.2のレンズの絞り開放としては十分以上のシャープさといっていい。解像感は、画面中心部だけでなく、周辺部まで良好で、安心して大きなボケを楽しめる。開放から絞っていくにつれてシャープさが増していき、F2.8からF8付近までは安定した高画質が得られる。
NOKTON 42.5mm F0.95のような、絞りによる描写の変化はぐっと少なく、オールドレンズファンがよろこぶような味のある描写を期待する向きには物足りないかもしれないが、その分、使い勝手はいい。
ボケ味は良好。ピクセル等倍で見ると、ピント位置の手前の少しボケた部分にわずかながら硬い印象を受けるが、縮小して見る分にはそれほど気にならないと思う。後ボケは自然で柔らかく、神経質なところはまったくない。
明るいだけに口径食もそれなりにあり、絞り開放では周辺光量の低下がやや目立つ。が、F2.5まで絞ると気にならなくなる。絞りは9枚羽根の円形絞りで、夜景バックの条件の点光源ボケの形状は、F2のときがもっとも整った円形となる。F2.5からは丸みを帯びた9角形となる。
近接能力は4本中もっとも低く、最短撮影距離0.5mでの最大撮影倍率は0.1倍(フルサイズ換算0.2倍相当)。至近距離の絞り開放は、遠距離の条件に比べてややアマめで、シャープな仕上がりを求めるならF2.8よりも絞ったほうがいい結果が得られるはずだ。
LUMIX G 42.5mm/F1.7 ASPH./POWER O.I.S.
NOKTON 42.5mm F0.95やLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.と違って口径を抑えている分、絞り開放での解像感は高い。絞っていくとよりシャープさを増し、F2.5付近がピークとなる。画面周辺部はわずかにアマく、四隅まできっちりとした描写が必要な場合はF3.5まで絞ったほうがよさそうだ。ただし、これは、絞り値を変えて撮った画像を見比べての話であって、普通に使う分には、絞り開放でも申し分のないキレ味だ。
LEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.とは逆に、前ボケよりも後ボケのほうが少し硬くてうるさい印象を受ける。とはいえ、これもピクセル等倍で見ての話なので、実用上は気にする必要はなさそうに思う。
絞り開放での周辺光量低下は小さくて、F2に絞っただけでもずいぶん改善する。画面の隅々までフラットな明るさに仕上げたいならF3.2ぐらいまで絞るといい。
絞りによる画質の変化はほとんどなく、シャープさとボケの大きさを両立させられるのが魅力。味のある描写を求める人には物足りないかもしれないが、大口径タイプの2本よりもあつかいやすく(特性的にも、大きさや重さについても)、初心者から熟練者まで幅広いユーザーにすすめやすい1本だ。
最短撮影距離は0.31mで、最大撮影倍率は0.2倍。NOKTON 42.5mm F0.95ほどではないが、フルサイズ換算0.4倍相当の近接能力は、このレンズの大きなセールスポイントだ。近接時のキレ味を重視するならF4付近まで絞ったほうがいいが、絞り開放でも十分なシャープさとコントラストがある。
絞りには7枚羽根の円形絞りを採用。口径食はあまり大きくなく、F2.2でラグビーボール状の変形はなくなる。F2.5でもっともきれいな丸ボケになり、F4ぐらいまでは比較的整ったボケ像となる。
M.ZUIKO DIGITAL 45mm F1.8
LUMIX G 42.5mm F1.7と同様の優等生タイプ。マニアックなおもしろみには欠けるが、使い勝手がよく、ほとんどのユーザーにとって、不満を感じにくいレンズといえる。4本中もっとも小型軽量で価格も安い。ただし、レンズフードが別売であるうえ、LUMIX G 42.5mm F1.7のほうが値引きがいいようで、実売価格の差はそれほどない。
絞り開放でも解像感は十分に高く、2/3段から1段ほど絞るともう少しシャープさが増す。周辺部も絞り開放からまずまずの画質で、F2.8に絞ると不満を感じないレベルになり、F4でピークとなる。画面の隅々まで鮮鋭な描写が欲しい風景などのジャンルでは、F4から回折による解像感の低下が目立ちはじめるF8までの範囲で撮影するのがおすすめだ。
明るさを抑えている分、ボケの大きさでは大口径の2本に譲るが、ボケ味は上々だ。前ボケ、後ボケともに神経質なところはまったくなく、何がボケているのかが分かりやすい素直さが持ち味といえる。
口径食は4本中もっとも少なくて、絞り開放でも周辺光量落ちはあまり目立たない。2/3段絞れば多くの条件ではほとんど気にならなくなるはずだ。
絞りは7枚羽根の円形絞りで、口径食による点光源ボケの変形は絞り開放でも少ない。夜景バックの条件では、F2.2からF3.2の範囲で整った丸ボケとなった。
最短撮影距離は0.5m。数値としてはLEICA DG NOCTICRON 42.5mm/F1.2 ASPH./POWER O.I.S.と同じだが、画角が狭い分、最大撮影倍率は0.11倍と、わずかながら高い。LUMIX G 42.5mm F1.7と比べると、もう少し寄れないのが物足りないが、至近距離でも解像感がそれほど落ちないのは優秀だ。
NOKTON 42.5mm F0.95
絞り開放の描写は非常にソフトで(というより、おそろしく“ぼへぼへ”である)、特に近接撮影時にはソフトフォーカスレンズと見まごうほどのユルさである。ピントの芯はわりとしっかりあるので、ただの大アマレンズではないが、絞り開放からキレるのが当たり前の最近のレンズを見慣れた目には、かなりインパクトのある写りだと思う。
画面中心部は、絞り開放から絞るにつれてシャープさがぐんぐん増していき、F1.8あたりからはレンズを取り替えたかのようなキレのよさを見せてくれる。周辺部はもう少しユルいが、F5.6まで絞れば四隅まで十分にシャープな描写になってくれる。
絞り開放からF2、F2.8あたりまでの、絞り値によって描写が劇的に変わる範囲は、ポートレートや草花などを採るには好適で、さらに絞り込むと、画面の隅々までのシャープさを重視する風景などのジャンルにも対応できる。
ボケはピント位置の前後ともに非常に滑らかで柔らかく、そして大きい。口径食が大きめだからか、絞り開放での後ボケにはややクセっぽさが感じられるが、それ以外は総じて気持ちのいいボケ方をしてくれる。
反面、昔ながらの多角形絞りであるため、点光源ボケはカクカクする。一方の絞り開放では、画面中心部以外はラグビーボール状に変形する。なお、口径食による点光源ボケの変形はF2まで絞ればほぼなくなる。
近接撮影能力は4本中もっとも高く、最短撮影距離は0.23m、最大撮影倍率0.25倍(スペック表では「1:4」表記)。フルサイズ換算で0.5倍相当のクローズアップが楽しめる。これもこのレンズの魅力のひとつとなっている。
(実写&インプレッションの後編に続きます)