映画「それでもボクはやってない」

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20070123#1169522134

昨日、観ましたが、日本の刑事手続、刑事裁判に興味を持つ方は、やや長いのは我慢してでも観ておく価値があると思います。
相当、徹底した取材が行われたからだと思いますが、現実の捜査、裁判が、ほぼ再現されていると言っても過言ではなく、この種の映画やドラマでよくある、これはおかしい、これはありえない、といった場面は皆無と言ってよいと思います。例えば、警視庁の留置へ本を差し入れに行くと、本についているしおりの紐は取り去られてしまいますが、映画では、こういった細かい点もきちんと描かれていて、感心しました。
この映画では、日本の刑事手続の問題点が凝縮されていて、示唆に富むものがあると思いますが(やや凝縮されすぎている面もあり、このような手続、裁判ばかり、ということは、さすがにないので、その点は注意して観る必要があるとは思いますが)、感じた問題点を項目で挙げると、
1 自白を偏重する捜査の問題点、その一方で自白以外の証拠による裏付け、検証が徹底されていないこと
2 取り調べが可視化されていないため、取り調べが適正に行われたかが後に客観的に検証できず、捜査官の嘘も見抜けない
3 否認すればなかなか保釈が認められず、弁護人との打ち合わせもままならない「人質司法」
4 供述証拠にさしたる裏付けがない場合であっても、「具体的かつ詳細」「真摯かつ勇気ある証言態度」「反対尋問にもよく耐え」といった程度で、安易に信用されてしまう恐ろしさ
5 真実発見、特に無辜の不処罰に対する熱意がなく、検察官の顔色をうかがう一方で被告人や弁護人に冷淡な対応をとるのが習い性になっている裁判所
といったことでしょうか。
この映画自体が、冤罪で起訴された被告人の視点から描かれており、そういった視点の映画やドラマ、というものがほとんどないため、非常に新鮮に感じました。
エンドロールの背景で、最高裁判所の建物がずっと映し出されていることに(いつ見ても巨大なお墓のようで、本当に大丈夫か、と思わずにはいられませんが)、

http://d.hatena.ne.jp/okaguchik/20070122/p12

で紹介されている、この映画の監督の裁判所に対する強い期待、といったものを感じました。

追記:

先程、この映画に関するインタビュー取材を受けました。今週金曜日朝、フジテレビ「特ダネ」内の「エンタメ解体新書」というコーナーで、午前9時過ぎくらいから放映予定とのことです。出ても、ごく短時間と思いますが、興味、関心がある方はご覧下さい。

前知事、一転否認へ=土地取引、謝礼の認識ない−共謀の弟も・福島汚職公判

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20070123-00000204-jij-soci

やはり、否認で行くようですね。
以前、本ブログで、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20061111#1163254979

公判が紛糾しそうな予感がします。

と述べましたが、

http://d.hatena.ne.jp/yjochi/20061023#1161574233

で、

これが賄賂だったとしても、賄賂性をカムフラージュするため、いろいろな商取引が仮装されていることは確実で、知能犯捜査でよく言われる「筋の良し悪し」で言うと、あまり筋の良い部類には入らないような気がします。

と述べたとおり、元々、あまり筋が良さそうな事件とは言えず、無理に無理を重ねて自白させている可能性もあると思われ、公判も、右から左に簡単に片付く、というわけには行かないような予感がします。>検察庁

東国原知事、そのまんま“直球”「裏金ありませんか?」

http://www.sanspo.com/shakai/top/sha200701/sha2007012400.html

私自身、宮崎県新知事に悪印象はなく(過去の行動の中には問題視すべきものもあるとはいえ)、選挙で選ばれ重責を担う以上、是非、頑張って実績を残してもらいたいと思っていますが、この記事を読むと、今後が思いやられるな、という印象を強く持ちますね。
検事をやっていると、地方で、その地方の県議、市議などの「地方政治家」と話をする機会がありますが、地方在住と言っても、そこは政治家ですから、いろいろな意味で、一筋縄では行かない人が多く、結構、取り扱いは難しいものです。
彼らは、本音と建て前を巧みに使い分けており、その地方なりの慣習や論理で動いていて、しかも、相当なプライドを持っていますから、そういったところに、本音と建て前の乖離をズケズケと指摘したり、彼らなりの慣習や論理を頭ごなしに否定したり、プライドに配慮しない態度をとったりすると、持てる政治力を徹底的に使って反撃してくることは必至です。
そういった勢力におもねったり迎合する必要はありませんが、あまりにも性急に事を進めようとすれば、結局、望む成果も得られず、自分自身の行き場がなくなってしまう恐れがある、ということを、宮崎県新知事には忠告したいと思います。