『さんかれあ』の気になった描写


 第1話「私が…ゾンビに…なったら」から第4話「普通の…女の子…まで」を視聴してのメモ。



・ラブコメ作品であるとは思うけど、どこか影がある。キャラデザもキャッチーなもので、明るい感じだけど、それに反してストーリーはどこか重苦しい。父親の異常な愛からくる呪縛と『ゾンビ』という死んだ者との恋愛。ずっと一緒にいられることはないであろう同居生活。かわいい女の子が家にやってきて楽しい生活が待っているというよりは、過酷な運命が待っているようにしか思えない。

 明るさと暗さの表裏が見所だと思う。彼と彼女にどのような結末が待っているのか。




・映像面も印象的なものに仕上がっている。随所にシャフトらしさがあるが、それは大沼心さん・龍輪直征さん・上坪亮樹さん・尾石達也さんとは別のものであり、畠山監督が自分なりに消化したシャフトのように思える。


 気になったのは、横構図で人物を捉えたフルショット又はロングショット。これは毎回繰り返し繰り返し映し出される(縦構図のショットよりも横構図のショットのほうが多い)。挙げていくと、


 第2話「成功…してた」、廃墟となったボーリング場でのシーン。



 第3話「さんか…れあ」、散華家でのシーン。



 第4話「普通の…女の子…」、降谷家でのシーン。




 シャフトだったら、前景に遮蔽物でも置きそうだけど、それをしない。


 それに加えて、その横構図のショットでは、なぜか対称的な画面設計が選択される。対称の画面設計がすごく印象的で、『対』が強く意識されているように僕は思った。対称的な画面設計の時は、礼弥と千紘、礼弥と団一郎の二人の会話シーンが多く、礼弥にとっての好きな男の子と父親が対比されているように感じられた。

 例えば、先に挙げた第2話の廃墟となったボーリング場でのシーンなど。それと、


 第2話「成功…してた」



 第3話「さんか…れあ」



などの対称的な構図がある。




・夜の時間にだけ会う主人公とヒロインという設定がよかった。夜の闇の中で、時間と秘密を共有しあう。そして男の子と女の子は親密になっていく(生前の礼弥は夜の暗闇の中でしか、自分の本当の想いを表に出すことができなかった)。千紘と礼弥は昼間に出会うことは一切ない(見かけたりはする)。月光の中でしか会うことなかった二人が、太陽の下で出会うことになった時、彼女は死んでゾンビとなったときだった。ドラマティックだ。




・第3話「さんか…れあ」の崖でのシーンは素晴らしかった。人物の心理状態に合わせて、刻刻と変化する天候(礼弥が父親を拒絶するところなど)。礼弥が崖から落ち、死んでしまい、悲しみの雨が千紘に降り注ぐ。しかし、死んだ彼女は立ち上がる、生ける屍になって。その時、雨は止みに眩い太陽の光が二人を包む。彼女は光に包まれ、新しく生まれ変わった。呪縛から解放されての解放感と好きな男と再び出会えた喜びが眩い光によって増幅される。死んでしまったのだから決して喜ばしいシークエンスではないだのが、多幸感に包まれて、喜びと悲しみが合わさった複雑なシークエンスに仕上がっている。




・第4話「普通の…女の子…」も素晴らしかった。ゾンビ少女と同居することになった主人公。ラブコメアニメ作品なら、これから楽しい生活が始まるっていう空気で満たされているが(邪神と同居する作品とか)、この作品は違う。主人公はヒロインが死んでしまったことをしきりに気にする。本来、ゾンビ少女との同居を望んでいたのだが、現実は問題ばかりのものだった(何を食べるのか? 死後硬直とか、これからの生活とか)。千紘と礼弥や他の登場人物たちは明るいが、第4話の空気はどこか重い。


 礼弥は、死んでしまったことよりも、父親から解放されたこと、普通の女の子として過ごしていけること、好きな男の子と一緒にいれることのほうが嬉しくて、ゾンビになったことにショックを受けていない。一般的な女の子であれば、自分がゾンビとして生き返ったことに発狂しそうなものだけど、礼弥にとっては今までの生活の方が「死」よりも辛かったものなのだろう。


 第4話の空気の重さは、映像面にもある。夕暮れ時とあり、画面は常に薄暗い。夜に近づくにつれ、画面はより暗くなっていく。自然光を基調とした照明設計のため、影があり、その陰影は不穏な空気をかもし出す。人物の気持ちの高ぶりを暗影が抑制する。登場人物(主に礼弥)は明るいのにどこか不安がまとわりつくのは、この画面設計だからだろう。



 話は変わり、第4話のととにゃんの背景もグッド。綺麗だ。




・畠山監督が手掛けるEDも素晴らしい。幻想的なボーリング場の描写は美しい。左を向いていたら、右を向いたりとトリッキーな繋ぎ方も良い。




 以下気になった描写を挙げる。


 第3話「さんか…れあ」。礼弥の落下するところでの千紘の裂ける顔。インパクトのある見せ方であり、彼の心が裂けるところでもある。




 第4話。浴槽から立ち上がる団一郎のナニを見ているような亜里亜の目つき(見ているかは確実ではない)。この目つきがよい(見下したような)。この前に、団一郎が亜里亜の相手をしないというメイドの話がある。




 第3話「さんか…れあ」。アバン。生前の彼女との一時。綺麗な橋上でのロングショット。彼女を救う分かれ目を橋の上で。この橋を渡ると、彼女は死ぬ運命をたどることになる。橋を生と死の繋ぐ境目という舞台装置にする。