日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

自転車で巡る琳派な京都

カプセルホテルの目覚め。すこし酒が残っている感じがあるので朝もシャワーを浴びて、身支度して出れば7時。さて、朝飯。京都の朝飯というといろいろ思いつくのだが、何しろiPhoneが無いので調べようがない。イノダの本店は確か7時からやっていたはず…と頼りない記憶をもとに歩き始める。

イノダコーヒーの本店なら地図が無くったって、場所がわかるのだ。だって、三条堺町のイノダってコーヒー屋、なんだから。四条の通りに出て、堺町通りを北上すれば、案の定、イノダコーヒー本店が見えてきて、そしてもう営業している。しているけれど入ってびっくり、並んでいる!土曜の朝はこんなに混むものなのか…。20分ほど、昨日買った本が面白くて読みながら待っていれば案内されて、禁煙、かわいらしい洋館のような空間の一番奥に通された。良い。

京の朝食1380円を頼む。ややあって運ばれてきたオレンジジュースが、とてもちゃんとしたオレンジジュースで、そして運ばれてくるクロワッサンと、プレートの上にはハム、スクランブルエッグ、ニンジンの煮たの、ポテトサラダ、そして生野菜にオレンジ。このハムが一口食べて唸る絶品で、なるほどこのお値段の価値はある。クロワッサンも旨いし、スクランブルエッグもポテトサラダもよい味付け。そしてコーヒーを一口すすればこれまた美味い。

美味しいものを食べて、素敵な洋館の片隅に腰を下ろし、店の奥には秘密の花園のような噴水のある庭、レンガの壁、飼われているインコの鳴き声、なんと幸せな空間…。朝から大いに英気を養って、さて出かけよう。京阪三条方面に向かい、進々堂でお腹が空いたときのためのクリームパンを買おう…と入ったら新商品でアールグレイのクリームパンがあって、これ絶対うまいやつや!とほくほく購入する。進々堂のクリームパンはほんと美味いよね…。

京阪三条から京阪電車に乗って七条下車、琳派展が開かれている京都国立博物館へ。混んでいるだろうなと思ったので開館9時30分の30分前には行こう…とやってきたのだけれど、考えが甘かった。まだしまっている入口から壁沿いに並ぶ人の列、列、列。数えながら最後尾にたどり着いたら、ゆうに700人はいる。秋の土曜日とはいえ、これはすごいことになっている。で、思案し、京都は特に夕方の人の引けるのが早いからな…と6時の閉館間近を狙おう、ということにして、とりあえずバスで京都駅へ。

秋の京都はコインロッカーも争奪戦だけれど、9時半前のタイミング、まだなんとか空きを見つけて荷物を押し込み、観光案内所のコイン式パソコンで少し調べもの。美術館の検討をつけてから駅を出て、オムロンの本社近くにあるレンタサイクルショップへ。

www.kctp.net

この時期の京都、バスは大混雑だし、足としては自転車が良い。そしていつも利用するこのレンタサイクルショップ、100円で販売しているサイクリングマップが非常に優秀。いちばん安いスタンダードタイプを1日1000円で借りて、さあ出発。

まずは京都国立近代美術館へ。琳派イメージ展を見る

琳派400年記念「琳派イメージ」展 | 京都国立近代美術館

琳派展は京都国立博物館が本丸だけれど、こちらは近代以降の琳派の系譜、あるいは琳派に影響を受けた作品たちが並ぶ。実質、神坂雪佳と田中一光の展覧会と言っていいかもしれない。神坂雪佳ほんと素晴らしい。『円窓図案』とかちょうかわいい…。田中一光のデザインは、なるほど確かに琳派だ。

あと加山又造が2作品、川端龍子が1作品、大作が心地よい。琳派のデザイン、図案化の強さ、普遍性を改めて感じさせる展覧会で、ボリュームはやや少ない感じがあるけれど、とにかく見どころが多いよい展覧会だった。

美術館を出て、ちょっと平安神宮にお参りしてから(何十年ぶりだろう、目の前までは散々来ているのに…)東に向かい、鹿ケ谷の泉屋博古館へ。ここははじめて

www.sen-oku.or.jp

 泉屋博古館は住友財閥のお宝を展示するためのミュージアムであるのだけれど、現在、近代住友を作り上げた住友春翠の展覧会が行われていた。茶臼山には大阪の宝、大阪市立美術館がありますが、あそこは住友春翠が大豪邸を建てた場所なんですね。しかし、何十年の歳月をかけて作り上げた邸宅を、わずか数年で手放し、大阪市に美術館用地として寄贈している。

周辺が騒がしくなり、労働集会が頻繁に起こり…など理由のようですが、本人は茶臼山に屋敷を建てたのが人生唯一の悔いである、と言っていたそうで。しかしそんな茶臼山の邸宅で行われた茶会のための道具や、各種、春翠のめでた日本美術が目白押しででありました。

大正何年の何々で入札して入手、みたいな品物が、普通に重要文化財とか国宝とかぞろぞろあって、いったい何がどうなっているのかと度肝を抜かれるわけで…。もうこういうお金持ちは出ないんでしょうね…。いや岡田美術館とかあるか、まだあるか

 

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 そしてあわせて、青銅器のコレクションも比類なきもので、美術館自体も東山の閑静な場所にあり、はじめてですが堪能したのでした。サービスのお茶をいただいてしばらく休憩してから出掛け、哲学の道を北上。京大生がぞろぞろいる百万遍の交差点に出て、そうそう、お土産になんか和菓子を買おうと思っていたけれど…とふっと見やれば、なにやら良さげな和菓子屋が

www.kyoto-kagiya.co.jp

美味しそうな和菓子をいくつか購入。さらに店内に置かれていた京都の和菓子紹介本をつぶさに見て(iPhoneが手元になくて調べ物ができないので、情報が得られるときに手に入れないと…)あっ、緑寿庵清水、この近所だ!とすぐに訪問

緑寿庵清水

ここの金平糖、梅田の阪急百貨店でも買えるは買えるですが、やっぱり本店来てみたいじゃないですか…。いろいろ味見もさせてもらって、しかし高いものは高いので、比較的お手頃なところを手に入れる。

百万遍から東大路通を北上、サイクリングマップを見ると『ラーメンストリート』と紹介されている一角があり、一乗寺に近いはずの天下一品の総本店もそこにあるのだろう…と軽く考えて自転車を走らせていたのだけれど、行列しているラーメン屋は数あれど天下一品の総本店は見つからない。仕方なくコンビニに入ってちょっと地図を見てみると、白川通にあるらしい。あらま。曖昧な調べ物はいけませんね…iPhoneがあれば…

おかげさまで無事に到着し、チューリップ定食、から揚げとこってりのセットを美味しくいただいたのでした。京都だから特別濃いこってり、というわけでもなかったかなあ。最近は東京もこってりが濃くなったのかな。そういえばこの総本店、前にも一度来たことがあったのだった

 

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 すっかり満腹になって、一乗寺の啓文社に寄り道して素敵な本と雑貨に囲まれて幸せな気持ちになって、そろそろ南下しましょう。出町柳から鴨川沿いを下り、人で溢れた四条の通りへ。スルーしたいところだけれど、ここに用事がある、鍵善良房

www.kagizen.co.jp

老舗であるし、一部好事家の方には、紙袋が山口晃でおなじみの店である。以前買った時に、写真を掲載してありますよ。こちら

 

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 今日もお菓子も目的だけれど紙袋も欲しい…という気持ちで購入。さらに四条通を自転車を押して通り抜けて、また別のお菓子屋、京あめ

Crochet クロッシェ「京あめ」京都

京都限定の飴、彩とパッケージがかわいいのを購入。そしてさらに本山佛光寺の境内にある、D&DEPARTMENTにも

www.d-department.com

いろいろ物色して、本格的な沢庵を購入。これは自分用であります。もう一軒行きたいところがあったのだけれど店の場所わかんなくて、調べようがなくて、残念、そうか花見小路あたりだったか…と今、これを書きながら悔しがってるとこ

www.malebranche.co.jp

さてそろそろ、4時もまわってよい時間。京都国立博物館へ。到着したのが4時15分で、この時点では40分待ちと表記されていたけれど、20分くらいの待ち時間で入場できました

www.kyohaku.go.jp

何しろ京都で400年記念で琳派であるから、ほんきである。そしてこの2週間足らずの短い期間だけ、宗達光琳抱一の風神雷神がそろい踏みするのだから混雑するのも道理。まだまだ館内は混雑しているので1階の仏像や、なるべく空いているコーナーを見つつ、やや人が引いてきたかな…というあたりでその風神雷神の空間へ。

京都国立博物館の平成知新館、谷口吉生の素敵建築、2階の展示室は3方にガラスケースの空間がいくつも並んでいるだけれど、まさにここが風神雷神図屏風の居場所。中央に立ち、目の前に俵屋宗達の国宝風神雷神図屏風がドン、右を向けば尾形光琳の重文風神雷神図屏風がドン、左を向けば酒井抱一の風神雷神図屏風がドン。3方向に一度に風神雷神図屏風を眺める幸せ。

やはり俵屋宗達、比類なき大きさを感じる作品だし、尾形光琳も模写の中にも挑戦的な気構え、坂井抱一はどこまでもユーモラスで、それぞれ見たことはあるとはいえ、一度にこのような展示環境で見る機会はそうあるものではなく、来てよかったと感じたのです。

もちろんそれ以外も琳派名品のオンパレードであるけれど、特に本阿弥光悦と俵屋宗達に比重の大きい展覧会であったな、と。尾形光琳の両国宝硯箱なんかは東博所蔵だから東京で見る機会も多いし、酒井抱一あたりもやはりお江戸で見る機会が多いけれど、本阿弥光悦と俵屋宗達はそうそうたくさん、見られるものではない、というとこで京都の神髄。国宝の蓮池水禽図の幽玄たる表現、鶴下絵三十六歌仙和歌巻では、宗達の連続写真のような鶴の優雅な舞に、バランス感覚のある光悦の筆致…。

三十六歌仙図屏風は、メナード美術館の光琳とプライスコレクションの抱一を並べて展示してくれるのがうれしい。その他、いろいろと、語りつくせぬ魅力にあふれた展覧会で、まあ、でももっとやれる子でしょ!と言いたい部分が無いではないけれど、とにかくよかったのです。6時の閉館間際になると、順路の最初のほうの3階と2階はガラガラになっていて、そこでじっくり作品を堪能できたのも良かったなあ、と。

閉館時間になってもなかなか掃けない人波をいいことに最大限粘って、お土産を物色し、博物館を出ればすっかり夜。自転車を飛ばしてレンタサイクルショップに自転車を返したのが6時30分。伊勢丹にある神坂雪佳と山本太郎の展覧会も気になったけれど、今日はこれくらいでお暇しましょう…。

18時56分の『ひかり』は自由席がガラ空き。みなさん、新幹線の自由席は存外座れるのですぞ。ゆったり座って、昨日から読んでいる本の続きを読み終える

 

七時間半 (ちくま文庫)

七時間半 (ちくま文庫)

 

 東京大阪間を7時間半で結ぶ特急『ちどり』を舞台に、グランドホテル形式で展開する、複雑に何角関係もある恋模様とサスペンス要素もある、特急の車内食堂や「ちどり・ガールズ」のお仕事を覗く楽しさもある、抜群に面白い大衆小説だった。1960年に週刊新潮に連載されたものだそうで。

これ、三谷幸喜が映画にしそう…と思ったら、川島雄三が『特急にっぽん』って映画にしていたんですね。ウィキペディアで見たらストーリーはかなり改変されているみたいだけど。とにかく、当時の風俗流行の描写とか人情機敏の描写がいちいち楽しくて、一気に読んでしまった。

酒も飲まずに2時間20分、無事に新横浜に到着。横浜線のホームに出れば、ハロウィンにしても、トンチキな格好のひとがいくらなんでも多すぎだろう…と思ったら横浜アリーナのイベント終了時間とぶつかってしまったらしい。電車に押し込まれて東神奈川、乗り換え、桜木町。やっと着いた。

駅からあるく道すがら、何気なく裏道を覗いたら、あっ、武蔵屋がすでに取り壊されている…。その小さい敷地には不釣り合いなほど大きな重機に押しつぶされたような、しかしもうきれいに整地も済んでいて、最後に飲んだ夜が思い出されるばかりであり

 

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 感傷的な気分を抱えて帰宅したのだった

在華坊(@zaikabou)/2015年10月31日 - Twilog