冗談が通じなくて悪かったな。

 「おまえには冗談が通じない」
 「そんなつもりで言ったんじゃないのに何を言ってるんだ」
 「何ムキになってんの?」


 子供の頃よく言われたもんだ。
 人を笑い者にしておいて、私が怒るとそう返ってくる。
 実際まぁ、ナイーブに過ぎるところがあるのは認めるよ。小心者で自意識過剰だし、そのくせ見栄っ張りのでしゃばりだし。まぁ自分は馬鹿な子供だったと思うさー、どこにでもいる根暗で理屈っぽくて幼稚な正義感を振りかざしては返り討ちに遭う、人付き合いのヘタな中学生レベルで。


 実際のところ、私は、生まれ育った土地ではどっちかっつーと社会的な地位が低めとされる属性の家に生まれて、父も母もそれを覆すために本を手にした人だ。母方の祖母は外から嫁いできた人で、外からはその属性と結婚したこと、内からはその属性を持たぬことで圧力を感じていたという。
 けど、子供の頃にその生まれを面と向かって笑われたことはあまりないし、感覚の断絶は感じてもどこか諦念があって小さく溜め息をつけば済むことだった。私に知識を授けてくれた父と母のおかげだ(鈍い子供だったってのもある)。まぁ、その後勉学を怠ったので今は物を言おうとする度にツケを支払わねばならなくなっているけれど(それは付け焼刃の知識で物を言ってもいいのかという恐怖も含む)。
 私の家と同じ属性を持つ子は他にもいたし、学校でそれを揶揄されることはなかった。


 上に書いたような台詞は、そういう属性は別として、少し変わった私の名前であるとか(父が随分思い入れて矢鱈にスケールのでかい名前をつけてくれたんである/父には申し訳ないが私はこの名前を好きになれずにいる)、どうしようもないクセ毛であるとか、給食を食べるのがとろいとか、足が遅いとか、やたら理屈っぽいとか、アイドルの話もせずリボンやヘアゴムにも凝らないで女の子らしくないとか、まぁそういうことへの揶揄に、自意識過剰な小学生が怒り出すと跳ね返ってきたものだ。
 下級生をからかってる男の子を止めに入っても、「先におまえのその髪の毛何とかしろよ」だの「オトコ女がなんか言ってるぞ」だの言い出して、私が怒ったり泣いたりしたら上記の言葉が返って来たもんだ。先生に呼ばれて事情を聞かれても「そんなつもりはなかったんです」「冗談で言いました」だった。
 冗談じゃない。あんたらは冗談だったかもしれんがこちとら冗談じゃ済みゃしないんだよ。
 でも結局「冗談」で片付けられた。注意はされてもそれだけで、髪の毛に言及するのがダメなら次は名前、それがダメなら次は鈍臭さ、手を変え品を変え冗談はやってきた。私はずっと冗談の通じない子供だったし、今だって似たようなもんだ。


 私が二十歳を過ぎた頃、地元でとある事件があって、私の家を含む属性への疎外感、嫌悪感のようなものが湧き上がったことがある。祖母はさすがに80も超えて気弱になってしまったのか随分とくよくよし始めた。交わされる噂や評判に弱音を吐くようになり、家族はそれを疎ましいと思い始めた。
 ある日ついに母がそれに苛立って「私達は何も悪いことなんてしてないんだからくよくよすることないじゃないの!」と強く言った瞬間、祖母の中に溜まっていたものが一気にあふれ出した。私が生まれる前に死んでしまった母方の祖父のこと、自分の姪っ子の旦那が私達家族へ向けてる視線のこと、祖父の家からの「よそもの」への拒絶のこと、自分は実家の墓に入る気でいること、それについて実家の親戚の一部がいい顔をしないということ……生きるのにがむしゃらで、本を手に取る余裕のない人だった。まるで論理的ではなくてほとんど繰言だったけれどとめどなく溢れてくる祖母の言葉に、居合わせた私は立ち尽くしたままどうすることもできなかった。
 「おまえにも苦労をかけてばっかりで…私が産んだばっかりに」
 祖母がそう言った瞬間、母は突っ伏し、声を上げて泣いた。
 ちくしょう、と思う。
 噂をしてる人達は、私や両親、祖母の前に立った時「あなた達のことを言ってるんじゃないよ」「そんなつもりで言ったんじゃないよ」と言うだろう。きっといい人達だろう。そしてそれでも私が納得しなければ「何もそんなに怒らなくても」とか「噂ごときで」とか言うんじゃないのか。挙句に「これだから…」と私の家を含むその属性をあげつらうんじゃないのか。
 「そんなつもりじゃなかった」と無邪気に言い放ちながら、祖母や母に、私にこんな思いをさせる奴らは死ねばいいと思う。祖母にこんなことを言わせた奴らは、どこかの誰かに、こんな思いをさせてる奴らはみんな死ねばいいのに。死ねばいいのに。

 「そんなつもりじゃない発言」に、「ただの冗談」にこれだけの憎悪を向ける私はおかしいのか。冗談がわからない野暮で不粋な馬鹿なのか。「死ねばいいのに」を並び立てるこれはヘイトスピーチか。

 id:Tezさんやid:buyobuyoさんのエントリに号泣した私は、救われた私は一体何だ。

 でもねえ、この空気はいやなものだよ。
 2007-10-28 - 捨身成仁日記 炎と激情の豆知識ブログ!

 この一言に本当に救われた私は、無邪気で冗談の通じるあなたたちには一体どう見えてるんだ。

 御二方のエントリは本当に、本当に嬉しかったんだ。どんなに言っても言い足りないけど、本当にありがとうございます。

あーぁ

 はてなで自分語りするのは、自分の性格上際限なくなるからやめようと思ってたのになぁ。しかも感情丸出しで。
 もうこれで以後の私の発言には色がついてしまうなぁ。ただの感情的で文句タレなはてなサヨクブックマーカーでいたかったんだが。
 それでも言いたかったから書いたんだけどさ。それに御二方にありがとうと言いたかった。関係ないところで勝手に泣いてわめいて救われて、後ろめたくもあるけれど。

とりあえず

 今日は予約してたエースコンバット6を買ってこよう。給料日前なので箱三郎搬入は数日遅れるのが泣ける。

あれ?

 日記モードで見出し使ったら、見出し使ってなくて日付に付いてた過去エントリの☆が表示されなくなった。参ったなぁ。
 やっぱはてな便利だけどややこしいや。ダイアリーはまだ慣れない。