毎週更新のつもりでスタートした本レポートだが、4回でくじけて先週と先々週はお休みとなった。気を取り直してのぞむ第5回のテーマは鉄道写真だ。過去に鉄道の車両を撮影したことはあるが、ほとんどはデジカメのレビュー記事内で使う作例のためだった。例えば、ピント精度の検証だと、構図はほとんど無視。その点では今回は「初めて撮る鉄道写真」という思いだ。
筆者が「撮り鉄」という言葉を知ったのは今年で、「乗り鉄」、「車両鉄」、「模型鉄」……と多岐に分類されるらしい。当然○○系の車両といった知識もなく、目の前を通過する車両の価値もよくわかっていない。なので、とりあえず車両へのこだわりはなく撮ろうと思う。主に撮影するのは名鉄だ。
余談だが、東京の方はメイダイ=明治大学だと思うが、名古屋ではメイダイ=名古屋大学となる。名古屋駅も名駅(メイエキ)と呼ばれることが多い。地元でも名古屋鉄道と言う人はまずいないので、ここでも名鉄と表記したい。
■使えるのか?「アドバンストスポーツ撮影」
DSC-HX5Vの機能で鉄道写真で活かせそうなのは、光学10倍ズームレンズ、高速連写、マニュアルモードあたりだ。それ以外で気になったのは、SCN(シーンセレクション)の中にあるアドバンストスポーツ撮影だ。取扱説明書を読むと「スポーツなど動きのある被写体を撮影するときに使用する。シャッターボタンを半押ししている間、被写体の動きを予測してピントを合わせる」と書かれている。どうやら一眼レフカメラでいうところのコンティニュアスAFっぽい。動きのある被写体にピントが追従できそうなのだが、実際に撮ってみると微妙な感じがしていた。
以前も書いたが、DSC-HX5Vは、ある設定をすると他の機能が制約されることが多い。アドバンストスポーツ撮影に設定した場合、シャッター速度の下限が1/125秒となる。スマートズームも使用できなくなり、画像サイズを落としてもズームは10倍までとなる。プログラムオートなどほかのモードに変更してから再びアドバンストスポーツ撮影にすると、ISO感度はAUTOにリセットされる。ISO感度を任意に固定して撮影をしたい人は、毎回設定を行なう必要がある。
アドバンストスポーツ撮影で気になるのは、望遠側にしてシャッターボタンを半押しすると小刻みにAFが動作し続けることだ。一般的なコンティニュアスAFはピッピッピッとピントが合っていくのだが、ピントを見失った様にピクピクと動き続けている。液晶モニターに映る映像は、AFにより拡大縮小が小刻みに続き「これでピントが合うのか」と不安な気持ちになる。加えて、動画撮影ほどではないがバッテリーの消耗も気になる。実際撮ってみると普通に撮れているのだが、今ひとつ使い心地が悪い感じだ。
では、通常のAFモードよりも動く被写体でアドバンテージがあるかというと、結果は大差がなかった。マルチAF(マニュアルモードで撮影)とアドバンストスポーツ撮影で10コマ連写した画像を比べてもAF面での優位性は感じられない。同じ場所で撮った画像の1枚目と10コマ目を掲載しておこう。アドバンストスポーツ撮影はISO AUTOでISO250に設定されている。
- 作例のサムネイルをクリックすると、リサイズなし・補正なしの撮影画像を別ウィンドウで表示します。
マルチAFで連写した1コマ目 DSC-HX5V / 約4.2MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F5.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 42.5mm | マルチAFで連写した10コマ目 DSC-HX5V / 約3.9MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F5.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 42.5mm |
今ひとつ納得がいかなかったので、実験を行なってみた。10mほど離れた被写体と2mほどの被写体を連写を低速(2コマ/秒)にし望遠端で10コマ連写してみた。マルチAFの場合10m離れた被写体にピント、露出は固定されるので、連写中に2mの被写体にレンズを向けてもピントも露出も変化はなく、ピンボケ+アンダーな写真となった。ごく普通の結果だ。
同じことをアドバンストスポーツ撮影で行った結果は……やはりピンボケ+アンダーな写真となりまったく同じ結果となった。取扱説明書の文面を再確認すると「半押ししている間、被写体の動きを予測してピントを合わせる」ということで、あくまで半押ししている間の動作が違うだけで、連写が始まるとマルチAFと同じく1枚目でピント、露出を固定し10コマ目まで同じ設定で撮り続ける仕様となっている。
先ほどの画像でマルチAFでもピントが合っているのは被写界深度に助けられているからだ。撮影中に電車がAFフレームに入るまで半押しをしないように気をつければ、マルチAFで撮っても差がないということだ。アドバンストスポーツ撮影にするとAFフレームが横長のセンター1点となる。マルチAFは9点でAFフレームがカバーする範囲も広いので、三脚を使った撮影では有利になる。
■手探り状態での撮影
自宅近くを通るのは名鉄名古屋本線だが、隣駅の神宮前から知多半島方面に分かれる路線もあり、この線路もそれほど遠くない距離にある。ちなみに新幹線もJR(東海道本線)も地下鉄も自宅の1km圏内を走っているが、新幹線は高架が多いし、JRはほぼ直線、地下鉄は駅しか撮れないということで、くねくねとカーブの多い名鉄を撮ることにした。まずは近所から撮影を開始だ。
最初は豊田本町駅の少し北、新堀川の陸橋付近だ。神宮前から豊田本町方面に向かう列車を踏切脇から高速連写で撮影。動きの予想できる被写体には高速連写は有効だ。狙った位置で一写入魂という撮り方もあるが、コンパクトデジカメはタイムラグが大きいので高速連写の方が確率が高そうだ。側道からも見上げる角度で撮影。新堀川を渡ってすぐ隣の踏切からも撮影、次の撮影ポイントに移動した。
撮影場所でスイングパノラマ。右が神宮前、左が豊田本町 DSC-HX5V / 約2.7MB / 4,912×1,080 / 1/640秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm |
神宮前と豊田本町間。セントレア方面に向かう車両 DSC-HX5V / 約4.3MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F5.5 / -0.3EV / ISO125 / WB:オート / 42.5mm | すぐそばの側道から撮影 DSC-HX5V / 約4.3MB / 3,648×2,736 / 1/640秒 / F4.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 8.8mm |
次は名鉄名古屋本線の本笠寺と本星崎の中間。本星崎側から坂を登ってくる瞬間がいい感じなのだが、10倍ズームでは届かない。坂を登り切ったところを望遠端で撮影した。本星崎の南側の踏切は何度も撮影している。車両は本星崎側からは直線的に、反対の鳴海側からはカーブを下りながら近付いてくる。両側が撮影できるおいしいポイントだ。
撮影ポイントから撮ったパノラマ写真を見ていただくとわかるが、本星崎側は電柱と線路脇のボックス(何をするものか筆者には不明)の隙間から、鳴海側も電柱と電柱の隙間を狙って撮っている。DSC-HX5Vの望遠端は250mm相当。鳴海側のカーブを下ってくる画像は左右の柱が少しずつ写り込んでいる。もう少し長いレンズだとフレーミングに余裕ができるが、250mmではギリギリといった感じだ。日も落ちてきたのでこの日の撮影はここまで。
左側が本星崎、右側が鳴海 DSC-HX5V / 約2.8MB / 4912x1080 / 1/800秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm |
鳴海側から下ってくる列車も撮影できる DSC-HX5V / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/500秒 / F5.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 42.5mm |
(動画)56.5MB / AVCHD / 1,920×1,080 ※再生について個別のお問い合わせは受けかねます。ご了承ください。 |
■流し撮りにも挑戦
翌日も名鉄名古屋本線から撮影開始。場所は本星崎駅のやや北。まずは動画撮影。本星崎側からきた車両を撮っていたら本笠寺側からも来たので2台連続撮影。続いて背景の小学校の樹木がいい感じだったので流し撮りをしてみた。
筆者はDSC-HX5VのNDフィルターによるマニュアルモードは実用的だと考えている。小さな撮像素子、暗めのレンズという条件では絞りで背景をボカすのは難しいので、シャッター速度だけをコントロールという考え方は正しいと思う。強いて言えば、2段のNDフィルターでさらにシャッター速度を落とせると楽しみは増えそうだ。
普段、サーキットで一眼レフカメラを使って撮影する場合は、場所を決めて、レンズを選択して、背景などを考慮してシャッター速度を決めるのだが、DSC-HX5Vの場合は、撮影場所の光量で先にシャッター速度が決まり、それからズーム位置を設定することになる。道具の都合によるとこが多く、撮りたい絵ではなく、撮れる絵という制約はあるが、遊べる要素が増えるのでお気に入りの機能だ。
このとき選択できたシャッター速度は1/60秒。広角でもかなり背景は流れそうだ。第3回でも書いたが、液晶モニターに映る被写体は、実際の被写体と時差があり、一眼レフより流し撮りは難しい。また、流し撮りはカーブのイン側から撮る方が被写体全体がブレずに写るのだが、鉄道の場合はサーキットのコーナーと比べれば、ほぼ直線的に移動するので、ブレのない芯の部分が列車の一部だけとなるケースが多い。
白い車両の方は運転士の部分に芯がきて、他の分は流れている。シャッター速度1/60秒だとこんな感じだろう。もう1枚は、赤い車両の止まり具合は今ひとつだが、フレーミングを上に振ったので、背景の樹木がいい感じに流れている。糸巻き状に流れているのは広角側ならではで、時間を掛けて撮ればいい絵が撮れそうなポイントだ。
本笠寺から本星崎に向かう列車を流し撮り DSC-HX5V / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F9 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 5mm | この背景は流し撮りにはいい感じ DSC-HX5V / 約4.2MB / 3,648×2,736 / 1/60秒 / F9 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 5mm |
次は天白川の堤防だ。本星崎側から鳴海へ向かう列車が坂を登ってくる。堤防より線路はかなり高めの位置で、脚立に乗っての撮影だ。これまでの撮影は近くに踏み切りの警報音で列車が近付いてきたことがわかったが、この場所は警報音が一切聞こえないので、列車は音もなく突然現れる。脚立の上に立っているということもあり、緊張感のある撮影だ。
脚立に立っても線路とほぼ同じ高さで、敷石は見えても線路までは見えない低い位置からの撮影だ。天気がよく地面すれすれなので、照り返しの熱で画像全体が揺らいでいる。車両も電柱もゆらゆらとしているが、これも味だろうと思われる。
青い空に赤い電車は似合うかなと思い川の反対側で鳴海方面から来る赤い車両を空をバックに撮ることにした。こちら側は鳴海駅を出たところからずっと車両が見えるので楽勝。名古屋市内の撮影を終え、南へ向かった。
■田園風景を求めて
聚楽園付近は線路沿いに何カ所か撮影ポイントがある。ここも両方向で撮影可能だ。列車をそこそこ大きめに撮るのは慣れてきたので、田園風景を求めて知多半島を南下した。
名和から聚楽園へ向かう車両 DSC-HX5V / 約4.2MB / 3,648×2,736 / 1/400秒 / F5.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 42.5mm | 聚楽園から名和へ向かう車両。ここも両方向撮影可能 DSC-HX5V / 約4.2MB / 2,736×3,648 / 1/500秒 / F5.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 42.5mm |
撮影ポイントを探して線路に沿って車を走らすが、思ったよりも都会的な環境で、心に描いていた田園風景は見つからない。田んぼはあるが、背景に住宅やショッピングセンターが写ってしまう。阿久比を過ぎ半田市に入ったところでUターン。広大な田園風景は諦め、少し田舎っぽい風景であれば良しとした。
半田口駅の少し北。広大な田園風景が撮りたかったが難しい DSC-HX5V / 約4.1MB / 3,648×2,736 / 1/800秒 / F4 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 5.7mm |
阿久比に戻り、お寿司屋さんに許可をいただき駐車場から田園風景っぽく撮ってみた。これ以上広角にすると建物などが写ってしまう。阿久比駅のすぐ北にも田んぼがあったので線路の向側の建物が写らないように低い位置から撮影したところで日没となった。田園風景を撮るためには市街地から離れる必要があるが、離れれば離れるほど電車の本数も減り、待ち時間が長くなる。このあたりの兼ね合いも難しい。
阿久比駅のすぐ北側。日没直前に撮影 DSC-HX5V / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F4 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 6.2mm | 車両が短いと線路の向こうの建物が見えてしまう DSC-HX5V / 約4.0MB / 3,648×2,736 / 1/1,000秒 / F4 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 6.2mm |
田園風景を求めて、北部の国府宮、西部の佐屋と足を運んでみたが、残念ながら納得できる風景は見つからなかった。だが、偶然見つけた光景もあった。島氏永の駅の南から国府宮駅までの直線には3つの踏切がある。電車が通過する前後に人や車が踏切を渡る光景が妙に印象的だった。望遠端でもやや足りない感じだが、長時間粘って撮ればいい組合せの瞬間に出会えるかもしれない。
今回撮影した中でお気に入りの写真は、日傘を差して自転車で横断する人の写真だ。電車ははるか遠くに豆粒のようにしか写っていないので、鉄道写真じゃなく風景写真にとも言えるが、個人的には好みの1枚だ。
線路の反対側。午後はこちら側が順光となる DSC-HX5V / 約3.7MB / 3,648×2,736 / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm |
左が島氏永駅、右が国府宮駅。回りには建造物もあり広大な田園風景はもっと遠くまで遠征する必要がある DSC-HX5V / 約2.5MB / 4,912×1,080 / 1/1,000秒 / F3.5 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 4.2mm |
最後は神宮前と金山の間の陸橋からの撮影だ。熱田神宮と神宮東公園を結ぶ道路と八熊通の2カ所で、真下を通る列車を流し撮りした。曇り空に加え夕方だったのでシャッター速度は1/25秒まで落とすことができた。そこまで落とすと、ブレの芯となる部分は極小になるが、一味違った絵が撮れたりする。列車だけが写った方がいいのか、背景も入った方がいいのか試行錯誤の段階だが、ここも通えば面白い写真が撮れそうなポイントだった。
八熊通の陸橋から神宮前方面を撮影。左が熱田イオンSC、右側の列車はJR DSC-HX5V / 約3.9MB / 2,736×3,648 / 1/80秒 / F4 / 0EV / ISO125 / WB:オート / 7mm |
同じ歩道橋から縦位置で撮影 DSC-HX5V / 約3.8MB / 2,736×3,648 / 1/500秒 / F5.5 / 0EV / ISO200 / WB:オート / 42.5mm |
今回は「初めて撮る鉄道写真」という気持ちで、日数を掛けて撮ってみた。レースや航空ショーと比べれば、近所でも撮れるし撮影場所も探せば多数ありそうだ。1年中撮れるので、撮影機会も充分だろう。反面、奥が深そうで、もう少しこうしたらとか、違う季節に撮ったらとか、追及するときりがないという印象も持った。結果としては修行不足といった感じに終わった。
本格的に撮るなら一眼レフカメラだろうが、コンパクトデジカメなら出張先の駅のホームで撮影、なんてことも簡単にできるし、DSC-HX5Vなら広角、望遠、流し撮り、動画と豊富な機能が活かせる撮影対象だ。今回もPanoramioに画像をアップしてあるので、撮影に行ってみたい方は参考にしていただきたい。
2010/5/31 00:00