このラノ2010分析

ラ管連がヒットを作るだなんて、まずはその幻想をぶち殺す!!

『このライトノベルがすごい!』が創刊されてから6年、今の投票レギュレーションが採用されてから、5回目となった今回。大賞は、『バカとテストと召喚獣』が受賞しました。
そんな『このラノ』ランキングは、編集部が依頼した協力者と、ウェブ投票者や一般人から選んだモニターで、違う重みの票を集計して決められます。
協力者は1位10点〜5位6点、ウェブ、モニターは1位5点〜5位1点の、傾斜配点が採用されています。
このため得点と得票でグラフを描いてみると、いくらかバラつきはありますが、正の相関がある分布になります。

グラフの横軸は得点、縦軸は得票です。書店(コミックとらのあな、くまざわ書店)での売行き好調作は、水色の丸●で、それ以外は白丸○で、プロットしています。
また、協力者、ウェブ投票者、モニターごとのランキングの上位作の題名を、それぞれ赤緑青で描いています。
この分布、広がりの得点軸(横軸)寄りは『蒼穹のカルマ』、得票軸(縦軸)寄りは『狼と香辛料』のようです(図中灰色の線)。
以前から分析の際に利用している「このラノ値 = 得点÷得票」(2ちゃんねるの分析では「イチ押し度」と呼ばれています。)は、このグラフの傾きに対応するものです。このラノ値は、『カルマ』が一番高くて、『狼と香辛料』はかなり低い、ということになります。

閉じた扇を開いてみると

でも、上のグラフは、やっぱりバラつきが細過ぎて、詳細が良くわかりません。
そこで、この細長いグラフを《扇》に見立てて、『カルマ』と原点を結ぶ灰色の《骨》と、『狼と香辛料』と原点を結ぶ灰色の《骨》を、ぐぐぐっと開いてみます。こんな処理に使えるのが、以前から分析に利用している独立成分分析です。結果は以下の通り。

一目見れば、売行き好調作●とモニター支持作がぴったり重なっていることがわかります。モニターは、一般購買層からランダムサンプリングした層ですから、これは当たり前といえば当たり前。
次に驚くのは、協力者、ウェブ、モニターで、それぞれ支持作品が群をなしていることがはっきりわかること。分布領域の場所の違いも、ここまで明確になるとは思いませんでした。
協力者とモニター・売行き好調作●は、隣り合っているのにほとんど重なっていないのも凄い。協力者とウェブもあまり重なっていません。
やっぱり協力者は、既にヒットしている作品とか、もう評判になっている作品には、あえて投票しよう、とは思わないんですね。

化物語(下) (講談社BOX)“文学少女”と恋する挿話集 2 (ファミ通文庫)

人気投票でランキングを作ると、「売上ランキングだけで十分、こんな順位は客観的じゃない」って意見が良く出るんですが、これだけ境界がはっきりしていると、売上ランキングとは違った、《価値観》が確かに存在していることがわかります。
今度はこの色に合わせて領域を分割してしてみました。ざっと分布を見てみましょう。

とある魔術の禁書目録(インデックス)〈19〉 (電撃文庫)灼眼のシャナ〈19〉 (電撃文庫)ゼロの使い魔 17 黎明の修道女〈スール〉 (MF文庫J)これはゾンビですか?3  いえ、それは爆発します (富士見ファンタジア文庫)

ウェブ支持の中心地帯には、『化物語』『文学少女』があります。確かに、手間暇のかかる投票をあえて行う熱心なファンが多そうな作品。
一方、モニターや売行き好調作●の中心地帯には、『とある魔術の禁書目録』『灼眼のシャナ』『ゼロの使い魔』といった、メディアミックスの進んだ作品が目立ちます。『これはゾンビですか?』の不思議な立ち位置は、ちょっと気になります。

神様のメモ帳〈4〉 (電撃文庫)さよならピアノソナタ〈4〉 (電撃文庫)ソードアート・オンライン (2) アインクラッド (電撃文庫)アクセル・ワールド〈3〉夕闇の略奪者 (電撃文庫)

協力者は、といえば、『神様のメモ帳』『さよならピアノソナタ』と、杉井光作品を囲んでいるのが目につきます。
同じ川原礫作品でも、『ソードアート・オンライン』が協力者地帯なのに、『アクセル・ワールド』がモニター地帯なのも興味深い。過去にウェブで公表されていた作品か、電撃小説大賞受賞作か、の差でしょうか。

耳刈ネルリと奪われた七人の花婿 (ファミ通文庫)円環少女  10 運命の螺旋 (角川スニーカー文庫)アンゲルゼ  永遠の君に誓う (アンゲルゼシリーズ) (コバルト文庫)BLACK BLOOD BROTHERS11  ―ブラック・ブラッド・ブラザーズ 賢者転生― (富士見ファンタジア文庫)蒼穹のカルマ3 (富士見ファンタジア文庫)

横軸に沿って並ぶのは、『耳刈ネルリ』『円環少女』『アンゲルゼ』『BLACK BLOOD BROTHERS』『蒼穹のカルマ』。なるほど、好きな人は熱烈に好き、な作品。
そんなわけで、目立っている作品の題名、支持層の様子などから、独断と偏見で領域に名前をつけてみました。

揺籃 … まだどんな層に支持されるかはっきりしていない、生まれたての作品が住む領域。
一般マス … 一般人にも名が知れ、売行き好調、マンガ化やアニメ化も進んでいるヒット作の領域。
信者マニア … 面倒な投票も厭わないネット系ファンが多数、信者もたくさんの領域。
先物ラ管連 … 一般でもネットでもメジャーになり切れない作品が先物買い的に拾い上げられる領域。
熱狂ニッチ … 過激に熱狂的なファンが、多くはないけど確実に存在する作品の領域。
当たらずと言えども遠からず、じゃないでしょうか。自分が好きな作品が一体どのゾーンにいるのか見直してみるのも良いかも。

ラ管連がヒットを作るだなんて、まずはそのふざけた幻想をぶち殺す!

あるライトノベルが年月をかけてランキング内を辿るパターンには、3通りありそうな感じがしています。
第1は、いきなり大ヒットになる 揺籃 → 一般マス パターン。
第2は、ネットでの支持がじわじわ広がる 揺籃 → 先物ラ管連 → 信者マニア パターン。
第3は、ネットで続刊熱望・打切り反対運動が起きちゃう 揺籃 → 熱狂ニッチ パターン。

バカとテストと召喚獣 6.5 (ファミ通文庫)生徒会の月末 碧陽学園生徒会黙示録2 (富士見ファンタジア文庫)ロウきゅーぶ!〈3〉 (電撃文庫)

個人的な印象では、先物ラ管連 → 一般マスや、信者マニア → 一般マスって、あまりないような気がしています。
果たしてこの勘は正しいのか。信者マニアと一般マスの境界にいる『バカとテストと召喚獣』や『生徒会の一存』は、これからどちらに進むのか。
杉井光作品や『ロウきゅーぶ!』が一般マスに支持される、なんて時代は、果たしてやって来るのか。
特異な立ち位置の『これはゾンビですか?』『蒼穹のカルマ』は今後どうなるのか。
来年のランキングも楽しみなんですが、過去を振り返ることも重要かな、と思って、作品ランキングの経年変化を詳しく調べて始めています。2006以前はレギュレーションが違ったり投票層別ランキングがなかったり、で比較が難しいので、2007〜2010を中心に色々試みています。
結論が発表できるまでには、しばらく時間がかかるかもしれませんが、お楽しみに。

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