青い花 第4話「青春は美わし」が面白い

登校

「これからさ。待ち合わせて一緒に行こうか、学校」


 前回、図書室で杉本とキスをして、付き合うことになったふみ。

 Aパートは、杉本と朝一緒に登校することになり、その事に舞いあがりながら部屋で身支度をするふみを、軽妙な音楽と共にモンタージュシークエンスを使って見せていく所から始まります。駅へ向かうふみ。そこには、杉本とあきらが待っていました。杉本の事で頭がいっぱいなために、すっかりあきらと一緒に登校することを忘れていたふみ。あきらの事を忘れていた自分を悔いる。あきらと別れ、杉本と登校するふみ。

 ここで注目したいのは、あきらと一緒に登校することを決めたふみへの杉本の態度。「あーちゃんはそんな子じゃありません」と言い放ったふみに対して、「仲良しグループから外れたら大変だ」と皮肉めいた言葉で返す杉本。ここでは、「あーちゃんはそんな子じゃありません」と言われ、むくれる杉本を短い間隔での3カットで表現しています。バッグを肩にかける(図1)、速足で歩きだす(図2)、ふみから離れていく(図3)、この早く切り替わる3つのカットによって、昂った強いイメージを持たせており、ふみが自分よりあきらと一緒に登校することを決めた事に対して、嫉妬とほんの少しの怒りを抱いた杉本の感情をより際立たせています。その次では、通常の速さでカットが切り変わり、杉本の昂った感情が落ち着いてることが伝わってきます。

図1

図2

図3



喫茶店


 喫茶店で、ふみがあきらに杉本と付き合っていることを打ち明けるシーン。ここでは、だだをこねる子供らしいふみと大人らしいあきらの対比がうまく描かれています。大人らしいあきらと言っても、ふみの前だけで、他は全然大人らしくないのですが・・・。

 「あーちゃんと一緒に行く」と言いきって、テーブルに伏せるふみ。その途中で、店員がレモンティーを持ってきます(図4)。この店員がレモンティーを持ってくるのが秀逸だと感じました。店員に受け答えるあきらとじっと伏せているふみ。まるで、母親のようなあきらと子供のようなふみがよく描かれています。また、あきらとふみの会話の良いアクセントにもなっています。

 もちろん、ふみが単純にだだをこねてテーブルに伏せているというわけではなく、あきらに杉本と自分の関係を告白するかどうか思い悩んでいるのも伏せている理由だろうし、告白する時にあきらの顔を直に見られないからというのも伏せている理由の一つなのでしょう。

図4



図書館の君


 職員室での杉本と各務先生のシーン。杉本が「舞台見に来てくださいね」と各務先生に言い、「顧問だからな」と各務先生が返します。「顧問だからな」と言われた時の杉本の顔には半分以上影がかかり、目が描写されていません(図5)。顔全体を描写せず、半分以上影で覆われているのは、彼女の心境に変化が起こり、影に覆われていることから気持ちが沈んでいる様子がわかります。職員室から廊下に出る杉本。窓からの入射光だけで、廊下全体が薄暗い(図6)。この薄暗い廊下から、これまた暗い影が彼女の心を覆っていることが感じ取れます。映像によって、彼女の心の変化をとてもわかりやすく視聴者に伝えている。

図5

図6


 杉本の回想シーン。ここでは、物語をよりドラマティックにするためにとある台詞を抜き取っています。風の音により、各務先生の台詞が聞き取れません。この台詞については後で書きます。それと、ここでは面白い場面転換をします。風により木から葉が取れ、杉本から下手(画面左方向)へと木の葉が流れる、そうすると、セピア調からカラーの場面へと転換します。この流れる木の葉は、各務先生のもとへ行くことから、杉本から各務先生への「想い」だと言う事がわかります(図7)。そして、告白している杉本と各務先生が映し出されます。

図7

 「すまない」という各務先生の言葉と共に真っ暗なトンネルの中を走る電車へと場面が切り替わります。真っ暗なトンネルを走る電車が告白を断られた彼女の沈痛な暗い心情をあらわしているようにみえます(図8)。橋の上にいる杉本の後ろ姿をロングから捉えたショットはどこか悲しげに見え、これまた彼女の心情をあらわしているようにみえる(図9)。

図8

図9

 藤が谷の演劇部で「嵐が丘」の稽古をする杉本。途中、彼女は演技を中断してしまいます*1。彼女が演技を中断してしまったのは、嵐が丘のポスターを制作するために自分をスケッチする美術部の生徒を見たからでしょう。これと前にも似たようなシュチュエーションがありました、それは杉本の回想シーンで、各務先生をスケッチする杉本姉妹の所です。自分をスケッチする美術部の子を見て、各務先生をスケッチしていた当時の自分と重ねて見てしまったのでしょう。これにより、いまだに杉本は各務先生の事を断ち切れていないことが明白になります(図10)。

図10

 ふみは、杉本を図書館の君と呼んだ人物のことが気になってしょうがありません。しかし、どうしても聞くことができませんでした。この第4話のラストは、ふみが図書館の君と呼んだ先生は誰? という疑問のモノローグと共に図書室の窓から杉本を見ている各務先生を捉えて終わります。ここで前述したとある台詞使われることになるのです。その台詞とは、「さじずめ、図書館の君ってところか」という各務先生の台詞。回想シーンで、その「さじずめ、図書館の君ってところか」という台詞を使わずに、ふみのモノローグの後に図書室に佇む各務先生の所で使用しているため、とてもドラマティックな効果を生んでいます(図11)。まさに「ここぞ」というタイミングでの使用でした。その直後に「青春は美わし」とタイトルが出る構成がより視聴者の胸を打ちます。

図11



おまけ


 各務先生の「うっす」が良かったです。各務先生がこういう挨拶をするとは思わなんだ。

  

*1:これは、嵐が丘の台詞が理由なのかもしれないが、この作品に詳しくないので定かではない