【在特会4/11蕨デモ】14歳の少女を標的として報復デモを行なうやつらに人間としての矜持はあるか(いやない)※追記あり


中野区役所内での公務執行妨害容疑で逮捕された槇泰智(まきやすとも)が、勾留期限満了にともない「処分保留」で釈放されました。


まだ不起訴処分にはなっていませんから、「起訴すべき犯罪行為はなく、罰金を科する事案もない」(まき)ということはできませんが、どのみち中野区役所における公務執行妨害容疑だけで可罰的違法性を問うのは難しいでしょうから、いずれ「嫌疑不十分」等で不起訴になるのでしょう*1。


私は中野区役所および野方署のとった対応には十分な理由があると考えていますが、あくまで「不当逮捕」であるという立場であればもちろん国家賠償請求訴訟を提起するのでしょうから、その報告を楽しみに待ちたいと思います(「麻生邸リアリティツアー」で逮捕された3名が提起した国賠訴訟について、麻生邸リアリティツアー事件国家賠償請求訴訟団のサイトを参照)。ついでに、高倉都議から申し立てられている仮処分についても、早く起訴命令を申し立てて本訴に移行して決着をつければよろしい。そういう方法があるのに無駄に暴れ回るから、街宣参加者を「危険な状況に遭遇」させることになってしまうのです。


さて、4月3日付〈無知とウソで塗り固めた「在特会」反論書面(1):「子供に向けられたものでない」などという見苦しい言い訳〉にも追記しておきましたが、在特会が日曜日(11日)に「4・11 外国人犯罪撲滅デモ in 蕨市」を計画しています。




これが合法的に日本での在留を認められている少女を標的とした報復的行動であることは、有門大輔が次のように述べていることからも一目瞭然です。


 そしてこのほど、民主党政権で成立した高校無償化法案から朝鮮民族学校が対象外にされたことに関して、国連の人種差別撤廃委員会が難癖をつけたことと関係があるのかどうか知らないが、来日していた国連関係者にノリコ・カルデロンが面会。この席上、ノリコ・カルデロンは「早く両親と日本で暮らしたい」旨を伝えて懇願したという。
 日本に不法に居座った挙げ句、日本で生まれ育ったとお涙頂戴劇を繰り広げ、学業途中であることへの配慮から自身のみの在留は特例で認められたにも関わらず、今度は両親の早期再入国を求めて新たなお涙頂戴劇が演じられている。
 だから一家3人揃って強制送還すべきだった。一家3人揃っての生活を望むなら今からでも長女をフィリピンへ帰国させるべきだ。
 ここで安易に両親の再入国を認めるのならば元の木阿弥で、何のための強制送還であったのか分からない。
 まずは子供のみを日本に残させ、強制送還になった両親を速やかに再入国させることで入管法の破壊を目論む在日朝鮮人と反日左翼の策動がここへ来て一気に強まっていることは間違いない。
 ならば彼らの目論見通り「人道的配慮」とやらを施してやろう。一家3人が平穏に暮らせるよう、両親の日本への再入国を断固阻止するとともに、ノリコ・カルデロンの在留特別許可取り消しと速やかな母国フィリピンへの強制送還を求めるデモ行進を埼玉県蕨市内にて再び敢行する。
(太字は引用者=3羽の雀)


1月29日付〈子どもを徹底的に追い込もうとする、情けなさ丸出しの「主権回復を目指す会」〉等で批判してきた通り、またP2Cさんも〈本当に子供と戦う「主権回復を目指す会」の人々〉等で指摘している通り、本来矛先を向けるべきところにはほとんど足を向けず、弱いところを徹底的に狙おうとするのが「襲撃する運動」の本質というわけです。さすがに、「一番弱い」洋品店に「抗議」するよう平気で扇動する矢野穂積「市議」とつるんできた連中だけのことはあります。


有門は何が何だかよくわかっていないようですが、確かにカルデロン・のり子さんは国連人権理事会・移住者の人権に関する特別報告者であるホルヘ・ブスタマンテ氏と会見し、「両親と離れて暮らすのはつらいし悲しい。いつか家族3人で日本で暮らせるよう頑張るので応援してください」などと訴えました。会見の場には、他に退去強制処分を言い渡された4家族14人も出席していたと言います(共同通信〈比少女が国連報告者と面会 両親退去で人権問題調査〉3月27日配信)。


ブスタマンテ氏は、この会見も踏まえ、次のような予備的勧告を明らかにしたわけです。

○ 日本は、20年前から移住労働者を受け入れるようになったが、移住者の権利保護を保証する包括的な移民政策は実施されていない。移住者の上陸・在留を管理するだけでなく、移住者の社会統合及び就労・医療・住宅・教育を含む、移住者の権利を尊重する条件を、差別なく作り上げる制度を実現するための、明確かつ包括的な移民政策の実施が必要である。日本政府による、近年の一時的なその場しのぎの措置は、長期的な政策に変換していく必要がある。
〔中略〕
○ ・・・特別報告者は、日本で生まれ、10〜15年間暮らしていた子どもの親が、退去強制処分となったり、収容されたりし、非正規滞在という在留資格のみに基づいて、親子が離れ離れになった数々の実態を聞いた。子どもの最善の利益の原則に則り、家族は分離されてはならない。


カルデロン・のり子さんとその支援者らの行動について批判すること、ブスタマンテ氏の上記見解に対して反論すること、さらには日本政府がこのような希望・勧告を受け入れないよう主張することは自由です。ただし、
「この問題で『在特会』が主張していたことは、法治主義であり、法律を守りなさいという事でしかありません」(瀬戸弘幸)
「私どもは法律に書かれていること・・・をきちんと履行される政権こそを望む」(有門大輔)
などと言うのであればなおのこと、ブスタマンテ氏が(明示はしていませんが)参照している、そして日本も遵守義務を負っている児童の権利条約の規定を踏まえた主張を行なう必要があります(文末追記も参照)。特に関連すると思われる規定は次の通り。

第3条
1 児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しくは私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする。
(後略)


第9条
1 締約国は、児童がその父母の意思に反してその父母から分離されないことを確保する。ただし、権限のある当局が司法の審査に従うことを条件として適用のある法律及び手続に従いその分離が児童の最善の利益のために必要であると決定する場合は、この限りでない。このような決定は、父母が児童を虐待し若しくは放置する場合又は父母が別居しており児童の居住地を決定しなければならない場合のような特定の場合において必要となることがある。
2 すべての関係当事者は、1の規定に基づくいかなる手続においても、その手続に参加しかつ自己の意見を述べる機会を有する。
3 締約国は、児童の最善の利益に反する場合を除くほか、父母の一方又は双方から分離されている児童が定期的に父母のいずれとも人的な関係及び直接の接触を維持する権利を尊重する。
4 3の分離が、締約国がとった父母の一方若しくは双方又は児童の抑留、拘禁、追放、退去強制、死亡(その者が当該締約国により身体を拘束されている間に何らかの理由により生じた死亡を含む。)等のいずれかの措置に基づく場合には、当該締約国は、要請に応じ、父母、児童又は適当な場合には家族の他の構成員に対し、家族のうち不在となっている者の所在に関する重要な情報を提供する。ただし、その情報の提供が児童の福祉を害する場合は、この限りでない。締約国は、更に、その要請の提出自体が関係者に悪影響を及ぼさないことを確保する。


第10条
1 前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、家族の再統合を目的とする児童又はその父母による締約国への入国又は締約国からの出国の申請については、締約国が積極的、人道的かつ迅速な方法で取り扱う。締約国は、更に、その申請の提出が申請者及びその家族の構成員に悪影響を及ぼさないことを確保する。
2 父母と異なる国に居住する児童は、例外的な事情がある場合を除くほか定期的に父母との人的な関係及び直接の接触を維持する権利を有する。このため、前条1の規定に基づく締約国の義務に従い、締約国は、児童及びその父母がいずれの国(自国を含む。)からも出国し、かつ、自国に入国する権利を尊重する。出国する権利は、法律で定められ、国の安全、公の秩序、公衆の健康若しくは道徳又は他の者の権利及び自由を保護するために必要であり、かつ、この条約において認められる他の権利と両立する制限にのみ従う。


カルデロン・のり子さんに、「早く両親と日本で暮らしたい」という希望を表明する自由があることは言うまでもありません。これを理由に「ノリコ・カルデロンの在留特別許可取り消しと速やかな母国フィリピンへの強制送還を求めるデモ行進」という報復的行動を行なうことは、彼女とその支援者に対する批判としてはどう考えてもやり過ぎです。「その(家族の再統合を目的とする)申請の提出が申請者及びその家族の構成員に悪影響を及ぼさないことを確保する」という条約第10条第1項の趣旨にも反しており、日本政府に対して条約違反をそそのかす行為でもあります。


つまるところ、在特会や主権回復を目指す会を始めとする「襲撃する運動」は、
“外国人が日本で暮らしたいなら温情に感謝して大人しくしてろ、調子に乗って権利保障や生活改善を主張するようなら叩き出すぞ”
という考え方に基づき、外国人の表現の自由等を禁圧しようとしているわけです。1960年代には「外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由」と公言する法務官僚もいたそうですが、まったく同じ発想だと言っていいでしょう。排外主義者と批判される所以です。


特に瀬戸弘幸サンに対してはまだまだつっこみたいことがありますが、このエントリーではこのぐらいにしておきます。「4・11 外国人犯罪撲滅デモ in 蕨市」に対してはさまざまなカウンター行動も予定されているようですので、@knkz2009さんのブログ「エクストラレポート・ルーム」および同「はてな別室」、関連ツイートのまとめ等を参照してください。


〔この記事は4月9日の夜にアップしたものです。〕


【追記】(4月10日)
カルデロン・のり子さんを支援する弁護士が「児童の権利条約を軽視している」などと政府の対応を批判した件について、こんなことを書いている在特会会員がいました。

>児童の権利条約を軽視している
それ以前に入国管理法に違反しとるんだが。
児童の権利条約ってのは一国の法律よりも重視しなきゃいけないもんか?
シロートでもわかるのに法律のプロがわからないとでもいうのかね?
(日韓歴史清算事業団 彩雲倶楽部〈カルデロンのり子に引導を渡すデモ〉)


児童の権利条約に限らず、締結した条約を「一国の法律よりも重視しなきゃいけない」のは当然です。国内法を理由に条約を反故にしていいのなら国際的な信義もへったくれもなくなってしまい、そもそも条約を締結する意味がありません。日本国憲法でも
「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」
と定められており(98条2項)、条約や慣習国際法に「憲法より下位であるが法律より上位の効力を認める」のが通説となっています。「条約が法律に優位する」という政府見解も確立されており、後は条約の規定をどのように解釈するかという問題です。


条約法に関するウィーン条約(日本は1981年に加入)の次の規定も参照。

第26条 「合意は守られなければならない」
 効力を有するすべての条約は、当事国を拘束し、当事国は、これらの条約を誠実に履行しなければならない。
第27条 国内法と条約の遵守
 当事国は、条約の不履行を正当化する根拠として自国の国内法を援用することができない。・・・

*1:「嫌疑なし」「嫌疑不十分」「起訴猶予」など不起訴の主文の区別については、法務省訓令「事件事務規程」第72条参照。ついでに2月11日付〈以前も自分達と支持層がかぶる市議を追い落とそうとしていた矢野・朝木両「市議」〉も参照。