タモリが歩いた秋葉原


19 日に放送された NHK 総合「ブラタモリ」の「秋葉原」編が超面白かったです。

街歩き番組で秋葉原を扱うとなれば、うっかりしてると「萌え」的な方向に流れがちで、たしかに今回の「ブラタモリ」もメイド姿の女性が出現していたのですが、しかしそれもあくまでアクセントに過ぎません。

今回の秋葉原編のテーマは「振り返らない街」。この言葉を軸にしながら、しかしタモリは秋葉原の街それ自体の過去を振り返り、あるいは自身の青春時代までも振り返ることになるのでした。

以下、そんなタモリの秋葉原での発言を振り返ってみます。


○まずは駅前の電気街をブラブラしながら思い出を語る


東京に来たばかりの頃、電気街を見てみたくて秋葉原に来たんですけど。


僕は高校まで地方にいまして、ラジオとか無線のものを組み立てるんです。
でも電気部品というのがそんなに地方には自由にないんですよ。


「あそこに行けば何だって揃う」と。


○道端にいるメイド姿の観光案内が「タモリご主人様」と呼びかけてきた


「ご主人様」と言うからには
ぼくなんか「おい、お前」って言ってもいいの?


(メイド「もちろんです。ご主人様が呼びたいように呼んで頂ければ」)


お前、ちょっと行ってくるからな。
じゃあここに来たとき、必ずお前んところ寄るから。


…ちょっと、ご主人様面すると時代劇っぽくなるんだよな、言葉が。


○秋葉原駅の電気街口にて


(資料館の学芸員の話を聞きながら)


あ、火事が多かったんですね、このへんね。
もう神社祀るくらい。火事が多いんですよ。江戸時代も多い。


(学芸員「かつて火よけの神様は『秋葉様』だという信仰がありました。
それがいつの間にか『秋葉』様のある『原』っぱということで
『秋葉原(あきばはら)』になったんです」)


今「アキバ」と言ってるのは正しいんですよ。
昔に還ったらあれは本当に良い言い方なんです。


で、「燃えちゃ作る、燃えちゃ作る」から伝統、関係ないんですよ。
もうとにかく作らなきゃいけない。街を発展させなきゃいけない。


だから後ろを振り向かないんですね。
東京中でこれだけ後ろを振り向かないところは無いんで、これだけ発展した。


○微妙な段差を降りたところに造成された公園に立ち寄る


中途半端な高さだね。


これは「石積み」ですか?
(公園には)ふさわしくないですね。


○川の無い場所に「佐久間橋」の親柱を発見


おっ! 「佐久間橋」ですね。
ということは、ここに橋があったんだ。

公園の中に不自然な石積みがあり、川もないのに佐久間橋の親柱がある。
この謎が、秋葉原に長年住み続けているという素人のおじさんに尋ねて解明されます。


○街のおじさんに聞いた


こちら長い間お住まいの方で?


(おじさん「あのへんの近所で生まれた」)


今あの「佐久間橋」という石が残ってまして、
あそこの公園が一段低くて、
横の石積みが公園にしちゃ異様なんですけれども、
これ何なんですか?


(おじさん「このへん昔『運河』だったんですね」)


あ、運河!


(おじさん「当時の秋葉原は東北方面からのお米や炭などの集積地で
このへんは全部、炭問屋だったんですね。薪炭問屋(しんたんどんや)」)


薪炭問屋。シン、タン、ドン!
…燃料屋さんですね。


で、ヨドバシカメラのあたりが、昔「船だまり」だったんですね。ほぉー。


今は船だまりの名残は、完全に無いんじゃないですかね。
「振り向かない街」ですからね。

街中のちょっとした違和感がすべて明治時代の「運河」の名残だった、というお話です。
いっぽうで「船だまり」の面影は、今のアキバヨドバシには完全に無い。


○タモリお気に入りスポット「万世橋」


あそこが総武線。あれが中央線。
あれ山手線。あれ京浜東北線。


お、通った通った総武線!
おー四方向見えるね。


あそこが駅ですからね。あれ(総武線)が来た来た。
これで中央線が来ると抜群なんですけどね。
鉄道ファンにとってはすごいなって。


(中央線は来ず)


…そうはうまくはいかなかったねー。


(久保田アナ「次々に電車が見られると気分はアガるものですか?」)


ここ面白いですね。全部見えるんだもん。

「万世橋」の上からは電車の 4 つの路線が見られるんですね。


○電気街の裏通りへ


この通りも専門の店多いです。


ノートパソコン 1,500 円ですね。(古い年式なので)こんな「厚み」はないよ。


おもしろいでしょこれ、売ってるものが。


ほらフィルムカメラですよ。
「ノーチェック保証なし」。写るかどうかはわからない。


『ご主人様の免許証の色は?』
(※ヘッドセットを頭につけて女声で保険会社のコールセンターのものまねをいきなり)


さらにキーボード。
これキーボードって何回対応できるか知ってますか?


(久保田アナ「え? 1 万回とか」)


100 万回! 100 万回(打鍵の)対応できるようになってる。
この工場に行くと、こういう(押す)機械がずーっと動いてますよ。

「※現在は 500 万回以上可能です」とのテロップ。


○「レディースデー」の看板を見つける


「レディースデー」っておかしいよね。
「レディースデー」っておかしいよ。


(店主に向かって)
これ「レディースデー」ってあるんですか? これなんか効果あります?


(店主「最後の一声で『10%オフできますよ』って話ができます」)


はぁーそうですか!

なんだろ男女平等の観点から「レディースデー」に疑義を唱えたのでしょうか。


○素朴な疑問


でも看板によく「女性特売日」って書いてあるけど、
あれおかしいですよね。「女性特売日」ってあれおかしいよね。


いちばんすごいの俺見たんですけどね、
『短期アルバイト募集中。なるべく長く続けられる方』っていうの。
わかんないのどっちか(笑 不思議だよね。

「女性特売日」がおかしい、ってのはたぶんいやらしい意味


○「鉄道居酒屋」に入店


(飲み物を注文)
この「近鉄のアーバンライナー(=グレープフルーツジュース)」


(店員「はい、じゃあ近鉄のアーバンライナーが『1 両』ですね)


1 両! 1 両もいらない(笑


これ(=電車の運転席からの眺めが延々流れる映像)見ながら
(家で)酒飲んでるんですよ。ひとりで。全国の路線の DVD ほとんど出てる。
これ大型画面に映しながら。面白いんですよ。


ぼくどっちかというと線路ファンですから。車両よりも線路のほうが。
あ、いいねー。このトンネル入っていく。


できれば単線が綺麗なんですけれどもねー。


(「近鉄のアーバンライナー」を飲んで)
うん、近鉄の味がするなー。


○鉄道ファンとトーク


(「撮り鉄」の自作写真集をめくりながら。冬景色が写っている)
これ寒いのイヤだねー。これ撮りに行く? うわー。


これはね、ちゃんと狙ってますね、時刻も。


栗駒山!


(久保田アナ「すいませんあの、先生をお呼びしてもよろしいですか…」)


(無視して)おーー! いいなこれは。このバンドネオン!

その後、交通博物館の元館長がテンションあがりきったタモリの前に登場。
秋葉原と鉄道には深い関係があるという。


○交通博物館跡地には 100 年前、モダンな「万世橋駅」が建っていた


(赤レンガでつくられた「万世橋駅」の絵を見ながら)


すごいでしょこれ。すごい豪華でしょ。
東京駅にちょっと似てますね。


(元館長「設計したのが東京駅を設計したのと同じ…」)


同じ人です。

ちなみにモダンだった「万世橋駅」は大正 12 年の関東大震災で崩壊している。


○万世橋駅の食堂で使われていたという茶碗が発見された


これ食堂で使われてたやつですよね?
芥川龍之介がこれで茶碗蒸しかなんか食べたかな?


○万世橋駅の名残を探りに近くのビルの8階から眺めることに


これいいねー。なんか中央通りの上にあるみたいな感じがするね。


あ、ホーム。万世橋のホーム。
あの栄華を極めた万世橋のホームの跡ですね。


(※ホームの跡は残されているが草が生い茂っている)


これ残ってることはいいんだけども、これだけ残すんだったら、
いっそのこと殺してくれって言いたいよな。
ちょっとそういう気もするんだよな、俺これ通っていつも見るんだけどね。
残すなら残す。秋葉原にしては往生際が悪いですね。残し方。


「振り返らない街」としてはね、中途半端に振り返ってますよ。
「残すんなら草取れ!」っていう。


○秋葉原で見つけた歩道のタイル画を解説


・一枚目
これ道路に埋め込まれた絵ですけどね。
わからないでしょう、なんだか。
このグルグルのところが「ニクロム線」といって電気を通すと真っ赤に熱を持つんですね。
これでお湯を沸かしたり調理するんです。
『電気調理器』。
これ学生時代はもう必ずありましたね。


・二枚目
これは『ラジオ』ですね。アンテナがついてるというのがね。
これぜんぶ昔のものが描いてありますけどね。


知ってます? 携帯電話にアンテナついてたでしょう。
あれはね、ほんとに無駄だったよね。なんでついてたんだろうね。


「もしもし?もしもし? ちょっと聞こえない」


……って、ちょっと伸ばしても同じだと思うけどね。
あれ伸ばしても位置が違うだけで、電波の状況変わんないんだよね。


これ不思議だったよねー。


○タモリが昔よく来ていた「東京ラジオデパート」来店


(※バラバラの小さな部品が並んでいる)


おー、懐かしい! 何年ぶりだろうなこれ。


はーいいねー。トランスの電圧を変えるんですよ。


あ、これターミナル端子ですね。


(久保田アナに)わからないですね?
いいですよ。適当にやっといて。


あ、リレーですねリレー。


マイクロスイッチ!


コンデンサーですね。これが無いとすべての電気製品は動きませんから。


九州にいたでしょ、こういうところが無いんですよ。
なかなか部品が手に入らなくて。


「俺、なんで東京で生まれなかったのかな?」って思ったもん。


憧れですね。なんでも揃うんだもん! これどんなものでも。


○久保田アナ「電気製品を買って何を作るんですか?」


ぼくらのころは、だいたいまずラジオ。
しかも短波で聞けるラジオ。
それからアマチュア無線の送信機、受信機。
ぼくらのころはね、もっとね、真空管時代ですからね。


○店先で真空管ラジオ発見


おー! 「ST管」ですねー。


おお! 「6SG7」!
真空管に全部これ名前がついてるんですよ。


あー! 「807」なんてあるんですか!
無線送信機! ぼくが使ってたんですよ「807」っていうの。
しかも米軍の払い下げしか手に入らず。


新品ですか?
あー何十年ぶりに会ったんだろうなー!
高いですよ。中古しかぼくの小遣いでは手に入らなかった。


おー、「GT管」。


あ、米軍から入った「メタル管」ですよね。
この払い下げ管をね、ぼくよく使ってましたよ。


○秋葉原電気街のルーツとは


(店のおばさん「須田町とかああいうところで露店で出てたんですよ」)


須田町のほうにもともとあって露店がずっと?


このへんにはまだなくて須田町のほうにあったわけですか。
露店がずらーっと並んでたの?

真空管ラジオを作る部品は戦後すぐ
旧神田区の須田町(現・神田須田町)の露店で売られていた、という話を耳にする。


○神田須田町の古い店を訪ね歩きながら「電気街の始まり」を追跡


(露店の)面影もないね


ここ古いんじゃないの?


(と見つけた昔からありそうな居酒屋に入って主人に話しかける)
秋葉原に行きまして、もともとこの表通りに
米軍の払い下げの真空管とか売ってる露店が並んでいて、
それが発祥だと聞いたんですけど。


(居酒屋の主人「秋葉原は今電気街だけどもともとはヤッチャ場(青果市場)だった」)


あー青果市場。えぇ。


(次に老舗の和菓子屋に入って店のおばさんに尋ねる)
このへんでご存知の方がいるんじゃないかと思って、
お見かけしたところ「これは古いぞ」と。


(和菓子屋のおばさん「主人の父が行司やってたんです。22 代の木村庄之助を」)


おー、木村庄之助といえば行司の最高峰ですからね。
「ヒゲの伊之助」と同じ時代ですか?
あー、じゃあぼくが相撲に熱中してた時代ですよ。
「ヒゲの伊之助」ですよね。あ、俺知ってますよそれじゃあのころ。
テレビで見てました。へー何十年ぶりにこれが。


(写真を見せられて)
あー、見覚えありますあります

本題から逸れまくり。


○煙草屋に聞き込み


ちょっとお話を伺ってもよろしいですか?


(店で飼ってる犬が興奮しながら登場)


何犬ですか?
(店のおばさん「イタリアングレーハウンドです」)


おー、こんにちはこんにちは!
(犬とじゃれあうタモリ)


…ね、えー、そういうこっちゃないんです(笑


秋葉原ブラついてまして、
この表通りに、終戦直後の昭和 21 年くらいに露店があったのはご存知ですか?


(店のおばさん「わたし子供だったんですけど露店があったのは知ってます。
そっくりぜんぶ秋葉原に行ったんですよ」)


秋葉原のガード下に行ったと。あ、じゃあ本当ですね。


○当時須田町で父親が露店を出していたというおばあちゃんと対面することに


こんにちはどうもタモリでございます。
わざわざすいません。よろしくお願いします。


あのー、電気の部品の露店、お父様がやってらっしゃったの?


(おばあちゃん「あのね、真空管、抵抗器、つまみ。それで一番最後にコード。
端から端まで歩くとラジオが完成するというかたちになってたの」)


そんな軒数がズラッと並んでたんですねぇ。
順番に買っていきゃいい。ほぉー。


じゃあ今とあんまり変わりないですね向こうの秋葉原とね。
最初から専門だったんだね。
それ知らなかった。最初から特化してたなんて。


(おばあちゃん「店はコードを売っていた」)


いちばん最後のコード! 「トリ」だ!

昭和 24 年、須田町の露店は GHQ の命令で現在の秋葉原に移動。
タモリの取材で「秋葉原電気街のルーツは須田町」という史実の裏が取れました。


○最後にタモリ自ら「半田付け」を実演。真空管ラジオを製作


これが半田付けですよ。
これでもう電気的に完全につながる。


この真空管を、差すんですね。うん。
これを入れてみましょう。


(スイッチ入れる)


真空管ですから。ウオーミングアップの時間がかかります。
この待ち時間もいいんですよね。

結局かかったのは謎の「ポルトガル語ニュース」(NHK第2)。


○久保田アナ「秋葉原は元々電気の街だったのになぜ今アニメとかの街に?」


なんでかね?


まぁでもこういう電気の趣味って自分の世界に浸り込むでしょう。
半田付けひとつにしても綺麗に仕上げようとか。
共通点あるんですよ、そういう人たち。自分の世界の中に入り込む人たちですね。


僕はこういう商売してますけどね、
でも、根本は人見知りなんですよ。
意外と人見知り。


毎日テレビに出て愉快に振る舞ってるでしょう?
誰とでもね、どんなゲストとでも楽しくフランクに喋れてると思うんですけどね。


本当はね、ちょっと…
オタクっぽいの…。


本当は苦手なんですよ。
あんまり人と交わりたくないの俺。


(久保田アナ「対極の世界にいらっしゃると思いますけど…」


いや対極の世界です。


毎日苦しいんだよ…(笑


○タモリの秋葉原まとめ


ほんっとに、まったく前しか見てない街。
過去を振り返らない街ですね。
中心地もコロコロ変わるしね。


絶対に過去は振り返らないけども、
俺はずーっと今日、
過去を振り返ってばっかりだったね。
この街に来て。


なんなんだろうね?(笑
懐かしいことばっかりやってた。


真空管ラジオ作りにハマり、秋葉原に憧れていた福岡の少年が
「タモリ」と「森田一義」の顔を交互に見せたような放送でした。