日毎に敵と懶惰に戦う

酒と食い物と美術と旅と横浜…などの記録。Twitterやってます @zaikabou

自転車で金沢文庫、横須賀美術館、神奈川県立近代美術館葉山へ

連休の中日、良い天気。久しぶりに自転車で出かけたくなったので、美術館巡りをすることにしましょう。自転車の整備に存外手間を食って(後の伏線になるのだが…)家を出たのは10時過ぎ、357号線のほうから廻って、まずは自宅から15km、金沢文庫へ。称名寺はいいお寺ですなあ

さて、金沢文庫では、『東大寺 鎌倉再建と華厳興隆』を開催中

神奈川県立金沢文庫 展示案内
平重衡焼き討ち後の東大寺再建のための勧進、そして再建と、再興後の華厳宗の隆盛を、東大寺所蔵の国宝重文だらけの、仏像、彫像、絵巻、経文書、状注釈書…などなどで概説する、仏教の世界にどっぷり浸る重量級の特別展だった。 国宝の重源上人坐像や、重文の試みの大仏、四天王像なども素晴らしいですが…。善財童子が55の教えを巡る説話を描いた絵巻『華厳五十五所絵巻』(国宝)が、柔らかい線と色で、かわいい童子と仏が描かれてまして、見入っちゃった。あと、声明の楽譜『優婆離唄』が非常に興味深かった。声の出し方を線であらわしているんですね。
いちばん多いのは仏教関係の経文、それに関する注釈書、さらにそれについての解説者、講義録…とかで、寺が学問の最先端であった様子が伝わってくる。資料がなんでもかんでも重文だらけで…読めるかと言われると、断片的に意味が拾えるくらいで、ちゃんと読めたら面白いんでしょうけどね…いろんな字を見比べてるだけでも楽しい。
重源上人自筆の勧進状も展示されてるんですが、よく見ると白紙。ですが、さも字が書いてあるように読み上げると、関所を通して貰えます…というのは嘘でちゃんと書いてありますが…。頼朝の、東大寺再興に力を貸すよ!勧進に廻るといいよ!みたいな書状もあったりして、ああそうか、あの時代で東大寺が燃えた後だからこそのあの義経の旅、そして『勧進帳』なんだなあ、なんて思いを馳せましたです。ちなみに頼朝の書状も国宝。坊さんの書く時と、武士の書く字の違いも面白いね。
前後期で結構展示替えもあるようですが、メインのところはおおむね通期展示みたいなので、いつでもお勧めです。それはそうと、同行している女性にずっと解説しているおっさんが大変煩くてうっとうしく、展示物の解説をしてるんならまだいいんだけど、後半の自分のよくわからない分野に来ると別の自分の知識の範囲内の話を延々し始めていて、しまいにろくに展示を観ずに、座って話しましょうとか言って出ていってしまった。ああいう、展示物をテコに自分の知識を披歴したいだけのジジイは…
さて、金沢文庫をあとにして、16号線を南下。途中の吉野家で昼飯。横須賀から馬堀海岸に出まして…いい天気だねえ

ヴェルニーの水で渇きをいやし、観音崎が見えてくる

そして、金沢文庫から19kmで横須賀美術館に到着。今日も大変にぎわっておりました。主にレストランが


特別展の、親子で楽しむ現代アート的なものは、都現美の、大人も唸らされる…的なものじゃなくて本当に体験型のお子さんのための…っぽかったのでパスしまして

常設を。美術館というのは、ひとつでもグッとくる作品に出会えれば良いのではないでしょうか。今回は藤田修のフォトエッチングと、麻生三郎の『赤い空と人』に心動かされたので、良かったのだ、と。特集展示していた眞板雅文は、どうもスケール感がピンとこず…。
横須賀美術館に来るたび、その作家の個展が開かれても呼ばれそうになさそうな絵画ばかりなこのコレクションはどうしたものか…などといろいろ考えてしまいまして、とにかくここは箱と風景さえあれば…という場所でして


うん、とても気持ちが良いので、いいんじゃないでしょうか…。……さて、では次にむかいましょう

観音崎、浦賀のほうからぐるっと回るのが自転車のコース的には気持ち良いのだけれど、大層遠回りになるので、今日は来た道を戻り。馬堀海岸に出たあたりで、どうも後輪の様子が…というわけで、134号線沿いにあるサイクルベースあさひへ

どうも、後輪のチューブが擦れてパンクしていたみたい。出がけにチューブのバブルが外れて何度も空気入れたり出したりしてたからなあ…変な風にねじれていたか、空気が足りなかったか。仕方ないのでチューブを交換してもらい、しかし費用は割合安く済んで工賃込の1995円、また走り出す。40分くらいロスしましたな…。衣笠の駅前を通り、県道27号線に入って、ちょっと坂道を超えまして。風景が秋ですなあ…

葉山に下り、神奈川県立近代美術館葉山に到着、ここまで19km

開催中の展覧会は、明日までの『戦争/美術 1940-1950 モダニズムの連鎖と変容』

戦争/美術 1940‑1950 モダニズムの連鎖と変容 :WAR/ART 1940-1950 Sequences and Transformations of Modernism:神奈川県立近代美術館<葉山館>
終了間際だったけど、来て良かった。時代順に並べられた作品、様々な画家の戦前戦中戦後の変遷をまとめて見ることの出来る好企画だった。藤田嗣治の戦争画も、2点もあってびっくり。近美は貸し出しもしてるんですね。丸木位里、俊の、原爆の図もあり、戦中の不動などに見る表現と比べるのも面白いが、いちばん印象的なのが山下菊二。戦前の『高松所見』、戦中の『日本の敵米国の崩壊』(そんなのも描いてたのか!)、戦後の『あけぼの村物語』と見て、とかく、反権力の人と注目しがちだけど、シュルレアリスムの人としての凄みを再発見したのです。
あと、朝井閑右衛門て、なかなか面白い作家じゃないですか!と。今まで横須賀美術館のコレクションしか見たこと無かったから、いい印象無かったよ…。やっぱりいかんわ、あの美術館…。あと、原精一とか、鳥海青児とか、内田巌とか、麻生三郎とか、表現の変遷(あるいは、変わらなさ)を見てると面白かったですね。
で、まあ、一点、いちばん印象に残るのは、やはり松本竣介の『立てる像』なわけでありまして…あの絵の前に立つと、こちらの背筋も、すっくと伸びるのです。ほいでもって、同じ部屋に横山大観の『日本心神(富士山)』がありまして、このノーテンキさというか、いったい、横山大観て、なんなんだろう、と…。よくわからんわあ…。そのほか、美術関係の各種出版物なども多数展示されており、戦前戦中戦後の美術表現の変遷をたどる、大変面白い企画になってました。明日までですが、オススメしときます。
美術館を出ると、夕暮れの風景

富士山もきれいに見える

しばらく眺めたのち、森戸海岸を北上。途中から大渋滞、でも自転車で横をすり抜けて。石原慎太郎の碑のあたりに出るころには、もう真っ暗になる寸前

其の後の道路も大渋滞で、鎌倉、そして鶴岡八幡宮あたりまで途切れることなし。車でこっち来ると大変だね…。そして葉山から10km走ると、神奈川県立近代美術館鎌倉。もちろん、もう閉館していますから入れませんけどね…

さらに渋滞は続き、小袋谷の踏切までは渋滞してました。ほいで、ちょっとお腹が空いたので、小袋谷の魚がうまい店で晩飯。この値段でこの量と質、いいの!みたいなお得さで満足。さらに鎌倉街道を進み、弘明寺に辿りついたのが19時半ごろ。鎌倉湘南方面からの自転車の帰りの楽しみは、弘明寺名物タレルの湯。

黒湯の露天風呂(タレル風)と、黒湯の水風呂で汗を流し、幸せな気分…そしてそのまま帰路についたのでした。神奈川県立近代美術館鎌倉から、自宅までは19km。というわけで、自宅→15km→金沢文庫→19km→横須賀美術館→19km→神奈川県立近代美術館葉山→10km→神奈川県立近代美術館鎌倉→19km→自宅、自転車で全行程82kmの美術館周遊コース、今回は最後は閉館してましたが、金沢文庫は9時に開くので、朝の8時に家を出れば4館とも周りきれると思います。
在華坊(@zaikabou)/2013年10月13日 - Twilog

三菱一号館美術館『名品選2013 近代への眼差し 印象派と世紀末美術』

先日、三菱一号館美術館の展覧会『名品選2013』の内覧会に行ってきた。展覧会は10月5日からはじまっており、来年の1月5日までです。以前から、夜間の開館日が多く、場所と建物の雰囲気からデートに向いてる!と言われている三菱一号館美術館。


ここ最近になって夜間開館日が金曜日だけになってしまったのがちょっと残念なんですが、今回の展覧会はいつにもまして“オトナの”デート向きであることをお伝えしておきたい…。なお今回、写真は許可をいただいて撮影しています。

三菱一号館美術館 | 新しい私に出会う、三菱一号館美術館
美術館のコレクションオンリーの今回の展覧会、タイトルから、また印象派ばっかりなのかしらん…というイメージを持っていたんですが、確かに印象派もある、それもなかなかいいところはあるんですが


特にモネの、『草原の夕暮れ』『プティ・タタイの岬』あたり、写真には出ない柔らかい色合い、素晴らしい。ミレーシスレーピサロドガルノワールセザンヌあたりの佳品名品もそろってる…んだけど、どっちかと言うと今回のメインはさにあらず

世紀末美術、ということで、ルドンの『黒』をはじめとして

版画の充実ぶりが素晴らしいんですね。自分もあまり見たことなかったような、実にヴァリエーションに富んだリトグラフの数々、当時の一流の作家がこぞって作品を載せていた『レスタンプ・オリジナル』の作品が楽しい。ロダンのリトグラフなんかもあります

そして、今回いちばん良かったのがヴァロットン。三菱一号館美術館では来年、ヴァロットンの展覧会やるんですが、そちらは巡回する油彩などがメインになるらしく、今回の館蔵品の版画の数々はあまり展示しないらしい。




その版画がいいんですよ。26点ほど、シンプルな線で味わい深いです。ドニやボナールの色合いが優しい版画もたくさんあって、見ごたえがあるのですよ。


あ、それから、ここの美術館のコレクションと言ったら、ロートレックも忘れちゃならんし

ルドンの『グラン・ブーケ』も、うす暗い部屋にこの一点のみ、じっくり楽しめます。あのパステルの色は、やっぱり、実物を見てなんぼですわ…

そんなこんなで作品点数は149点と結構多いんだけど、あまり全部見てもぐったり、という感じではないし、なにより、ここの美術館は回廊から見える中庭の夜景とか、建物の雰囲気が素晴らしく…


売店も、美術館のミュージアムショップというかハイクオリティなセレクトショップみたいになってますし…

あ、ヴァロットンのトートバッグがなかなか素敵なデザインだったなー

特に今回の展覧会、こう言っちゃなんですが、あんまり混まないと思うんだよね…(笑)だから、デート向きなんじゃないでしょうか!と思うわけでありました。