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ストックフォトで採用されるには?
写真家向けのセミナー「iStockalypse」レポート
Reported by 秋山薫(2013/12/18 08:10)
さる11月18日より20日にかけて、ゲッティ イメージズ ジャパン(以下、ゲッティ イメージズと略)によるストックフォト契約希望者向けのセミナー「iStockalypse」(アイストッカリプス)が行なわれた。
ゲッティ イメージズ傘下のストックフォトサイト「iStock」での契約を希望する写真家(プロ・アマ問わず)を対象とした、iStockの説明とスキルアップを目的としたセミナー&ワークショップ。1日めは座学、2日目は写真家を講師として実際に撮影を行ない、3日目はゲッティ イメージズのアートディレクターなどから講評を受けるという内容だ。
事前に申し込みを行ない審査を受けた希望者約100名が参加した。同様の催しはロンドン、パリ、ミラノ、ベルリン、シンガポールなど世界各地で行なわれており、日本では2010年以来3年ぶり2回めとなる。
初日のエデュケーションデイの取材を許可されたので、その模様をお伝えしよう。
日本全国から100名近くが参加
会場となった東京・千代田区のアーツ千代田3331は、もともと中学校だった施設。エデュケーションデイのセミナーは、黒板が残る1階で行なわれた。
主催者によれば、事前申し込みをした参加者のほとんど(定員100名のところ、93名が参加)が参加したとのこと。11時から18時過ぎのセミナー終了までその数は減ることがなく、さかんにメモを取りながら熱心に聞き入るようすに大変な関心の高さをうかがわせた。
会場には翌日以降の撮影で使われる協賛各社のカメラやレンズも並べられて、雰囲気を盛り上げていた。
セミナーはまずゲッティ イメージズのアートディレクターである小林正明氏による挨拶と、iStockの紹介、3日間のスケジュール紹介から始まった。
「コンセプトがわかりやすく、シンプルな作品を」
次に登壇したのは、ゲッティ イメージズのイベント マネージャー、エリッサ・クック氏。自己紹介のあと「ストック写真とは、イメージをライセンスする方法」と題したセミナーを行なった。
クック氏はまずiStockの概要やシステムを紹介した。現在1,700万ファイル以上があるiStockは、Flickrよりもファイル数が多いと説明。また、使用目的別に「コマーシャル」(商用目的や宣伝目的の使用)「エディトリアル」(それ以外の使用)という2種類の契約内容を用意していることを解説した。
クック氏はあらゆる写真がストックフォトになりえるとしたうえで、特に求められているのは、コンセプトのわかりやすいシンプルな作品であると述べた。
「コマーシャル」用途に使われる場合には、画面内にテキストやコピーなどを入れる余白があるほうが、デザインしやすいので受け入れられやすいとのこと。
iStockで素材を探すユーザーは、キーワード検索で使用したい絵柄を探す。例えば、「ビジネス」や「スポーツ」というキーワードは、保険会社などがしばしば用いるものだという。
キーワードのなかで代表的なものが「ビジネス」「ライフスタイル」「スポーツ」「ネイチャー&ワイルドライフ」「コンセプト&アイデア」「トラベル&カルチャー」の6つ。
また、撮影時の注意事項としては、「新しさを表現していること」「自然に見えてリアリティがあること」「地域性の強調」を意識することが挙げられる。
そして肖像権や著作権などの「法律的に問題がないこと」「プロダクションバリューの高いこと(作品の完成度が高いこと)」ことに注意してほしいと述べた。
そのためには事前に入念な撮影プランと、構想段階からの準備を行ない、撮影場所や被写体の許可が必要な場合は得ておくこと、現像やレタッチ処理などは必要ならば外注すること、検索されやすく内容のわかりやすいキーワード(日本語でも可能)をつけることの大切さを説明した。
なお、契約写真家がアップロードした作品はいったん総計140名のインスペクターが審査するとのこと。残念ながら審査を通らないことが続いても、今後の契約に悪影響はないという。
「日本市場向けに受けるものがほしい」
次に登壇したiStockクリエイティブプランニング部門責任者であるレベッカ・スィフト氏は「マーケットのニーズについて」と題して説明を行なった。
同氏は20年ほど業務に携わり、国や業界ごとにどういう写真が求められるか、あるいは将来はどういう写真が求められているかの分析を行なっているという。その経験では、地域ごとの合わせた「ローカライズ(その地域ならではの特徴)」の流れが年々強まっていると述べた。
そのうえで、シンプルでさまざまなストーリーを連想させて、何らかのコンセプトを当てはめることができる絵柄が受けるといい、例を挙げながら示した。
また、日本市場で人気のある例も挙げた。
また、現状では日本での作品が少ない「テクノロジー」(スマートフォンやタブレット型端末を扱う手のアップなど)や、オフィスでビジネスシーンをモデルが演じているものは今後求められるという。
いずれの被写体でも求められるのはシンプルでポジティブな雰囲気だといい、「ライフスタイルと女性」や「オン・ザ・ムーブ(動いているところ)」として、楽しそうに買い物をする女性の写真を例に説明した。
一方「いかにも日本だ」と思わせるセンスは「静けさ」「リラクゼーション」を連想させるために海外で共感されるという。
さらに、日本市場で今後ニーズがありそうなものとして、「子ども」「家族」「子ども、親、祖父母の3世代」「日本人の父親と子ども」「日本人の親」「家族の日常生活」「ローティーン」「20代の若者」「親子で何かを楽しむシーン」「おしゃれで都会的な親子」「楽しそうで健康的なシニア」「持続可能な自然」「伝統的な日本の工芸」「都会」「カップル」「都会的でかつ自然にあふれた絵柄」「食品を作っている作業場」「おしゃれな農産物直営店や無農薬食品などで買い物をしている絵柄」「中小、個人経営の店などでの商業活動」「家庭内手工業」「チームワークにあふれたようす」「大小問わず日本の企業」「料亭や居酒屋で日本酒を汲んでいるシーン」「自信にあふれている女性のようす」「魅力的な男性のポートレート」「さまざまな種類の女性のポートレート」「iPhoneやiPadを使っている絵柄」を挙げた。
最後に、FacebookコミュニティやTwitterアカウントもあるので、活用してほしいとして発表を締めくくった。
エッフェル塔の夜景には著作権がある
次は「ストック写真における法律上の注意点」と題したサイモン・モラン氏(ゲッティ イメージズ コンテンツ ディベロップメント マネージャー)の講演。「日本の法律について詳しくはないのであくまでもこれは一般論であり、参考までに」との前置きの後、解説を行なった。
人物写真はストックフォトとしてもさまざまなニーズがある。ただし、法律的にも事前にクリアしておくべきハードルも高い。ストックフォトとして、商業目的・広告目的に使われるということをあらかじめ撮影者がきちんと考えてほしいと呼びかけた。
iStockとしては、アップされた契約写真家の写真に人物が写っている場合には、人物が特定できる絵柄であれば撮影と使用に関する事前承認が必要であると考えている。具体的には、夫婦や子どもであっても、万が一の離婚後の使用に関する同意はどうなっているのか、所有権、肖像権は誰に属するか、背景に映る人々に許可は得たのかどうかが問われるという。いずれも、被写体が拒否したら撮影者は使用する権利はない。
商業・広告用途よりも法的な制限が少ないエディトリアル用途であっても、撮影して使用可能であるかは事前確認をするべき。背景に小さく映っているのであっても、人物が特定できるなら許可はもらうべきと説明した。
コピーライト、商標、ロゴ、知的財産に関して、ゲッティ イメージズとしては繁華街の看板にあるロゴなどは問題はないと考えているが、iStockとしては使用できないとしている。この規定は変更する可能性はある。
参加者からは質問として「子どもの写真を撮る場合は親に許可をもらうのか」と問われ、商業・広告目的なら20歳以下の場合は親から許可をもらうこと。エディトリアル用途でもできたら許可は求めておくべき。また、写っているのが大勢ならいいが、ひとりの子どもだけならば必ず親から許可をもらうべきだと述べた。
また、「買い物をしている絵柄を撮るなら、店のオーナーに許可がいるのか」と問われ、商業・広告目的ならオーナーや写っている人の許可を、エディトリアル用途であればオーナーかスタッフなど、お店にいて許可が出せる人物に許可を求めればいいのではと答えた。
さらに、「いろいろな場所から来ている人、たくさんの人が写っている場合には許可はどうするのか。背景や色を変えればいいのか」という質問に対しては、クレームがのちに来ることがあるので、できるだけ許可はとっておいてほしいと答えた。iStockのインスペクションチームから見て被写体の許可があるのかわからない場合には、撮影者に許可されたむねを提出してもらうことがあるという。
日々のひらめきをメモに取ろう
ゲッティ イメージズ ジャパンからは、アートディレクターの小林正明氏が「インスピレーションとアイデアの探し方」と題した発表を行なった。
氏は「広告・商業目的」(クリエイティブ)と「エディトリアル」(報道目的)では、概念にも違いがあるのではないかという。
たとえば、アンジェリーナ・ジョリーとブラッド・ピットの第一子誕生時の写真を例に挙げて説明した。夫婦の知人の写真家が撮ったというこの写真に対し、「パリ・マッチ」誌は4億円支払ったという。そして、「写っている人の価値」「見る人がどう感じるか(コンセプト)」のありかたが、広告・商業用途(クリエイティブ)の写真とエディトリアル用途の写真とで違うのではないかという。写っている被写体が大切なのではなく、その背後にある「コンセプト」が大事だと述べ、そのうえで絞りの選択や、ブレ、ピント合わせなどの撮影テクニックによって狙った絵柄にするべきだとした。
いま、ゲッティ イメージズ全体で売れている絵柄は、「LOHAS」「ビジネス」ではあるが、時代の動きによって求められる絵柄はかわるという。たとえば、震災後には「子ども」「自然風景」「健康的で家族全員が笑顔でいるようす」などの絵柄が医療・製薬業界でよく売れたと述べた。そういったニーズにあわせて、絵柄を作り込んでいくことを契約者写真家に心がけてほしいという。
そして、写真家にとってインスピレーションの源になるものはあらゆるところにある。テレビ番組や映画、他人の仕事からもインスピレーションを得ることができる。だから、思いついたらすぐにメモを取ろうと話す。
広告写真はファインアートのように作り込むことができる。ただ、広告写真は観客がおり、ファインアートは観客を気にしないでいられることが違う。それでも、じっくりコンセプトをつめてきちんとセットアップして、ファインアートのように作り込んだ広告写真はとても高い評価を得ることができるとのことだ。
インスピレーションに関しては、氏は「アイデアは腕組みで見つかるものではなく、ふとしたひらめきに芽がある。だからそれをメモに取っていかしてほしい」と言い、以下のように説明する。
そのうえであと10%の完成度を高めてほしい。何を撮っているのか明確に。迷っても、クリーンな印象でまとまっていていいと思えたら撮ってみてほしい、と述べ、「なにはともあれ楽しもう」と結んだ。
営業力がなくても作品がよければ売れる
次に登壇した藤田祥司氏はもともとストックフォトと契約しているカメラマン。もともとは自然風景を専門としていた。体験談を披露した。iStockとは2006年頃からのつきあいだという。
バブル時代は4×5判のポジを2万点ストックしておけば食べていけると言われていたが、バブルの崩壊とデジタル化で状況は一変した。デジタル化により、フィルム代も現像代もかからないから敷居が低くなり競争相手も増えた。でも、ストックフォトに写真を預けることは自分からやめない限りは続けられるとして、氏自身も「iStockサバイバル」を目指している。戦場カメラマンのように最後まであきらめずに生き残りたいという。
どういう絵柄が売れているかを知るには、まずダウンロード数の多いものを探すこと。でも、売れ線の写真をまねてみても、なかなかうまくいかないとは、経験者ならではの説明だろう。でも、得意分野は情熱とスキルが違うはずだから、まず自分の得意分野の写真をアップしてみてから動きを観察してほしい、誰が見ても売れそうな絵柄が売れると説明した。
そして、今日からライバルが100人増えてしまったけれど、朝から長い時間ずっと一緒にいる仲間なのだから、教えておきたいことがある。それは、「審査に落ちてもあきらめないこと」だという。
アップロードした写真に対してはゲッティ イメージズのインスペクターによる審査があり、センサーのゴミの付着、構図、ライティングなど、いろいろな部分に意見されることがある。
審査を落とされるとがっかりするだろうが、よく読んで再挑戦するようであってほしい。基礎的な技術があるがことが前提だが、iStockを続けていくには「辞めない」「あきらめない」「腐らない」の3つが極意。自信のある写真が毎回落とされると、センスを否定されたような気持ちになるだろう。でもやる気がなくなったら負けだし、怒ってはいけない。単にiStockの基準に合っていないだけで、あなた自身のセンスを否定しているわけではない。「またアップするぞ」という気持ちでいてほしい。もしなにか言われてももやもやしないで、そんなときは「あのときの話の長いあいつ」(私)のことを思い出してほしい、と話す。
営業力がなくても作品がよければ売れる。年齢、国籍、性別は関係ない。だから、やるかやらないか、やめるかやめないかはあなた方次第。夢を見るのもタダでアップロードも無料なのだから、心にゆとりを持って参加して見てほしいと述べ、参加者は拍手で応えた。
こうして初日のエデュケーションデイは終了した。基本的には、iStockと契約した写真家向けのセミナーではあるが、一般の写真愛好家にも興味の持てる内容なのではないか。興味のある方は、iStockのサイトをぜひチェックしてみてはいかがだろうか。