「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証をわかりやすく

11/5 追記
本記事は、HPVワクチンの有効性、安全性そのものについて論じたものではありません。あくまで、「HPVワクチンの大インチキ」などという触れ込みで流布されている反ワクチン論について個別に検証したものです。HPVワクチンの有効性、安全性についてのきちんとした情報をお求めの方は、こちらをお勧めします。


Vol. 260,261 子宮頸がん予防ワクチン:その有効性と安全性について
MRIC by 医療ガバナンス学会




(ここから本文)
マイク・アダムスによる「HPV(子宮頸癌)ワクチンの大インチキを暴く」についての検証を、分かりやすさを重視してまとめ直してみました。

検証したのは、このサイトのレポートになります。これは、HPVワクチン反対派によってたくさん引用され、ネット上に広まっています。でも、ここに書かれていることって、本当なのでしょうか?もし本当なら、HPVワクチンなんて、怖すぎてとても接種する気にはなれないし、政府がこんなものを承認するなんて許しがたいことですよね。


そこで、次の4つの点について、元の資料などを読んで、検証してみました。

  1. HPVワクチンガーダシルが、前癌病変のリスクを44.6%も増加させるってホント?
  2. FDAの文書に、HPV感染は子宮頸がんの原因ではないと書いてあるってホント?
  3. HPVワクチンがなくても、ウイルスは消える!だから、HPV感染は子宮頸がんの原因ではない、ってホント?
  4. ガーダシルが無益であることを示した論文があるってホント?

1. HPVワクチンガーダシルが、前癌病変のリスクを44.6%も増加させるってホント?


これは、ガーダシルの臨床試験のデータを元に、主張されているものです。HPVにすでに感染している人について、ガーダシルを接種した場合には、ガーダシルを接種しない場合より、CIN1/2以上の前がん病変(がんになる前の状態で、子宮頸部の細胞に変化が見られる)が生じる割合が44.6%高かった、というもの。


けれど、元になったデータを良く読んでみると、この主張には問題がありました。

  • 臨床試験の対象となった人のうち、「HPVに既に感染している人」が少なかったので、解析した症例数が少なくなった。
  • そのため、「HPVに既に感染している人では、ガーダシル接種者で前がん病変発生のリスクが44.6%高かった」というデータはあるものの、バラつきも大きく、統計学上は「差がある」とはっきり言えないデータだった(計算されたバラツキの範囲に、「ガーダシル接種の有無で差がない」が含まれていた)。
  • また、もともと子宮頸がんが進行しつつあった人や、喫煙者、性行為感染症にかかっている人など、発がんリスクの高い人の割合が、ガーダシル接種者の方に多く偏っていた(発がんリスクの背景に偏りがあった)。
  • 同じ解析を別に行った臨床試験でやってみると、同じような結果がでなかった。
  • 複数の臨床試験のデータを集めて解析しても、ガーダシルを接種した人とそうでない人の間には、差があるかないかはっきりしないという結果になった。


結局、この問題については、さらにたくさんの人数で、発がんリスクの背景を揃えた上でよく調べてみないとわからないようです。逆に言えば、今のところ、ガーダシルの接種によりHPV感染者で前がん病変の発生が増加するというはっきりしたデータはない、ということになります(この臨床試験のデータから、HPVに感染している人に接種しても、前がん病変の発生を抑える効果は期待できないということは言えると、元の資料では結論されています)。


詳しく知りたい人は…
「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証(1)HPVワクチンは前がん病変のリスクを44.6%増やすのか?



2. FDAの文書に、HPV感染は子宮頸がんの原因ではないと書いてあるってホント?


これは、結論から言えば、嘘です。


マイク・アダムスのレポートの主張はこうです。

その中でFDAは、「HPVのDNA検査は、定期的なパップ(パパコロニー*1)・スクリーニングを代替するものとして意図されたものではない。通常の パップ・テストを受けた30歳未満の女性をスクリーニングすることを意図したものでもない。この集団でのHPV感染率は高いけれども、大半の感染は長続きせず、子宮頸癌と関連性がない」(強調は筆者)と述べている。


つまり、2003年の段階でFDAは、HPV感染が子宮頸癌と関連性がないことを知っていたのである。


特別レポート HPV(子宮頸癌)ワクチンの大インチキを暴く


このFDAの文書は、HPVのDNA検出キットの使用方法について、こういうふうに使っていいですよ、ということを知らせるものです。この文書には、「HPV感染と子宮頸がんには関連性がない」なんて、どこにも書いてありません。それどころか、こんなことが書いてあります。

HPVには100以上の型がある。本テスト、HC2 高リスク型HPV DNAテストは、メリーランド州ゲイザースバーグのDigene 社により製造され、13種類の子宮頸がん発生に関連する高リスク型HPVを確認できる。HPV DNAテストは、がんの検査ではなく、子宮頸部で細胞の変化を引き起こす可能性があるHPVのウイルス検査である。もし治療せず放置すれば、この変化は最終的にがんとなることがある。


FDA news 2003.3.31 P03-26

性行動のある米国人のうち、 常時最大20%がHPVに感染していると考えられる。ウイルスに感染しても、ほとんどは除去され、健康に長期的影響をおよぼすことはない。しかし、少数の女性では持続感染し、やがて子宮頸部細胞に前がん病変を引き起こす。


同上

パップテストで正常であり、HPV感染のない女性では、子宮頸がんの発生するリスクは非常に少ない(0.2%)。パップテストで異常があり、HPVテストが陽性である女性が治療をしなかった場合には、子宮頸がんのリスクはより高くなる(6〜7%、またはそれ以上)。


同上

HPVが子宮頸がんの原因となる、ということは前提とされているのです。その上で、「HPVのDNAが検出された(=HPVに感染している)人のうち、子宮頸がんになる人の割合は少ないから、HPVのDNA検出キットを子宮頸がん検診の代わりに使ったらダメですよ、と言っているのです。他の部分を読んでから見直すと、マイク・アダムスのレポートの結論は、飛躍していることがわかります。


詳しく知りたい人は…
「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証(2)HPVと子宮頸癌に直接の因果関係がないことをFDAは承知していた?


3. HPVワクチンがなくても、ウイルスは消える!だから、HPV感染は子宮頸がんの原因ではない、ってホント?


マイク・アダムスのレポートでは、HiFi DNA Techという会社がFDAに提出した「医療機器のクラス分類見直し請願書」を引用して、以下のような主張をしています。

ワクチンがなくともHPV感染は消散する


分類見直し請願書が明らかにしたように、HPV感染は自然に終息する。つまり、薬やワクチンによる介入の必要もなく、自然に制御されるということで ある。子宮頸癌を引き起こしているのはHPVウィルスそのものではなく、患者の側の持続的な不健康状態が、持続的な感染に陥りやすい環境を作っているのである。


請願書にはこう書いてある。


過去15年間で新たに公表された科学情報に基づき、HPV感染の特定と類型化は、子宮頸癌のリスク階層化と直接の関係 を有しないことが、いまや一般的に合意されている。HPVを原因とする大半の急性感染は、自然に終息する。(略)順次発生する一過性のHPV感染の繰り返しは、たとえ「危険性の高い」HPVによって引き起こされた場合であっても、その特性からして、子宮頸癌の前触れである扁平上皮内病変(SIL)を発生させる高いリスクと関連性がない。


何度もHPVの同じ株(遺伝子型)に陽性反応の出る女性は、持続性のHPV感染を患っている可能性が高く、頸部に上皮内前癌病変を発達させるリスクが高いと考えられている。癌のリスクを決定するのは、持続性の感染であって、ウィルスではない。


ちょっと難しいですが、子宮頸がんのメカニズムは、「HPV感染→大半の人は自然に治る→しかし、一部の人は持続感染を起こす→HPVによって子宮頸部の細胞が変異し、がんになる」であると言われています。マイク・アダムスは、この「持続感染を起こす」のは患者の健康状態のせいであって、ウイルスのせいじゃない、と言っているようです。


でも、これってなんか変です。いくら、患者が「不健康状態」であっても、HPVに感染しさえしなければ、持続感染も起こらないんです。それなのに、ウイルスは関係ない、なんておかしいんじゃないでしょうか。


子宮頸がん組織では90〜100%に、HPVの存在が確認されます(子宮頸がんでない場合5〜20%)。また、HPVがどのように細胞の遺伝子に変異をおこし、がんを引き起こすのか、といったしくみも解明されてきています。「HPVががんの原因となっている」ということについては、世界中のお医者さんや研究者によって、日々検証され、再確認されています。だからこそ、HPVが子宮頸がんの原因であることを突き止めたハラルド・ツア・ハウゼン氏が、2008年にノーベル賞を受賞しているのです。


また、HPVの検査が、子宮頸がんの検査のかわりにならないこと(上記の訳文で言えば、『リスク階層化と直接関係ない』とされていること)についてですが、HPVに感染しても、ほとんどの人は一過性感染ですみ、自然にHPVは消えてしまいます。アメリカのデータでは、HPVに感染している人の中で浸潤がんにまで進行するのは0.13%と言われていますので、もしHPV陽性の人を全員がんのリスクあり、とすれば、99.8%以上がハズレのとても効率の悪い検査になってしまいます。そういう意味で、HPV検査をがんの検査の代わりにはできません。ただし、がん検診として標準的に行われている細胞診(パップテスト)で陽性だった人に対して、HPVの有無や型(HPVにはがんを起こしやすい型とそうでない型があります)を調べて、その後の管理指針を決めることは既に行われています*2。


HPVに感染しても、子宮頸がんまで進行することは少ないです。けれど、HPVが子宮頸がんの原因であることは、今ではほぼ間違いないこととして、世界中で認識されています。


詳しく知りたい人、上記のデータの出典や、参考文献が見たい人は…
「HPVワクチン(子宮頸がんワクチン)の嘘」の検証(3)HPV検査は子宮頸がんを調べていない?」


4.ガーダシルが無益であることを示した論文があるってホント?

この結論について更に調査するため、Natural Newsは、『米国医師会ジャーナル(2007年8月号)』に発表された「既存の感染症のある若い女性へのヒト・パピローマ・ウィルス16/18 L1ウィルス様粒子ワクチンの効果」という研究を細かく調べてみた。
この研究は、既にHPVを保有している女性(これは事実上、年齢にかかわらず性的活動のある全ての女性を含むことになる)に対するHPVワクチンの有益性を測定するためのものだった。

この論文の内容は、確かに、「HPVに既に感染している人にワクチンを接種しても、接種していない人に比べてHPVがなくなりやすいという傾向はなかった」というものです。


けれども、この結論は、1の臨床試験に出てきた結果と矛盾していません。結局、「もう感染している人を治療する効果がない」ということです。厚生労働省も(FDAも)、このことは前提にガーダシルを承認してます。添付文書にもはっきりそう書いてあります。そもそも、ワクチンは予防として接種するもので、治療効果がないからと言って無意味だ!なんて、おかしいですよね。接種を受ける側が、それをちゃんと認識して、受けるか受けないか決定すればよいということです。


それから、「年齢にかかわらず性的活動のある全ての女性」が「既にHPVを保有している」というのは、どうでしょうか?2. で引用したFDAの資料では、「性行動のある米国人のうち、 常時最大20%がHPVに感染している」となっていますね。


検証は以上です。このマイク・アダムスのレポートは、引用しているのはまともな資料なのですが、自分の主張に都合のいい所を抜き出したり、資料の実際の内容とはかけ離れた独自の結論にこじつけたりしているところに大いに問題があります。このようなレポートを、「ワクチン接種の是非」のような大切な判断をする際の材料にしないほうがよいのではないでしょうか。


2012.3.24 追記
最近、2ちゃんねるまとめブログに掲載されたHPVワクチンの「噂」に関しては下記をご覧下さい。
HPVワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)のよくある「疑惑」について

*1:正しくは「パパニコロー」です

*2:その時に使われるのが、先程出てきたHPV DNAテストです